7.心配性
「はぁ……」
「どうしたんですかマリアさん」
冒険者ギルドのカウンターに前のめりになっていると三つ年下の後輩であるハンナ シールドが心配してか声をかけてくれた
「また例の彼女ですか?
あまり冒険者一人に肩入れしているとギルド長に怒られてしまいますよ?」
「わかってるんだけどやっぱり心配でね
昨日は依頼に行ってから達成報告に来たのは夜だったらしいし、いつもなら私が夜の担当の人と交代する前に達成報告に来るのに何かあったのかと思うと心配で心配で」
「でも彼女最近連日で依頼こなしてるんでしょ?
それなら流石に今日は来ないと思うので割り切って仕事に集中してください」
ハンナは冷静に考えて言ってくれているのはわかっているが割り切るのは少し難しそうだ
私は彼女の冒険者登録の時に立ち会いをしたという理由で彼女の担当受付人になっただけだが
その関係上彼女と会話をすることも多く彼女の出生や冒険者になってからの出来事、目標などを知っているからこそ彼女を応援をしたくなるし心配にもなってしまう
ただし担当受付人であって専属受付人ではないのだ
私には彼女以外にも担当の冒険者がいて依頼達成による実績や等級昇格の見込みなどを管理しなければならない
「そんなに心配なら昼休みに様子でも見に行けばどうですか?
多少なら休憩時間オーバーしても私がカバーできると思いますし内緒にしといてあげますから」
「ありがとうでもそれは公私混同だから出来ないわ」
「冒険者のメンタルケアも受付嬢の仕事のうちです
まぁ少し過剰なところは否定しきれませんが」
「それじゃあちょっとだけならいいかなぁ?
メンタルケアだもんねメンタルケア」
正直自分の甘えの部分が多い気もするがそれでも自分の真面目な部分を納得させようとメンタルケアの部分を強調して復唱していく
ハンナの顔が入り口に向けられると少し驚いた表情を見せる
「あっため息の原因が男連れて来たみたいですよ」
「男!? うそ私の心配は!?」
「まぁまぁ何か事情があるのかもしれませんし落ち着いて」
「あれ〜先輩方どうしたんですか〜」
ハンナちゃんが私の背を撫でる中最近入ってきた猫系の獣人のミーシャ キャートが元気よく控室から出てきた
「あっ!休憩どうぞ〜先に休憩もらっちゃってすみませ〜ん」
「あー……もうちょっと休憩してていいよ」
ハンナの言葉にミーシャはキョトンとした
宿屋から約十分ほど歩くと冒険者ギルドが見えてきた
私はもう見慣れてしまったがベフレストの冒険者ギルドは大きく近くで見ると迫力がある
初めて来た人が驚いているのをよく見るのでソーマがどんな反応をするのか少し期待していたのだが大した反応を見せず面白みに欠ける
冒険者ギルドの中は相変わらず騒がしいがそれも慣れてくると冒険者ギルドが静かな方が違和感を感じるようになる
冒険者ギルドの中をまっすぐ進み受付に行くといつも対応してくれる受付嬢のマリアがいた
「五日連続でギルドに来るなんて珍しいですね
隣の方と何か関係があるんですか?」
「そうなの
昨日依頼で森に行ってたらこの人が森で迷ったから街まで案内したんだけどそれからまたちょっとあって結果としてわたしの部屋のベッドが空いてるから泊まることになって
今日は彼の用事を早いとこ済ませてしまおうかって来たの
わたしの部屋が二人部屋だって話はマリアさんにはしてたよね?」
私の経験上マリアは心配が一定を超えると何があったのかを質問攻めしてくるのでそうなる前に端的に昨日の達成報告が遅くなった理由を説明する
「男性を自分の部屋に泊めたんですか!?」
「え? そうだけど……」
嫌な予感がする
「大丈夫なんですか!? 体を触られたりとか、下着を盗まれたりとか、執拗に言い寄られたりとか、後々体を弄るようにジロジロ見られたりとかそう言うことはありませんでした!?」
どうやら墓穴を掘ってしまったらしい
それにしてもマリアは私の隣に当人がいるのにお構い無しだな
「そんなのないから安心して
マリアさんはほんと心配性だなー」
「リヴィさんの危機感が足りないんです!」
「それには僕も同感です」
さっきまで無言だったソーマが急にマリアの見方をしだす
私は別に危機感が足りないなんてことはないはずなのになぜそこまで神経質になる?
「私のことはいいからソーマ……彼の冒険者登録をしてもらえる?」
「……仕事ですのでしますがリヴィさんとは後でみっちりとお話をさせていただきます」
「そんなのいらないから」
「いえ、しといた方がいいですよ
何かあってからでは遅いですからね」
「ソーマはどっちの味方なの?」
「味方とかそう言う話ではなく」
どう見てもマリアの味方に見えるのだが……
「冒険者登録の準備が出来ました
まずこちらに名前、年齢、種族を記入してください」
ソーマは渡された紙にスラスラと書いていく
名前はソーマ テンドウですでに知っている、年齢は二十歳と新情報、種族はやはりヒューマン、つまりは人族だ
ソーマが書き終わったのを見るとマリアは水晶と白紙にギルドカードがカウンターに置かれた
「この水晶に手を置いてください
水晶があなたに魔力に反応してステータスやスキルをギルドカードに記録します」
マリアが言った通りにソーマが手を置くと水晶は淡く光り始め強くなるにつれて隣に置かれたギルドカードも光り出し文字が刻まれていく
冒険者には自分のステータスをあまり人に見せないようにしている人が多いので光りが強くてまともに字なんか見えないが一応目を逸らす
水晶の光が消えギルドカードの光も消えるとギルドカードに記載された文字が消えていく
「ギルドカードは魔法具と同様に直接魔力を流すか特定の思念を送る事でギルドカードが使用者の魔力をわずかばかり吸収して起動する仕掛けになっています
起動の詠唱はオープン、停止はクローズになっています
ギルドカードはかなり緻密な魔法をかけられているので本人以外の声や魔力では起動することは出来ないのでご安心ください」
「「……」」
「確認されないんですか?」
「? いつでも見れるんですからいま見る必要はないと思ったので」
私の時はすぐにギルドカードを確認したのだがソーマは見ないようだ。朝も言っていたが本当に自分のステータスに興味がないのだろうか
マリアから見ても珍しいのか少し困惑気味だ
「そう……ですか
それでは冒険者やギルドの説明になりますがいかがいたしますか?」
「お願いします」
たまに説明しなくていいという人がいるらしいので確認したがソーマは説明を聞くようだ
「それでは説明に入ります。
一つ目は冒険者の等級についてです。冒険者において等級とはそれぞれの実力や実績をわかりやすくしたもので下から石、亜鉛、錫、鉄、銅、銀、金、白金、金剛とあります。
等級を上げるには多くの魔物を倒すか強力な魔物を倒すことで上げられますがそればかり意識して実力に見合わない魔物に戦いを挑み亡くなられる冒険者は少なくないので気をつけてください。
二つ目に依頼についてです。主な依頼は討伐、護衛、採取の三種類があります。そして年に数度、不定期的に新迷宮や未探索地域の探索依頼がありますがこちらは比較的危険な依頼ですので参加は慎重に判断してください。
あとは街中の市民からの依頼もありギルドとしてこちらの依頼もしていただきたいのですが……それはお任せします
三つ目に先程も出た迷宮についてです。迷宮の存在はまだまだ未知数な部分が多くわかっていることは迷宮内は空気中の魔力濃度が高くその原因で何もないところから魔物が湧いたり宝箱が出現することです
迷宮は階層ごとに分かれていて奥に進めば進むほど湧く魔物は強力になって行きます
迷宮にも攻略難易度の基準がつけられていますが迷宮では何が起こるかわからないので細心の注意を払って挑戦してください
迷宮では討伐依頼が出ることはないので魔物を討伐すること自体で報酬は発生しませんが迷宮で倒した魔物の素材や宝箱に入っていたアイテムはギルドで売却することができます
以上で説明は終わりになりますが質問等はありますか?」
マリアの怒涛の説明が終わったようだ
私が説明を聞くのは二回目だが相変わらずの情報量だ
流石に私はもう冒険者を初めてそこそこ立つので最初に受ける説明は全部理解しているが初めて聞いた時は頭が痛くなった
ソーマは理解できたのだろうか?
「等級の基準はどの程度ですか? 例えば龍を倒したら幾つになりますか?」
「龍種ですか? 戦闘に参加した人数やその龍種の脅威度にもよりますが少なからず銅等級には上がると思います
その中でも目立った活役をすれば銀等級も狙えるかと
しかし金剛等級に関しては石から白金と違って元々は無かった等級でして白金等級と一緒にするには強さに違いがありすぎるので作られた特別な等級なだけに基準がつけづらいですね」
「そうですか
ありがとうございます」