6.備忘録
「ソーマは魔法具手に入れるたびにこんなことしてたの?」
「毎回ではないです。
解析魔法で低ランクの魔法具なら効果がわかりますから」
「ならなんでこれは解析しなかったの?」
「しなかったのではなくしたけどわからなかったんです
この二つの魔法具は僕の解析魔法ではまだ見れなかったので同じ迷宮で手に入れた魔法具よりもランクが高いはずのなのに効果量がいまいちで……
何かあるとは思うんですよね」
なるほど試したくなる気持ちは理解できた
「だからってあんなふうに試さなくても」
「すみません。好奇心が先走りました」
「反省してるならいいよ。あのバックパックには魔法具以外には何が入ってるの?」
ソーマが好奇心に忠実になってやらかしたなら私も好奇心に少し忠実になってみる
やらかしたりはしないけど
「ほとんどは長旅の道具なので面白いものはないですが……
いえ、ない事はないです」
ソーマが何かを思い出してバックパックの中に手を入れた
取り出したのは厚さの違う四冊の本だった
「一冊は村に来た冒険者さんのパーティーにいた魔法師の方に借りた魔法師学校の教本、二冊は村に売っていた薬草の本と魔物や獣の本、一番分厚いのは僕の試したことや試そうと思っていることをまとめた備忘録です
教本だけは借り物なので読んでもいいですが細心の注意をはらってくださいね」
「へー面白そう」
それなら一番興味のそそる備忘録を開いて流し見で読んでいこう
内容の半分以上はいまいちピンとこないが詠唱や魔力といった単語が書かれているので魔法関係の事をまとめているようだが途中から薬草の調合の事が混じって書かれるようになる
ページの上の部分に印が書かれているので魔法のことを書いているページか薬草のことを書いているページか区別が付けられるようになってある
さらにページを進めると魔物の事が書かれるようになり印の種類がひとつ増えた
おおよそ備忘録の半分を過ぎたあたりで白紙になった
分厚い備忘録なので半分といえどかなりのページ数があり途中から一ページあたり頭の三行くらいしか読んでいないのに目に疲れを感じた
魔物のページを見たときに備忘録と村で買ったという魔物の本を見比べたが情報量はソーマの備忘録の方が上回っていた
買った本には身体的特徴や生活パターンが書かれているが備忘録ではそれに加えて所有スキルに加えて骨格や血管、臓器などが絵が描かれている
ただし種類に関してはやはり買った本の方が豊富ではあった
どれだけ研究熱心であろうと会ったことのない魔物のは調べようもないのだから仕方ないだろう
「まぁ色々と研究していることはよくわかったけどこれを書くのにどれくらいかかったの?」
「備忘録を書き始めたのは魔法を覚えてからですからそこから考えると大体八ヶ月くらいですかね」
「へー八ヶ月でこれだけの量かー研究熱心と言うか知識に貪欲と言うかとにかく努力家だねぇ
ねぇこの備忘録って暇な時とかに読んでもいい?」
「いいですよ
いっそのことそれを読んで魔法を覚えてもいいですよ
僕が魔法を覚えるまでの過程やら教本に書かれていた習得法なんかも写してあるのでそれを読んで練習すれば出来るようになる可能性は十分にありますからね」
「それはまた魅力的なことを言うね
なんだかやる気が湧いてくるなー」
魔法はいい。なにより便利だ火を使えば明かりになるし遠くの敵も楽に倒せて武器とは違って広範囲に攻撃ができる
回復魔法が使えればポーションの消費を減らせるし付与魔法が使えれば自分や味方を強化できる
私はもう短剣が使えるので近距離は短剣、中距離以上は魔法と使い分けられるようになれば戦略のレパートリーがかなり増える
「手順その一、体内の魔力を感じ取る……どうやって?
あー下に書いてあるのね
方法、瞑想。瞼を閉じて体の力を抜き胸の奥に意識を集中させる
現在体内の魔力を感じ取るには瞑想以外の方法は知られておらず根気強く魔力を感じ取るまで瞑想するしかない
しかし瞑想する際に工夫する事で感じ取りやすくできる可能性有り
案一、空気中の魔力濃度の高いところで瞑想をする(
案二、空気中の魔力濃度の低いところで瞑想をする(
案三、マナポーションを飲み体内の魔力を活性化させてから瞑想する(
三つの案のカッコの中に何も書かれてないのはまだ検証できてないってこと?」
「はい検証ができてないので何も書いていません
案を考えたのも魔法を習得したあとなので魔力を感じ取れるようになってから検証してもあまり参考にならないですし」
「ここで言う魔力濃度の高いところって例えばどんなところ?」
「迷宮や竜の谷とかですかね
迷宮と言っても入り口あたりよりも奥に進めば進むほど魔力濃度は高くなりますから検証するには十分な環境はありますが僕一人でリヴィさんを守れる自信はないので検証するのは少し難しそうですね」
「それじゃあ逆に魔力濃度の低いところは?」
「わかりません
なので迷宮とは違う理由で検証できません」
「となると検証できてもマナポーションだけか」
「そうなりますね
ですがマナポーションを使わずに済む分には悪いことはありませんし検証するにしても一人だけだと答えを出すにしても不十分です
最低でも十人は検証人が必要です」
「なるほどねー」
検証は後回しにしてまず普通に瞑想してみることにしよう
備忘録を机に置いてベッドの上に靴を脱いで胡座する
そのまま瞼を閉じ深く呼吸をしながら体の力を脱いていくと胸の奥に意識を向ける
「あーーーーわかんなーい」
瞑想をやめてベッドにごろーんと寝転がりながら思ったことを口に出す
「わかんないって、まだ瞑想して一分も経ってませんよ」
「えっ! 嘘でしょ五分ぐらい瞑想してたと思うんだけど?」
「残念ながら一分です
ですが時間の感覚を忘れるぐらい集中できたのなら瞑想自体は出来てるのかもしれませんね
根気強く続けていればいずれ感じれるようになると思いますよ」
「むー」
「僕も魔力を感じ取るのに二週間かかりました
才能のある人は一時間くらいで感じ取れるらしいですが出来ない人は一日に五時間以上瞑想していたとしても一ヶ月、二ヶ月、半年経っても出来ないことがあるらしいので焦っても仕方ないですよ」
なるほど長ければ半年以上か、それなら焦っても仕方ない自分のペースで行こう
幸い私が依頼に行く頻度は自由なので時間は割と作れるわけでいまでなくても問題無い
そこでふと疑問が湧いた
「ソーマの黒魔法のレベルはいくつなの?」
「自分のステータスを見ることがないのでわかりませんね」
「そうかステータスって解析の魔法か魔眼を使わないと個人の能力では確認できないんだっけ
あれ? 解析の魔法は教本には書いてなかったの?」
「ありますよ。実際に使ったこともあります
その時はレベル1でしたね。ですがそれから結構経っているので変化があったのかわかりません」
「見たりはしないの?」
「一時期は毎日のように見ていたのですがここ何ヶ月は見てませんね理由がないので」
「自分のステータスを見る理由なんて気になるからで十分だと思うんだけど……
まぁそう言う人もいるか。私の場合はもうギルドカードで自分のステータスを見る時はいつもワクワクしてるから興味がないなんて思ったことないや」
ソーマはどうもつかみどころがなく感じる
嘘を言っている様子もないし聞いたことはきっちりと答えてくれるうえ隠し事もないようだがそれは反対に聞かなければ教えてくれないし聞いてもこない
本当に何にも興味を示さないような印象を受けるが備忘録を見る限りさまざまな視点でものを見ていていろいろなことに興味を示しているように思える
矛盾しているようだがそう感じたのも事実で何か理由があるのかもしれない
だがそれがソーマ自身気付いていることなのか気にしていることなのかもわからない以上、不用意に聞くべきではないかもしれない
「じゃあ冒険者登録したらギルドカードで確認しましょうか」