表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

3.遭難者

「——総計55,500ルーンで銀貨五枚、大銅貨五枚と銅貨五枚になります。

 ご確認ください。」

「ありがとう」


 トレーに乗せられた硬貨を握ると布袋に入れる

 帰ろう。そして夕飯を食べて寝よう。あっお風呂忘れてた




 目が覚めると知っている天井を見上げていた

 それもそうか昨日はあのあと宿でお風呂と夕食を済ませてベッドで眠ったのだから

 今日も今日とてギルドへ向かい依頼を受けていざ森へ

 今日は午前中から森に来ているから昨日よりも多くの報酬が見込める

 鼻歌を歌いながらオークを仕留めていく

 はたから見たらだいぶ恐ろしい光景だろうが私は全く気にしない

 そして今日は新武器を試している

 武器というと語弊がある気もするから装備か支援器と言ったところだ

 その支援器は言ってしまってはただの糸だ

 素材は聞いてないがちょっとやそっとでは切れない二十メートル程の長さの糸を普段のスローイングナイフの柄の端になぜか開かれた小指も通らない小さな穴に通して結んである

 こうすることでスローイングナイフを投げた後でもわざわざ拾いに行かなくても糸を引っ張れば回収出来るから楽だよね

 という考えだったのだが糸がごちゃごちゃしてしまって逆に使いづらさを感じる

 一本だけでも袖などに絡まったりして投げた際に真っ直ぐ飛ばなかったりするし複数本だと絡まりすぎて糸の長さが短くなりスローイングナイフがオークに刺さる前に空中で止まって落ちるという失態が何度かあった

 いまはまだオークの数も一桁ずつなのでそのぐらいのことならすぐにどうにか出来るがオークの数が二桁を超えた状態でその失態をすると危険だ

 何か改善策を考えないとこのままでは使い物にならないな

 糸付きのスローイングナイフの使用は一旦諦めてマジックバックにしまい糸の付いてない物を取って手の中で回す

 オークが見えると回しながら流れるように指の間まで動かすと挟んで一瞬で狙いを決めて投げる

 緊張感のかけらもないように見えるだろうがこれでも周囲の警戒を怠ってはいない

 夕暮れまでそのままオーク討伐をしてギルドで報酬を受け取り宿屋に帰って夕食と風呂を済ませて眠りにつく


 起きればまたいつもと同じように着替えてギルドに立ち寄ってライラックの森へ向かいオークを倒す

 細かな時間やオークの配置や数が違うだけでやっていることは一緒

 代わり映えもなく楽しさなどあるはずもなくただただお金を集めるだけの日々だ


「これで二十三体

 夕暮れまでもう少しあるねもう少し稼いで——」


 後方でガサガサっと茂みを掻き分ける音がした

 ダガーを逆手に持ち左手にはスローイングナイフを握る

 いつ戦闘になってもいいよう姿勢を構え神経を茂みの方へ集中させる

 気配は一つオークなどの魔物ではなさそうだが姿を見るまでは警戒を解かない

 茂みを分ける音はどんどん近付き姿を現した


「なんだ人かぁ。どうしたのこんなところで?」


 茂みから出てきたの黒髪黒眼の青年だった。背の高さは成人男性の平均よりかは若干低めの170半ばで細身だが手は厚く普段から得物を振るう人の物に酷似している

 見えていない服の内側も引き締まった筋肉で出来ているだろう

 服は泥で汚れ後ろには胴体よりも一回り大きなバックパックを背負っているが武器のような物は見えない

 威圧感や悪意は私の感知できる限りでは発していないが念のため注意はして対応するのが良さそうだ


「実はですね。森の途中まで荷馬車に乗せてもらっていたんですが、野営準備中にその荷馬車がオークの群れに襲われてしまって護衛の冒険者を雇っていなかったので代わりとして僕が戦っていたんですがその間に荷馬車が逃げてしまって……

 オークの群れは全滅させたんですが荷馬車が戻ってくるはずもなく仕方ないので歩くことにしたんです。」


 オークの群れの規模はわからないがそれでも1人で全滅させられるだけの実力はあるのか

 そう考えると私と同等かそれ以上の強さと考えた方がいいだろう


「それは災難だったね。でもなんで街道じゃなく森に入ってるの?

 街道の方が安全なのに」

「肩慣らし程度の感覚で森に入って魔物狩りしてたのですが、その結果迷って街道に出れなくなって彷徨ってました」

「それじゃあ街まで案内してあげようか?」

「いいんですか? ありがとうございます!」

「あーでもちょっと待って、念のために身分証明が出来るもの見せて

 犯罪者を街に案内したとなると私の立場が危なくなるからね」

「そういうことでしたら村を出る前に村長に発行してもらった通行手形があります」


 青年はバックパックを下ろすと中を漁りに一枚の紙を取り出して前に出した

 それを受け取り確認する。名前はソーマ テンドウ、発行者がアンドリュー ビスコットで出発場所はミンストリアという場所

 どれも知らない名前だがこの間見た犯罪者リストにはなかったと思うし案内しても無問題だろう


「うん。確認取れたしこれ返すね

 多分……というか確実に関所でも見せるように言われるだろうし

 ごめんねー疑うような感じで」

「いいえ。此処に来るまでに同じようなやりとりは何度もありましたしたとえ案内するだけどもこうして確認を取るのは普通のことなので謝られるようなことではないです」


 さて案内すると言ったはいいけど時間的にはまだオークを狩るだけの余裕があるしもう少し稼いでおきたいが……

 彼を誘ってみるか?

 うーん、取り分を決めるの面倒だし。いまの時間からじゃ群れ一つ見つけられるかどうかだし。やらなくてもいいか


「じゃあ案内するから後ろに着いてきて」

「はい」


 自分の方向感覚を頼りに街道に向かい始め青年改めソーマは感覚を空けて後ろを歩く

 当然だがオークや他の魔物が出てきても大丈夫なようにいつでもダガーを抜けるよう気構えはしておく

 チラッと後ろのソーマを確認すると目が合った


「えーっと……ソーマはどうしてこの街に来たの?」

「冒険者になるためにです」

「へぇ。でも冒険者になら元いたミンストリア? っていう場所でもなれたんじゃないの?」


 どれだけ小さい街や村でも冒険者ギルドは一つぐらいあるものだ

 そう言った辺境の冒険者ギルドは大概冒険者の数が足りていないというしわざわざ遠出をしてまでベフレストまで来る必要があったのか


「確かにミンストリアにも小さいながら冒険者ギルドはありましたが、なにぶん冒険者の数が少ないせいでミンストリアで登録してしまうと村を出ようとした時にギルドの方が留まるようにしつこいと村の冒険者さんが愚痴っていたのと、依頼で村に来た冒険者さんがベフレストで活動していると言っていたので少し遠いですがベフレストに来たんです。」

「へー」


 数が足りていないからこその行動が理由で冒険者を目指す者が別の場所へ離れてしまうとはなんとも悲しいことだな

 かと言っても離れようとした冒険者をそのまま離してしまってはギルドに冒険者がいなくなってしまいかねないとなるとそうせざるおえない訳だが


「じゃあ冒険者になりたい理由は?

 やっぱり憧れとか?」

「憧れは確かにありましたがそれは理由ではないです」

「じゃあどんな理由?」

「約束を守るのに冒険者が手っ取り早いと思ったので」


 手っ取り早いか。言い方や約束の内容が気になるところではあるがそれを聞くのは踏み込みすぎな気もするしここは踏み込まないようにしよう


「そうなんだ。ところでライラックの森でどのくらい彷徨ってたの?」

「今日で三日目ですね

 街から相当離れたところだったんでしょうね。

 でも迷子になるのは初めてだったので貴重な体験ではありましたが」


 三日……精々一、二時間くらいかと思っていたがかなり彷徨っていたようだな

 そういえば一昨日、帰りの途中で急いでた荷馬車があったがアレのことだったのか?

 それにしても


「貴重な体験って……

 しかし三日かぁ。よくオークのいるライラックの森の夜を一人で越せたね」


 ライラックの森にはさっきまで狩っていたオークをはじめとするとホーンラビットやフォレストウルフといった魔物が生息し、森から南東にある廃村からゴブリンが来ることだってある

 そんな森を三日間一人で武器もなしに生き抜くのは至難の技だ

 特に夜は魔物が動き回って街道ですら危険になる

 二人以上いれば交代で仮眠を取ることができるが一人ではそれが出来ず寝ることも出来ず逃げ回ることになり体力がとてもではないが保たない

 火を焚いていればホーンラビットぐらいなら近づかなくなるがそれでも安全とは到底言えない

 今まで何体ものオークを狩ってきた私でも同じ条件で三日間ライラックの森を生き抜く自信はない


「三日と言っても戦いは避けてましたし魔物除けの匂い袋も持っていたので冒険者さんが想像しているよりもだいぶ楽だと思いますよ?

 それに多少ですが魔法の心得がありますから全く戦えないわけじゃないですし」

「まぁそうだね魔物除けがあるとないとではだいぶ違うね」


 匂い袋というのは文字通り匂いで魔物が近づかないようにするもの

 理屈は至って単純で魔物の嫌がる匂いを放つだけ

 私は魔物がいなくなられると逆に困るので使うことは全くないが行商人などが使うことがある

 ただ難点としてほとんどの場合人間にとっても臭いと感じる匂いなので鼻を塞いでないと辛いらしい

 私は使った事がないのでわからないけど

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ