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2.豚狩り

 先程話しかけてきた三人組のパーティーが六人組になってギルドを出て行くのをぼーっと眺めていると教会の鐘の音が聞こえてきた

 その瞬間さっきまで騒がしかった男達が一斉に静かに鐘の音に意識を向ける

 ゆっくりとした二回の音を間隔を空けて三回鳴らした。これは正午を知らせる鐘だ

 教会の鐘が鳴るのは一日のうち午前六時、正午、午後六時の計三回だが緊急事態の避難勧告や傭兵や冒険者の緊急招集の時にも使われるため街の住民は鐘の音を注意深く聴くようにしている

 鐘の音が止むとギルドには騒がしさが戻り私はオークの討伐依頼を受けてギルドを出る


 今向かっているのはこの街、ベフレストの北門を出てすぐのところにあるライラックの森だ

 ベフレストの街道を作る際に広大なライラックの森を直進するか迂回するかで一悶着あったらしいがそれも私が生まれるよりも前の話で今ではライラックの森を突っ切って街道が出来ている

 だが街道になったとはいえそこはオークの生息している森の中、当然移動中の荷馬車がオークといった魔物に襲われる事も少なくなくオークの討伐依頼は常に依頼板に貼り出されている


 念には念を入れて森に入る前に全ての装備があるのか確認していく

 腰にダガーが一本、左腿のスローイングナイフ専用の剣帯にスローイングナイフが四本と右腿のポーチ型マジックバックに三十本以上のスローイングナイフ、左右の袖の中には隠したナイフが一本ずつで計二本、と確認が取れたところでダガーを逆手に抜き森の中に入っていく


 もちろん武器があるかは家を出る前に確認済みだがいまこうして再確認は重要だ

 マジックバックとは中難度以上の迷宮で発見される一定以内の重量分の物を収納できる鞄型の魔法具で持った時の重さは中身関係なく鞄自体の重さだけになるという優れものだ

 買うとなると結構な値段がするのだが魔物の素材を持ち運ぶことの多い冒険者稼業をするうえで必須とも言える

 錫等級の斥候にしては少し多めな武装ではあるが袖のナイフは対魔物用ではなく対人戦用に持っている

 まぁダガーやスローイングがすぐに出せないときに魔物相手で使ったことをあるので役には立っている


 ある程度森の中を進むと魔物の気配を感知する。気配のする方向を見ると木で出来た棍棒を持ったオークがいた

 見つからないように茂みに隠れながら近づく

 オークとの距離が三メートル程になったところで茂みから飛び出しオークの棍棒を持った右腕を切り落とす

 首を落とす事は簡単だったがあえて右腕を切り落としたのはオークに仲間を呼ばせるためだ

 オークの群れはジェネラルやロードと言った上位個体がいない限り多くても七、八体がいいところで近くに住処がない限りそれ以上の群れを作らない

 直近にオークの住処がないことや上位個体の発見例がないことは知っているので今回も呼ばれてくるオークは五、六体だろう

 その程度の数ならば私一人でも余裕で倒せるうえ万が一にジェネラルなどが出てきても一人なら逃げられる自信がある

 今回オークが呼んで集まったのは五体、さっき右腕を切り落としたのを含めれば六体

 右腕のないオークが左腕で棍棒を拾い上げると距離を詰めて振り下ろす

 人間に利き手があるように生き物であるオークにも少なからず利き手が存在する

 そして最初に棍棒を持っていたのが右腕ならばこのオークの利き手は右腕、利き手の反対の手で振るわれる棍棒は遅く力もあまり入っていない

 そんなものは素人でも躱せる

 棍棒を躱すのと同時に右手のダガーはオークの首を切り飛ばす


「一つ」


 頭を失い体勢を崩すオークの死体を蹴り飛ばすと一メートルを優に超える肉塊は後ろにいたオークにぶつかり下敷きにする

 身動きの取れないオークに容赦なくスローイングナイフを投げつけるとスローイングナイフは容易くオークの頭蓋骨に突き刺さる


「二つ」




 ものの数秒で同胞を二体殺されたオーク達は低い知能で逃げるかを考えるが目の前の女は考える時間を一切与えなかった

 群れの一番後ろにいたオークは一体また一体と同胞が殺されるのを見ていた


「三つ、四つ、五つ」


 女がなにを言っているのかはわからない。わからないのにその言葉の一言一言に震えが増していく

 いままで人間を獲物としか思っていなかったオークにとってそれはただの恐怖の塊だった

 次の瞬間には目の前には鋭利な何かが見えた



「六つ」


 一分足らずで六体のオークを屠りオークの額に刺さったスローイングナイフを抜き取り服で軽く拭くと二本を左腿の剣帯にしまい残した一本を剥ぎ取りナイフ代わりにオークの剥ぎ取りを済ませる

 オークの場合剥ぎ取り素材は討伐証明となる耳と魔物の第二の心臓とも呼ばれる魔石が目的でそれ以外の部分にはほとんど価値がないのでそこいらのフォレストウルフに食わせておく

 森の中の気配に集中して近くにオークかいないかを探る

 残念だが私が気配を感知できる範囲内にはいないみたいだ

 しょうがないから歩きながら探すことにする



 それから三時間ほどで二十体が狩り終わった

 オーク一体あたりの報酬が大銅貨一枚なので二十体で銀貨二枚、これだけで一週間は暮らせる

 三時間狩りをするだけで一週間暮らせるとなればやはり冒険者というのは稼ぎのいい仕事だろう

 しかし冒険者は常に死と隣り合わせなうえ装備品やポーションなどには結構お金がかかる。かといって装備を渋ると死に直結する

 冒険者をやっていて荒稼ぎ出来るのは銀等級以上の人間ぐらいだろう

 最低目的数には達しているがもう数時間ぐらい狩りをするか

 この辺りではもう見つかりそうにないので今日ももう少し森の奥の方まで進むか

 二年以上ライラックの森で狩りをしていて森の奥にある遠くからでも目立つ巨大樹に近づけば近づくほどオークの数が増えている

 もしかしたら住処の可能性もあるがそれでもまだ距離があるから多少近付いたぐらいでは問題は無い

 何かあればすぐに逃げるつもりだし

 オークの気配を感知する

 距離は五十メートルぐらいか数は六体がまとまっているようだ

 茂みや木の裏を伝いながら距離を縮める

 距離が十メートルまで近づくと一体にスローイングナイフを投げるとすぐに木の裏に隠れ茂みを伝ってオークの視線が集まった先程スローイングナイフを投げた位置から離れつつオークの群れの右後ろの位置に着くと先ほどと同じように一体にスローイングナイフを投げすぐに木に隠れる

 そしてスローイングナイフを左手に二本掴み木から飛び出す

 同時にスローイングナイフを二体に投げオークの数は残り二体

 唖然とする手前のオークを走りながら首を斬り続け様に奥のオークの首を斬る

 スローイングナイフを回収して剥ぎ取りをしているとオークの集団がこちらに向かってくる気配を感じた

 さっきの六体のどれかが仲間を呼んだのか。探す手間が省ける

 数は十一体、近くに群れが二ついたのだろう。少し多いがそれでも許容範囲内だ

 群れが視界に視界に入るまであと二十秒ほど、ダガーを鞘にしまい左腿の剣帯からではなくマジックバックからスローイングナイフを左右の手に三本ずつ持ちいつでも投げられるように構える

 一度深呼吸して集団の方向を凝視する

 一体、二体と木の陰から現れ始めスローイングナイフが当たる位置に六体入ると一斉に投げる

 三本は狙った通り頭に刺さり絶命するが残り三本は刺さりはしたものの狙いから少し外れ即死とはいかなかった


「やっぱり片手三本だとまだ精度が悪いか」


 外したとしても気を落としている暇はない

 剣帯から二本のスローイングナイフを掴み右手でダガーを抜き間髪入れずに未だ進み続けるオークへ投げる

 距離がどんどん近づき三歩後ろにステップしながら剣帯から残り二体を抜きさらに投げる

 倒したのは七体で瀕死が三体、健在が一体

 残っているのは一番後方を歩いていたオークで逃げようとすでに背中を向けている

 袖からナイフを出して逃げるオークに投げつける

 近い順からスローイングナイフの回収と剥ぎ取りをしていき瀕死のオークにはとどめを刺す


「これでえーっと二十に六に十一だから……

 二十……二十六…………三十七かな?」


 指を折りながら計算をする

 空を見上げるが夕暮れまではまだ時間があるからここら辺でもう少し狩りをするか

 これ以上奥に行くと帰る途中で暗くなってしまう可能性があるがギリギリまで狩りをしたいが故の判断だ

 マジックバックからスローイングナイフを出すと離れた木に向けて投げる今度は三本を左手で掴んで投げる

 三本とも同じ木のほぼ同じ位置に刺さる

 もう一度左手で三本掴むと三本を別々の木に狙いをつけて投げる

 やはり薬指と小指に挟んだ三本目のスローイングナイフが狙った場所より十センチ程ズレて刺さる

 それを確認すると薬指と小指に一本だけ挟んだ状態で一本投げる

 ズレは起きるがそれでもニ、三センチ程で誤差の範囲だ


「はぁ……」


 ため息を吐く

 投擲スキルのレベルが上がれば三本同時でも全部が狙い通りに当てられるようになるのかもしれないがいつになることやら……

 地道な鍛錬でもスキルのレベルが上がることは周知の事実なのでこうしてたまに木に向かって投擲をしているわけだが二年で投擲スキルのレベルは3だ

 それに3になってからもう半年以上経つが上がる気配はない


「はぁ……」


 二度目にため息

 スキルはもう待つしかないとして薬指と小指の筋肉を鍛えればもっと言うことを聞くだろうか

 そも薬指と小指を鍛えるのはどうすればいいのか

 考えながらスローイングナイフを一本ずつ苦手な薬指と小指の間で挟んで木に向けて投げ続ける


「あっ無くなった」


 マジックバックの中にあるスローイングナイフは投げ尽くしてしまったようなので投げたものを取りに行く


「もう夕暮れか帰らなきゃ」


 結局オークは現れなかったがそういうこともあるだろうと割り切って投げたスローイングナイフを全て拾って街道へ出た

 街道を通って街まで歩いていると後方から異様な速度を出した荷馬車が横を通り過ぎた

 荷馬車を引いた事はないがあの速度で荷馬車を引いていたらすぐに馬がバテてしまうハズなのだがなにをそんなに急いでいるのだろうか

 一瞬見えた顔は恐怖混じりの焦った顔

 逃げているのか? だが後ろを見ても視認できるところに魔物は見えない

 どこかで襲われて逃げてきたが魔物が追ってきていないことに気付かず荷馬車を走らせていると言ったところだろうか

 これは十分説得力のある説だな

 一人でそんなことを考えつつ足を進ませる

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