2.謎の女性。
「しかし、どうしてこの街に?」
「俺に訊くな。彼女の考えなど、俺には分からない」
「ふむ? いつもの論理的思考、というのはどうしたのだ?」
「論理的思考において、個々人の感情というものは邪魔でしかない。いわば不純物――エラーを起こす要因となる、不必要なものに他ならない」
「不純物、か。お前の口から出ると、なかなか面白い」
「…………?」
俺とアリナはそんな言葉を投げ合いながら、街の入り口――門の前である人物を待っていた。馬車でやってくるという話ではあったが、人の往来からは目を離せない。なにせ、相手は無軌道な行動で有名なのだから。
「それにしても、あの方とお前が知り合いだとは、な」
「昔に、少しだけ縁があってな。かといって、それも二十年前の話だが」
それを聞いて、少女は考え込む。
俺は一つ息をついてからもう一度、人の波を見た。
早足に過ぎていく者たちの中に、件の人物がいないかを探し――。
「あれぇ? おっかしいなぁ、この辺りに落としたと思ったのにぃ」
「………………」
――見つけた。
人の往来など気にもせず、しゃがみ込んで何かを探す女性。
緑の髪に紫の瞳。身に着けているのは、普段着ているような豪華なドレスではなく身軽なもの。しきりに首を傾げている様子は、周囲の視線を独り占めしていた。
「あれぇ? わたし、バッグをどこに置いたんだっけ?」
――どうして、それをここで探す?
俺は内心でそうツッコミを入れてしまった。
そしてこれ以上は埒が明かないと思い、声をかけることにする。
「探したぞ、フィオナ・リング・エーデルフェル」
フルネームで呼ばれ、その女性はこちらを見た。
数秒の間があってから、突然に――。
「あああああああっ! もしかして、ヒーちゃん!?」
――そう言って、俺に抱きついてきた。
回避しようにも足元が悪い現状、彼女が転んでしまうかもしれない。
俺は仕方なしに受け止めて、されるがままになった。そして、そんなこちらの気も知らずに女性――フィオナは嬉しそうにこう言うのだ。
「会いたかったよぉ! 私の大切な、フィアンセ!!」
無邪気に、笑いながら。
こちらはそれに対し、一言。
「――――断じて、違う」
ハッキリ、そう告げるのだった。
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