1.パーティーの条件。
「だから、キミとは一時的なパーティーであって。あの時ハッキリと、俺はもう組まないと宣言したはずだが?」
「たしかに言っていたが、今後なにか心変わりするかもしれないだろう? 私はヒガンを諦めるつもりはない」
「諦めてくれ。残念ながら、脈なしだ」
「一度だけで捨てるのか!? ――それはどうかと思うぞ!」
「誤解を招きかねない言い方をするな」
昼の休憩時間。
酒場で昼食を摂っていると、待ち構えていたアリナが絡んできた。
もう、かれこれ一週間はこの状態だ。クエストの合間には決まって懇願されるので、こちらとしても面倒極まりない。
「頼む! 私にはヒガンだけなんだ!!」
「気のせいだ。キミを必要とする者は多くいるだろう?」
「それは確かに、そうだが……。私が必要としているのは、ヒガンだけだ!!」
俺が言うと、彼女は瞬間だけ怯む。
しかし、何故かすぐに頬を赤らめながらそう言った。
周囲の客も何やらニヤニヤと視線を送ってくる。いったい、なんだというのか。
「いいから、私のことを使ってくれ!」
「だから俺は誰とも組まないと、そう言っている」
綺麗な土下座をするアリナ。
やめろ、そろそろ周囲の視線が痛くなってきた。
「なんだい。ずいぶんと懐かれているじゃないか」
「これは懐かれているのか……?」
そう思っているところに、リリーナがやってきた。
彼女はカウンター席の正面に立ち、グラスを拭きながら笑う。その笑顔はどちらかというと、この状況を楽しんでいるようにも感じられた。
この店主も、なかなかに性格が悪い。
「ねぇ、アリナちゃん。そんなにヒガンがいいのかい?」
「そ、そうだな。あれほどに心地よい戦いは初めてだった」
声をかけられて、ようやく少女もカウンター席に腰掛ける。
サービスと称してジュースを出しながら、リリーナはこう言った。
「ヒガン、今度はアンタが試せばいいんじゃないのかい?」
「…………試す、だと?」
「あぁ、そうさ」
俺は視線だけで店主を見る。
「前はアリナちゃんがヒガンを試した。それじゃあ、今度は逆さ」
「…………ふむ」
――なるほど。
その言葉に、俺は少し考えた。
こちらがパーティーを組まないのは、三年前の出来事があったから。シガナのようなスタンドプレイをする者と、一緒には行動したくないからだ。
だが、リリーナの言ったように試す程度ならまだ良かった。
それでも、あまり必要は感じない。
「アンタ、試用期間……? とかいうの、よく言うじゃないか。それと同じさ」
「人は物と違う。いつ、その質が変化するか分からない」
「それはそうだけど、パーティーを組む利点もあるだろう?」
「まぁ、な……」
リリーナの言う利点というのは、より成功報酬の高いクエストへの挑戦が可能になる、といったことだ。もっともソロで活動しても、数をこなせばどうにかなる。
そういったわけで、俺はソロでもいいと考えていたが――。
「むむむむ……!」
この少女――アリナは、どうやらパーティーを組むことに執着しているらしい。
先日の一件で、誰かと協力する喜びを知ったのだろうか。
俺は水を喉に流し込んだ。
「利害の一致があれば、それもあり得るが、な」
結局は、そこに落ち着く。
ふっとため息をついて、立ち上がろうとした。その時だった。
「そんなアンタにとって、気になるであろうクエストがあるよ?」
「なに……?」
リリーナが、そう言って一枚の依頼書を出したのは。
俺とアリナはそれを覗き込む。そしてそこにあった内容を見て、
「なるほど、な」
顎に手を当てて、考え込むのだった。