表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

5.一つの戦いを終えて。







「あぁ、不思議だ。身体が軽い……!」


 アリナはそう呟きながら、地を蹴った。

 迷いがない動き。それはきっと、信頼できる仲間がいるから。

 身体が軽いと感じるのは、心が軽いから。強大な敵を前にしても怯むことがないのは、背中を預けられる存在ができたから。


 そんな感覚は初めてだった。

 彼女はいつだって、一人で戦ってきたから。


「右からくるぞ、アリナ!」

「分かった! ――どうしたバケモノ、私はこっちだ!!」


 ヒガンという司令塔から飛ばされる指示に、即座に反応してみせる少女。

 正体不明の魔物が放った攻撃は、彼女を捉えることなく大地を抉るにとどまった。幸いなことに、この魔物はアリナの足でも対応可能なほどの速度。

 それ故に、今回は彼女が陽動に回ったのだ。



 そして、本命である一撃を担うのは――。



「アリナ、よく耐えた。――行くぞ!!」



 ――ヒガン・ネロクラウスの放つ、強力な魔法による攻撃だった。


「任せた……!」


 声に合わせて、アリナは大きく横に回避行動を取る。

 するとその直後――。



「あぁ、これで終わりだ――【エンシェントフレイム】」



 魔物の足元に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 そして瞬く間に火柱が舞い上がり、バケモノの巨躯を包み込む。

 もがき苦しむ魔物はしかし、断末魔を発しながら黒い霧となっていった。


「…………勝った?」


 アリナはそれを見て、腰が抜けてしまう。

 そして、どうにかヒガンの方へと目をやると――。



「あぁ、上出来だな」



 驚きだった。

 そこにあったのは、ヒガンの微笑みだったのだから。


「ヒガン――」

「俺の予想だと、キミは西の街に住む――勇者の末裔だろう?」

「な、どうしてそれを……!?」


 同時に、自身の出生を当てられ声を上げる少女。

 だがヒガンの方はと言えば、相も変わらず淡々と言葉を紡いだ。


「なに、簡単な推測だ。剣に刻まれた紋章は、あまりにも有名だからな。だがそれでも、一族が落ちぶれて久しいと聞いていた。だから、単純に剣が質に流れた可能性もあった」

「………………」


 アリナは彼らしい歯に衣着せぬ言葉に、少しだけ息を呑む。

 それでも、聞いておきたかった。

 なぜ彼は――。



「だとしたら、なぜ? ――私がその末裔だと思ったのだ」



 自分を一族の者だと、そう認めたのか。

 怖くもあった。しかし、確かめたかった。


「あぁ、それは――」



 怯える彼女に、ヒガンは小さく頷いて。




「あれほどの剣技を見せられたら、認めざるを得ないだろう?」




 ――手を、差し伸ばした。

 それを聞いた瞬間に、アリナは自身の身体を縛っていた鎖が一気に解けていく、そんな不思議な感覚を味わう。ついに、自分を認めてくれる人が現れた。

 その歓喜が、胸の奥から込み上げてくる。

 視界がまたも潤んで、ヒガンの顔がよく見えなかった。


「……どうした。なぜ、泣いている?」

「うるさい! この鈍感男が!!」

「む……?」


 そんなアリナに彼は、首を傾げながら言う。

 なんともヒガンらしい無自覚な口振り。それに涙を拭って文句を口にしながらも、少女は笑顔で答えるのだった。

 真っ暗な道を一人で歩いた彼女にとっての、一筋の光。

 それを初めてくれた人物。


「まぁ、いい。とりあえず――」


 そんな彼の手を取って、アリナはこう伝えるのだった。



「これから、よろしく頼む。――ヒガン・ネロクラウス」









 ――が、しかし。


「む? 何を言っている。パーティーを組むのは、今回だけだぞ」

「なーっ!? この流れは、共に戦う流れでは!?」

「なにをバカなことを。さっきも言っただろう? ――これはあくまで契約であり、その期間だけキミは仲間である、と」

「言った! 確かに言った! でも――」

「ふむ……。やはりキミは、非論理的思考の子供のようだな」

「だーっ!! いいから話を聞いてくれぇ!!」




 どうやら二人の歩む道は、まだまだ前途多難のようだった。


 



ここから、一日一話投稿予定に切り替えます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ