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4.【仲間】の理論。







 少女はいつも、膝を抱えて震えていた。

 朝が来るのが怖い。そう思って眠れない日々は数え切れず、親族が起きだすと同時に涙を流すのは日常だった。それほどまでに、少女は追い詰められていた。


 されど彼女は、立ち向かったのだ。

 親族の期待に応えて、強くなろうと精進した。罵られようとも、貶されようとも。無神経に心を折りにくる相手のために【アリナ】は努力した。


「きっと、それが私の生きる意味なのだから」


 ――そう、信じて。





 ヒガンの言葉を聞いて、アリナは目を見開いた。


「仲間、だと……?」


 思いもしなかったのだ。

 彼がまさか、そんな理由で自分のことを助けるなど。

 されど潤んだ視界に映り込むヒガンは、真剣眼差しで剣を構えていた。そこに嘘偽りなどない。そもそも、この男に冗談が言えるとは思えなかった。

 つまり、先ほどの言葉は真実であり――。


「バカな、こと……!」


 アリナにとっては初めての【対等な扱い】だった。


「なにを、寝惚けたことを言っている!? 今の私たちは他でもない敵同士だろう!! それに、私には――」


 ――仲間など、必要ない。

 そう、まるでヒガンが言いそうなことを口にしかけた。

 しかしそんな彼女の言葉を遮って、冷静な口調で彼は告げる。


「やはり、子供だな――」


 視線は魔物に向けたまま。


「まさしく駄々を捏ねる子供、そのものだ。自分の感情だけで行動し、状況判断を誤る。取り得る選択肢の中で最悪なものを追いかけ続ける。――非論理的だ」


 一つ、ため息をついて。


「人間にはできることと、できないことがある。それはキミだけではなく、当然ながら俺にもある。得手不得手から、他者の期待に応えられないこともあるだろう。だからこそ、自分を見つめ直さなければならない。自身の限界を知り、必要とあらば他者に身を委ねる。それこそが――」


 最後には、こう締めくくった。



「人間という生き物であり、仲間の必要性というものだ」――と。



 あくまでも、理屈によって。

 ヒガンはアリナを仲間と呼んだ理由を結論付けた。


「それは、つまり……?」

「俺は俺の興味で、キミのことを必要とした。キミはキミの事情で、俺とパーティーを組むことを求めたのだろう。そこにあるのは利害の一致であり――【契約】」



 ――だから今のキミは、俺にとって【かけがえのない仲間】だ。



「――――――っ!」


 アリナはそれを聞いた瞬間、呼吸を止める。

 そして同時に、ようやくヒガンという人物の在り方を理解した。

 彼はおそらく根っからの冷酷人間ではない。どこで捻じ曲がったのかは知らないが、豊かな感情を理屈によって表現している。


 そんな【リアリスト】なのだ、と。


「私は貴様――ヒガンにとって、必要な存在、なのか?」

「そう言ったつもりだが?」



 なぜなら、そうでなければおかしいから。

 そうでなければ、こんな穏やかな目をして話すなんて、できないから。



「………………ははっ」


 涙を拭って、アリナは立ち上がった。

 一度は手からこぼした剣を、再び拾い上げる。


「案外、面白い奴なんだな」

「魔物を目の前にして何を言っている? 面白いことなど一つも言っていない。俺はあくまで、当然の話をしただけだ」

「そうか、当然の話――か」


 アリナの言葉に、淡々と答えるヒガン。

 そんな変わらない相手の様子に、少女は満足げに頷いて決意を構えた。


「すまない、待たせたな!」

「あぁ、本当だ。魔法で動きを封じるにも、限界がある」


 そしてニッと笑って、ぐっと手に力を込める。

 時を同じくして魔物が咆哮を上げた。ヒガンの拘束魔法から解き放たれた強大な存在は一歩、また一歩と二人に迫ってくる。


「この強さの魔物を倒すには、ある程度の連携が必要だ。――できるか?」

「あぁ、大丈夫だ。私はヒガンの指示に従おう」

「合格だ。それでは――」



 ヒガンは珍しく口角を上げて、こう宣言した。



「束の間のパーティーを始めようか」



 


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