プロローグ 冒険者は決意する。
「あのね、ヒガン? ――アンタ、想像力が足りない!」
「なに……?」
俺はあるクエストの終了後、リーダーである少女――シガナにそう叱責された。
しかし、こちらとしては怒られることに思い当たる節はない。
いったい、どういうことなのだろうか?
「アンタねぇ! ――最後はアタシがトドメを刺すって流れ、想像できないの!? そりゃ、ちょっとばかり状況が予定から外れていたけど、主役はアタシよ!!」
「その状況が問題だろう? あのままシガナが攻撃に出れば、下手をすれば負傷していた。これはあくまで、適切な、論理的思考に基づく推測によるものだ」
「だーっ!? だから、アンタのその『論理的思考』とかいうの、もうウンザリなのよ! やっててちっとも楽しくないじゃない!!」
「快楽を優先して命を散らすのか? 本末転倒ではないか」
「それ! そういうとこ!!」
「………………む?」
俺が理解できずに首を傾げていると、シガナはこちらを指さす。
そして、こう続けた。
「確かにヒガンの能力は評価できる。でもね、そういう堅苦しいやり方や言い方は求めてないの!! アタシにはアタシのやり方があって、他のみんなもアンタの指示通りに動く人形じゃないの!! ――心があるのよ!!」
――む、そこまで言われると不服だ。
俺はこのパーティーの戦力を分析し、最適な戦略を提唱していたにすぎないのに。心や感情といったものも理解できないわけではない。
しかし、戦場においてそれは二の次のはずだった。
そのはず、なのに……。
「アンタはクビよ! ――言い方を変えれば、追放ね!」
「……そうか」
だが、シガナは話を聞く様子ではなかった。
その上でクビを言い渡されたなら、俺にはもう覆しようがないだろう。これは今の状況を論理的に分析した結果による、最も適した判断だった。
有力なパーティーと聞いてはいたが、このままではこれ以上の伸びしろがない。
すなわち、俺としても不適合な環境だった。
「それならば、俺は今日限りで去ろう。今まで世話になったな」
「ふん……! もう、ホントに知らないから!」
「こちらこそ、だ」
そんな捨て台詞を言い合って、俺はその場を後にした。
◆
果たして俺は間違えていたのだろうか。
そんなはずはない。言うなれば、あれは、シガナの我がままだった。
実際にその後、彼女のパーティーはあっさり崩壊した。理由というのも分かりやすく、シガナによるスタンドプレイに尽きる。
「だが、次こそは上手くやってみせる」
あの日から俺は論理的思考に磨きをかけなおした。
「もう、誰も傷つけない」
俺は究極のリアリストとして、感情というものを捨て去った。
そして、決意する。
「俺が、すべてを成功に導いてみせる」
――もう失敗しない。誰にも、させたりしない。
次話は21時頃に。