5話 ハリセンボン
「ばっちゃん! ばっちゃん! ......ん?」
ばっちゃんと連呼してベッドから上半身を起き上げると、自分の家の部屋ではなく見たことない部屋だった。周囲を見渡すと真っ白な清潔感のあるベッドの上にいるようだ。部屋の壁にはポスターなどは貼られておらず傷もない真っ白な壁だった。
ベッドの正面、天井には支えられながらテレビが吊下っていた。番組はニュース番組だ。まるで病院の病室だ。
先程までテレビ番組を見ていた男性が輝星の声に驚いて口を開けて固まっていた。男性は輝星の知り合いだった。
目の前の男性の名前は”丸川 丸雄”で父親が生前雇った弁護士だ。父親の葬儀とばっちゃんの葬儀を手伝ってくれた人だ。
丸川弁護士の体型は名前の通り、まん丸と太っている。伊達に苗字と名前に丸がついてるだけではなくまん丸と太っている。だが、丸いのは名前と体型だけで性格は細かくって厳しい人だ。
父親は何かあった時のために遺書を残していた。父親の財産は莫大だ。24時間365日間ずっと休みなしで働き詰めだった。その上人気俳優だったので高額なギャラを貰っていた。莫大な財産目当てにトラブルがあると思ったんだろ。事実、父親の葬儀に今まで見たことのない親戚と呼ぶ者が来た。まぁ、ばっちゃんに全員叩き出されていたけど。
だからこそ遺書を残していたんだろ。生活費は毎月一定額が支払われる。私立中学の入学費用など特別なことがない限り、生活費の一定額以上支払われることはない。
欲しいゲームやアニメの発売日が重なって予算オーバーでも支払われることはない。
それどころか僕が購入した小説や漫画の金額や発売日を調べて細かく捜査するんだ。調べ上げた資料を片手に。
これは学業に必要なものですか? こんな本必要ないでしょう。 輝星君もっと学業に集中しなさいと説教するんだ。細かくチクチクと指摘してくるから僕は丸川弁護士を。
「ハリセンボン....」
丸川弁護士”ハリセンボン”は口を閉じ顔を真っ赤にする、まるで怒って今にも爆発しそうなハリセンボンに見えた。
ハリセンボン弁護士は身体をプルプルと揺れ怒りをあらわにする。
「べーがー君! その呼び名は不敬だ訂正しなさい。何度も言ってるが私はハリセンボンではなく、君の身元保証人の丸川弁護士だ。年上に対して無礼だぞ」
ハリセンボン弁護士は言った通り、ばっちゃんが亡くなって僕の身元保証人になった。この身元保証人の件も父親が残してくれた遺書に書いてあった。父親はハリセンボン弁護士を信頼してるようだ。
そして、僕も大人達の中で数少ない信頼してる人だ。
「ご、ごめんなさい。は..丸川弁護士」
「ん? まぁ、いいでしょう謝罪を受け入れます。ばっちゃんと呼んでいましたけど思い出してたんですか、おばあ様の事を....」
丸川弁護士はポケットに入ってたハンカチを取り出し、輝星に手渡す。輝星は夢の世界で会ったばっちゃんの事を考え、現実世界の身体でも泣いてたようだ。
輝星の涙腺から涙が流れていた。少し照れながらお礼をいい。ハンカチで涙を拭う。因みにハンカチはアイロンがけされていて、しわなど汚れは一切なかった。
輝星が洗濯して返そうと思ってると、丸川弁護士はハンカチを受け取る。
「子供がそこまで考えなくていいですよ」
「だけど、ばっちゃんの教えで礼儀にはお礼で返せと....」
「厳しい人でしたけど....輝星君の将来のことを大事に思ってる人でしたね」
輝星はばっちゃんのことを思い出し俯くと。
「輝星君、身体は大丈夫ですか?」
「えっ、身体ですか?」
輝星は疑問に思いながら身体を軽く動かす。いつもより怠く重く感じてると、丸川弁護士が心配してる口調で問いかける。
「輝星君は....8日間も眠っていたんですよ」
「えっ! 8日間?」
驚いて声を上げる大事な事を思い出す。一週間分のアニメを見忘れたことを。
「あ~~アニメ見忘れた~~」
「はーーっ、突然叫ぶの辞めなさいビックリするだろ。それに他の患者に迷惑になります」
「あ、すいません」
「前に調べた時にインターネットの動画サイトに登録してるを知ってますよ。そこで好きなアニメを見れば問題ないでしょう」
「リアルタイムに見るからいいんですよ。まぁ、パソコンで見ますけど....」
丸川弁護士は呆れながら小さく溜め息をするが安堵していた。輝星のことは幼少期の頃から知っている。輝星君は覚えていないかも知れないが、あいつが離婚する前は家族ぐるみの関係だ。別れたことはワイドショーが騒ぐ以上に驚いた。
離婚して数年後にあいつから突然連絡が着て、遺書を残して預かってくれと頼まれた。
遺書を預かって数ヶ月後に、テレビのニュース番組であいつが飛行機事故で死んだことを知った。あいつは知ってのか? 悲しむ以上に驚いた。大粒の涙を流しながら笑った。
そして、遺書の内容を思い出した。あいつには双子の子供がいた。娘は母親が引き取り。息子は父親であるあいつが引き取った。
あいつには莫大な資産がある、あの遺書は家族を守るためのものだ。
数十年ぶりに見た時は、輝星君が欲に溺れた汚い人間たちに囲まれていた時だった。その時は祖母が駆け寄って助け出した。
久しぶり見た輝星君の第一印象は大人しそうな、感情がどこか欠落してる感じがした。ただ、唯一祖母と一緒の時は子供らしい笑顔をしていた。
それから、数年後に祖母が亡くなり輝星君に笑顔が減った。あいつに頼まれた生活費を渡すため月に一回必ず会っていた。会うたびに表情が暗くなり、いつもつまらなそうな表情をしていた。
輝星君が好きな漫画やゲームを指摘すると子供らしい反応が返って来た。私のことを”ハリセンボン”とうい不快な愛称で呼びます。注意をすると素直に謝罪しますが、次回会った時にまたハリセンボン弁護士と呼びます。
子供らしいと理解してるので受け入れてる自分がいます。ハリセンボン弁護士のことを妻と娘に話しをしたら、大笑いしてそっくりと輝星君に同意してました。
もっと会う回数を増やして弁護士として、あいつの友人として、使命感を持って輝星君を守ろうと決意をしている。