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ワールドブレイカー(自称  作者: 天竺トマト
1章 ワールドブレイカー
4/28

4話 僕のばっちゃん

すいません遅くなりました。

 輝星(べが)が住んでいる地域でも地震発生後、海沿いの地域よりは被害は小さいが地震の影響はあった。幸い地震対策をしていた学校や病院など公的建物、民間では大型商業施設やマンションには大きな被害はなかった。大型商業施設の商品が倒れお客様に怪我をさせる事故はあった。


 古い建物に多大な影響があった倒壊はしなかったが建物の一部が崩れ、飲食店では火災の二次災害も起きた。当然、民間でも同様だ、丁度、各家では夕食の準備している時間帯だった為、火災事故という人的被害が起きた。


 そして、民間会社の鉄道会社では、地震の影響なのか原因は不明だが、線路を走っている電車に連絡が着かなくなった。さいわい各駅には連絡が着いたので、鉄道会社の運転指令所は迅な対応で各駅と連携し地震事故と影響がないか調査した。

 しばらく経つと無事電車が駅のホームに着いたと連絡が相次いだ、怪我にはいないが気分を害した人がいる連絡があった。気分を害した方には悪いが大きな事故が無く運転指令所の人達は安堵した。

 

 地震の影響での大きな人的被害はないと雰囲気になっていた運転指令所に一通の連絡が来た。応対した職員が話しを聞いてると段々と険しい表情に変わっていた。

 職員は険しい表情のまま報告する。


 その報告は運転指令所の人達全員にとって最悪な報告だった。


 駅のホームに戻って来ない車両があると。いくら待っても来ないため地震の影響で車両に事故があったと考え。数人の職員を車両を探すため現地に派遣した。


 そこで分かったのが、トンネル内で電車が脱線して倒れてると最悪な報告だった。


 運転指令所の人達は報告を聞くと――車両内の状況を想像してしまう、乗客は無事なのかと悪い空気が漂う。


 その時、バンと机を叩く音が大きく響いた。机を叩いたのは経験豊富な運転指令所の総括指令長だった。


 一緒に働く職員たちに愛称で”デイトナ殺し”と揶揄されていた。愛称の由来はロレックスのデイトナを購入した日から週を明けるとデイトナを腕に付けていなかった、疑問に感じた職場仲間が話しを聞くと『.....死んだよ』と苦虫を嚙み潰したような表情で語っていたと。

 後日真実が分かった。内緒でロレックスのデイトナを黙って買ったことが奥さんにバレて喧嘩になり、購入した週の休日に質屋で売ったと、そのお金で連休に海外旅行に行ったことがわかった。


 プライベートは駄目だが、仕事では頼りになる総括指令長は的確に指示を出す。優先順位は車両内に閉じ込められている乗客たち。まずは上に報告し関係各社に連絡する。当然、テレビなどのメディア関係者にも連絡を忘れない。


 連絡を受けたレスキュー隊は乗客たちを助けるため震災現場のトンネルに向かった。


 レスキュー隊はこの日――地震発生後に多くの人命を救助していた。そして、この日最大の難関の救助が始まった。


 震災現場に着くとまず目についたのが車両よりもトンネルだった。トンネル内にライトの光を当てるとコンクリートにヒビが入っていた。救助と共にトンネルの補強工事をする事に作戦が決まった。


 レスキュー隊や関係者は一丸となって救助に取り組み翌日には車両内に残った全ての乗客たちを助け出した。


 そして、レスキュー隊たちを驚かせる事件が起きた。電車の外――トンネル内に中学生の制服を着た少年が倒れていた。血は止まっているが頭から出血した血が顔全体に残っていた。そして、背中には火傷の後が残っていた。脈や他に怪我や異常が無いか確認をした。

 脈は正常であり異常は見つからなかった。レスキュー隊のプロたちは少年に違和感を感じた。無事なのはいいが、どうして無事なのかと。少年の状態の確認とトンネル内の調査も行っていた。その際にトンネルに少年の血痕であろう痕跡があった。


 少年は何故無事なんだと..何故生きてるんだと不思議と違和感を感じた。


 これ以上は分からないため病院の精密検査に任せることにした。大量の出血を失っていることは事実のため救助ヘリで緊急病院に運ぶことになった。その姿――救助ヘリに乗せられるいる輝星をテレビ局のカメラが捉えていた。

 後日、輝星は本人が知らぬ間にテレビデビューをしていた。


 病院に運ばれた輝星は精密検査を受け異常は見つからなかったが....。





***


 救助されてから8日が過ぎ去った。


 輝星は真っ白で清潔感のあるシーツで、ほどよい反発力があるベットの上で、スースーとリズム良く寝息を立てて眠っていた。部屋の中を朝日がカーテン越しから光が差し込む――耳元で大きく息を吸い込む音が聞こえると。 

 

 「お~きな~さい~~べが~~! いつまで寝てるだい。お天道様が朝の挨拶をしてるよ。起きなさい輝星!」

 「あとで~おきるから~もう少し~眠らせて~よ~。ばっちゃん....」

 「輝星そう言って起きないじゃろ」

 「........」

 「......いい加減に起きないと....輝星がお小遣い使い果たして買ってる娯楽ものを....灰にするよ」

 「ば、ばっちゃん辞めて! 起きたから辞めてばっちゃん! ばっちゃん? ばっちゃん......」

 

 輝星がベッドから起き上がって話し相手に視線を向ける。そこにはいないはずの”ばっちゃん”がいた。


 ばっちゃんは輝星の祖母である。輝星の両親は輝星が幼少期の頃に離婚している。父親は日本人で有名な俳優だったらしい主にハリウッドで活躍していた。いわゆるハリウッドスターだ。母親はフランス人で世界的なスーパーモデルらしい。

 それと、輝星には双子の妹がいた。妹は離婚後母親と共に外国に渡った。


 正直、両親や妹のことは覚えていない。全てばっちゃんに教えて貰ったことだ。僕は日本人とフランス人のハーフらしいけど、どこが? 毎日鏡で自分の顔を見るがどう見ても生粋の日本人顔だ、黒髪で黒い瞳、平面顔だし、身長も高くない。

 そして、世界で活躍する程の両親は美形なはずだ。だけど僕の顔はフツメンだ、だぶん。


 妹は母親と一緒で、僕は父親に引き取れた。だが、父親は世界で活躍するスターだったので、一緒に暮らしてたのは父親の母、輝星からすれば祖母に当たる。因みに祖父はすでに他界していていなかった。


 祖母”ばっちゃん”と暮らして数年後に父親が乗っていた飛行機が墜落事故にあい帰らず人になった。正直..悲しいという感情はなかった。父親は忙しいためほとんど家にいなかった。学校の入学式、授業参観、運動会、演劇鑑賞会、音楽発表会。そして、僕の誕生日も傍に居てくれなかった。


 だから、父親が死んだと聞いても泣くことはなかった....。


 父親の葬儀には知らない大人達が家に来た。大人達は僕に優しい言葉を掛けるが..中身が無い言葉だと感じた。優しい言葉の後に..偉大なスターを失ったと、世界で活躍する日本人を失ったと、輝星君も父親のように立派な男になりなさいと涙ながら聞かされた。


 だから、父親が偉大? 父親のような立派な男? .....考えても分からなかった。僕にとって父親と呼ぶ人は....他人だから....。


 父親の葬儀で一切泣くことがない僕を見て、同じ仮面を被っている表情した大人達は気味が悪いと感じて態度が一変していった。そこへ金髪の外国人を相手にしていたばっちゃんが駆け寄って来て、大人達に叱責して僕を庇うように助けてくれた。


 ばっちゃんは厳しいけど、優しくって、温かい手をしていた。僕のこの世界で唯一の家族だ。


 父親が死んでから、ばっちゃんの躾は厳しかった。星乃家の家訓とか朝早く起きてお天道様におはようの挨拶が終れば、家の掃除から庭の草むしりなど手伝わされた。

 掃除が終われば一緒に朝ご飯の準備して一緒に食べる。時間が来たら学校に行く。家に帰ったらばっちゃんにただいまの挨拶して、ばっちゃんの手伝いをする。庭に育ててる野菜を収穫して晩御飯の材料にする。

 手伝いが終ったら学校の復習をする。復習をしないとばっちゃんに怒られるから勉強はしっかりやっていた。学校の成績は聞かないでくれ悪くはないけど良くもない、どうしていい結果にならないのか要領が悪いのかな。

 晩御飯も一緒に準備して、一緒に食事をする。食事が終われば後片付けをする。それが終われば自由時間だ。好きな漫画や小説、アニメ、ゲームの時間だ。

 そんな日常の日々をばっちゃんと一緒に暮らしていた。


 ばっちゃんとずっと一緒に暮らす日々は唐突に終わりを告げた。


 中学の入学式が終わった月にばっちゃんが身体を壊し病院に入院すると、入院して3日後に亡くなった。


 お棺に入ったばっちゃんは優しそうな表情をしていた。だけど、愛情が籠った温かい手を冷たく冷え切っていた。


 僕は泣いた..父親の死の時は悲しいという感情すらなかったのに。


 ばっちゃんの死は......。ばっちゃんと暮らした記憶が蘇り瞳から大粒の涙を流す。ばっちゃんに抱き着き泣き叫ぶ。


 いかないで..ばっちゃんいかないで..僕を置いてかないで....ばっちゃん......。


 その後のばっちゃんの葬儀のことは余り覚えていない。たぶん弁護士が代わりにやってくれたんだと思う。


 ただ、唯一覚えてるのは、ばっちゃんの葬儀には誰も来なかった。父親が死んだ時はあんなに沢山の人が葬儀に来ていた。

 父親が生きていた時に交流があった人達。

 僕に優しく話し掛けてきた大人達には、父親に助けて貰って恩義を感じてると何かあれば助けますと言っていた人達。

 弁護士は父親の葬儀の時も一緒に居たので話しを知っていたので、ばっちゃんの葬儀の連絡を出していた。


 だけど、ばっちゃんの葬儀当日....誰も来なかった。


 大人達の上辺だらけの嘘。


 僕はこんな嘘だらけの世界が嫌いだ。


 家族を失い一人ぼっちになった。

 

 ばっちゃんが死んで2年虚しくなる時、つまらない人生だなと思うことが多い。


 輝星の目の前に死んだはずのばっちゃんがいる。白髪の髪をお団子ヘアーにして、しわだらけの顔、厳しい目つきだけど瞳の奥からは母性のような温かさがある。腰は曲がっておらず背筋はキレイに伸びている。


 ばっちゃんを失って2年、一人での食事、誰もいない家、虚しくってつまらない人生だっだと感じた日々。その思いを壊すように溜め込んでいた思いが爆発する。


 「ばっちゃん! ばっちゃん! ばっちゃんだよね」


 ばっちゃんは何も言わずに真っ直ぐ立っていて、厳しい目つきで輝星を見つめる。輝星はベッドから起き上がりばっちゃんに片手を伸ばして駆け寄る。

 先程まであったベッドがいつの間にか消え、周囲は真っ白な空間になった。ばっちゃんの後ろに木製のドアがポツンと立ちすさんでいる。


 輝星は周囲が変わったことに気にせず、大好きなばっちゃんに触れよう近づく。だが、触れようとすると近づくことが出来ない。身体を動かすことは出来るが近づくことが出来ない。何度も両手を伸ばして名前を呼ぶ。


 「ばっちゃん! ばっちゃん! ばっちゃん! いつものように輝星って呼んで! ばっちゃん....置いてかないで..」


 ばっちゃんの視線が動く。輝星の身体を成長した姿を見て、厳しい目つきのまま嬉しそうな表情をする。


 「立派になったのう輝星」

 

 ようやくばっちゃんが答えてくれた。久しぶりの大好きなばっちゃんの声、少し厳しい口調だが輝星のことを思ってる温かさを感じる。

 輝星は嬉しくって2年ぶりに少年らしい笑顔をする。


 「ばっちゃん会いたかった。ずっとずっと会いたかった」

 「輝星。星乃家の家訓を忘れたら駄目だよ」

 「家訓? そんなことよりも..ばっちゃんに言いたいことが沢山あるんだ....」


 ばっちゃんの背後にあった木製のドアがゆっくりと開く。ドアの先には階段――真っ白な螺旋階段が天高くそびえていた。

 

 ばっちゃんの身体が薄くなっていき光の粒子が舞う。輝星は分かっていたこれが現実ではないことは、大好きなばっちゃんは死んでいることも、目の前のばっちゃんが本物でなくても。


 それでもそれでも..大好きなばっちゃんに触れようと届かない手を伸ばす。


 「ばっちゃん! ばっちゃん! 置いてかないで....こんなつまらない人生嫌だなんだ。変えようと努力したよ、今日も好きだった人の告白したよ。ばっちゃんも知ってる蛯澤(えびざわ)さんだよ。僕が蛯澤さんのことを小学校の頃から好きだったことは覚えてるよね。けど....振られたよ。ははっ、しかもね....他の人と間違えて振られたんだ。はははははっ......」

 

 ばっちゃんは大好きな孫の輝星が苦しそうに泣いてるのを見て悲痛な表情をする。祖母は幻影か幽霊なのか分からない。それでも孫を思う気持ちは本物である。今すぐでも孫の涙を拭いて抱きしめたい。

 だけど、許されない。それがこの世界のルールだからだ。身体はもう半透明になり背後のドアが見えるようになっていた。


 ばっちゃんは孫と一緒に居られる時間が残り少ないと悟る。


 輝星が大好きな祖母”ばっちゃん”は大切な孫を思う気持ちを伝えるため。厳しい目つきから孫を愛している温かい表情をする。


 「輝星....あい........」


 ばっちゃんの身体が完全に光の粒子となり消えさる。最後の祖母のメッセージは輝星の耳に届いた。


 大好きなばっちゃんの温かい声が耳に届く、最後までメッセージは伝わなかったが、輝星を思う気持ちは魂まで伝わった。


 輝星は泣きながらばっちゃんの光の粒子がドアに舞い上がる様子を見て叫ぶ。光の粒子が真っ白な螺旋階段を登っていく。まるで天国に向かっているように。


 「ばっちゃん! いやだーー! 置いてかないでばっちゃん! ひとりぼっちのつまらない人生はいやだーー! ばっちゃん! ばっちゃん! ばっちゃん.....」


光の粒子が見えなくなっても、大好きな祖母(ばっちゃん)を求めて両手を上げて叫び続ける。


 

今回の話しは輝星の家族構成と祖母の話しになりました。


本当は戦闘シーンを先にしようが迷いましたが、祖母の話しの方が感情移入したので選びました。


戦闘シーンはもう少し先になると思います。


孫を思うばっちゃんに感動したあなた!



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