アリス君とお姉さん
アリスを背負ったオレは早足で街を目指す。
「・・・僕、自分は強くなったんじゃないかって勘違いしてた。」
アリス、目を覚ましたのか。
オレの背中でアリスが涙を流す、応急手当はしたが痛みが心を弱くしているのかもしれないな。
「届かないって逃げたのも忘れて、毎日リフさんと戦って自分は強くなったって思い込んでた。僕は弱いままだったのに。」
「そんな事ない、アリスはちゃんと強くなってる。」
もどかしいな。
頭を撫でてやりたいのにオレの手はアリスを支えるのと荷物を運ぶので塞がっている。
早く街まで連れて帰って、神子に傷を治させたい。
こんなにも人間を愛おしく思う日が来るなんて考えた事も無かった。
人が魔物に滅ぼされるのも仕方のない事だ。オレはそう思っていた筈なのにな。
「僕は狼一匹に殺される所だった。・・・龍使徒にもなれなかった。」
本当にアリスは強くなっているのに、ずっと引きずり続けるのか。
今日のはオレの判断ミスもあった。慣れない剣で戦わせた。
身体に合わない剣じゃなければもう少し上手く立ち回れた筈だ。うん、帰ったら新しい剣を作らせよう。
「大丈夫だ、アリス。まだ時間がある、これから強くなろう。」
「・・・はい。・・・リフさん、これからもよろしくお願いします。」
「ああ。」
唇を噛みながらアリスはオレに顔を近づける。ふふ、本当に可愛いやつだ。
街が見えてきたな。
「なんだ?」
槍を持った門番が二人駆け寄って来るぞ。
「・・・もしかして、僕の怪我が心配されてるんですかね?」
「なんだ!! いったい何なんだ!? それは!?」
声を上げた門番があろう事かオレに槍を向けてきた。これは・・・イラっとくるな。
「見て分からないのか? 怪我人だ。そこをどけ!」
「そっちじゃない!! 後ろだ! 後ろ!」
「後ろ?・・・ええええっ!!?」
オレの背中でアリスが大きな声を上げる。
「どうした、アリス? 傷が開くぞ。」
「いや、何なんですか。この狼の山は?」
アリスの身体が震えているな。
前の方では門番が一緒になって頷いている。
オレの後ろにあるのは狼の死体だ、倒した獲物を放っておくのもなんだから持ってきた。
「何って狼だろ? 一番上のがアリスの倒した奴だぞ。これは持って帰ってあいつらに自慢しような。」
「いや!! そういう話じゃなくて!! 人が運べる重さじゃないでしょ!? 何匹いるんですか?」
「13かな。オレがロープを持ってたから丁度良かったんだ。」
「だから、そういう話じゃ!・・・いや、もういいです。」
アリスがオレの肩にぐったりと頭を乗せる。これは本気で傷が開いたか?
「おい、先にアリスを神子の所に連れて行く。これは預かっておけ。」
オレは目を見開く門番にロープを握らせるとギルド目指して駆け出した。
「えっ? これどうすればいいの? お前、運べる?」
「無理に決まってるだろ! ・・・お前そこで番をしとけよ。」
別に僕の傷が開いた訳じゃないんだけど・・・走り出したリフさんが速くて僕は余計な口を挟めない。
リフさんがギルドの入り口を勢いよく開いて中に入る。うわー、凄い注目を浴びてるんですが・・・。
「頼む、アリスを早く治してやってくれ!」
僕はリフさんの手によってアザリアさんの前のカウンターに寝かせられる。
やだ、凄い恥ずかしい。僕は思わず顔を手で隠す。
「アリス! アリス大丈夫か!?」
「アリス君大丈夫ですか!?」
やめて!! 大丈夫だから大袈裟にしないで!!
周りの人がみんな、僕の事を重傷だと思って見てるじゃんか!!
アザリアさんの奇跡で傷の癒えた僕は立ち上がるといつも以上にフードを深く被って顔を隠す。
「ありがとうございます。アザリアさん。」
「いえいえ、アリス君。でもあんまり無茶は駄目ですよ。」
アザリアさんの優しいお言葉に僕はもう一段階頭を下げる。
公衆の面前で高い台に寝かされお腹が光る僕、恥ずかしすぎる。
僕、昨日狩師になったばっかりなんだよ、初めての狩りでこれなんだよ。
「助かった。雇われ神子、オレからも礼を言うぞ。」
リフさんの言葉に僕は思わず振り返る、なんなの? その失礼な呼び方は!?
「いえ・・・これが私の仕事ですので。」
ほら、アザリアさんが口元を引きつらせてるよ、神子をそんな風に言うのはきっとリフさんだけだ。
「こぞ・・・アリス、いきなり怪我をしたって? 大丈夫か?」
ギルドの奥からマスターのジョージさんが顔を出す、僕は別に小僧でもいいんだけど。
「アザリアさんに回復してもらったんで大丈夫です。心配かけてすいません。」
「いや、それはいいんだが・・・まー、無事なら良かった。命は大事にするんだぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
「よし、アリス。今日は帰るぞ、疲れただろ、ゆっくり休め。」
リフさんが僕の肩に手を回す。いや、僕もそうしたいんですけど大事な事を忘れてるよね。
「リフさん、門の外に取りにいかないと。」
大量に積まれた狼。
あれ、五メートルくらいの山になっていたよな。
「そうか。はー・・・なんか面倒くさくなったな。ついて来い、魔物の買い取りだ。」
「えっ!?・・・はい。」
今、ギルドマスターを顎で使った! そして、頷かせた!
昨日の短い時間ですっかり上下関係を構築してるけど、見るからにリフさんの方が年下だし、それに無職ですよね。なんでこんなに強気なんだろう。
リフさんを先頭に僕とジョージさんで注目を浴びながらギルドを出る。
・・・っていうか、後ろから狩師の人達がついて来るんですけど。
うわー、少し悪意のある言葉が聞こえてくる。
新人が怪我をした初めての獲物を見てやろうぜ、とか。僕が怪我をしたのは確かだけど倒したのはリフさんだから、見てビックリされると思うとなんだか気が重い。
変に注目されたくないんだよ。僕はもう一度フードを深く被り直す。
リフさん、歯ぎしりしながら後ろを睨みつけるのはやめて下さい。
「なんだあれは!!?」
門をくぐるともうそれは見えていて、ジョージさんが驚きの声を上げる。
そりゃそうだ。一度見てる僕も改めてそびえ立つ狼タワーにビビってるもん。後ろの人達も凄く驚いてる。
野次馬の人だかりが狼タワーを囲んでいるけど、リフさんは気にせずに堂々と進んで行く。仕方ないから僕も続く。
「これは・・・ナイトウルフ? これをたった二人で狩ったのか!?」
「いや、僕は一匹で、それも相打ちみたいな形でなんとか。他のはみんなリフさん一人で。」
ジョージさんが狼の名前を教えてくれた。そうか、ナイトウルフって言うのか、よく考えると僕が一匹倒す間にリフさんは十匹以上倒してるんだから、力が違いすぎてもうなんて思えばいいのかも分からない。
「一人で・・・何者なんだ!?」
「はふん! オレはアリスの保護者だ!」
大きく目と口を開いたジョージさんに胸を張ってリフさんが言う、そこで僕の名前を出すのそろそろやめて欲しい。
「姉さん!! お待ちしてましたよ!」
狼を繋いだロープを託されてた門番さんがリフさんの姿を見つけて目に涙を浮かべてる。リフさんはそれに片手を上げて応える。
「おう、盗まれたりしてないだろうな。」
「いや、そんな奴がいる訳ないじゃないですか。」
そう言いながら門番さんが嬉しそうなのは、きっと心細かったんだろうな。
門番さんがリフさんにロープを返そうとするがリフさんは拒否してジョージさんを指さす。
「そいつが運ぶからそいつに渡せ。オレはもう帰る。」
「ええっ!? 俺!?」
名指しされたジョージさんがビックリするし、門番さんも口を歪めながら狼タワーとジョージさんの逞しい腕とを見比べてる。・・・この筋肉があれば運べるのかな?
「無理!! 無理だぞ!! 台車をどこやった!? どうやってここまで持ってきたんだよ!?」
リフさんが引っ張って来ました、その筈なんだけど、僕はそれを慌てるジョージさんに伝える事が出来なかった。なんか自分でも夢を見ていたんじゃないかって気がするもの。
狼一匹がかなり大きい、見た感じだけど重さは僕とリフさんを足したくらいはありそう、それが山盛り。しかもその時リフさんは僕をおんぶしてくれてたから片腕一本で。・・・なんか本当に夢だった気がしてきた。
「はー、仕方ないな。」
必死に首を振るジョージさんを溜息混じりに見た後、リフさんが跳んだ、一度狼の頭を踏み台にしてさらに跳ぶと頂上の狼をひょいと掴んで肩に担ぐと軽やかに着地した。
誰もが言葉を失った。
「これはアリスが倒した記念の狼だから売らないぞ。なー、アリス。」
「いや、僕は別に・・・。」
「ほら、貸せ。」
リフさんが門番さんからロープを取ると、そのまま街に向かって歩いて行く。
普通に歩くリフさんと同じペースで進んで行く狼タワー。
僕たちはみんな呆然とその移動を見送っていた。
「・・・アリス。ナイトウルフは一頭でも狩師がパーティーを組んで狩る魔物だ。覚えておくんだぞ。」
「・・・そうなんですか。」
僕とジョージさんはお互いを見ないまま上の空で会話する。
僕の倒した狼は皆で食べた。
アサヒが料理してくれたお肉は・・・まあ、美味しかった。
狼は凄い高く買い取ってもらえた、リフさんが倒した狼は全て打撃で倒されていたから完全に綺麗な状態だったからだそうで。
僕が倒したネズミと子猿は・・・ちょこっとのお金になった。
リフさんは次の日から狩師の人に姉御って呼ばれるようになっていた。
本人はまんざらでもなさそうだ。




