008 BIG"G"
ドンドンドン!!
連続して弾丸が撃ち放たれる。
相手も相当な数で攻めてきている以上、俺だけが逃げ続けるわけにも行かず、補充の弾丸を貰いながら援護射撃を繰り返して。
「ち、キリが無いっ!!」
今現在俺達を追いかけてきている人型のヘドロ。
幾らへドロを撃とうが、実体の無いヘドロにはたいした効果も無いらしく。
夕子さんの炎の魔術で少しずつ焼き払ったり、手榴弾で吹き飛ばしたり。
「夕子さん引いてっ!!」
言いながらピンを抜く。
先ほど夕子さんから預かりうけた手榴弾だ。
これは元々内側に攻勢魔力が内包されているらしく、魔力の扱えない(と言うことに成っている)俺でも扱える武器なのだとか。
コロンッ、と音を立てて転がった手榴弾は、次の瞬間にドロの波に飲み込まれ、ついで白い光と爆音を撒き散らした。
「うひょお!!」
「ほら、止まってないで走る走る!!」
M686を撃ちながら廊下を駆け抜ける。
この短い時間で大分拳銃の扱いに慣れてしまった。…といっても、この一丁に限った話だが。
「鉄斎、フォローお願い」
「了解」
足を止めた夕子さんの傍で、膝を下ろして射撃体勢。
右手で握って左手を添えて…と。
あダンダンダンダンダンダンっと。
要は魔術の発動まで集中する時間を稼げばいいのだ。
俺に銃で的を狙い打てるだけの技量は無い。精々弾幕でかく乱できるかどうか、といった所か。
それでも、的が多いと下手な鉄砲も中々当たるようで。
弾丸は追いかけてくるヘドロ人形の何体かを撃ちぬき、形の無いドロドロへと還した。
「『炎の力を我に。其は灼熱、焼き払う者』」
夕子さんの呪文が響き、ついで空間の魔力密度が高まる。
因みに魔力と言うのは…あー、魔的なアレだ。魔術とか使う時に必要になるエネルギー?
…まぁ、そのあたりは知らん。
要は魔術のガソリンと言うことだ。メッチャ暴論。
その密度が濃いということはつまり、一立方に込められたエネルギー量が大きいということで、つまりエネルギー量はその効果…この場合だと破壊力…に、丸々転換される。
『爆ぜろ!』
爆発。爆発に次ぐ爆発。すげぇ。
俺も魔術は使えるけど、基本的に小技ばっかりで、こんなエフェクトの派手なのは…。
「よし、今のうちに逃げるわよ」
「―いや、まだだ」
雰囲気がおかしい。
一時的なりこの領域を支配していた魔物が引いたにしては、この雰囲気はおかしすぎる。
背筋に冷や水を垂らされたような、鳥肌の立つ寒気。
「…っ、夕子さんあれ!!」
銃口で廊下の彼方を指す。見えたのは、狭い廊下を壁面天井所構わず這い寄る何か。
…今さっきのドロ人形の同類だとは思うのだが…なんというか、…フォルムが…じ、G…。
「………っ!?」
「…………い゛!?」
泥の色は土気色。そして、G本来の色も土気色。
それを目視した俺と夕子さんの顔も土気色。
そうしてフリーズした《かたまった》俺達に向かって、件のドロのGが近寄ってくる。カサカサカサカサカサと、猛烈なスピードで。
「う、うおおおおおおおおお!!!!!!!」
「っっっっっっっっ!!!!!!!」
ドンパンドンドンパンパンパンタタタタタタタタドーーーンッ!!!!!!!!
パイソンに始まってベレッタ、デザートイーグルにスチェッキン・マシンピストル 、最後にカンプピストルと、もうありとあらゆるバリエーションを尽くした拳銃の大放出。
にもかかわらず、避ける避ける。ハハハ、俺もアイツ新聞紙で狙うんだけど、いっつも中々命中しないんだよねぇ(逃避中)
「っっ、良いから撃ちなさいっ!!」
「あ、アイアイマム!!」
弾倉から空薬莢を抜いて、そこに新たなカートリッジを装填する。
初撃の撃鉄を引き上げ、そのまま連続して引き金を引きまくる。
爆音が連続して六発。しかし、やっぱりと言うか所詮素人の銃撃。素早い身のこなしのドロ人形Gは、まるで未来でも見えているかのような回避能力を持ってしてこれを避ける。
「無い無い無い、幾らなんでも無いって!!??」
「ううう、アルゼンチンフォレストローチとか、私どうしても駄目なのよおおおおっ!!!」
「俺だって嫌だあああああ!!!!!!!!」
生理的嫌悪感を催すその脂ぎったフォルム。
ドロの癖になんであんなに生々しい光沢を放っているのか、心からの疑問なのだが。
ドンドンドンドンッ!!
恐怖に頬を引きつらせながら、その巨大な芥虫モドキに向かって.357マグナム弾を乱射する。
と、その一発がGの足にヒット。
狙いを付けれなかったのが逆に幸いしたのか、足を一つ弾き飛ばされた芥虫は、此方まであと少しと言うところで、地面の上でビチビチと暴れだして。
「うぇ…ちょ、夕子さん…」
「うっぷ、了解……」
その余りにも人間の根源的悪寒を刺激する光景に怖気を引き出されつつ、そのGに向かって夕子さんの両手の拳銃から9mmパラベラム弾がばら撒かれて。
ビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチ
「ひぃぃぃぃ…」
「…………」
物凄いゲチャグロ。弾丸を浴びて、明らかに致命傷なのに、それでもGはビッチビッチと跳ね回る。
見ているこちらが気分を害する光景。大事な事なので何度も言っています。
9mmパラベラムの雨を浴びて、しかしGは一向に絶命する気配を見せない。
なんでドロの癖に、変な所だけ原典似なんだよ…。
「……………………」ブチッ。
「……え?」
隣から聞こえた不吉な音。
ふと隣に視線を向けて、俺が手を出さなかった事を後悔した。
「ふ、ふふふ、うふふふふふふふふっ」
「ちょ、夕子さん……?」
『うふふ、ゴキ○リ風情が、よくも、よくも私の気分を害してくれちゃって……』
其処に居たのは、危ない感じに目元と口角をつりあげ、ヤバ気な笑みを逝っちゃった表情で浮かべる夕子さんの顔。
しかもパニックからか、言葉が英語に成っちゃっている。
…うん、やっぱり何処の国の人でも苦手なんだよな、G。
「って、ちょ、夕子さんそれ!!」
はっとする。ブチキレ夕子さんの手の中にあるそれ。
さっき俺が使わせてもらった、魔術付与済みの爆熱手榴弾。
しかも、それが5つ。
「いやいやいやいや、んな数密閉空間で一気に使ったら確実にこっちが死ねるから!?」
『死んでもコロす。死なば死ねと!!』
「ちょ、夕子さん!?」
駄目だ。言葉が全く通じていない。
ピンッ。そんな音と共に、夕子さんの手の中の缶から、銀色のピンが飛び出して。
「にゅおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!????????」
投げられるピン。
ソレと入れ違いに、夕子さんの体を抱いて、すぐ傍の空き教室へと飛び込んで。
―――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!
轟音、というよりは、衝撃波に襲われて。
「っ!?」
眼鏡が吹っ飛ばされる。…って、あーあーあー、俺の眼鏡!!
爆風が収まったのを確認して、夕子さんを床に下ろす。
…うん、もうさっきまで感じていたような魔的な気配は感じない。さっきのゴキブリがちゃんと消滅したということだろう。コレでまた暫く、時間が稼げそうだ。
眼鏡の元へ歩いて、床に転がったソレを拾い上げて。
…あーあー、割れちゃってる。
色の偽装とUVカット加工されてたお気に入りの眼鏡なのに…。
視力が悪いわけではないから問題は無いのだが…うん。
…俺の眼鏡。