006 ウラカタ
「年齢的に如何なの」
「さぁ、シラネ」
何がか。さて、何の話だろうか。
アニメ…と言うことにしておこう。うん。
とりあえず、なんとか難を逃れた俺と夕子さんだが、夕子さんのほうがどうやら魔力の使いすぎで、少し休まなければいけないようだった。
そこで咄嗟に身を投げ込んだのが、上へと上る階段のすぐ近くにある空き教室の一つだった。
「お疲れ様です」
「うむ」
…突っ込まない。絶対に、俺は、突っ込まない。
「とりあえず、もう暫くは此処に隠れておいても大丈夫みたいね」
「ですね」
あの威力の前に、流石の魔物も一度外へと引き上げていった。
――正直な話俺も逃げ出しかけていた。
「…御免。ちょっと、魔力が足りてないわ。少し休ませて貰うから、何かあったら起こしてね。銃声の一発でも響けば…起きると…思う、から……」
うつらうつら。
言葉半ばから、声に力が抜けて、良い追える頃には夕子さんの瞼は完全に落ちてしまって。
「……寝ちゃった」
然し、コレはチャンスだ。
あんまりしたくは無いが、しかしコレも自分の身に関わる事。
やらなければ、自分の身が危ないかもしれないし。
眼鏡をはずして胸ポケットへ仕舞う。
コレは、俺の赤い瞳を隠す為の物であると同時に、俺の魔術が勝手に発動した時の為のブレイカーでもあって。
眼鏡を外した途端に、世界に広がる自分の精神。
世界の法則を読み取り、そこから更なる高みへ至らんとする魂。
眼鏡という自己暗示を解かれ、今の俺は正真正銘の“魔術師”であって。
「……『――ignition』」
呪文と言うのは、基本的に自分の外側へと語りかける言葉のことだ。
だから、俺のこの言葉は呪文ではない。
ただ、自分の内側へ、これから魔術を使うという号令を掛けているだけ。
いわば、自己暗示に過ぎない。
そしてコレが、俺の鍵の単語。
パチン、とライターに灯が点るようなイメージ。
鍛錬された魔術回路が外側へと接続され、漸く俺は魔術師として本来の自分のスタイルへと戻る。
『虚ろと成りて在りぬ
範囲指定:起点から半径3メートル』
訥々と呪文を紡ぐ。
いや、それは呪文と呼ぶのもおこがましい、ただ言葉を紡いだだけの物。
だが、その効果はまさに絶大ともいえる。
俺を基点に広がった、線で構成された魔法陣。
立体的に浮び上がったその魔法陣は、俺の言葉通り、俺を基点に三メートル程度に広がって。
そうして、その空間を完全に隠蔽してしまう。
魔法陣はそのまま、溶ける様に消え去って。
これで、この魔法陣の内側は完全に外界から感知不可能になった。
この魔術が解けるのは、此方から意志を持って相手と接触した場合か、もしくは此方の行動による二次的事象を相手に感知された場合。…あとは、相手が特殊な目を持っているとか、そういう場合程度だ。
少なくとも、寝ている人間が不意に解いてしまうような容易い結界ではない。
「……………………………」
夕子さんの寝顔を確認して、渡された拳銃を腰から取り出す。
黒い鉄の回転弾倉式拳銃。教えられたとおりに弾倉を開いて、其処から更にカートリッジを取り出す。
込められた弾丸は何の変哲も無い.357マグナム弾頭弾。
…と言うわけでもなさそうだ。一応、魔力の通りをよくする無地の六芒星が刻まれている。
―解らないが、多分中の火薬も手を加えられているのかな? 霊薬あたりを混ぜ込むのがセオリーといえばセオリーなんだが。
「さて」
ちょっとだけ弾丸に細工をしていく。
弾丸を地面に置き、その飢えに手を翳して。
途端、弾丸の表面が熱を帯びたように灼熱し、そこに黒い文字が刻み込まれていく。
『力と叡智と意志を此処に』
…そう、弾丸に刻み込んでいく。
言葉そのものに意味は無いが、こうして俺が弾丸を加工する事で、弾丸と俺の間に縁をつくり、魔術的な側面での威力を、ほんの少しばかり上げることができる。
…まぁ、効果といってもそれこそおまじない程度の物でしかないが。
これをあと23個。……うへぁ…。