005 魔を穿つ弾丸
「作戦概要を説明するっ!!」
如何でも良いですが、このホラーハンターノリノリである。
「戦闘時間は現時刻2300から明朝…日が昇る0500頃までの連戦となる。第一目標は敵の掃討であるが、保持する火力での掃討は不可能に等しい。生き残ることを最優先に考えるのがベストだろう」
「は、質問宜しいでしょうかっ!」
「質問を許す。何かね」
やっぱりノリノリだ。
「作戦終了時刻が明朝…夜明け、と言うのには、何か理由あってのことなのでしょうか」
「うむ。基本的に、魔物と言うのは日の挿す所では顕現していられないのだ。陰陽の説明は此処では省くが、ほぼ間違いなく夜明けと共に連中はうせるだろう」
が、ソレは目的とする破魔ではなく、陽光による一時的な抑圧…言ってしまえば封印に近いのだと言う。
日光に抑えられて、此方に手を出すことは出来ないが、逆に此方から手を出すことすら不可能であるのだとか。
「とりあえずは、其処まで逃げ切れば此方の勝利だ」
やっぱりノリノリの夕子さん。
…頼むから、ルガーなんて振り回さないで。格好付けたいのは理解できるから。
「そんじゃ、如何します? 逃げるといっても限られた学園の敷地、やっぱり外へは出られないんですよね?」
「ええ。けど、幸いこの学園の敷地…中等部の校舎までをもカバーしてるの。いざとなれば、そちらへ逃げるのも一つの手よ」
あ、口調が戻った。
「うーん、でも……」
一度俺は、あの魔物に視認されてしまっている。
である以上、奴らは既に此方を感知している。潜んでも、躍起になって探そうとするのではないだろうか。
「ええ。いずれは戦闘になると思うわ」
「………」
なんと面倒な。
まぁ、そんなことを言っても仕方が無いので言わないが。
「…………!!」
不意に、窓ガラスががたがたと音を鳴らし、突然ぴたりと音を止めて。
ドンドンドンドンドンドン!!!
突然夕子さんが窓に向かって拳銃を抜き放つ。
アレってパイソン!?
放たれた弾丸は、保健室の窓ガラスを砕き、その向こうに潜む何かを粉砕して。
「鉄斎、逃げるわよっ!!」
「了解っ!!」
その粉砕した窓ガラスの向こう。
ウヨウヨと蔓延る魑魅魍魎の姿を視認して、逆らうまでも無く声を返して。
ドンドンドンドンドンドンッ!!!
「ウヒョオオオッ!!??」
間近で銃器なんぞ発砲されれば、そりゃ恐い。
思わず耳に手を当てながら、そんな声をもらして。
転がるように廊下に出て、立ち上がったとたんにその腕を夕子さんに引かれた。
「ちょっ、」
「いいから早くっ! まだ全然削れてないから、こんな狭い場所でやりあうと、確実に数で押されちゃうのよっ!!」
言って走り出す夕子さん。
ちらりと後ろを振り返れば、其処に見えるのは怒涛のように押し迫る黒いヘドロとその中を漂う眼球のような物。
…滅茶苦茶グロい。
「鞄持って先に階段へ走りなさいっ!!」
「え、夕子さんは…っ」
放り投げられたケースを受け取り、そのまま走りながら背後を見る。
其処には、両手に拳銃を握った夕子さんが仁王立ちしていて。
左手に見えるのは、さっきケースの中に入っていたマテバ回転式自動拳銃。
右手に見えるのは………って、まさかモーゼルミリタリー!?
『焔の精よ、我が右手に集いて威となり力を貸し与えよ。氷結の精よ、我が左手の威となりて力を貸し与えよ』
英語で、なにやら難しげな言葉が、スラスラと夕子さんの口から流れ出した。
ふふん、祖父はハーフだけど、その祖父の下に居た俺も一応英語は話せるのだ。というか、祖父が英語の訓練も必要じゃぞとかほざいて、二人っきりの時は常に英会話させられたのだから小学生には過酷としか言い様が無く。
因みにイギリス英語。
だから解るのだが、物凄く偉そうな命令形の言葉だ。
言葉と共に両腕の拳銃に光が宿る。
それで理解した。多分だが、精霊魔術と言う奴ではないだろうか。
世界を司る四象だか五行だかで、ソレを統べる精霊に力を借りる…とか。
光に引き寄せられるようにして現れた気配。
二つあるそれらは、互いに示された通り、右手の銃には焔を、左手の銃には凍りを。
「……………って、ちょっとマテやお前エエエエ!!!!」
右には猛る焔を纏うモーゼルの魔銃。左手には凍てつく風を纏うマテバの魔銃。
解かる奴にはわかってしまう、とても濃い人の思想。
「夕子さん、アンタ、そりゃ駄目じゃないのか!?」
「わかるってことはアンタも駄目なんじゃないの!! いいから走りなさいって!!」
何故にその文化を知っているのか米国在住。…いや、その手の事象は世を渡るのか。
まぁそれは如何でも良い。言いながら夕子さんはヘドロに向かって左手の銃を連射して。
氷の魔銃は、そのヘドロを瞬く間に凍らせてしまう。が、そのヘドロも量が多い。凍らせても次から次へと押し寄せてくるヘドロは、まさに引くこと知らず。
『喰らうか、大玉っ!!』
「や、だから……っ!!」
夕子さんが英語で言葉をつむぐ。それは、力の込められた言霊で。
突っ込みを入れようにも、その猛攻の様子に中々近寄ることすら出来ない。
――と、その右手の焔の魔銃が火を噴いた。
輝く真紅の焔が、凍りつき、それでも押し寄せてくるヘドロに突き刺さり…。
ゴッ、という爆音。
咄嗟に伏せたというのに、それでも視界が白く染まるほどの光量。
「邪悪を掻き消すは、叫び上げる兇暴な閃光……ねぇ……」
ついさっきまで廊下に溢れていた筈のヘドロは、それこそ跡形も無く消滅していて。
残る物といえば、生々しく廊下に染み付いた黒い焦げ痕くらいで。
…畜生、滅茶苦茶格好良いじゃねーか。
繋ぎでネタの回。
夕子さんが使った拳銃はモーゼルとマテバ。
……ええ、その通り。某荒唐無稽スーパーロボットADVですよ。
ついカッとなってやった。後悔はしていない。
……多分。