004 set up
夕子さんは俺を連れ、その部屋…保健室へと足を運んだ。
なんでも、そこに装備の予備を置いておいたのだとか。
「うわ、実銃ですか」
「さっきから使ってるじゃない」
そのトランクケースからゴロゴロと出てきたのは、数丁もあろうかという拳銃の山。
リボルバーもあればオートマチックもある。
「一つ、護身用に貸してあげる」
本当は素人に拳銃なんて持たせるべきではないんだけれどもね、と夕子さん。
「良いんですか?」
「私も、確実にアンタを守りきる自信なんて無いしね。でも、あくまでも護身用よ?」
言われて頷く。誰が好き好んであんな怪獣と戦うかと。
広げられた拳銃たちを眺めていく。
その中には、俺のような一般人でも知っているような拳銃も転がっていて。
「おぉ、Mk.23だ」
「ソーコムピストル? 確かに精度は良いけど、でかいし重いよ?」
ヘビさんとかが使ってるあの銃だ。ハリアーは撃ち落せない。
「む…って、えええ、これはっ!」
「マテバ…正直、趣味でしかないよね。オススメはしないかな」
回転式自動拳銃。あんまりにも趣味過ぎて、逆に有名になった奴だ。
「これは…ベレッタ…?」
「M93Rだから、その後継機。使えることは使えるけど、口径からして魔物戦にはあんまりむいてないのよね」
指しては否定というか、そんなやり取りが続く。
そうして、数分。もう何か色々とめんどくさくなって、適当に一丁選んでそれを指差した。
「それじゃ、コレでお願いします」
「それ? それは…」
「いえ、説明を聞いてもキリが無いので。コレでお願いします」
言って、薀蓄を垂れ流し損ねて残念そうにしている夕子さんを無視してその拳銃を手に取る。
全体的に黒く、その割懐に入れてもかさ張らなさそうな大きさ。
「M686の4インチモデル。口径は.357マグと38スペシャル。まぁ、特にコレといった欠点も無く、コレといった特徴も無い地味ーなリボルバーね」
うわぁ、何かその特徴ともいえない特徴、俺に似てるような…。
言って、夕子さんは俺の手からその拳銃を取ると、カチャカチャと弄って、その様子を俺に見せてくれた。
「スウィングアウト式の六連装。此処をこうすると横から出るから…ね?」
「なるほど…」
言って渡された拳銃を、改めて同じ動作を繰り返す。
…うん、問題もなさそうだ。
「OK?」
「おっけー。なんとかなりそうです」
言いながら、拳銃の予備の弾丸を受け取る。
渡されたのは、長い弾丸が6発と短い弾丸が12発。
弾丸をポケットへ収め、拳銃は腰のベルトに挟んでおく。とりあえず、落ちたりはしないだろうからコレで良いだろう。
「……………………………」
「……ん? 如何かしました?」
「―――いえ、なんでもないんだけどね」
言って、なにやら含みのある視線で此方を見てくる夕子さん。
なんだか解らないが、とりあえず武器も手に入ったし、次はいよいよ現状を説明してもらうわけなんだけれども。
問いかけると、夕子さんは「そういえば話してなかったっけ」と。オイ。
「お仕事?」
「そ、お仕事。私みたいなホラーハンターって、依頼を受けてお化け退治する事が多いのよ」
曰く、ランク分けのような事は国(国家公認なのか…)単位でやっているのだが、その仕事の振り分けとなると、どうしても国では捌ききれない。
そういう振り分けとなると、どうしても民間レベルまで落とすなどしなければならないのだとか。
「私、アメリカに住んでて、久しぶりに日本に帰ってきたんだけどさ。そしたら突然此処の管理代行人に瘴気の吹き溜まりが〜って泣きつかれちゃって」
泣きつくなよ。
「どうも、此処の前の管理人、よっぽど高位の術者だったのか、一体如何やって押さえ込んでいたのかしらって程の瘴気なのよね。それが噴出して、危うくのところで結界に閉じ込めたんだけど、今度はソレが結界の中で実体化しちゃって」
「つまりは、それがさっきの怪物だ…と?」
瘴気…というのは、見たことがある。
要するに、黒っぽい霧だ。人体に有害だから、発見次第消滅させるように、とじいちゃんには習っていた。
…けど、アレがあんな怪物に成るだなんていうのは初めて聞いた。
「でも、なんでその結界の中に?」
「んー、封印とかでも良かったんだけどね、けどソレって、封印の中で魔物が朽ちるまでかなりの時間がかかるし、もし途中で封印が弾けたりしたら、飢えた魔物が解き放たれちゃうし、結局は問題を先送りにしてるだけなのよ。だから、私の手でちゃんと始末をつけようと思って」
ふーん、と頷きつつ。
「因みに、俺は此処から出られるの?」
「私が魔物を倒し終えたらね。途中では無理。魔物だって逃げられない結界から個人を逃すなんて、練達の魔術師でもないと」
「つまり、俺は暫く危険に晒されっぱなし、と」
うえー、と息を掃く俺に、夕子さんはあははと苦笑を返して。
「それは…御免ね? まさか一般人が結界に紛れ込むなんて私も思ってなかったから」
云々。ちょっと落ち込む夕子さん。
……いやいや、落ち込まれるのは不味いだろう。
「あーいや、ほら、なんといいますか。成っちゃったことは仕方ないですし、まぁなんというか、勝算はあるんだろ?」
「…封じた筈の正気の量が予想以上に多くて…」
―――え、いや、ええ? 勝算薄いの?
ギョッとして視線を移すと、…あ、目をそらされた。
「…あー、何? 生き残るには努力しないと駄目っぽい?」
頷く夕子さん。
「……………………………………………………」
「…………………………………………………」
なんとも痛い沈黙が流れて。
残念ながら、俺はムードメイカーではないのでなんともしがたく。
「ま、まぁ、成るようになるっしょ。オバケ退治、手伝えるだけは手伝いますんで」
言って、場を流すくらいしか出来ないのだった。
俺、情けねぇ…。