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Night Magius  作者: 青葉 夜
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013 GUN = KATA



借り受けた二丁のオートマチック。HK45。北米向けに.45ACP弾しか扱っていないというマッチョな思想の鉄砲だ。渋すぎる。


動作チェックは既に済ませた。後は、コレで挑むだけ。

建物の陰から出る。飛び寄る糸を迎撃しつつ、拳銃を水平に構えて。


「さぁ、相手してやる。ウェスタンは好きかい?」


ダダンダダンダダンダダンダダンダダン!!!!!!


濃い弾幕が蜘蛛に襲い掛かる。

弾丸は糸に絡め取られるが、絡め取られた弾丸に拘束の魔術は掛かっていない。

絡め取られた弾丸に弾丸が衝突し、既にベクトルを失った弾丸に新たなベクトルが掛けられて。


押し出された弾丸は、蜘蛛の糸結界を突き破り、その内側で安穏としていた蜘蛛の額に突き刺さった。


「キシェアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!???????」


絶叫。同時に、蜘蛛の複眼が剣呑な色を浮かべた。

真っ赤な警戒色。…うわぉ、怒ってる。


蜘蛛は尻を持ち上げるようにして此方を威嚇してきた。

ドンドンドンッ!!

更に撃ち放つ弾丸。糸に絡め取られた弾丸は既にかなりの数になっている。玉突きのように押し出された弾丸は、幾つも幾つも蜘蛛に直撃し。

硬い毛にこそ弾かれるが、それらは口や目元、関節なんて柔らかい所にも突き立ち、着実に蜘蛛へとダメージを与えていった。


「さて、そろそろだと思うんだけど」


呟いた途端だった。

予想通り、蜘蛛は「ギシェアアアアアアッ!!」と咆哮を上げ、その糸結界を自ら解いて此方へと突進を開始した。

糸の内から地道に攻撃するより、直接潰したほうが早いという判断。


思わずクスリと笑む。

…間違っては居ないのだけれどもね。


潰れかけた階段口の上、底に設置された給水等の更に上。

其処に、静かに集う魔力の波が見えていた。


『集え集え、炎の精よ。その釜に火をくべ、静かに苛烈と燃えん』


こっそりと。

本当にこっそりと、屋上の床に、静かに魔法陣が刻まれていく。

それは、俺と蜘蛛の一直線上更に向こうに、小さく刻みだされていた。


「………ふふん」


いいね、楽しくなって来た。

HK45を乱れ撃ちながら、しかしその狙いは正確に、蜘蛛に着実にダメージを与えていく。

魔の抑制。それは、霊的直感や魔的な肉体強化諸々を封じていたという事。

その封が解かれた今、かなり浮かれている事を自覚しつつも、それを止めようと言う気になれないでいた。


「………っくくく」


放たれる針のような糸を首を曲げてかわし、内側に滑り込むことで蜘蛛の足の一撃を回避して。更に、地面に突きたった蜘蛛の足。その関節の甲殻の薄い部分に弾丸を叩き込む。


「ギイイイイイエエエエエエエアアアアア!!!!!?????」

「まだまだぁ!!」


拳銃を振って、投げるように弾倉を捨てる。

胸ポケットから取り出した代えの弾倉を叩き込み、更に引き金を引く。

…本当はコッキングをしなければならないのだが、弾丸を一発薬室に残しておく事でスライドの手間を省くという小技だ。


ドンドンドンドドドドン!!


「ギエアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!??????」


眉間。無防備に示され、半ば砕けかけた其処に弾丸をコレでもかと撃ち込む。

只でさえ目の半分以上を砕かれていた蜘蛛だったが、これですべての瞳が潰された事だろう。

絶叫を上げて錯乱する蜘蛛。

またとない絶好のチャンスだった。


「夕子さん、今っ!!」


『其は果てへと繋ぐ永劫の炎!!』


術式が完成する。歌うように放たれたその言葉は、力を持って世界に新たな法則を書き上げていく。

高密度の字祷子が蜘蛛を中心に顕現する。光り輝く文字。それはこの世にあらざる幻想的な光景であって、それこそが魔術と言うこの世のもう一つの法則だった。


ビシッ…!!


「ギエアアアアア!!??」


拘束術式。術式の中に編みこまれたソレが、大蜘蛛の身体を確りと固定してしまう。

高まる魔力、字祷子に危機感を覚えたのだろうが、しかし時既に遅し。もう術式は完成しているのだ。


ついで、蜘蛛は結界に覆われる。

内側と外側を非物理的に遮断してしまう単方向結界。

…そう、あくまで内側の存在を封じる為の“単方向”の結界なのだ。

外から内側へと流れ込む存在。

それは、この世界に満ちる熱を司る群にして一つ。精霊と呼ばれる不可視の威力。


『燃えてしまえ!!』


その言葉で、結界の内側が灼熱した。


悲鳴すらも燃やし尽くされるその結界。

大犬を燃やした時と同じ術式だが、今回のは時間を掛けて威力を増した強化版だ。

その威力は強力無比。煉獄のようなその空間、留まる事は俺でも難しいだろう。


シュカカカカカカカカカ………………………………。


空間が痙攣するような、歯車の噛み合いが狂ったような、そんなずれた音が響いた。


「……流石に、コレで私は打ち止めなんだけど…」


この炎。必殺は間違いなしだろう。

それは俺も同意していて、だからこそその瞬間、俺の意識は一瞬であるが、完全に油断をしてしまっていた。


―――ドンッ!!


「――なっ!?」


金格子にたたきつけられ、埋もれるように沈んだ夕子と、その向かい、陽炎の中からギシギシと音を立てて歩み出るその巨大な影。

驚かない筈が無かった。


「夕子さんっ!?」




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