表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Night Magius  作者: 青葉 夜
13/18

012 攻勢開始



「…うわ」


屋上。其処は凄い有様になっていた。

所々に白い糸が張り巡らされ、天井の無い筈の空間は、しかし白い天井に覆われた異界へと変貌しており。

その風景の何処を見ても、日常の風景は見出せず。


「言いたい事は解るけど、とりあえずは処理が先!」


ドアの影に隠れるような体勢で、しかしドアではなく、ドアから一直線上に銃口を向けて。


バガンッ! そんな爆音と共に、階段で入り口の扉…どころか、その枠ごと吹き飛んだ。


「キシェアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


ドンドンパンズパンシュババババババ!!!!

弾丸やらミサイルやらが雨霰と放たれる。


激しい弾幕に、流石の魔物もひとたまり無いはず。そう判断しかけて、一気に緊張が高まる。

膨大な魔力のプレッシャー。

殺意の織り交ぜられたその気配に、俺の魔を扱うものとしての制限が強制的に解除された。


「……っ!?」


クリアになる視界。煙の向こう側を霊的側面から観測する。

そこにいるのは、つい先ほどと段違いの存在感を顕す大蜘蛛のバケモノ。

空間の情報量…字祷子濃度が急上昇していた。空間を侵す魔力が段違いに高まっていた。不味い、不味い不味い不味い!!


「…っ、夕子さん!!」


気配を感じて、声を上げながらその場を飛びのく。

途端、寸前まで立っていた地面に突き立つ…これは糸か?

術式で編まれた糸。底に付与されているのは捕縛の式か。今の状態なら解除できない事は無いが、しかしその隙はこと闘争においては致命傷となりかねない。


弾倉から空薬莢を抜き捨て、新たな弾丸を装填。

蜘蛛の居るであろう方向に向かって弾丸を撃ちまくる。

放たれる銃声に、別の銃声が重なる。煙の向こうに見えるマズルフラッシュ。夕子さんの援護射撃だろう。

……が。


バキンッ!!


「なっ!?」

「嘘っ!?」


銃弾は、大蜘蛛にダメージを与えるどころか、大蜘蛛に到達する事さえできなかった。

鈍い音を立てて弾かれた弾丸が足元へ転がってきていて。


「そうか、糸は礼装の役割を…」


“拘束”の術式が描かれていたはずの蜘蛛の糸。しかし、大蜘蛛の周りに張り巡らされている“巣”を、目を凝らしてよく見ると、底に張り巡らされている術式は“防護”の術式だった。


「くっ、このボス…!!」


夕子さんの声が聞こえる。

なるほど、コイツ、魔物の癖に物凄く小賢しい。

あの大犬が肉弾戦馬鹿だとすれば、コイツは魔術による後衛、兼搦め手を使ってきた。


「ちっ、夕子さんっ!!」


合図で夕子さんがカンプピストルを撃ち放つ。

カンプピストルと言うのはつまり、ハンドガンタイプのミサイル発射機の事だ。

ロケット燃料で飛ぶミサイルは、着弾時に余った燃料をも使って大爆発を起こす。


「キシャアアアアアアアアア!!!!!!!!」


蜘蛛が吼えた。

蜘蛛と言うのは吼える物なのか、という疑問はさておき、その途端撒き散らされたのは相も変らぬ蜘蛛の糸。

今度の糸は“拘束”の術式が掛かっている。

空を蜘蛛に向かって直進していたミサイルは、しかしその蜘蛛の糸に絡め取られ、次第に威力を殺され、終いに糸にがっちりと包まれてしまった。


「…………………なんてこと」

「知性があるっぽいっすね。…こりゃ、面倒だ」


言いつつ、蜘蛛の糸の弾幕から逃れ、夕子さんと合流しつつ、屋上の階段口の裏側へ回る。

銃弾の牽制が功を奏したのか、蜘蛛のほうも此方を警戒して中々近づいて来ようとはしなかった。


「……ぷはぁ、えげつない!!」

「何よアレ!! 私より巧に魔術使ってない!?」


憤慨する夕子さん。…っていうか、それは魔術師として如何なのよ?


「…私は魔術師って言うより、魔術使いなの! 魔術はあくまで魔物狩りの手段の一つ。別に研究してたりするわけじゃないの」


考えが顔に出ていたのか、はてまた同じ事を考えていたのか。

夕子さんはそういいつつ、鞄から新しい銃を幾つか取り出し、それを懐に装備していく。


「……夕子さん、拳銃をもう一丁貸してもらえますかね」

「良いけど、何故?」

「俺が、囮を勤めましょう」


言った途端夕子さんの眉が釣りあがる。


「…あのね、協力してくれている事には感謝してるけど、あくまで君は協力。素人に命掛けてもらうほど零落れては…」

「俺にとっては生き残る事が最優先。生き残るには、アレを潰さなきゃ駄目でしょうが」


言いつつ、夕子さんから拳銃を受け取る。

渡された拳銃は二丁。両方とも自動拳銃で、「弾の交換の手間が省ける」と言いながら。


「…まぁ、それを理解しているなら大丈夫だとは思うけど。でも、囮になって一体如何するつもり? 何か策でもあるの?」

「勿論」


言って、作戦を説明する。

俺から見てもやけくそとしか思えない作戦。が、正直通れば必勝の作戦。


「……確かに、勝てるかもしれないけれど……」

「となれば実践あるのみ。為せば成るっていうのは、為さなきゃ成らないって意味なんですよ!」


言いつつ、スライドを引いて弾薬をチェンバーに送り込む。


「…解ったわ。鉄斎に任せる」

「受け賜りますよ。任せてください」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ