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ブルーライトニング  作者: Toy
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ブルーライトニング 第8章 ソレイユの真意

サムは上原からアンドロイドの思考プログラムのことを聞かされる。強力な故に人間に従属的に作られているマルス。人間に従属的でないゆえに、人間に敵意を持ってしまったニーナ。人間の仕打ちを恨むことなく、人間を守ろうとするソレイユの真意。サムはアンドロイドにとって玲子がいかに大きな存在かを知る。


 朝一番、サムはマルスの検査を上原に頼んだ。実機試験の前に、マルスの状態が完全か確認しておきたかったのだ。突然の頼みではあったが、上原は快く応じた。上原は駆動部に異常な温度上昇がないか、また、人工頭脳の反応もチェックした。台のうえに横たわるマルスを探査装置が調べ上げていく。サムは上原の邪魔をしないように、無言のまま結果を待つ。ピッと小さな電子音が検査完了を告げ、上原はサムに笑顔を向けた。

「異常なし。人工頭脳も安定しているし、今日の試験は全力でやっても大丈夫よ。」

「そうですか、それは良かった。」

「試作型はとかく不安定になりやすいものだけど、これだけ安定しているのは、サムの扱いが上手だからよ。たいしたものだわ。」

「それほどでもないですよ。正直言うと、マルスはとまどうことも多いです。」とまで言って、サムはマルスが二人の話を聞きながら上体を起こしていることに気がついた。検査が終わったので、次の指示を待っているのだ。サムがマルスに命じる。

「マルス、先に行って訓練の準備をしておいてくれ。ソレイユとノーマが準備しているから、場所はわかるね?」

「はーい」と元気よく返事をして、マルスは身軽に台からとびおりる。昨日のような危なっかしさは全くない。マルスが部屋を出て行くと、サムは話を続けた。

「正直どうしたものかわからなくなります。ノーマは毅然としたところがあるのに、マルスはべったりと私に甘えてくるのです・・・ 別に任務にも支障は有りませんし、オフとのときに甘えてこられようとかまわないのですが・・・ しかし、ノーマとの違いが気になります。」

 上原は大きくうなずく。やはり、サムはマルスのマスターにふさわしいと感じたのだ。こうしたロボットの個性の違いを許容できる人間はほとんどいない。

「マルスは、人間への依存を強めにしてあるんです。」

「依存?」

「そう、マルスは従来のアンドロイドと比べると単体でも強力なうえ、サブロボットシステムを使って、大規模なサブロボットの部隊を直接コントロールすることができる。マルスが人間に反抗した場合、大惨事は確実ですよ。ですから、ノーマ以上に人間への依存を強めて、反抗しないようにしているんです。」

「依存を強めることが、人間への反抗を防ぐことにつながるのですか?」

「たとえば、あなたはノーマをおてんばだと言って笑ってますけど、ノーマはマルスほどあなたへの依存心が高くないからともいえるの。だから、ノーマがあなたの言うことを素直に聞かないときがあるわね。もう少しおしとやかにして欲しいとあなたが命令しても、ノーマが言うことを聞かないといつもいってるじゃないですか。」と、上原は笑いながら言う。そういえば、昨日もそんなことがあったとサムは思い出した。

「しかし、そんなことは反抗的とかそういうレベルの話ではないと思いますが・・・」

「ロボットにとっては程度の違いに過ぎないの。サムは反抗的だとは思わなくても、ユーザーの中には、思い通りにならないと気に入らんという人もいることも事実なのよ。」

「そんなもんですかねえ」と、サムは懐疑的だ。任務の時はノーマはちゃんと指示に従っている。だから、普段は茶目っ気がある方がいい。従順で甘えんぼなノーマなど、違和感が有りすぎる。

「ノーマくらいで十分だと思いますがね・・・」

「ノーマが人間に反抗しても、たかが知れてる。だけど、マルスのような強力なロボットは、人間への反抗を許してはならないのよ。人間に依存しないロボットは、人間に敵意を抱きやすい。たとえばニーナのようにね。」

 海軍の軍人がニーナを「氷の人形」と呼んでいることはサムも知っている。それはシティの住民に対し、冷徹な態度を崩さないからだ。ニーナが人前にでることはない。人目に触れれば、反感を買うことは間違いないからだ。

「ニーナは初期のモデルで、人に依存することはほとんどない。だから、ソレイユがシティから追放されたことで、人間に敵意を持ってしまった。それにくらべて、ノーマは人間に多少なりとも依存するように調整したから、人間に敵意までは持ってないでしょ?」

 サムはうなずきつつも、一つの事実に気がつく。

「たしかに・・・ だったら、ソレイユはどうなるのですか? ソレイユもスーパーアンドロイドの最初の一人で、初期モデルの一つでしょう。しかも、シティから追放されて、ひどい仕打ちをうけた本人じゃないですか。だけど、人間に対して敵意を持っているという感じがしませんが・・・・」

「そう、それについては、単なる偶然。ソレイユは一時的に、学校で不特定多数の人間と接しているから、人間にはいろいろいると経験的に知っているの。それに、なんと言っても、玲子と親交があるということが大きいわね。それがなければ、ソレイユだって人間を敵視していたはずよ。ニーナと同じ思考プログラムですからね。」

「そういえば、以前、玲子が私に言ったことがあります。ひどい仕打ちをしたシティを、ソレイユはなぜ守るのかと。何のことはない、一番は玲子のためなんですか?」

 サムはソレイユがなぜシティを守るのかと考えたことはなかった。玲子に問われたときでさえ、それがソレイユの義務だからと答えたくらいだ。

「ええ、ソレイユの心理分析をすれば明らかです。玲子が居住するシティを守ることがソレイユの第一命題なんです。つまり、シティは玲子が存在するからこそ、ついでに守ってもらっていると考えればいい。それだけでなく、玲子がテロによる犠牲者が出ることを、嫌っているということもあって、ソレイユはプレストシティ周辺のテロ攻撃を、ことごとくつぶすんです。ニーナについてはソレイユの意志を尊重しているだけ。ニーナにとっては人間がどうなろうと、どうでもいいの。でも、ソレイユの願いは尊重するんです。」

 ある意味、恐ろしい事実をさらりと言ってのける上原こそ、ニーナの人格を作り上げた人間なのだとサムは改めて感じた。そして、今まで胸の中でもやもやしていたものが一気に氷解する。

「スコット司令や川崎中将が玲子の事を特別視する理由がわかった気がします。私は玲子の身近な人間の一人だったのに、そんなことにも気づいていなかったんですね・・・・」

2020年5月4日加筆

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