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ブルーライトニング  作者: Toy
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ブルーライトニング 第5章 出会い

マルスは玲子に出会う。玲子はマルスに妹の姿を重ねていた。


登場人物

 マルス:ダグラスインダストリーが開発した軍用アンドロイド。高い戦闘能力を誇るが、可愛い容姿をした男の子である。


 敷島玲子しきしまれいこ プレストシティに住む16歳の少女。両親と妹をテロにより亡くしている。妹を亡くしたためか、年下の子供が好きである。


 サム・ダグラス大佐:プレスト海軍に所属する戦闘機パイロット。プレスト海軍のロボット部隊を指揮している。また、ダグラスインダストリーの経営ファミリーの一員でもあるため、新型ロボット(ダグラス製が多い)のテストに関わることが多い。

 マルスの最初の試験は、「ドルフィン」の操縦技量を調べるもので、シミュレータによって行われた。だが、マルスは内蔵する加速度センサーで機動を制御するシステムを持つので、風景が動くだけで加速度を再現できない操縦訓練シミュレータでは、十分な結果が得られなかった。結局、実機をつかって評価することになり、試験は終了した。ノーマは明日の手はずを整えるためにサムの元を離れたので、サムはマルスと二人で休憩することにした。手近な休憩スペースに立ち寄ると、偶然、ぼんやりと座り込んでいる玲子と出くわした。

「玲子か、久しぶりだね。ソレイユに会いに来てたのか?」とサムは玲子に声をかける。玲子は我に返ったようにサムを見た。

「こんにちは、サム。ソレイユとはさっきまで一緒にいたんですけど、スクランブル待機の時間になって、ソレイユが行ってしまって・・・・」

「今日は一人か? テニスの子は一緒じゃないのか?」

「ええ、今日はテニス部の練習があるからって」

「それじゃあ、今日は久しぶりに格闘術の訓練をやったのか?」

「それも・・・ ソレイユが私のこと心配して無理しないほうがいいって」

 サムは玲子の様子が気になった。何となくいつもと違う・・・・ 無理ないかとサムは思った。

「あのね、サム・・・・」

 ためらいがちの玲子の問いかけに、サムは「なんだ?」と努めて気さくに応じる。

「サムがアルトシティに行くと、ソレイユに聞いたの」

 玲子が自分のことを心配していると察して、サムは努めて明るく答えた。

「ああ、そのことか。なにをしに行くとかも聞いたんだね」

「ええ・・・・」

「ソレイユも軍事作戦をしゃべってしまうなんて、困った奴だな」とサムは笑いながら言った。

「もちろん、私は誰にも言わないわ。だけど、サムも無理しないで」

「無理はしないさ。俺のボスは頭がいい。ちゃんと勝てるように作戦は立ててある」

「ほんとに?」

「こんなことで、嘘は言わない。心配しなくていいよ」

 サムは重く沈んだ雰囲気に我慢できなくなった。サムは傍らのマルスを抱えると、玲子の膝の上に放り上げる。

「きゃっ」と、マルスが叫び声をあげ、玲子はあわててマルスを抱える。

「ちょっと、サム、なんてことをするの!」と、玲子が声をあげる。マルスはおびえたウサギのように玲子の腕の中で硬直していた。

「今度、俺の家に来る子だよ。かわいいだろう」

 玲子が子供好きなのは、親しいものは誰でも知っている。サムは少しでも玲子の気が紛れたらと考えたのだが、その目論見は成功したようだ。

「この子が、びっくりしてるじゃない」と言いながら、玲子はマルスをしっかりと抱いている。

「二人とも仲のいい姉弟みたいだぞ」とサムはからかった。

「サムったら、もう・・・・」と、玲子の顔が赤くなる。そして、抱いているマルスを見て話しかけた。

「大丈夫?」

 玲子に話しかけられて、初めてマルスは玲子の顔をまっすぐ見た。玲子はマルスのデータに登録されていない未知の人物なので、マルスにはどう反応していいかわからない。玲子がマルスにきっかけを与えてくれた。

「私は敷島玲子と言うの。あなたのお名前を教えてもらえる?」

「マルスと言います」

「そう、マルスというのね、かわいい名前ね」

「ありがとうございます」

 玲子はうれしそうに笑い、マルスをぎゅっと抱きしめる。そして、ほんの少し、涙ぐむ。サムは急に不安になった。

「どうしたんだ?」と、サムが聞くと、玲子は涙をぬぐいながら言った。 

「なんでもないの。ちょっと由美子のことを思い出しただけ・・・・」

 玲子の死んだ妹の名を聞いて、サムは焦った。が

「由美子は甘えん坊だったの。よく、抱っこをせがんできたわ・・・」と、玲子が幸せそうにほほえんだので、サムは少し安堵した。抱かれていたマルスは、そっと手を伸ばし、玲子のほほの涙に触れる。マルスは少しませた口調で言った。

「大丈夫ですか?」

「ありがとう、大丈夫よ。心配かけてごめんね」と、玲子はマルスの手を握る。マルスはどうしたらいいかよくわからないが、とにかく、玲子のすることを受け入れることにした。そのほうが玲子が喜ぶと判断したからだ。ロボットにとって、それが判断の基準でもある。玲子はマルスを抱いたまま、しばらく動こうとはしなかった。サムもそれを妨げはしない。


 爆撃で倒壊した住宅に押しつぶされ、玲子の家族は死に、玲子はたった一人、がれきの中から助け出された。偶然、大きな部材が覆い被さったので玲子は助かったのだ。このとき、由美子は弱々しく両親や玲子のことを呼び続けていたと、サムは玲子から聞いている。玲子は由美子のそばにいてやれなかったことを悔やんでいるのだろう。だが、それは玲子の責任ではない・・・・ 割り切れるものではないだろうが・・・ 


 しばらくたってから、玲子はマルスを膝から下ろし、マルスの褐色の髪を愛おしそうに撫でながら言った。

「ありがとう。マルスのおかげで、由美子のことを思い出せた気がする」

「由美子さんと、ぼくは似ているの?」

「年格好がね、似ているの。由美子が死んだのは9歳の時だったから・・・」

「少しは、気が紛れたか?」と、サムが聞く。何となく吹っ切れたような玲子をみて、大丈夫だとは思ったが、やはり不安だった。

「大丈夫、サムには心配をかけてばかりね。ごめんね。あの、マルスを抱っこできて、うれしかったわ」と、玲子は笑みを浮かべて言った。

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