ブルーライトニング 第41章 保護モード起動!
警察の事情徴収を受ける玲子達。アリス・ダグラスは玲子のハンディで状況をモニターすることをコンピュータ「ニック」に命じる。アリスは警察が玲子達に危害を加えかねないと危惧していたのである。
ダグラスインダストリーの経営監視委員会の議長アリス・ダグラスは顧問弁護士のフィリップと話していた。判決が迫っていたソレイユの解体を訴えている裁判についての打ち合わせだった。
「まあ、最悪の事態にはならないでしょう。政府はソレイユに対する仕打ちに対し、謝罪の意を示していますし、原告の主張は共感を呼ばないでしょう。まあ、原告の訴えは却下が確実ですね。もともと筋悪の裁判でしたからな。一審の判決がちょっとおかしかったですがね」
「いろいろとご苦労をおかけしました。ずいぶん嫌がらせも受けたでしょう」
「まあ、あのピースメーカーとか言う集団にはね。でも、こちらも本職です。法的手続きのとりましたし、貸与していただいているセキュリティシステムもずいぶん役立ちました。あれでは、嫌がらせをするほうがたまらんですな」
電話応答システムと、護衛ロボットを含むシステムは、ダグラスインダストリーからフィリップ弁護士に提供されていた。
アリスのハンディに着信があった。アリスはハンディを手に取る。
「おばさん、玲子です」
「まあ、玲子、どうしたの?」
こんな時間に玲子が電話をかけてくるなんて珍しい。
「いま、電話いいですか」
「いいですとも。何かあったの?」
「ちょっと、暴漢におそわれて」
「まあ!」
「大丈夫です、私たちけがをしてません。マルスもいましたし」
「そう、それはよかった。まあ、マルスがいれば、玲子に危害を加えられる人がいるとは思えないわね」
(マルスの前で玲子に危害を加えようものなら、ただではすまないだろう)とアリスは思っていた。
「これから、中央警察署に行ってきます。だから、ちょっとお宅におじゃまするのが遅れるかも・・・」
「いいのよ、私が迎えに行くわ、警察署で待たせてもらいなさい。それから、いいこと、何かあったら、私にすぐ連絡するのよ」
「はい」
アリスはハンディを切り、しばし考えると、ダグラスインダストリーの中央制御コンピューター「ニック」をハンディで呼び出す。
「ニック、アリス・ダグラスです」
「はい、アリス様」
「私の被保護者である敷島玲子のハンディだけど、保護モードを起動させなさい。そして音声、位置等をモニターしなさい。変わったことがあれば、私に連絡すること」
「承知しました。しかし、すでに保護モードは玲子様が起動しています。今のところ、脅威は感じられません。ですが、ご命令どおり、今後は最優先で監視します」
「そう、お願い」
ハンディを切ったアリスは難しい顔をしていた。フィリップは
「どうかなさいましたか」
「いえ、以前、玲子が暴漢におそわれたとき、警察が書類を偽造して玲子に署名させて、事件をなかったことにしてるのですよ」
「そういえば、あなたに聞かされたことがありますな、また、警察も無茶なことをしたものです。依頼があれば私が弾劾請求をしたのに・・・」
「まあ、ことを荒立てることを、あの子の保護者が望まなかったですから・・・ 玲子も襲撃者にけがを負わせてましたからね」
「そんなの、正当防衛でしょう」
「そこにつけこんで、警察が玲子に署名させてうやむやにしたんです。まあ、あの子も14歳でしたからね、刑事に脅かされれば無理ないです」
「今度もそれを警察がすると?」
「ええ、警察は信用できません」
ドアのノックに「入れ」と高野は声をあげる。海軍長官室に入ってきたのは西郷だった。
「君か・・・」
「先ほど、お嬢様が暴漢に襲われましたが、護衛のルーナとマルスが襲撃者を抑え、ご無事です」
ぴくっと高野の眉がつり上がった。だが努めて冷静に答えた
「そうか・・・」
「すぐにお嬢様をお迎えに行ったほうがよろしいかと思います。できれば、アリス・ダグラスさんを伴って」
「なぜ、ダグラスさんを・・・」
「敷島博士のお嬢さんも事件に巻き込まれました。いま、お嬢さん達は事情聴取のため中央警察署に向かっています」
これは、ルーナとマルスからもたらされた情報だった。微量の怒気が高野の声に混じる。
「まさか、娘のみならず、玲子さんを巻き込んだのではあるまいな」
「いえ、意図しておりません」
意図はせずとも、予想はしていただろう。そうでなければアリス・ダグラスの話はすぐにはでないはずだと、高野は高ぶる感情を抑えるのに少し努力を要した。高野は私用で早退すると別室の部下に告げ、帰り支度を始めながら、西郷に言った。
「アリス・ダグラスさんとも話をつけて、一緒に行くことにする」
「はい」
「まあ、娘は無事だった。マルスだけでなく、ルーナをつけてくれたことには感謝する。」
「とんでもありません。こちらこそ、作戦のため、お嬢様を危険な目に遭わせ、申し訳ありませんでした」
警察では玲子と恵、マルスとルーナとユリは一緒に事情聴取を受けていた。
「どうもありがとう。また、聞きたいことがあれば、こちらから連絡します」
玲子は少し安堵した。念のため、ハンディの保護モードを起動していたが、無駄だったようだ。
「部下にホールまで送らせます。そこで、お迎えを待つといいですよ。おい、お嬢さん達を送って行きなさい」
年輩の刑事は若手に玲子達を案内するように指示する。若手の刑事は玲子達を連れ出した。そこへ別の私服刑事が歩み寄ってくる。
「ちょっと、こっちでも事情を聞きたいから、そのお嬢さん達、いいかな?」
「ああ、君たち、もうしばらくつきあってもらってもいいかい?」
玲子達がうなずいたので、若手の刑事は
「じゃあ、終わったらホールにご案内してくださいよ」
「わかった。じゃあ、お嬢さん達、こっちへ来てくれないか」
しばらく廊下を歩いたところで別の刑事達がやってきた。
「ロボットはこっちへ来い」とルーナ達を連れて行く。
「ユリ!」
玲子はそっと恵をたしなめた。
「大丈夫、心配しないで」
玲子はハンディの保護モードの段階をあげた。これは保護者として登録しているアリスにも緊急情報が伝わるはずだった。玲子が持つダグラス社特性のハンディが持つ特殊機能で、ダグラスインダストリーの制御コンピュータが所有者をモニターするのである。
刑事達はルーナやマルス、ユリを連れて行き、残された玲子と恵は小さな部屋に入れられる。
「さあ、お嬢さん達、この書類に署名して」
玲子は書類の内容さっと目を通して、
「できません」と突き返した。