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ブルーライトニング  作者: Toy
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ブルーライトニング 第4章 マルス誕生

 プレスト防衛軍司令部は武装テロリスト「セレクターズ」の攻撃に対応するため、作戦の発動を画策する。一方、プレスト海軍は新しい軍用アンドロイドを開発し、セレクターズの脅威に対抗しようとしていた。


登場人物

 スコット大将:プレスト海軍総司令官、変わり者に富むプレスト海軍の司令部員の中にあって、極めて常識的な人物。


 川崎中将:プレスト海軍総司令に迎えられたスコットが招聘した副司令。第7艦隊の西郷司令を含む主要なスタッフは川崎中将の士官学校の生徒が多い。スコットはそのため、川崎のことを先生と呼ぶ。


 西郷中将:プレスト海軍第7戦闘艦隊の総司令官。プレスト海軍随一の戦略家で、対セレクターズ作戦の立案と実行を担っている。見た目はかなり頼りないが、対セレクター作戦のため、川崎がスコットに推した人物である。


 サム・ダグラス大佐:プレスト海軍に所属する戦闘機パイロット。プレスト海軍のロボット部隊を指揮している。また、ダグラスインダストリーの経営ファミリーの一員でもあるためか、新型ロボット(ダグラス製が多い)のテストに関わることが多い。


 ノーマ:ダグラス製情報分析型アンドロイド。ソレイユの基本構造をベースに作られているが、左手にデータアクセス用ブレスレットが取り付けられているのが識別点である。また、カチューシャ型のセンサーを内蔵しているため、アンドロイドの中では探知力が高いのが特徴である。


 上原真奈美:ダグラスインダストリーでロボットの人工脳開発の中心人物。ダグラス社で開発された高性能ロボットの人工脳のほとんどは、上原が中心となって開発している。


 マルス:ダグラスインダストリーがプレスト海軍の要請で開発した軍用アンドロイド。従来のアンドロイドと比べ、大幅な戦闘能力の向上がはかられている。本小説の主人公。


2020年5月3日加筆

 司令部の会議室でスコット司令は副司令の川崎中将と第7艦隊司令の西郷と話し合っていた。アルトシティへの支援が議題ではあったが、スコットが玲子にアルトシティへの派遣を伝える許可を出したことも話題となった。

「先生は私が間違ったことをしたと言われますか」とスコットは言った。川崎は士官学校の教官をしていた関係で、先生と呼ばれている。

「いえ、スコット司令、間違ってなんかいません」

「君は? 西郷司令」

「かまいませんよ。その程度の秘密はあの子は守れるでしょう。彼女の功績を鑑みれば、その程度のことはかまいません」

「功績というか?」

「功績です。ファントムを支えているのは彼女だといっていい」

「そう・・・ 私もそう思う。彼女なしではファントムのロボットたちの高い戦意はあり得ない」

 スコットの発言を受けて、川崎が

「いずれにせよ、スコット司令が玲子に話す許可を与えてくれたことは感謝します。ニーナも喜んでおりましたから」

「ほう、あのニーナがねえ。先生は、あの子とそんな打ち解けた話まで聞いているのですか」

 スコットは、あのニーナの意外な一面を知った

「氷の人形と言われていても、打ち解ければ、いい子ですよ。まあ、そのことはこれくらいにして、本題に入りましょう」

 川崎は手元のタブレットのファイルを転送する。スコットが手にしたタブレットに情報が表示された。

「第一艦隊が洋上で停船?」とスコットはつぶやく。

「艦隊を洋上で止めて、何かと接触したと思われます」と川崎が答える。

「君の推測が正しければ、セレクターズに補給したということか。西郷、どうなんだ?」

「おそらく、先月、アルトシティの爆撃に失敗したので、再度試みるものと思われます」

「今度はドラグーンでくるのだろうな」

「そう思います。アルトシティの被害を防ぎ、今後の作戦を有利にするためにも、暁作戦の発令をお願いします」

「わかった、長官に許可を求める。作戦の指揮はダグラス大佐だったな?」

「はい、新型アンドロイド受領と訓練のため、こちらに来る予定です」


 連邦軍第7艦隊所属のサム・ダグラス大佐は、戦闘機「ドルフィン」でダグラス社の滑走路に降り立った。プレスト海軍はダグラス社の施設を間借りしている関係で、ダグラス社の滑走路を軍用として利用している。格納庫の前に機体を止めると、地上整備員が駆け寄ってきて、車輪止めを施し、格納されているステップを引き出した。サムはキャノピーを開け一礼し、ステップをおりはじめる。すると、後ろの座席に座っていた少女が、身軽にコックピットから地面に飛び降りた。ブロンドの長い髪の少女で、海軍の式典用の制服であるセーラー服を着ている。

「ノーマ、横着な降り方をするんじゃない!」とサムは言った。

「大丈夫です。この高さなら、全然平気ですから」と、サムを見上げながら両手を広げ、にっこりと笑う。確かに、ノーマは10m程度の高さは軽くクリアしてしまう。

「いや、そういう事じゃなくて・・・」

 スカートをはいている時くらい、おしとやかにしろと言いたかったのだが、結局、最後まで言えなかった。サムは下で待っていた新米の整備員にドルフィンを引き継ぐ。整備員は神妙な顔をして、受諾すると、言い訳がましく「見てません!」と小声でサムに告げた。サムは軽い脱力感を覚える。どうも、ノーマをつれていると誤解されることが多い。

「わかってる、ショートパンツを穿いてるからね」と、整備員を安心させる他に言い方が思いつかなかった。それにしても、試作機であるソレイユやニーナと比べ、ノーマはおてんばだ。同じ製作者で性格がこうも違うことに、サムは不思議に思う。ロボットの性格はどうやって決めているのだろう。

「早く行きましょうよ。上原博士が待ってるから・・・」とノーマがサムの右手をつかんで引っ張る。

「ノーマは先に行っててくれ。俺は耐G装備を外さなきゃいかん」

 到着が少し遅れたので、上原を待たせているのが気が引けた。ノーマもそれで先を急いでいるのだろう。

「じゃあ、先に行くね!」と言って、ノーマは軽いステップでかけていく。ノーマはアンドロイドなので耐G装備は必要ない。ひるがえって、サムは耐G装備に身を固めた自分が窮屈で不便に思える。サムはヘルメットを取り、髪をなでつけた。

「まっ、今度こそ、有人戦闘機の最後かな」

 部屋番号を確認し、扉の前に立つと、自動的に扉のロックが外れ、ドアが開いた。

「いらっしゃい、サム」と、上原がサムを迎え入れた。

「遅れて、すいません」

「かまわないですよ、今、チェックが終わったところですから。起動の瞬間を見てみたいでしょう?」

 部屋の中央の台には、子供型のアンドロイドが横たわっていた。サムは3ヶ月にわたっ、組み立て工程を見ていたが、人工皮膚をまとった姿を見るのは初めてだった。体はノーマより小さく、ソレイユのような褐色の髪に、少し幼さが残る顔。いままで気にもしていなかったが、初めて男の子だと気がついた。

「今度は男の子なんですね」

「ええ、ノーマの後は女の子が続きましたからね。でも、女の子にもなれるんですよ。これぐらいの子供は体型差があまりないので、ごまかしがききますからね」と、上原は説明する。

「上原博士、すべての事前チェックを終了しました。起動準備完了です」

 部屋の中に、男性の声が響く。ダグラス社が所有するスーパーコンピュータのインターフェース「ニック」の声である。ニックはダグラス社の中核を担うコンピュータで、様々な機能を提供している。

「よろしい、ニック、マルスの起動操作を始めなさい」と、上原が命じる。サムは初めてアンドロイドの名前を知った。そして、ニックのチェックリストの読み上げがつづく。

「動力を外部電源から内部電源に切り替えを確認。外部供給ラインの切り離し準備完了」

 マルスの電力供給ケーブルが腹部から切りはなされた。

「データリンク、出力データ、共に異常なし。マルスに起動信号を入力」

 ぱちっとマルスが目を開く。自分の体を認識し、上体を起こそうとするが、最初は関節のモーターを大きく動かせない。ゆっくりと少しずつ動かしながら、制御のための適切な補正値をさぐる。そうした補正で動きが少しずつなめらかになってくるのだ。マルスはゆっくりと上体を起こし、両足を投げ出して台のすみに腰掛けた。マルスの視覚が人間とアンドロイドを認識する。与えられたデータと照合し、上原博士と、マスターであるダグラス大佐、そして、アンドロイドのノーマだと確認した。

「台から下りなさい」と上原が指示し、マルスは「はい」と答えて、おしりを滑らせて両足から床の上におりる。が、バランスを崩して、すてんと転んでしまう。

「大丈夫ですか?」とサムは不安な面もちで聞いた。

「大丈夫、最初だけです。すぐに良くなりますよ」

「運動制御の誤差です。問題は有りません」と、ノーマが報告する。動作が危なっかしく、見ているとはらはらするが、どことなく愛らしくもあった。ようやく立ち上がったマルスは、サムにむかって一歩を踏み出す。その後の動きはなめらかになり、サムはおおっと感心した。が、歩み寄ったマルスが、いきなりサムに抱きついたとき、何とも言えない気恥ずかしさに襲われる。サムはどうして良いかわからず、上原に顔を向けた。

「ちょっと、甘えん坊になったようね」と上原が笑みを浮かべる。とまどうサムにおかまいなく、サムを見上げたマルスは言う。

「あなたがぼくのマスターですね?」

 それは、とても可愛い声だった。

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