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ブルーライトニング  作者: Toy
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ブルーライトニング 第38章 ルーナと守

ルーナはクラスメートの守に、そっと学校をやめることを告げます。



 プレストシティの私立学校の一つミネルバ学園は、ダグラス財団の出資で設立された、初等部から高等部から構成される学校である。玲子と瑞穂ははここの高等部に通い、瑞穂の弟である守は初等部6年に通っている。

 昼休み、クラスメートが守に声をかける。

「おーい、守、サッカーしようぜ」

「ごめん、やることがあるんだ。今日はつき合えない」と、守はクラスメートの誘いを断った。

 給食を片づけて、校舎の屋上に向かう。ここは高等部や中等部の校舎も見える。ちらりほらりとおしゃべりに夢中な女子のグループが見られた。

「守さん」

 声をかけられ振り向くと、クラスメートのルーナが立っていた。ルーナは守にくらべ、ちょっと背が高い。ショートカットの少女である。髪にはいつもカチューシャをつけていた。

「ルーナかい? なんだい、ぼくを呼びだして」

 ルーナは申し訳なさそうにうつむいた。

「どうしたんだい。話ってなに?」

 ルーナは守に歩み寄る。ぼそっとルーナが言った。

「私、今日で学校をやめるの」

「えっ?」

 唐突に言われてさすがに驚く守に、重ねてルーナが言う。

「学校をやめるの」

 憂いを帯びた表情。守にはそう感じた。複雑な表情と感情を表現できるアンドロイドを作れるメーカーは少ない。ダグラス社はその中でトップを行くと守は理解している。アンドロイドとはいえ、人として接してきた守は、突然のルーナの言葉に戸惑いは隠せない。

「何で急に?」

「役目があるの」

「なにが?」

「言えないの」

 わずかな沈黙

「ルーナって、最初から変わっていたよね。たった一人で学校に来てるしさ。ロボットは家族の子供と一緒にくるのが普通だよね」

「そうね、私、人間のことを学びなさいって言われてたの。学校にはいろいろな人がいるからって」

 変わった話ではある。初等部の守でもそう思う。

「それだけ?」

 ルーナは答えなかった。

「言えないことなんだ」

「ごめんなさい」

「何で、学校をやめることを、ぼくに言うんだい。先生は知ってるの?」

「ご存じよ」

「じゃあ、先生はなぜみんなに言わないんだろう。お別れ会だってしたいよ」

「先生には、みんなには内緒にってお願いしてあるの」

「よくわからないよ。ぼくには言うのに?」

「私を嫌っている人もいるでしょ。そういう人はお別れ会なんてしたくないと思うの」

 守は口をつぐんだ。確かにその通りだと思う。

「あのね、守さんにお願いがあるの」

「なんだい?」

「これからも、私と会ってくれる?」

 なぜとは聞く気はおきなかった。

「いいよ」

「じゃあ、アドレス教えて」

 守はハンディのアドレスを告げる。

「ルーナって、ハンディ持ってたっけ?」

「持ってないけど、私自身がハンディの機能を持っているから。今、私のアドレスを送るね」

 程なく、守のハンディに着信があった。確認すると、ルーナからの短いお礼のメールだった。

「ぼくも、ここにメールを送ればルーナに届くんだね」

「ええ」

 心なしか、ルーナがうれしそうである。

「ルーナ、君を嫌ってる人なんて2・3人だよ。そんな奴らは気にしなくていい! 黙っていなくなったら、ほかのみんなだって、寂しいよ」

「そうかな」

 ルーナは守の説得を受け入れ、放課後のホームルームで、クラスメートに別れの挨拶をして、教室を去った。


 次の日の朝、守の姉、瑞穂は守の頭を指先ではじいて、

「守、今日はずいぶん、おとなしいね」

「お姉ちゃんは無駄に元気だね」

「へらずぐちはいつものとおりね、それでいいわ」

「へっ」

「おまえに元気がないと、みんな,心配するぞ。ほら、玲子が待ってる、早く行こう・・・ とっ」

 瑞穂は玲子の側に立つ小さい人影に気がついた。

「玲子!、マルス!」

 瑞穂は近寄って声をかけた。

「何で、マルスが一緒なの?」

「今日からマルスも学校に通うの」と笑顔で玲子が答えた。

「へー 私たちのクラス」

 ミネルバ学園に通っているロボットは、オーナーの子供と同じ学級になるのが通例だった。

「違うわ、守くんのクラスよ」

 守はあっけにとられた。

「へえ、それじゃあ、守! マルスの世話をしっかりね。お兄ちゃんなんだから、わかってるね」

 強い調子で瑞穂が言う。守が恐れる姉のにらみである。

「ああ・・・ うん」

 玲子はそんな二人をにこにこと眺めている。

「あっ、そうだ、玲子さん。玲子さんはどうしてソレイユのところに通うようになったの」

 昨夜から疑問に思っていたことを守は口にする。玲子はマルスの手を引きながら、

「うーん、まあ、私が押し掛けたの。ソレイユがシティから追放って話になったとき、私がダグラス社の偉い人に文句を言ったのよ」

 玲子のわがままを聞いて、引き合わせた上原もだが、玲子も大胆だった。結局、ソレイユをシティに立ち入らせないという決定は変わらなかったのだが、そのとき玲子の文句を聞いた仏頂面の男は、玲子にハンディを与える手配をしてくれ、セキュリティエリアへの立ち入りを認めるよう社内の意見を調整してくれたそうだ。たまにダグラス家のホームパーティで顔を合わすので、経営陣の一人なのだろう。

「それで、ハンディをもらって、ソレイユに会いにいくようになったの。じゃあ、ソレイユが玲子さんに頼んだ訳じゃないんだね」

 玲子が急に優しい顔になる。

「どうしてそんなことを聞くの?」

「いやー、何となく」

 瑞穂は意地悪な笑みを浮かべて

「この子ね、アンドロイドの女の子に告白されたの」

「おねえちゃん!」

 玲子は笑みを浮かべて

「それってね、守くんがルーナに慕われているってことなの」

 ルーナの名前を出されて守は驚いた。

「どうして、ルーナの名前を知ってるの?」

「私、ルーナとは知り合いなの。ルーナから守くんのことは聞いてるわ」

 ぽーっと守が赤くなる。からかう姉に守はいちいち食ってかかる。そうこうしているうちに学校に着いた。

「じゃあ、瑞穂、先に教室に行ってて、私、担任の先生にマルスのこと、頼んでくるから」

「じゃあ、お先に! マルス、守にしっかりくっついてなさい。これでも守は頼りになるから」

「はい、瑞穂お姉ちゃん」

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