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ブルーライトニング  作者: Toy
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ブルーライトニング 第37章 マルス、学校へ行く

マルスが少女の護衛のため、学校に行くことになります。玲子はマルスが学校になじめるか少々心配しています。そして、気になる最近のマルスの癖も・・・

 上原は自室で出張の準備をしていた。ローウェル・フォルテシティ本社でマルス型アンドロイドの生産ラインが完成し、その最終チェックと現地スタッフの指導を依頼されているのである。同様に、敷島も呼ばれていたが、彼は一足先に出かけていた。上原はマルスの学校編入の手続きのため、少し出発を遅らせたのである。

 部屋のドアがノックされ、

「おばさん、玲子だけど相談があるの」と声がした。上原はスーツケースの蓋を閉じながら、

「入りなさい」と玲子に声をかけた。

 ドアが開き、玲子は入ってきた。

「支度は終わったの?」

「ええ、ちょうど今ね。なにかしら? お座りなさい」と上原は丸椅子を指し示す。上原は机の椅子に座り、玲子は丸椅子に座った。

「マルスのことなんだけど・・・」

「でしょうね」と上原が笑みを浮かべる。最近、マルスがらみの相談が多い。

「あさってからマルスも学校でしょ。ちょっと心配で・・・ 大丈夫かな」

「大丈夫よ、マルスにとっては軍の任務なんだから。任務の時のマルスは家のマルスとは違うわよ」

「うーん、でもね、脅威が迫っているのはわかるわ。でも、どうして、こんな時にルーナと交代するの?」

「ルーナが本来の任務に就くので、学校をやめないといけないの。これは前々から決まってたことよ。ルーナはファントム(プレスト海軍のロボット部隊の総称)の総司令官になるのだから」

 その話を聞くのは玲子にとって初めてだった。

「ルーナが総司令官? 」

「そう、ファントムも規模が大きくなって、海軍の主力部隊になりつつある。いえ、実際、役に立たないプレスト防衛軍に代わる、プレストシティの防衛組織の中核ね。これほど巨大になるとソレイユやニーナでは管制しきれない。だからルーナが開発されたの」

「じゃあ、何で学校へ・・・ 女の子の護衛なんかさせてたの?」

「別に女の子の護衛が主目的じゃなかったの。主目的は学校へ行かせることだったのよ。海軍司令部がね、ルーナをファントムの総司令に着任させる前に学校に行かせた方がいいと考えたのよ。女の子の護衛はそのおまけ」

 玲子は首をひねった。

「プレスト海軍の考えることって、よくわからないわ」

「第7艦隊司令の西郷中将という人の考えなの。玲子も会ったでしょう?」

 玲子はちょっと寒気を覚えた西郷との対面を思い出した。

「ちょっと、怖い人だった」

「へえ、あの人が」と上原は笑みを浮かべた。

「だって、心の底を見抜かれているような気がしたもの」

「たいしたものね。人の良さそうな西郷中将と初対面でそこまで気づくとは。そう、あの人は人の頭の中が見えるの。それだけじゃないわ。ものすごい先読みの名人でね。一方で人材育成は細やかで、ロボットの育成にも熱心なの。ルーナのこともソレイユのように学校に行かせて、人間と社会を経験させた方がいいと考えたのも西郷中将なの。西郷中将はマルスもかなりの戦力を率いるから、ルーナと同じように学校に行かせようと考えているのよ。西郷中将という人は冷酷な人だけど、気配りは細かいの」

「でも、今回は女の子が危ないとわかっているのね。マルスにはその危機に対応する必要があるのよね」

「そうよ。マルスはああ見えて、任務には忠実だし、能力もある。大丈夫よ、マルスは軍の実務で人にもまれているから、学校の中でも心配はないと思うわ。ルーナの話だと、護衛対象の女の子も親切だし、もう一人、親切な男の子がいるそうだし」

「男の子は守くんよ、瑞穂の弟なの。いい子よ」

「そう、知り合いなの。なら何も心配しなくてもいいじゃない」

「そうね、心配しすぎかも」

「マルスのこととなると、玲子は心配性ね」

「変かしら」

「ぜんぜん、マルスのことが大事なんだもの。心配するのは当然だわ」

 玲子は口をつぐんだまま、黙りこくってしまった。

「どうしたの?」

「ついでに聞くけど、最近、マルスがちょっと変? なのかな、気になることをするの」

「何をするのかしら」

「買ってやったパジャマじゃなくて、私のTシャツを着て寝たがるの。マルスがおねだりするのは珍しいことだから着させているのだけど、なんで私の服を着たがるのかな。この癖を直した方がいい?」

 上原はおかしそうに、

「玲子は自分の服を着られるのはいやなの?」

「別にTシャツくらいマルスが着てもいいんだけど、私の服を着たがるのがよくわからないの。やめさせた方がいいのなら、やめさせるけど・・・」

 上原は娘を諭す母親のように言った。

「それはね、やめさせる必要はないわ。マルスにとっては最初に引き取られたときにうれしかったことを、繰り返しているだけよ。ロボットだって、うれしいことは何度でも繰り返したいものよ」

「私の服を着るのがうれしいことなの?」

 それはちょっと問題なのではと玲子は思った。

「玲子がマルスを裸で寝させるのが可哀想だっていって、シャツを着せたでしょ。それがマルスにとってうれしかったのよ。優しくされればロボットも幸せを感じるものよ」

「そんなにうれしかったのかな。私は間に合わせに・・・ 裸よりましだと思って着せたのに・・・」

「うれしかったのよ。玲子に甘えたいときは、そのときを思い出して着たがるんじゃない?」

「そういえばシャツを着たがるときは、ものすごく甘えんぼだったわ。最近、すごく甘えることが多いのよ」

「いい傾向よ。玲子のことをますます信頼しているということだから。専門的なことをいうとね、ポテンシャルが上がっているの。最近のマルスは能力の向上が早いので、多分、玲子に甘えることがいい影響を与えているのよ。甘えられてうれしくない?」

「でも、マルスはノーマのようにやんちゃなところはないし、ちょっと素直過ぎる気がするの」

「それも、時間の問題よ。サムはノーマのことをおてんばだといって笑っているけど、それはサムがそれを受け入れる度量があるから、ノーマがそう変わっていっただけよ。ノーマだって最初は素直な子だったわよ。作った私が言うのだから間違いない」

「マルスもやんちゃな子になるのかな」

「玲子がマルスにやんちゃな子になってほしいと思うなら、マルスはそう変わっていくわよ。マスターの関心を引くことはロボットにとって最重要事項だからね。でも、無理強いはだめよ。玲子のことだから大丈夫だとは思うけど」

「わかったわ、ちょっと心配しすぎたみたい」

「問題意識をもつことはいいことよ。迷ったら私に聞きなさい」

「ありがとう、おばさん。なんとなく、今のままでいいとわかったわ」

「じゃあ、留守中、マルスのことを頼むわね。しばらくはパジャマじゃなくて、玲子のシャツを着て寝たがるかもしれないわよ」

「それも、家の中なら別にいいわ。悪いことじゃないし」

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