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ブルーライトニング  作者: Toy
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ブルーライトニング 第30章 リヨン大統領の目論見

プレストシティに来訪したリヨン大統領一家にマルスとソレイユが護衛についた。牧原プレストシティ市長と会談した大統領は、暗殺計画があるのを聞かされ、ソレイユに護衛を依頼したと語る。そして暗殺計画阻止の功績をもって、ソレイユの権利回復を提案するのだった。

 連邦大統領のリヨンは妻と娘を連れて専用機のタラップを降りたところを、プレストシティ市長の牧原がソレイユとマルスが化けたマーサを伴い、大統領を迎えた。

「ようこそ、プレストシティへ」

「歓迎、感謝します」

 二人は固い握手を交わした。リヨンは後ろに控えていたソレイユを認めるとソレイユに歩み寄り、握手を求める。ソレイユはとまどわず手を差し出すとリヨンはソレイユの手を握った。

「家族ともども、よろしくお願いする」

「はい、お任せください」

「後ろにいる女の子も、ソレイユの仲間なのかね」

「はい、マーサといいます。護衛任務では、こちらのマーサが中心となります」

「そうか、マーサも、こっちにおいで」

 手招きに応じて、マーサが歩み寄ると、リヨンはマーサの手を握った。

「君にもよろしくお願いする」

 リヨンはマーサとソレイユがベルトにつけている、ライトサーベールにちらっと視線を向けた。

「閣下、こちらに」と市長の牧原が声をかけると、リヨンは家族を伴い、会見会場へと向かった。


 記者会見の会場にはリヨン大統領の家族は同席しなかった。マーサは家族の護衛につき、別室で待機し、リヨンの護衛にはソレイユがついた。そして、少し離れた目立たぬ場所に、ライトニングファントムの人型のメタロイド、J-6型がスーツを着込んで護衛についている。標準的な大人の体格のロボットであることと、記者の目からはソレイユが際だって目立っていたので、陰のように付き従うJ-6型のロボットに気を止めるものはいなかった。


 大統領は記者会見において、先のアルトシティ防衛戦で、プレスト海軍のブラックタイタンの部隊が3機のドラグーンを撃破したこと、加えてプレスト沖会戦において旅客機をテロから救い、4隻のテロリストの潜水艦を撃破したことを評価した。

「今、行われているプレスト海軍第7艦隊のトライアルでも、主力空母を欠いているとはいえ、極めて高い作戦実行能力を見せており、第7艦隊の編成に対するプレストシティの選択は、正しいものだったといえるでしょう。連邦政府としても、第7艦隊には期待しております」

 プレストシティが第7艦隊の編成を連邦から要請された際、連邦軍司令部から提案されていたガバメント社の兵器システムを採用せず、各社から自由に提案させたシステムの中で、ローウェル・ダグラスの共同企業が提案したシステムを採用したことを暗に評価したということだった。記者からは、

「実績のないローウェル・ダグラス社の兵器システムを採用するよりも、実績のあるガバメント社の兵器システムを採用したほうがリスクもなく編成できたはずとの意見もあります。プレストシティの決断は、資金をゴミ箱に捨てるリスクの方が大きかった。プレストシティが実績が乏しく信頼性が低いと言われているローウェル・ダグラスのシステムを採用するのは、やはり問題かと思いますが、それに関する大統領の見解をお聞かせください」

「ローウェル・ダグラス社の兵器システムは、すでにロンドシティのほか、いくつかのシティで採用され、実績はあります。また、信頼性が低いと言われるのなら、根拠を数字で示してください。ガバメント社の主力戦闘機であるフェニックスは稼働率は50%そこそこ、これは軍の中でも問題にしているものがいます。対して、ローウェルのドルフィンは80パーセントを越しています。実働部隊の間ではかなり好評のようですが、これだけでも、ローウェル・ダグラスの兵器システムが信頼性が低いと言う意見が間違いといえるでしょう」

「プレスト海軍の主力空母ジュノーは、機関故障のため今回、ラルゴシティでおこなわれている演習に参加できませんでした。兵器システムとしてはきわめて信頼性が低いと評価すべきと思いますが、いかがでしょうか」

「そのジュノーが、わずか2隻の駆逐艦とともに4隻の潜水艦を沈めているのです。本当に機関故障だったのか、はなはだ疑問だと私は思いますが、これについてのプレスト海軍の公式見解はありませんから、これ以上のことは私は申しません。しかし、ジュノーの同型艦は世界に3隻あり、いずれも問題なく運用されており、実際の運用実績はきわめて優秀だと聞いています。」

 後ろの端の席から質問があがった。

「閣下は今回、プレスト海軍のソレイユに護衛を依頼されたと伺っています。閣下はソレイユやプレスト海軍のロボット部隊「ファントム」を高く評価しておられるのですか?」

 初めて、リヨンの顔に笑顔が浮かんだ。

「そのとおりです。ソレイユは今まで、幾多のテロを未然に防ぎ、市民の命を救ってきました。ファントムもまた然り。私はプレストシティ滞在中、家族の安全を守るため、ソレイユに警護を依頼しました。ソレイユ達ファントムのロボットには常に家族のそばにいてもらいたいと考えています。」


 記者会見が終わり、リヨンはプレスト市長の牧原と非公開の会談に入った。

「相変わらず、主要メディアの偏向はひどいな。世論は実際、どうなのかね」

「最後に質問した記者が所属する草の根メディアは、かなり、好意的です。主要メディアのいくつかも好意的になってきました。こうしたメディアはソレイユの裁判にも、かなり批判的で、この影響からか、最近の世論調査では、ソレイユに好意的な意見が大勢を占めます」

「そうか、裁判の状況はどうかね」

「最終審も原告の申し立ては棄却される方向のようです。先のプレスト沖会戦では、ソレイユのことを殺人ロボットだと報道して、裁判の結果を変えようと躍起になっているところもありますが、旅客機を撃墜しようとしていたテロリストが死んだだけですので、いささか無理がありましたね。ソレイユを告発している、ピースメーカーと呼ばれる市民団体にも焦りが感じられます」

 リヨンは牧原に向かって身を乗り出した

「では、ソレイユの権利回復については、考えているのだな?」

 牧原はわずかに顔を引きつらせた。ソレイユをシティから追放したことを、牧原はひどく後悔していた。

「ええ、裁判の結果を受けて、回復することを考えています。そもそも、私が世論に迎合したがために犯した過ちです。私の手で決着させます」

「そうだな、その結果がピースメーカーを勢いづかせ、裁判にまで発展してしまった。まあしかし、すぎたことはよい。それより、ソレイユの権利回復を前倒ししたらどうかね。今回、私の護衛任務の成功を評価してな。かなりインパクトがあると思うが」

 牧原は瞬時に意味をはかりかねていた。

「今回、私の暗殺の計画があって、プレスト海軍のロボットに護衛を依頼してはという内々の提案があったのだ。ほかにもプレスト警察の警備部は反大統領派であるという情報もあったのでね、私はその提案に乗ったのだ。警備部があっさりと護衛の任務から一歩退いてくれたのは、暗殺計画がかなり具体化している現れだと考えている」

 牧原は声を低めて言った。

「その話は私も海軍からも聞いています。海軍はどうやら、暗殺計画の中身を、かなり正確に把握しているようです」

 リヨンは大きくうなずいてみせる。

「恐るべきは、プレスト海軍情報局の実力だな。アルトシティの襲撃計画といい、プレストシティ沖会戦についても、事前にセレクターズの動向を把握していたのだろう。今回も、プレスト海軍は私の護衛に、最新鋭のロボット部隊を割り当てると言っている。ソレイユだけでなく、あの、かわいらしい女の子、マーサと言ったか、あの子は最新鋭のアンドロイドなのだろうな」

「そうです、アルトシティのドラグーン襲撃の際も、かなりの活躍だったと・・・ アルトシティへ向けて発射された巡航ミサイルの撃破や、ドラグーン2体の撃破に貢献したとも聞いています。」

 リヨンは口の端に笑みを浮かべた。

「おそらく、3日後のプレスト議会主催の後援会で、暗殺計画が実行されるだろうと聞いている。その場にはソレイユと、マーサを同行させるので、ソレイユとマーサは私の暗殺計画を阻止することに成功するだろう。その功績でソレイユの権利回復があってもいいのではないか?」

「海軍がそこまで考えていると?」

「そこを考えるのは政治の役割だろう。君の決断次第だということだ」


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