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ブルーライトニング  作者: Toy
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ブルーライトニング 第15章 ドラグーンの襲撃

テロリストの攻撃兵器ドラグーンがあるトシティを襲う。

 アルトシティ防衛軍の基地についたサムたち一行は、すぐにブラックタイタンとホーネットを演習場に展開し、広域探査と精密探査の演習を始めた。あらかじめ、演習場には要救助者に見立てた兵士を配置してある。タイタンは次々と兵士を見つけだし、同行する救助用ヘリに兵士を収容していく。ドルフィンにのるマルスに管制されたホーネットは、演習場の隅々を探査し、精密な現状図を基地に送信してくる。訓練はマスコミにも公開されたが、華々しさに欠ける内容なので、マスコミの受けはよくなかった。

 記者会見を終えたアルトシティ防衛軍トマセッティ大将は、サムをオフィスに招いた。

「マスコミ受けは悪かったが、専門家は評価していると思うよ。あの、索敵能力には正直、驚いた。プレスト海軍はよい装備を持っているな」

 トマセッティが元上司だった気安さも手伝って、

「ドルフィンとタイタンを開発したのは、アルトシティでしょうが・・・」

「ドルフィンは哨戒機としてロンドシティに依頼されて開発したものだ。戦闘機などの正面装備は、ガバメント社の独占だったからな」

「ガバメントの独占を突き崩したのは、そのロンドシティがドルフィンを採用したことでしょう。ロンドシティも思い切ったことをしたものです。ロンドシティが先鞭を付けてくれたおかげで、プレスト海軍の第7艦隊はガバメントの兵器システムを使わずにすんでいますしね」

「ところで、テロリストの襲撃は今夜だそうだが・・・」

 トマセッティは腕組みをしながら言った。

「テロリストのドラグーンに対して、有効な手だてを持たない我々が、いえることではないが、大型の人型ロボット1体と無人攻撃機4機、それに子供のロボットだけで、3体のドラグーンを何とかできるのかね。戦力に余裕がないのなら、君の配下にこちらの戦力を割いて加えてもいい・・・ 君なら、もっと多い戦力でも指揮できるだろう。災害派遣訓練という名目で、十分な戦力を連れてこられなかったのではないか?」


 今回の戦力の派遣を災害派遣訓練という名目にしたのは、よそのシティの戦力を受け入れは、アルトシティ防衛軍のメンツを潰すからである。

「ありがたい話ですが遠慮します。トマセッティ司令だから正直に言いますが、アルトシティの兵器システムは、我々のリンクシステムと協調できないので効率的に動けません」

「そうか、それなら、ドラグーンの始末は頼む。だが、必要な支援があれば、遠慮なく言ってほしい。これは、本来、我々がやらねばならんことだが・・・・ 情けないことに、今の我々の戦力では、つぶされるのが確実なのでね」と、トマセッティは口の端をゆがめて笑った。正直、武装テロリストに対抗できないというのは、司令官として情け無いが、自分の立場と見栄にこだわって、シティを危険にさらすわけにはいかない。トマセッティはシティの安全のため、プレストシティ海軍の援軍を受け入れたのである。


 アルトシティの哨戒機に混じって警戒を続けていたミネルバは、プレストシティ海軍情報局が予測したルートに、地上を疾走するドラグーンを発見する。ミネルバの一報で、待機していたアルトシティのドルフィンの部隊が迎撃に向かった。一方、サム達は第2次迎撃ラインを構築するために、基地を発進する。

「よし、このポイントだ。タイタンを投下しろ」と、サムが指示を下す。あらかじめ、想定されたドラグーンの侵攻コースに対し、どこで迎撃するかは計画済みだった。輸送機から降下したブラックタイタンは、その場で身を潜める。タイタンの全長は約10mで、ドラグーンより一回り小さい。タンクのような狭いコックピットで、ニーナは左手のブレスレットとタイタン側の制御装置を直結して制御している。


 サムとマルスの2機のドルフィンはフォースモーターを使い、機体を浮遊させて、地形の陰に身を潜める。輸送機はパイロットの資格を持つ整備員が操縦しており、そのまま後方に待避した。


「災害派遣訓練として来たから、強力な武器はない。ニーナにとっては、苦しい戦いになるな」とサムがつぶやくと、

「大丈夫ですよ。ブラックタイタンは内蔵兵器が多いですし、ブラックタイタンの操縦にかけてはニーナが一番ですから・・・ ドラグーンなんか、即スクラップです!」

 ノーマの底なしの自信に、サムはさすがに苦笑いを浮かべる。

「ノーマのその自信はどっからくるんだ?」

「ニーナの実力です。たかが人間ごときが操縦する兵器に、ニーナと互角の戦闘はできません」

「なるほどね」と、サムは口元に笑みを浮かべる。こういうところは、ニーナとノーマはよく似ている。同じ上原博士が開発したアンドロイドだからだろう。


「敵は3機、ノーマに攻撃パターンを伝えますから、よろしく頼みます」という連絡を最後に、ニーナからの連絡はとぎれる。言語による通信は効率が悪い。速度と精度を考えれば、ロボット同士が連絡をとりあうデータリンクの方が優れている。最も高速かつ大容量のデータリンクである「リンク3」を持つマルスが通信の要になっていた。情報分析型アンドロイドとして開発され、「リンク2」を搭載するニーナやノーマも、最新鋭のマルスにはかなわないのである。マルスがミネルバからの情報を翻訳してサムに伝えた。


「サム、アルトシティ第1次迎撃部隊がドラグーン3機と接触。警告用ロケット弾に対し敵は対空ミサイルを発射しました。これを敵対行為と認め、司令部からテロリストを迎撃せよとの指令です」

「了解だ、マルス。第1次迎撃隊に被害はないな?」

「はい、対地ミサイルを発射した後、計画通りに後退しています。ドラグーン3機がこちらに向かって侵攻中」

「敵の侵攻コースに身を潜めているのだから、こっちに来るのは当然だ。マルス、ホーネット4機の管制は任せるぞ」

「わかりました」


 撤退するアルトシティのドルフィンを追い、3機のドラグーンが突き進む。巨大な人型ロボット兵器であるドラグーンは、世界最強と呼ばれる連邦軍の最新鋭兵器「グリフォン」を、武装テロリストが奪取したものだ。まともに戦えるのは、連邦軍のグリフォンだけというのが常識である。だが、この日、その常識が覆されることになる。身を潜めていたブラックタイタンが、ライトサーベルを抜いてドラグーン1番機に向かって突進した。

 1番機は突如現れたブラックタイタンに反撃する間もなく、あっというまに頭部のセンサーを破壊され、腰の関節ブロックを切断される。ブラックタイタンの怪力が3号機の上半身を弾き飛ばし、ドラグーンのコックピットを有する上半身が地面に激突した。すかさずブラックタイタンの肩に装備されている大出力ビーム砲が火を噴き、ドラグーンのコックピットを吹き飛ばす。

(ほんとに、10秒足らずで倒しやがった。あれでは1番機のパイロットは無事ではないな・・・)とサムは思った。サムのドルフィンはノーマのコントロールでドラグーン2番機に牽制攻撃を掛けている。そのため、サムは戦域の全体を見渡すことができた。


 ドラグーン2番機はサムのドルフィンの攻撃を、防護フィールドで遮蔽して回避していた。だが、1番機がブラックタイタンに押されていることに気がつき、対空レーザーでサムのドルフィンを追い散らしながら、1番機の援護にむかう。しかし、すでに手遅れで、1番機は大破してしまった。2番機はブラックタイタンを手に持った巨大なライフルで撃つが、ブラックタイタンは弾道をかわし、2番機に高速で接近してくる。そのスピードはドラグーンを上回り、2番機はライフルを捨て、ライトサーベルを抜いた。ドラグーンとブラックタイタンの間で、激しい剣戟が始まる。その刹那、ニーナは戦慄をを覚えた。

「この動き、人間ではない」


 2番機と3番機の対空射撃をかわし、サムのドルフィンは後退した。

「サム、敵は純粋なロボットです」

 ノーマの報告にサムは驚く。

「何だって?」

「動きに人間特有のゆらぎが無いと・・・ ニーナも、ちょっと、手こずるかも・・・」


 マルスの指示が「リンク3」を通じて4機のホーネットに伝達される。2機のホーネットの攻撃はドラグーン3番機の防御フィールドにはじかれる。強力な防御フィールドをもつドラグーンは、戦闘機や戦闘ヘリの攻撃を無効にできる。それは、原型となったグリフォンと同じだ。小型の無人戦闘機であるホーネットを軽んじたのか、ドラグーン3番機は、回避行動をとるマルスのドルフィンとホーネット2機を撃墜するため、防御フィールドを切り、対空レーザーを発射する。


「まずは、両足!」とマルスがホーネットに指示を出す。地面をかすめるように突入してきたホーネット2機が、防御フィールドを切ったドラグーンを襲う! ドラグーンの膝の関節がビームで破壊され、両足を失ったドラグーンはバランスを崩し、前のめりに倒れた・・・ 


 動きを封じたドラグーン3番機の背中から、2発の巡航ミサイルが発射された。その情報がロボットのデータリンクを駆けめぐり、ニーナからマルスにミサイル迎撃の指示が発せられる。マルスは直ちにミサイルを追った。射程の長い巡航ミサイルなら、アルトシティの一部が射程に入る。

 ノーマがデータリンクの内容をサムに翻訳する。

「マルスがミサイルの迎撃に向かいます! 私たちは、3番機を!!」

「わかった! ノーマ、3番機を仕留める。武器のコントロールを俺に渡せ!」

「了解!!」と、ノーマは行動に移す。マルスは2機のホーネットを率いて、ミサイルを追い、残りの2機のホーネットは、反復攻撃をかけて、3番機の対空システムを破壊している。ホーネットのビームは威力が劣る。3番機がホーネットの攻撃にさらされながらも、背中のコンテナから残りのミサイルを撃とうとしているのがサムにもわかった。

「させるか!」

 マルスはコックピットを攻撃しなかったが、サムはためらわない。ノーマに攻撃ポイントを指示し、サム自らドルフィンのビームの引き金を引く。ビームはドラグーンの首の後ろにある搭乗用ハッチを貫き、激しい爆風が吹き出した。ドラグーン3番機が動きを止める。

「ノーマ! 発射されたミサイルはどうなった?」

「現在、マルスが追撃中」とノーマが答える。


 発射されたミサイルは、速度をあげドルフィンを振り切ろうとするが、ドルフィンF型の加速は、従来型のドルフィンを上回る。追撃を感知したミサイルは、回避機動を開始するが、マルスにとっては低レベルな動きでしかない。


「そんな単純な回避パターンがなんだ!」と、たちまちミサイルの回避パターンを解析し、ドルフィンとホーネットの一斉射撃で、すべてのミサイルを撃墜する。後方で監視していたミネルバもミサイルの全機撃墜を確認した。


「巡航ミサイルは、すべてマルスが撃墜」と、サムに向けて、ミネルバはメッセージを送る。

「上出来だ! マルス」とサムは返信した。しかし、マルスは浮かれてはいない。

「いまから、ニーナの援護に戻ります」と、マルスから返答があった。互角にドラグーンと戦っているように見えたが、ニーナは苦戦していたのだ。


 人間の数倍の反射速度を持つニーナではあったが、大型ロボットであるタイタンの動きは、ニーナの動きに完全に同調することは不可能である。加えて、2番機の動きは、ロボットの動きだった。これは、ニーナの想定外の状況だったのだ。

「セレクターズが純粋なロボット兵器を使うなんて誤算だったわ。槍があればコックピットを串刺しにして、仕留めるのに・・・」と、ニーナは物騒なことを考えていた。ライトサーベルはブラックタイタンの内装兵器の一つだったが、槍は戦闘用のオプション兵器であるため、今回は持ってきていない。


「ノーマ、ブラックタイタンの援護を!」と、サムがノーマに指示するが、ノーマはサムの安全を優先して拒絶した。

「だめです。このドルフィンでは、あのドラグーンの攻撃を回避できません」


 サムの目に、3番機を攻撃するために残っていたホーネットが、2番機を攻撃しているのがみえたが、ドラグーンの対空システムに阻まれ、有効な攻撃を繰り出せずにいた。マルスの指揮管制が無いと、ホーネットの攻撃も精彩に欠ける。


「ごめんね、ニーナ! 今から援護する!」と、戻ってきたマルスは、2番機への攻撃を開始する。4機のホーネットの動きが再び先鋭化し、ドラグーンの迎撃システムを巧みに乱す。その間隙をつき、マルスのドルフィンがビームを発射した。2番機のサーベルを持つ右手が吹きとび、チャンスと見たニーナは、とどめの一撃を繰り出す! 

 容赦のないサーベルの一撃が、ドラグーンのコックピットを貫いた。最後のドラグーンはそのまま機能を停止し、崩れ落ちる。


 ドルフィンとブラックタイタンは編隊を組んで飛行していた。ぎりぎり、基地まではエネルギーは持つ。サムは操縦をノーマに任せ、先の戦況をモニターで確認していた。

「あの最後まで残っていたドラグーン、結構、しぶとかったな。ニーナはどう思う?」

「最後の1機は、確実にロボットです。記録ではこれほどの戦闘は行っていないので、わかりませんでしたが、今回の戦闘で、敵は有人兵器ではなくロボットを使っていると確信できました。人間用兵器だと軽くみてましたが、私たちのようなロボットだとすると侮れません。」と、ニーナが言った。

「まあ、いい。今回は、アルトシティを守ることが肝心なんだ。ドラグーンを3機も撃破できれば十分だ」とサムは言うと、編隊を組むドルフィンF型に視線を向けた。

「マルス、初陣はどうだった?」

「ええと、作戦が成功して良かったです。でも、ミサイルを発射させちゃって、ごめんなさい」

「気にするな、ちゃんと、ミサイルを撃墜したのだから、結果的には問題はない。今回の作戦に、マルスを連れてきて正解だったよ」と、サムはねぎらいの言葉をかける。

「それにしても、ドルフィンでドラグーンをおいこむとはねえ・・・ すごいというか、なんというか」

 やはり、マルスはいままでのアンドロイドとはレベルが違う・・・

「サム、ひとつ聞きたいことがあるの。」

「何だ?」

「テロリストの攻撃が失敗したとニュースで聞いて、玲子さんは喜んでるかな?」

 マルスの問いかけに、微妙な空気が漂う。サムは、なんと答えようかと、しばらく、考えを巡らした。ごまかすこともできただろうが、サムはしなかった。

「アルトシティが無事と知って安心したと思うよ。わかるかな、この違い」

「でも、どうして玲子さんはアルトシティのことを心配しているんですか?」

 サムは少し考えたのち、玲子のことを話すことにした。ソレイユと深い絆で結ばれている玲子のことは、マルスもいずれ知ることになると考えたからだ。


「玲子はね、4年前まで、このアルトシティに家族と住んでいたんだ。4年前のセレクターズの爆撃テロで、両親と妹を殺されて・・・ マルスを作った敷島博士、ああ、博士は玲子のお母さんのお兄さんで、つまり玲子の伯父さんなんだが、マルスはまだ会ってないな・・・・ 俺は、その敷島博士といっしょに、ミネルバに乗って、アルトシティまできたんだ。そこで、玲子を探してね、病院に収容されていた玲子と再会したときは、敷島博士は涙を流して喜んだものだ。で、唯一の身内となった敷島博士が玲子を引き取って、プレストシティに移住させたんだ。だから、玲子の知り合いは、いまでもアルトシティにいる。玲子にとって、アルトシティの安全は人事ではないんだ・・・」

「それで、アルトシティが守られたから、玲子さんは安心できるんですね」

「そういうことだ」

 マルスは両手を胸の前で握りしめてつぶやく。

「良かった・・・ ぼくは役にたてたんだ・・・・」

 マルスのつぶやきはサムにも聞こえた。

「みんなの役にたってるんだがな・・・」と言った。しかし、そんなことは、マルスにはどうでもよいことのようだ。


2020年4月4日加筆

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