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D+VINE  作者: たかつき
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 お決まりの展開、お決まりの人物。

 王道というものは酷く退屈であるが、こういう時は安定していてありがたい。

 だがそこに不確定要素が入り込むのは当然のことで、何が起きるかなんて予測はつかないもの。

 当然生き残れるとは、限らないものだ。



「いい加減、出てきたらどうだ?」


 アサキの声が響くと、少々の後にぞろぞろと物陰から武器を手に姿を現す者たち。

 見た目的にはみすぼらしくない程度の服装であったので、容易に盗賊だろうという予想がつく。

 あまり質のいいものではない得物に、それなりの身なり。

 獲物として捕捉するギラギラとした目つきに、卑しさが口元の笑みにしっかりと表れていた。

 数はそれほど多くはない、と見るも、ざっと見ただけで30人はいる。

 2人相手に多勢なのも理解できるが、それよりも囲まれている現状は好ましいものではない。

 高所から弓で狙われている事もあり、迂闊に動けばすぐに矢は放たれる。

 ハリネズミのようになるのはゴメンだいうかのようにアカシャが肩すくめてアサキを見ると、アサキも同感だと言わんばかりに軽く溜息をつく。

 その様子を余裕と取ったのか、リーダーらしき隻眼の男が群れの奥から姿を現すと、アサキの表情が俄に歪んだ。


「よう、久し振りだな」

「ガザのデニード? 珍しい顔だな」


 知り合いかとアカシャに問われ、「傭兵紛いのチンピラだ」と答えるも、それを聞いていた本人にしてみては聞き流せるものではない。

 だが、それをぐっと飲み込み、口元には勝利を確信しているであろう笑みが浮かばせて剣を二人に向けてこう続ける。


「とりあえず露払いをありがとよ。お陰で帰りにも苦労しないで済みそうだ」

「は、露払いねえ。さすが盗賊、程度が知れてんな?」

「安全策を取った、と言って欲しいもんだ。部下をむざむざ死なせに行かせるほど、おツムの出来は悪くねえのよ」


 アカシャの皮肉にも余裕で返せる程の自信があるらしい。

 その様子に更に大きな溜息と共に肩を竦めてみせると、アサキが続く。


「目的はここの宝か? 残念だな、宝と呼べるような大層な置き土産はここにはない」

「冗談はやめろや、色男。街の臆病モン共の依頼は炭鉱の調査だろうが、じゃあなんでここにお前らみたいな「傭兵レイヴン」が入り込んでるんだ?」

「どこから嗅ぎつけてきやがったんだか……めんどくせえなあ」


 別に隠しているつもりではなかったが、依頼者クライアント以外に身分を明かすようなことはしないのがこの二人であり、依頼を請け負う際は街の役場の応接間にて町長と3人だけで契約を交わしたはずだった。

 それが漏れている、ということは少なくとも盗賊側、デニードに情報を流した者がいたということである。


「まあ同じ傭兵のよしみだ。お前らの持ってる地図をおれに渡すか、お宝の場所さえ素直に教えてくれりゃ命までは取らねえよ」

「どうする、と聞かれるまでもなくこちらの答えはノーだ。少なくともお前達に渡す義理はない」


 良い提案だろうと言わんばかりのものに、アサキは即答に近い形で斬り捨てた。

 それをサインと取ったようで、周りは一気に殺気立つ。

 アサキは剣を、アカシャは鞭を手にデニードを睨む。

 互いの間に緊張感が漂い始め、一触即発といった雰囲気で睨み合いが続いていた時だ。

 デニードの背後にいた盗賊の一人の背中に、ずしっとした重みがのしかかった。

 どうせ仲間がのしかかって来ているのだろうが、状況が状況であるからすぐに退くであろうと思っていたのだが、一向にその気配がない。


「おい、こんな時に冗談はやめ……ひいいいぃいいぃ!!!!」


 苛立ったように振り返った先にあったのは、顔の約右半分を食いちぎられたように無くした仲間の死体だったのだ。

 思わず上げてしまった声に近くにいた者たちが視線を向けると、それを見てパニックを起こしたように声を上げてその場から全力で離れようとした。

 だがその何名かは暗闇から伸びてきた長い蔓のようなものを体に巻きつけられ、逃げることが叶わなかった。


「な、なんだあ?!」

「奥だ! 奥からなにか来るぞ!!」


 アカシャとアサキも異変に気付いて視線を向けるが、四方八方から悲鳴じみた声が上がるとほぼ同時に高所から狙っていた盗賊たちが床に落ちてくる。

 見れば盗賊たちの体には無数の穴が空いており、何かが貫いたのだろうというのが見て取れる。

 凄惨な有り様にアカシャが思わず呻きながら表情を歪ませるが、ゆっくりとしている暇はないとばかりにぞろぞろと通路から魔物が現れ始めた。

 盗賊たちは各々が攻撃をし始めるも魔物の前に手も足も出ないようで、次々に倒されていく。

 その魔物、花のようなものが根を足のように動かしつつ、うねうねと盗賊たちを捕縛した触手を蠢かせながらまるで養分を吸い上げているようであった。


「アサキー……なんかここってさあ、人海戦術が正義みたいな頭した馬鹿しかいなかったのかね」

「むしろそうせざるを得なかったのかもな。仲間がいなかったのだとすれば、だが」


 二人はそう言いつつも武器を手に取り、退路を開くべく近くの魔物から倒そうとしたその瞬間だった。


 ホール全体に何者か、大きな生物の雄叫びのような轟音が響いた。


 あまりの大きさに思わず顔を顰めて耳を塞いで周りを見るが、音が止むと同時にアサキが何かに気付いてその場を退避するようにしつつもアカシャの腰のベルトを掴んで引き寄せた。

 アカシャはいきなりのことにバランスを崩して床に倒れるが、文句を言おうとした刹那、大きな影が今まで立っていた場所を横切っていき、声を上げる間もなくその先にいた魔物、そしてさらにその先にいた盗賊とデニードが掴まれた。


「な、なんだ?! 離せ、離しやがれ!!」


 流石にパニックに陥ったのか、デニードが身近にいた魔物を切り刻み、なんとかそれから脱出して床に落ちる。

 大きな腕だった。魔物と盗賊たちを捉えたそれは手。

 紫色の大きな人のそれは、ギリギリと力を込め始めて潰していく。

 魔物と盗賊たちの悲鳴が合わさって響くが、そんな事を気にしている場合ではないと腕の先を確認したのだが、その瞬間に「べちゃっ」という音と共にデニードとその周囲に液体が落ちてきた。

 それに合わせてアカシャとアサキが上を見ると、大きな異形の顔が覗き込んでいた。

 垂れてきたのは唾液。そしてそれをまともに浴びたデニードが絶叫を上げる。

 じゅううぅう、と蒸発するような音と共に、デニードの体が爛れていくのが見えたのだ。

 ものの数秒で白骨化したのをみれば、その唾液自体はとてつもなく「ヤバイもの」とわかる。


「冗談じゃねえ!!!」


 言うが早いか、アカシャとアサキは駆け出して逃走を図るも、今度は足を取られてバランスを崩してしまう。

 確認するまでもなく、先程まで硬い石だった場所が柔らかくなっているとわかったのだが、立っていた場所はすでに床ではなく、胸の上だった。


「うせやろ」


 気付けば床だった場所は異形の体へと変化を成し、すでに元の静かなモノリスが立っているようなホールではなかった。


「これじゃあ檻じゃねーか!!」

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