開幕
私の妹は、可愛い阿呆である。
私を起こすために早起きをして、結局二度寝をしてしまうような阿呆だ。
「兄さん見て見て!」って言いながら私に駆け寄ってきて転んでしまう愉快な奴だ。
私は妹が大好きだ。
大喧嘩をしたことはあるかって?
一回だけあるな。
其の話はまた今度してあげよう。
さて、開幕だ。
「兄さん!」
小鳥のさえずりのようにかわいらしい声が響いて朝を迎えた。そばにはエプロン姿で頬をふくらませた妹。
今日も私は幸せだ。
「早く起きろ!遅刻しちゃうって!」
身長165cmの彼女は私より3つ下の中学三年生。名前は赤宮春子。毎朝私を起こしてくれ朝食まで作る完璧な妹だ。
・・・暴力的であることを除けば。
「ちょっとフライパンを私に振り下ろすのをやめてみようか、春」
そう、彼女はフライパンで人を殴ることが趣味なのだ。
本人は否定しているのだが。
「だ、だって兄さんが起きないんだもん!」
おおっと、春が照れている。これはチャンスだな。何のだか知らないが。
「春の照れた姿もなかなかに乙なものだな」
そういったらごみを見るような目で見られた。これも毎朝の日課だ。
「気持ち悪い!もう兄さんなんか知らない!」
「おいちょっと待て、せめて髪を整えてからいってくれ春!」
きょうも兄の愛は届かなかったか・・・
ため息をついて辺りを見回すと、床には散乱したメイク道具。これを毎日私が一人で片付けているのだ。「兄さん大好き!いつもありがとう!」とでもなりそうなものだが、そういう事を言うと、「兄さん、ちょっとリサイクルショップに行って、頭リサイクルしてきて」なーんてひどい言葉を投げかけられる。全くもって理不尽だ。
「父さん、母さん。春は最近反抗期です。困ったもんですよ。でも元気にやってます。」
幸せそうな写真に向かってつぶやいてから、私は家を出た。