ナンシーのテレビショッピング
「ハーイ、お茶の間の皆様こんにちは。今日もテレビショッピングのお時間がやってまいりました。
今日は、いつものスタジオではなく、屋外特設会場からお送りいたします。進行役を務めますのはお馴染みわたくしナンシー・ドイル。そして今日はゲストとして世界一の大男、サイラス・F・シュタインさんをお招きしております」
「ハロー。サイラス・F・シュタインです、初めましてナンシー、会場のみなさんもこんにちは」
「初めましてミスター・シュタイン、本日はよろしくお願いします」
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「ああ、サイラスで結構だよナンシー。こちらこそよろしく。それにしても実際に会うとテレビで観るより綺麗だね」
「ありがとうサイラス、とても嬉しいわ。それにしても大きいですねえ、身長はいくらくらいなのかしら」
「2メートル47センチ、故人だともっと高かった人もいるけど、生きている人間としてはギネス記録を保持しているよ」
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「わぁお。どうりで1メートル75のわたしが並んでもみぞおちあたりまでしかないわけよね。そこで今日は、サイラスのようにビッグな商品をご紹介しましょう。わがアメリカが誇るジーニアスモーター社の新製品『NF01』です」
---ナンシーがひもを引くと大きな白い緞帳がバサリと落ち、それに隠されていた巨大な物体が姿を現す。
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「わぁお。なんとジェット機じゃあないか。今まで『この布で囲われているのはなんだろう』と思っていたら、これが今日の商品だったとはこいつはビックリだよ」
「驚いたでしょうサイラス、あなたより大きい商品よ。そして当社史上最大の商品なの。テレビショッピング革命をめざす当社としては家電やアクセサリーばかり扱ってもいられないというわけなのよね」
「なるほど。さすがは『ゆりかごから墓石まで』をモットーにしているナンシーのテレビショッピングだけのことはある。それにしてもまさかジェット機とはねえ・・・・」
「厳密には少し違うのだけど・・・・。とりあえずは今回の商品、NF01のその機能からご紹介してゆきましょう。まず、優れた機能のひとつとしては水陸両用だということが挙げられます」
「なんだってナンシー、本当かい? それって、陸はともかくとして海にも潜れるって事?」
「ええそうよ、サイラス。NF01は深度5000メートルまで海中の航行が可能なの。その上、ジーニアスモーター社が特許を持つ特殊音波水流による推進方法のために、水上、海中ともに100ノットでの航行が可能なのよ。もちろん、NF01は陸上でも大活躍、公道ではタイヤでの通常走行で280キロまで、不整地ではキャタピラ走行に切り替わり、150キロで走行可能。戦車と同様に両キャタピラを反対方向に回すことにより超信地旋回も出来るの。回転半径はこのサイズに対しては特筆物のたったの12メートル」
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「わぁお。海ではリュウグウノツカイと、陸ではチーターとのランデブーが出来るってことだね。
でも、それだけ高性能ってことは操作方法とか難しくて大変そうだなあ。操縦士も雇わなくちゃならないんじゃないかい」
「ノンノン(チッチッチッ)、操作はハンドルとオートマチックレバー、アクセル、ブレーキなどの操作によるもので車の運転とほとんど変わり有りません。自動車運転免許が有れば誰にでも乗れるんです」
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「ちょっとコクピットに座らせてもらって、と。うわあ、ぼくが座っても余裕の運転席だよ、ナンシー。しかもこんな高性能マシンが自動車免許だけでオーケイだなんてすごいや」
「でしょう? サイラス。そのシートは身長120センチから世界一の大男まで対応しているの。某ネズミの国のジェットコースターよりも客を選ばないわよ」
「そいつはすごい、小学生から僕まで対応してるなんて」
「しかも、NF01の優れている点はそれだけではありません。深度5000メートルに耐える外殻と機密性は、核戦争用のシェルターとしても使えるんです。水と食料を貯蔵庫に満タンにしておけば、五人家族が二年は暮らせる設計になっています。さらに、先端のアンテナ部に別売のストロボをつければホラ、この通り・・・・」
「わぁお、デジカメとしても使えるんだ。家庭にコレ一台あればあとは何もいらないね、て言うか、これを家庭にしちゃえって感じ」
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「そうなの、まさに『かゆいところに手が届く』商品よね」
「うーん。NF01のすごさはよーく解ったけど、これだけの商品となると、ぼくら庶民にはとても手が出ない値段なんだろうナンシー?」
「普通はそう思うわよね。ところが今回はメーカーとのタイアップにより、この番組をご覧の方だけに二万台の個数限定で特別価格で商品をご提供させていただきます。さて、NF01の気になるお値段ですが・・・・」
---雰囲気を盛り上げるためのドラムが効果音として流れ、最後にファンファーレ。
「ジャスト百万ドル」
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「ええっ。言い間違いじゃないのナンシー。これがたったの百万ドルぅ? だったらぼくも一台買って帰るよ、会場のみなさんもこの機会に一台いかが」
「もちろん言い間違いなんかじゃなく百万ドルよ、サイラス。
そしてそれだけではありません。今回はさらに特典として先ほどの別売ストロボと、送料、税込みでジャスト百万ドル」
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「皆様、まだ驚くのは早いですよ。さらにさらに、今回は同じ商品をもう一台お付けして、二台でこの価格」
をおぉ (会場、どよめき、割れんばかりの拍手)
「ぼくも買って一台は田舎の母に贈るよ」
「親孝行なのねサイラス。さて。ギネスホルダー、世界一の大男、サイラス・F・シュタインもお気に入りのこの万能ジェット型機NF01に出来ないことは空を飛ぶことくらいです」
「それじゃあ墜落事故の心配も無いね。良くできた商品だなあ」
をおぉ (会場、どよめき、拍手)
「それでは受け付けを開始したいと思います。今回の商品『ジェット型機NF01(ノーフライトゼロワン)』の商品ナンバーと電話番号はこちら。皆様からのお電話お待ちしております」
あとがき
ども、purumiでございます。
ここに目を通してくれているという人は、本文も読んでくれたのだと思います。とても有り難いことです。
いちおう設定はアメリカということになってます。が、長さの単位は読者にピンとくるようにインチでは無くメートル表記にしています。
スピードも海のみノット表記で陸では時速はマイルでは無くキロ表記を採用しています。
こんなトコロに登録した割には『よーし、プロ作家になってやんぜー』とかいうスタンスでは今のところ無く、職場で昼食を済ませたあとの休憩時間にちょこっと楽しんで貰えるような物が創れればいいなあ、とかいう感じで。
ではまた、次回作(あるのだろうか(^^;)でお逢いできればうれし。