幕間 一人の少女のものがたり:第1話
昔々あるところに、一人の少女がいました。
こほん、こほん。
今日も咳をひとつ。
少女は生まれつき身体が弱く、いつもベッドの上にばかりいました。何をすることもできない役立たずだと、少女はいつからか自認するようになっていました。
そんな少女には、二人の味方がいました。
優秀なお姉さんと優しい義理のお兄さん。婚約者同士である二人は、互いのことなどそっちのけで、少女のことを可愛がっていました。
少女は二人のことが大好きでした。それは周りの人たちにとっても同じことでした。
ああ、彼女は役立たずの妹のことも愛している。なんて綺麗な心の持ち主だろう。
ああ、彼は血の繋がらない義妹にすら優しく接する。なんてできた少年なのだろう。
……あーあ、と少女は思います。
わたしは、二人の引き立て役なのだ。
姉さんと義兄さんが主役のものがたりの脇役なのだ。
決してわたしが真ん中に立つことはない。
わたしが『わたし』という役柄になることはない。
わたしは常に、『わたし』という誰かではなく、二人の可愛い『妹』なのだ。
ずくずくと胸が痛みます。
どうしてわたしはあの人たちにはなれなかったのだろう。どうしてわたしは妹に生まれたのだろう。どうして、どうして――
愛に溢れた家庭は、しかし少女にとっては鉄檻でした。
わたしがわたしであれる場所に行きたい。
その想いは日に日に強くなり――やがて少女は、外の世界へと飛び立ったのでした。