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 ギラついた目で僕を選んだという常盤さん。彼は続けた。


「瀬戸さんの書いた葵ちゃんや紫歌ちゃんが見てみたい。瀬戸さんの描く男性キャラはまだ見た事はないが期待はしてる。それがあなたに話を持ちかけている理由なんだ。ああ、あともう一つ、あなたがエロを描いている漫画家という事もある」


 それは……どういう事なんだろう? 前半部分は分かるのだが、後半部分がわからない。

 わからないから素直に続きを促した。

 常盤さんは言う。


「いや、深い意味はないよ。あなたが人気漫画家だったら、こんな素人の提案に乗らないだろうと言う事だ。勝手な思い込みかもしれないし、全員が全員そうだとは思ってないんだが、エロ漫画を描いている漫画家は、普通の漫画が売れなくて仕方ないからエロ漫画を描いている、いわば……都落ちした漫画家だと思っているんだ。だからこそ、ちゃんと報酬を用意して話を持ちかければ素人の話でも乗ってくれると期待しているんだ」

「…………」

「それでどうなんだろう? 瀬戸さんはこの話に興味を抱いてくれているのだろうか?」


 そう常盤さんが聞いて来た。

 それに対して複雑な気持ちが渦巻く。

 おかしな人だと思うし、おかしな話だと思う。結構失礼な表現もあったし、これでもプロの端くれとして、素人の無謀さに呆れるところもある。

 だが、

 

「そうですね……正直なところ興味はあります。少なくとも僕はその都落ちした漫画家なので……」


 それが僕の正直な所だった。

 僕の答えを聞いた常盤さんは、ニンマリと笑って話を続けた。


「では、具体的な話をするが、貴方にお願いしたいのは、私が書いた原作……無論、大元は轟先生なんだが、妥当な表現がわからないからあえてそう言わせてもらうが、私の書いた原作を貴方に漫画として完成させて欲しい。『漫画家になろう』でいうなら、私が木下君。君が田中君だ」


 この例え分かるかな? と常盤さんは聞いて来たが、ジャンプは今でも見てる。だから良く分かる例えだった。


「実の所、絵は全然駄目だったんだがネーム……ネームでいいのかな? とにかくネームは結構いい感じだと思っているんだ。もちろんこっちは素人だ。プロから見てこうした方がいいという意見は真摯に受け止めるつもりだ。そして、報酬の話だが、素人の思いつきに付き合ってもらう訳だ。しかも、先がどうなるかわからん。例えば轟先生が駄目だと言えば終わる話だしな。そういうハッキリとしない話に付き合ってもらう対価として、20万、契約金として支払わせてもらう。そして原稿料として1ページ1万円支払わせて頂く」

「……はい」


  僕は落ち着けと心中で唱えながら返事した。電話で聞いていたが、面と向かって言われると破壊力のある言葉だ。


「そして、ここから先は未定の話なんだが、まず瀬戸さんに3話ぐらい実際に『パンドラの契約者』を完成させてもらう。そして完成したら轟先生に原稿を持ち込み漫画を見てもらい『パンドラの契約者』を漫画にする許可をもらう。そして許可をもらったら出版社に持ち込みをする。そういう流れを考えている。全てが上手くいって『パンドラの契約者』が漫画化となれば、出版社の方から原稿料やら印税が入ってくるがそれは瀬戸さんが5割、轟先生が4割、私が1割という分配を考えている。まあ今からそんな事考えても仕方がないけどな。と、ここまでで質問はあるかい?」

「……そうですね」

 

 質問はあるかいと言われ、一度話を整理してみたが質問は意外にもあんまりなかった。

 確かに突拍子もない話だが、目的はシンプルに『パンドラの契約者』を漫画化したいから僕に作画をやってくれという話だ。そして、僕を働かせる為に金銭的な保障はきっちりとされている。

 また轟先生にしたって、これだけの熱意で自分の作品を漫画化したいと言われれば悪い気はしないだろうと思う。

 そして万が一成功すれば印税だって入ってくる。それを考えると轟先生が反対する事もないだろうと思う。

 だから、今一番気になっているのは三巻打ち切りのライトノベルを漫画化しても出版社が取り合ってくれるのかという事なのだが……。

 素直に聞いて見る事にした。

 

「もし、出版社が取り合わなかったらどうするつもりですか?」

「その時はウェイブ漫画としてネットに流そう。最近はネットから書籍化する作品も少なくないだろう? それでも人気が出なかったら諦めるしかないが、少なくとも轟先生と瀬戸さんは金銭的に損はしていないはずだ」

「常盤さんは結構なマイナスなんじゃないですか?」

「問題ない。本業は株式投資だ。瀬戸さんに支払う原稿料は、いわば趣味に使う金銭だ。車を買ったり世界旅行に行く代わりに貴方に支払うというだけで元が回収できなくとも問題ない。無論、元が取れるほど売れて欲しいと思っているけどね」

「なるほど……」

「別に今決めなくとも構わない。むしろ『パンドラの契約者』の1から3巻と私のネームを見てから決めてもらいたい」


 これは貴方にあげよう。常盤さんはそういってテーブルの上の『パンドラの契約者』三冊を僕の前に押し出した。


「ありがとうございます。でもこれがないと常盤さんが困るんじゃないですか」


 この小説の大ファンなら、何時でも手の届くところに置いておきたいのではないかと思ったのだが、常盤さんの返事は予想外だった。


「問題ない。私の家にはあと40冊ぐらい『パンドラの契約者』が眠っているから」

「えっ? ええ⁉︎」

「いや、三巻打ち切りを知った時にさ、なんとかならないかと思って、近くの本屋を回って『パンドラの契約者』を買いまくったんだ。まあ、当時はまだ株式投資で成功する前だったから数十冊しか買えなかったんだけどさ」


  今だったらもっと買えたのにな。そう呟く常盤さんを呆れた目で見ていると、


「おいおい。そんな変な人を見るような目で見るなよ。今時、アイドルのCDを何百、何千と買う奴なんていっぱいいるだろ? それに比べりゃ何十冊なんて可愛いもんだろう?」


 と、言われた。正直五十歩百歩に思えた。

 むしろ、こうやって漫画にしようとする常盤さんの方が上なんじゃないか? などと考えていると、常盤さんは鞄の中から紙の束を取り出した。


「で、これが私の書いたネームだ。3話分ある」


 僕はそのネームを受け取り、そして1ページ目を見ただけで絶句した。

 それは例えていうなら子どもの落書きだ。下手すぎる。よく、これで漫画を描こうという気になったなと思うぐらいに下手だ。何ページかペラペラとめくってみるが、登場人物が男か女かすらわからない。背景もグチャグチャしてわからない。

 そのとんでもないネームを受け取り、絶句している僕に、


「いや、絵の方は少し駄目だけどさ、ストーリーの方は上手く原作を表現できていると思うんだ」

 

 常盤さんは自信満々にそう言った。

 


 

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