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飲み物を注いで戻って来た常盤さんと改めて向かいあった。


「それでは本題なのですが、電話で話した通り、ライトノベルの漫画化をお願いしたいのです」


本題に入った常盤さんだが、僕はその前に気になる事があった。


「あの、どうして僕なんでしょう?」

「? どうしてとは?」

「え、えっと・・・常盤さんとは初対面ですし、僕は、その・・・ありていに言って売れない漫画家なんですが、何故そんな僕に仕事の依頼を?」


われながら卑屈なものだと思う。漫画を描いてくれと頼まれているのたから任せておけと胸を張ればいいのに、自分から売れない漫画家などと言い出すのは、漫画の出来が悪かった時の予防線を今から張っているみたいじゃないか。

いやみたいじゃないな、実際張っているんだ。

そんな自分の内心にちょっと自己嫌悪に陥りそうだったのだが、幸か不幸かそうはならなかった。・・・それどころじゃなくなった。


「私が君を選らんだ理由ね・・・・それはこれだな」


そう言って常盤さんは隣のカバンから雑誌を取り出した。

僕はその雑誌の表紙に見覚えがあった。

まず右上に『おいでませ♡ 桃色学園祭♡』とあった。そして学校の廊下を背景にカラフルな髪の色の女の子たちが上着を着ていなかったり、スカート履いていなかったり、下着をつけていなかったり、ピンク色の物体を持っていたりとあられもない格好をしていた。

うん、何年か前に僕が初めて描いた成人雑誌の表紙だ。

それを、常盤さんは大絶賛した。


「いやー、エロいよねコレ。どの娘も可愛いし表情もいい笑顔してるよ。制服とか下着とかも凄く良く描けているしさ。私はさ、こういうエロ漫画は単行本派で雑誌の方は見向きもしないんだけど、この表紙をみて、即レジに並んだよ。こういうの描いた本人に言うのはアレなんだけど、この表紙には何回もお世話になったよ」


あっはっはっは。

そんな擬音が聞こえてくる様な笑顔で僕の描いた絵を褒める常盤さんをみて、僕はなんとも言えない気持ちになった。本人に言うのもアレだろうけど言われる方はもっとアレだ。

かろうじて「・・・ありがとうございます」それだけを言った。


「そして、これを見たときに思ったんだ。この絵を描いた作者さんに『パンドラの契約者』の漫画化をお願いしようと」


そう言って、更に三冊の本をカバンから取り出した。

『パンドラの契約者』、これが僕に描いてほしいという小説なのか。

一巻の表紙には背中合わせの男女が描かれている。あまり恋愛という感じじゃない。どちらかと言うと戦友、相棒、そんなイメージを与える表紙だ。


「これが私が漫画化してほしい小説なんだけどね、最初に断っておくけどこれ3巻で打ち切りになった小説なんだ」

「ええ?」


打ち切り? 全然駄目な奴じゃないか? そんな思いが顔に出ていたんだろう、常盤さんは慌てて言った。


「勘違いしないでくれ! この話面白いんだ! 超面白いんだ!一巻から三巻までどれをとってもハズレなし、しかも続きが気になって仕方がないおまけ付きなんだ。この小説が売れなかったのはきっと、ほんの少し今時の流行から外れていたり、始まりが地味だったりで倦厭されただけなんだ!しっかりと読めば、ちゃんと面白い、隠れた名作なんだ!」


その必死さに、常盤さんがこの小説を心底好きだという事は伝わった。だからといって万人向けするかどうかはわからない。


「わかりました。後で読ませてもらえますか?」


僕の言葉に常盤さんは嬉しそうに頷いた。


「もちろんだ!というより、これを漫画化するのだから瀬戸さんには何百回と読み込んでもらいたい」


何百回はちょっと・・・と思いはしたが口にはしなかった。代わりに疑問に思う事を聞いた。


「ところで、常盤さんはこの小説の作者さんとはお会いした事はないそうなんですが、著作権などの問題はどうなっているのでしょうか?」


「それか・・・一応描くだけなら問題ないと思っている。じゃなきゃコミケとかあそこら辺全部駄目だろう?その上で後で轟平太先生に確認を取るつもりなんだが・・・・少し待ってくれないか」


そう言って常盤さんは考えこんでしまった。

そして、1分ぐらい経過して、考えがまとまったのか口を開いた。


「この話ははっきり言えば、私の個人的なものなんだ、しかも、ちょっと前まで私は普通のサラリーマンでね、漫画業界にも小説業界にも詳しくない。だからかなり変則的な話なんだと自覚しているんだ。瀬戸さんからすれば、まだ意味不明なことがたくさんあると思う」

「はい」

「ただ電話でも言ったけど、そこら辺の問題はなんとかなると私は思っているんだ。でも、私が分かっていても瀬戸さんに分かってもらわなきゃ意味がない。だから何故私がこの小説を漫画にしたいのか、これから何を目指すのか、金銭的な事はどうなのか、それらを今から説明させて欲しい」

「はい」


願っても無い話だ。今のところよくわからないところが多すぎる。


「ただねぇ、私はサラリーマンだったのだけどただのヒラ社員だったんだよ」

「はあ・・・それが何か?」

「ヒラ社員の仕事はだね、上から言われた事をはいかイエスで答える事でね、要するに私はあまり説明するのが上手くないのだ。そういうのは上の人間の仕事だったから。だから、上手く要点を纏められず長ったらしい話になるかもしれないけれど、そこは勘弁して欲しい」

「わかりました」

「では、何から話そうかな・・・そうだな・・」

「あ、ちょっと待ってもらえませんか?お話の前にお願いがあるんですが?」

「何かな?」

「先にその雑誌をしまってもらえませんか? ここファミレスですし・・・」


僕は先ほどから気になっていたのだが、常盤さんが一向にしまう気配がないので口を出した。

いい加減しまってくれないと、僕は二度とこの店に来れなくなってしまう。

常盤さんは、一瞬キョトンとしたが、


「いやー、スマンスマン」


笑いながら雑誌をカバンにしまってくれた。




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[気になる点] 常盤さんが敬語とタメ語が混ざってて気になる
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