表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

3ページ

常盤さんと電話した翌日の昼下がり、僕は近くの駅前で常盤さんが来るのを待ってた。

ここで待ち合わせて、近くのファミレスで話し合いという段取りになっている。

昨日の今日で急ぎすぎだと思えるのだが、常盤さんは一刻も早く僕に会いたいらしい。

そんな常盤さんに期待と不安が半々というところだ。

そして、電車がやって来て、人が降りてきた。


突然、電話が鳴った。


「はい、瀬戸です」

「常盤です。今着きました」


電話をしながら改札から出てくる人達を眺めていると、1人スマホで電話しているであろう人がいた。

ずいぶんと背の高い、それでいて細身の男だった。スリムというよりひょろい。そんな印象を受ける。

その背の高い男は電話している僕に気がついて近寄ってきた。


「あなたが瀬戸さんか?」

「はい。常盤さん?」

「ええ常盤です。これからよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」


僕は常盤さんと挨拶して、改めて相手を見た。

第一印象はやはり背が高い。そしてだいたい同じ年ぐらいじゃないかと思う。そして、サラリーマンみたいにスーツに白シャツだった。でもネクタイはしていない。ちょっと早いけどクールビズかな? そして、手には通勤カバンを持っていた。

一見すると、ちょっと砕けたサラリーマン。そんな印象の男だった。

そして、相手がスーツなのを見て、失敗したかなと思った。僕の方はカジュアルな服装だったんだ。いや、編集さんと打ち合わせする時こんな感じなんだけど相手がスーツ着てるとね。斎藤道三もこんな感じだったのかな?

そんな感じで、ちょっと心配したんだけど常盤さんは気にした風はなかった。


「じゃあ、まずは座ろうか?」


僕たちは歩いて1分のファミレスに歩き出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


僕たちはファミレスには入りフリードリンクを頼んだ。その際に、


「今日は私の都合で来てもらったので支払いは私が」


そういわれた。

まあ、流石に何百円を惜しむほど困窮してはいないけどありがたく受ける事にした。

各々が飲み物を持ってきて、話し合いの態勢が整った。


「改めて自己紹介させて頂きます。常盤です。自称だが投資家を名乗っています。株式投資を専門としています」

「はあ・・・」


僕は彼の自己紹介に困惑した様な曖昧な返事しかできなかった。

いや、実際投資家なんて今まであったこともないし、投資なんて物に関わった事もないんだ。完全に畑違いの人間だと思う。そして自称ってなんだ?公称だと違うのだろうか?

そこらへん疑問が山ほどあるのだが、同時にちょっと納得できる所もあった。まず真っ先に報酬の話しを持ち出したり、ファミレスの支払いを事前に明言しておくなり、なんとなく投資家らしいと思う。

とにかく、はあ・・・の一言だけというのもあれなので、頑張って合わせようと思ったけど、これが大失敗だった。


「投資というとニュースでやっている円安とか円高とかあんなやつですか?」

「それはFXだ!」


飛び跳ねんばかりの常盤さんの勢いにグラスの氷がカチャンと音たてた。


「え?」

「円安、円高が関わってくるのはFX投資だ!そして私は株式投資をしている株式投資家だ!」


そんな事を言われても違いなんて分からない。そして、後で後悔する質問をしてしまった。


「それってそんなに違いがあるんですか?」


言外にどっちも同じ投資でしょう?そんなニュアンスをただよわせた一言はより、相手を激昂させた。


「違う!全然違う!大違いだ!いいかい?FX投資というのは、とどのつまりギャンブルなんだ!」

「ギャンブル?」

「そう!ギャンブル!レバレッジなんて横文字でかっこいい言葉で誤魔化しているがね、あれは要するに借金だよ借金!借金して投資に注ぎ込んでいるんだ!持論だがね、借金してまでやる投資はギャンブルと変わらない・・・いや、破滅を背中に抱えた自殺行為だと思うのだよ!なあ⁉︎君もそう思わないか⁉︎」

「それは・・・そうだと思います」


話しの半分、いや3分の1も理解できないんだけど、僕は頷いた。レバレッジってなにさ?


「だろう! 対して株式投資は現金のみで行えるんだ。いや、信用取引なんて糞みたい制度もあるんだがそれは置いといて、とにかく現物だけで投資する・・・つまり借金を作る可能性のない堅実な投資方法なんだ!つまり私は堅実な投資家なんだ!」

「・・そうなんですか」

「そうなんだ!私は堅実にやって来たからこそ、リーマンショックで資金が半分になっても、買った会社が倒産しても借金に陥ることなく投資を続けてこれたんだ!そんな謙虚で堅実な私をよりにもよってFX投資家だと⁉︎いつから私は自殺志願者になったというんだ⁉︎」

「すいません!もう二度と言いません!」


僕はとっさに謝る選択肢をとった。いや、そもそも常盤さんの事を僕はFX投資家だなんて言っていないんだけどね。そして、素人の僕にはリーマンショックで資金が半分になるとか、会社が倒産するとか到底謙虚とも堅実とも思えないけど、そこはスルーした。全力でスルーした。そこで言い合う事に意味はない。


「全く、これから私と君は長い付き合いになるのだからね。今後は二度とFX投資家などと言わないでくれ」


そう言い終えると、喉が渇いたのか自分のコーラを飲み干し、おかわりを注ぎに席をたった。

・・・。

・・・・・。

つ、疲れた。

まだ、本題に入ってもいないのにそう思った。

そして、


「あんまり、長い付き合いとかしたくないなぁ・・・」


それが、常盤さんに対する僕の第一印象だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ