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二、わけがわからない紆余曲折

「何だ、お前。こんな問題もでないのか?」

「うっさい!教える気があるなら教えろ。それ以外で口きくな」

「んだよ、てめぇその態度…ミキサーにかけて近所の猫に喰わすぞボケが」

 

ッチ、とどこぞのヤーさん並に大袈裟な舌打ちをし、俺の兄貴は席についた。

 

現時刻、夕食も風呂もとっくに終わった午後九時五十三分。

俺はさすがに昼のテストがやばかったので、珍しく兄貴に教えを請うことにして現在に至る。今の会話で察して貰えたと思うが、俺の兄貴はキレるとその辺のチンピラより質が悪い。

おまけに短気なモンだからどうしろってんだ。


怒らせなければいい話なのだが、何かうざいんだよ、俺の兄貴。

兄弟を持っている人は分かると思うが、無意味にうざくなることがあるのだ。

特に下の弟や妹になるにつれ、兄や姉の良い小間使いとなるのがオチでその幼い頃の記憶がウザさを倍増させていると俺は考えている。


「下らないこと言っていないで、さっさと始めるぞ」

「何でそう急にキャラ変わるんだよ」


今に始まった事でもないが…。俺は痛む頭を押さえつつ、今日のテスト問題を広げる。

そして分からなかった問題にチェックを入れ兄貴に見せた。

無言で受け取り、黙読する。ちなみに科目は英語。


「っは」

「頼むから、その人を小馬鹿にしたような笑い方をやめてくれ。殺意が湧く」

「お前に俺を()れるだけの力があんのか?」


ねえな。諦めに近い溜息をつき、俺は頭の後ろで手を組んだ。

俺がこうもあっさり負けを認めるのにはいろいろ理由がある。

第一に、兄貴は高校の空手部主将を務めていたことがあり、その実力はかなりのもので全国大会で優勝した経歴の持ち主だからだ。俺も剣道をやっているが、素手となると向こうが絶対的に有利だしな。

第二に、精神的な意味でも兄貴に勝てるとは思えない。さっきのドス黒いセリフ聞いただろ?まともな神経してねぇよ。


「俺のことをとやかく言う前に、お前は自分の学力をどうにかしろ」


そう言って何やら書き込みがくわえてあるテスト用紙を差し出された。


「お前は基本からできてないんだ。まずは単語を覚えろ。そして基本の文法を頭にたたき込め。発展問題はそれを完璧にしてからだ」

「…兄貴がまともなこと言ってる…」

「ぶん蹴るぞカスが」


うわ、自分の弟をカス呼ばわりしやがったよ、こいつ。

何てことは口が裂けても言えず、俺は礼を言って自分の部屋へ引き上げた。


「ったく、兄貴といると疲れるな」


俺はばったりベッドに倒れ込んだ。そして、例のテスト用紙を見つめる。

文法問題にはしっかりどういう理屈でその文章になるのか、熟語が抜けているところはしっかり埋めてあって意味や使うときの決まり事も書いてある。長文はポイントを押さえてラインが引いてあるし、難しいところは日本語訳までされている。


何だかんだ言っても、良い兄貴だ。


「あのドス黒さがなけりゃな」


と、呟いて俺はふと窓を見た。今日は新月だから、月なんか見えやしないけど。と、思いながらも夜空を見上げるのもなかなか青春っぽいよな、なんて―――――――


「……………」


そこにあったのは、人の手首。ベタ、とガラスに押しつけてあり、手首の下はここからでは見えない。


 気持ち悪い冷や汗が背中を伝った。


いやいや、落ち着け俺。

この世に幽霊なるものは存在しないし、化け物も存在しないんだ。

そんなものが正式に認められれば、世界の科学者がどうなると思っているんだ。

パニックどころの話しじゃないぞ、よし自己暗示終了。


そして、俺はもう一度窓の外に目を向ける。



目が一つ、ギョロリとこちらを覗いていた。



「ぎゃあァァァァ!?」

 

多分、1メートルぐらい上に飛んだんじゃないだろうか。

そんなことを思うぐらいに俺は驚いた。というかビビった。


これはもう信じる信じない以前の問題だ!

若干腰が抜け気味になっているが、床を這って移動し、俺は部屋の扉に手をかけた。


これで外に出られる!と思った瞬間、勢いよく扉が開いた。

それと同時に俺の顔面に堅い物がぶつかる。


「うっせえェェェェ!」

「げふッ」


そこから入ってきたのは、言うまでもなく俺の兄貴だったり…。


「てめェ、今何時だと思ってんだッゴラァ!」


その様子はもう借金取りのヤーさん並にパンチが効いており、幼児が見れば泣き出すより先に叫び出すんじゃないか、というような極悪面。現に俺は今ちょっと泣きたい。


いやいや、今は兄貴にビビッている場合じゃないな。


「あ、兄貴。窓の外に、人がッ…」

「ああ?」

 

しかめた顔を窓へ向ける兄貴、しかし、


「んなもんねェじゃねえか」

「いやいや、絶対さっき…あれ?」


確かに、窓の外には何もない。おかしい、さっきは二度も見たのに…

俺は首をひねった。


「なんだてめェ?この程度で俺がビビるとでも思ってんのか?」


ドスのきいた声、ああこりゃそうとういらついてるな。まあ、俺が原因なのだが。


それにしても、この場をどうとりつくろおうか。

あったことをそのまま話しても、

「ついに頭のねじが外れたか。ついでにもう四、五十本外すか?」

と、握り拳を構えて言われそうで怖いな。よしここは、


「貴様を驚かすためにきまっとるじゃろ、気付け極悪面」

「はァ?」

「!?」


兄貴が握り拳を構えて歩み寄ってくる。って待て待て待て!


「言うようになったじゃねェか…」

「お、俺、何も言ってない!言ってないから!いや、ホントに!」

「ほざけ」




数分後




「せいぜい己の無力さを嘆けボケ」

「…す、すんません、でした…」


兄貴はそう言い捨てて、俺の部屋を去っていった。


「いってェ…何で言ってもいないことで殴られなきゃなんねェんだよ…」


見事なまでに急所だけ狙って殴ってきてたよ、あの兄貴。

なんとかギリギリ避けていたけど。


 っつーか、さっきの声って…


「にしても痛い!」

「お前も良い兄貴をもっているんじゃな」

「どこが良いいんだよ、あんなヤーさん兄k…って、え?」

 

振り返ると、そこにいたのは…


「いや、あんなバイオレンス兄貴を持った奴を見るのも、久々じゃな。…そうでもないか、三日前に(あかり)姉弟の一件があったから…よかったの、あの程度で許す兄貴で」

「灯姉弟って誰だよ、つーかまずお前が誰だよッ!?」

 

そいつは黒と白の混ざった短い髪をした奴で、左目が完全に前髪で覆われていた。

女か男かよくわからん外見、顔立ち。歳は俺より二つ三つ下といったところか…


そいつは腕を組んでこちらをバカにしたように見ている。

なんだ、こいつは。何でこんな偉そうなんだ、何で仁王立ちなんだ。


そして一番気になるところは…


「念のため聞いておくが…その腰に付けてるのは…まさか本物じゃねえよな?」


そう、そいつは腰に日本刀のようなものを下げていた。

どう見ても飾りではなく、重さもそれなりにありそうな刀…つか犯罪だろ、それ。


俺がそう言うと、そいつはしれっと、


「本物でなければ、どうやって闘うというんじゃ」

「………………………」


いかんな、俺の耳は日頃のヘッドホンで音楽を聴く習慣によりとうとういかれたようだ。

皆も十分気をつけろよ、俺のようになるからな。


「お前の耳はいかれていない。俺は確かに言った」


ならなおのことやべーよ。俺は頭をかきながらそう思った。

何なんだ、こいつは。人をおちょくって楽しむ質の悪いガキか?


しかし、それにしては…そいつの目は冗談を言っているようには見えない。

というより、どこか圧倒的な力を持っているようにも見える。


って、俺はどこぞのキャラ説野郎か。


まあ、言い訳をするようだが、そこまで大層なものではない。

今改めてみるとただの黒い目だしな。


「で、俺に何か用か?ないならとっとと、」

「二年五組出席番号十六番、佐久間祐」


………………………

マジで何なんだ、こいつ。俺は少しずつイヤな予感がしてきた。


普通、ただの悪戯目的で出席番号まで調べるか?

あらかじめ知っていたという可能性も無くはないが、俺の知り合いにこんな意味不明な奴はいない。はっきり言おう。

 

気味が悪い。


「まあ、決まってしまったものは仕方がない。お前には、俺の案内人(ナビ)を努めてもらう」

「何言って、」

「俺の口から説明するより、お上から聞く方が早いじゃろう。行くぞ」

「だから、何、ぐお!?」


もの凄い力で服の襟を掴まれた。そして、ベランダの方に連れて行かれる。

っていうか、ベランダ開けてたからこいつは入ってこれたのか…何で開けっ放しにしたんだ俺のバカ!


「男がそんなことを言っても、可愛くもクソもないじゃろ」

「ほっとけ、っていうか、何でベランダからなんだよ!?」


ここは二階だ。死ぬことはないかもしれないが、完璧に骨折はする。

そもそもこいつは俺をどこに連れて行こうというのだろうか…少なくも、俺が得をするとは思えない。

 

というわけで、


「行ってたまるか!」

「…」


俺はベッドの脚に捕まり、必死で抵抗する。

もし得体のしれない場所に黙って連れて行かれるような奴がいたとしたら、そいつはよほどのアホだ。そして俺はそこまでのアホではない。

と思いたいが…


「…」


奴は俺を好奇の眼差しで見下ろし、パッと手を離した。

まるで、新しいおもちゃをもらった子供のような視線…いや、違う。


これはそんな可愛らしいものじゃない!


さしずめいたぶる相手を見つけた性悪野郎が今まさにそれを始めようとするような…


「…ッケ」

「は?って、うお!?」


ドカッという鈍い音が鳴ると同時に、俺は宙を舞った。

しかし、俺の手にはしかとベッドの脚が握られていてって…


「ちょ、待ッ!?」


俺はベッドと共に宙を舞っていたのだ。

急激に落下する俺の目の端に、ニヤリとほくそ笑むあいつの姿があった。

それも、サッカーでシュートを決めた直後のような姿勢。こいつ、まさかッ…


ドスン!ベシッ!


「いってェ…」


ベッドが先に墜落し、俺はその直後に顔面から落ちた。当然、手は離れる。


「…こいつ、化け物かよ…」

 

さっき、こいつはきっとベッドを真上に蹴り上げたんだ。

そうすれば俺は自然と手を離すだろうしな…。

俺は痛む顔面を押さえつつ、奴の見上げた。


すると、


「鼻血が出てるぞ。何に興奮したんじゃ、中二男子かお前は」

「お前のせいだろうが!」


なに「自分関係ないよ、この人が勝手にしたんだよ」みたいな方向にもっていこうとしてんだ!


「紙やろうか?」

「いらん!」


そんなバカをやっているうちに、階段を駆け上る音が聞こえた。

しかも、かなり音が荒い…


「やばい、兄貴が来たッ」

「なら、急ぐぞ」

「いや、だから俺は行かな、ぐげッ」


俺の顔面に見事なパンチが入り、前からやばかった鼻血がさらに出始める。

つーか、何半端なく痛い…


「今度こそ、行くぞ」

「…」

 


俺はもう、何も言わなかった。これ以上鼻血を出すのは御免だ…。

そしてここにいて兄貴に殴られるのも御免だ…。やべ、ちょっと泣けてきた。


そんなことを思っているうちに、いつの間にかベランダはすぐそこ。

そして、兄貴の足音もすぐそこ。


「おい、そろそろ…」


と、俺が言いかけたところで、そいつは宙に手をかざした。

そして、何事か呟いた瞬間、

 

 

ベランダの外はただの暗闇と化し、隣の家は言うまでもなく、すべての物が消えていた。



「お前…何したんだ…」

「説明はあとじゃ」


そいつがそう言った後は、例にならって襟を掴まれ俺たちは暗闇へ身を投じた。





「…い」

 

「…おい」

 

「起きろ鼻血野郎」

「誰が鼻血野郎だ!って、…ここ」


そこはすでに、俺の全く知らない場所だった。というか…


「何なんだ…こいつら…」


起き上がった俺や奴の周りには、人がごった返していた。

その半分ほどが妙な剣やら拳銃、バズーカを所持している。

かと思えば、不安げな顔、好奇心丸出しの顔、泣きそうな顔、何故か得意げな顔もあったりして…わけがわからん。

 

首をひねる俺に対し、奴はあっさりこう言った。


「ここにいる半分は、俺の同業者じゃ。もう半分はお前と同じ案内人(ナビ)

「…どういうことか、詳細を話せ」

「俺が話さなくても、今からお上が説明するじゃろう」


俺は痛む頭を押さえた。

まず、突っ込み処が多すぎるところから説明してほしい。


お上って何だ?同業者って、こいつは何をしてるんだ?案内人?観光でもする気か?

っつーか、闘いってなんだよ。もうわけわかんねェよ。


 というような感じでそんなこんなしていると…


「あーあー、テステス…なっちゃーん、聞こえるー?…あ、聞こえてる?え?名前呼ぶな?でも、なっちゃんが確認しろって…え?私語はマイクきってしろ?あはは、もう遅いって」

 

頭がおめでたそうな二十歳過ぎぐらいの男が、なにやら台のようなものに上がっていた。

っつーか、どんだけグダグダなテストだよ。


「直令組の赤崖(あかがい)じゃ、情報組の夏喜さんも大変じゃな。あんな部下を持って…」

「それよりも、勅令組とか情報組って何だよ」

「直令組じゃ。それもふまえて赤崖が話す。よく聞け」

 

何で命令口調なんだよ…。

俺はそう思ったが、今の状況を理解するにはそれしか方法がないらしい。

嘆息しつつも、俺は赤崖とやらの言葉を待った。


「まーそういうわけだから、とりあえず皆座ってくれ!」


そう朗らかに笑う赤崖。いろんな意味でただものじゃないな、あの人。

周りの人たちが座り始めたので、俺もそこらへんに適当丸出しで置かれている椅子に座ろうとした。が、


「座るな」

「あ?何で、」

「うわァァァあああ!?」

「きゃァァァああああ!」


何故か、そこら中から悲鳴があがっている。

俺は冷や汗をかきながら、あたりを見渡した。


辺りには、まるでゴミ箱に座ろうとして失敗し、体がゴミ箱から抜けないよ状態になっている人が続出していた。


…俺のこの説明でこの状況が伝わっているのかイマイチ自信がないけどな。一体、ここの責任者は何がやりたいのだろう…。


「赤崖のやりそうなことじゃ。この椅子、軟式ゴムマットでできている」

「軟式ゴムマット?」

 

奴は腕を組みながら頷いた。


「俺たちの時代の産物じゃ。ゴムを溶かしに溶かし、それを…まあ、理屈は分からんがその特殊ゴムをマット状にし、台のない椅子などに貼り付ける。そしてそれに座ると体が沈み、ああなるんじゃ」

「へェ…って、俺たちの時代?」

 

そうじゃ、奴はそう言って、俺を真っ正面から見据えた。



「俺たちは、お前達の時代より三百五十年後の未来から来た」



続く…



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