4 端的な印象
コンビニに寄り夕飯を買い、自室に着いてひとまずベッドに腰かけ、左に倒れる。
「あー……腹減った。飯、食わないと……」
二、三度繰り返したまばたきが、まどろみに変わる直前、心臓が早鐘を打ち始めた。
明日がちらついてしまった。
「気管切開、喀痰吸引、四肢麻痺、経管栄養、パソコンでの意思疎通……」
喀痰吸引は何度か先輩がやっているのを見たことがある。
「それを自分でやるって……どんな無理ゲーだよ」
部屋のそこかしこに積まれたゲームや漫画などの未開封のオタクグッズを、横になったまま薄目で眺める。
しばらく遊んでない。
「……帰ったら食って寝るだけとか、人生クソゲーすぎるな」
明日なんて、来なければいい。
ピピピピッ、ピピピピッ――ベチン。
「……飯食うの忘れてた」
至ってシンプルな置き時計の目覚まし音に起こされ、ムクリと起き上がる。何も考えずシャワーを浴び、着替え、菓子パンひとつ口に突っ込んで部屋を出た。
ワンルームの寮から数十秒で職場の更衣室前に到着すると、一足先に更衣を済ませた同期の伊藤さんと目があった。おはようございます、と固く会釈。
「おはよ、いつも以上に猟奇殺人犯みたいな目ね」
「いつも猟奇殺人犯の目で更に今ヤバいのか……ひとつ聞いていい?」
「?」
「武沢さんって、どんな人?」
「あー、今日がそうなんだ――しんどいよ」
「……そう、ありがと」
「どういたしまして」
伊藤さんのざっくりと端的な、しかし重みのある返答に小さくうなずく。それ以上の答はないらしく、階段に向かう伊藤さんを横目にドアノブを捻った。