梶音
幕末をイメージした異世界ものです。名前はすべて創作ですので、多少おかしいこともありますが、お気になさらず。
「鉄砲隊、撃ち方用意!」
後ろに従えた鉄砲隊が、前の暗殺者達にその銃口を向ける。
私は狙いを指し示すべく、剣の切っ先を暗殺者達を向ける。
「撃て!」
私のすぐ脇を火縄銃の鉛玉が通っていく。暗殺者達は次々に倒れて、やがて誰も動かなくなった。
倒れた奴らに近付く。かすかな呻き声が聴こえる。
私はその声の主の喉を掻っ切って殺した。血が噴き出る。他の、まだ息の根のある者にも同じことをしていく。
最後の一人の喉を掻っ捌こうとして、私は手をとめた。
「御苦労だったな、天羽」
最後の一人となった青年は、端正な顔を苦し気に歪めながらも笑った。
「戦いは終わらぬ。俺の思想を受け継ぐ者に、この魂は継承されるのだよ」
「ふざけたことを」
血が滴る刀を、青年——天羽の首に当てる。
「終わりだよ」
ぐっと力を込めると、天羽の首はあっけなくその体から離れた。吹き出す血が、私の足に付いたのが分かった。少し落ち着いてみれば、掌も顔も、どこも血を浴びているようだった。
これにて暗殺者討伐は終了。
満足してその場を離れようとした時だ。
「梶音様」
呼ばれて振り返ると、提灯を持って佇む少女がいた。はて、誰だったか。
「斎院と申します。帝がお呼びになっておられますので、ご同行願います」
眼光が鋭い、気丈そうな少女だ。確実に見えているであろう目の前の死体の山にも、一切動じていない。
「帝が?」
「はい。服装を改める必要はないと仰せつかっております」
改める必要はないといっても、酷い服装である。先程は暗闇で気付かなかったが、衣も血塗れである。
「この恰好で帝のお目にかかるとは……」
「お急ぎの様ですので、気になさらないでくださいませ」
少し苛立った様子で、斎院が言う。
「分かった」
良いというのなら、良いだろう。私は斎院の後ろについて、歩き出した。生温かい風が、あの死体の山から鉄臭い臭いを運びながら、私の頬を撫でていった。