すとーかー?
「えっと・・・たしか僕たちと同じ大学の2年生で、毎朝6時半の電車に乗ってる。好きな食べ物は蜜柑とシーザーサラダ。嫌いなものはチョコレート。好きな色は黒とミントグリーン。・・・今のところはまだここまでしか分かってない・・・」
僕がはぁ・・・とため息を吐くと、目の前に座った僕の親友も大きくため息を吐いた。
僕のはショックの溜め息。親友は呆れたときの溜め息。
「お互い一言も喋ってないのにそこまで知ってたらもう十分じゃない。」
「そーかな?」
ストローに口を付け、最後のオレンジジュースを飲み干す。
親友は立ちあがり、少し離れたところに置かれていたボトルに手を伸ばした。
「そーだよ。ていうかさ、いっつも思ってたんだけどあんたそんな情報どっから入手すんの?」
ボトルのキャップを外し、僕の空いたグラスにとぽとぽと注いでくれる。
「まさか・・・ゴミとか漁ってないよね?!」
「それはしない。僕のプライドが許さないもん。」
他人のゴミを漁るなんてとんでもない。
僕の応えに親友は再度溜め息を吐き、椅子に腰掛ける。
「じゃあ・・・どうやって?」
僕は一口オレンジジュースを飲んでから、「んー・・・」と前置きした。
「そうだな・・・名前は、同じ大学だから知り合いに聞いた。で、好きなものとかは、朝倉さんの友達が話してる中から知った。あ、そうだ。朝倉さんの誕生日も言ってたな・・・たしか4月1日。書いとかなくちゃ・・・」
椅子の背にかけておいたショルダーバッグから手帳を取り出しメモをする僕を見て、親友はグラスに口を付けながら「ふ〜ん」と言う。
「・・・君ね、そういうの世間でなんて言うか知ってる?」
ジュースを一気に飲み干し、親友はその細くて長い綺麗な人指し指を僕に向けた。
「人を指さしてはいけません〜」
僕がその指を持つと、親友は空いた手を額にあてた。
「まじめに訊いてるの。君、犯罪者になりかねないよ?君みたいのをね、ストーカーってい・う・の!」
僕の手から逃れた指で、親友は僕の額をつんつんと突っつきながら僕に迫ってきた。僕は額を擦る。
「しつれーだな〜・・・僕はストーカーじゃないよー。」
「今までのことも考え合わせるとあんたには十分その要素があります。あたしゃあいつあんたがゴミ漁りを始めるかと思うと不安で不安で・・・」
後半少し演技がかった口調で言うと、親友は立ちあがり、カーテンを閉めに窓辺に近づいた。
僕はそんな親友の背中を見ながら、ジュースを飲む。外国産のオレンジジュース。甘酸っぱくて美味しい。
「・・・その癖、直したほうが良いような気がする。」
しばらくの沈黙を経て、不意に親友が口にした言葉に、僕は無意識に唇を尖らせてしまった。
「やっぱり・・・さ・・・こんなご時世だし・・・不審者扱いされて叶う恋も叶わなかったら、僕は辛いよ・・・?」
親友として。
振り返って微笑む親友の顔は、背後からの残った太陽光に照らされ陰になる。
僕はそれを見てから、立ち上がって台所にグラスを洗いに行った。
分かってる・・・ありがと。
声は出なかったけれど、僕は親友に感謝した。
君と仲良くなれたのはこの癖のおかげなんだけど・・・と思ったけれど、それは顔には出さないようにした。