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偽りの光明

町中に溢れている喜びの色は、きっと今迄の不安を押さえ付けて現れた分、これ程までに、熱狂と言っていい程に膨れ上がったんだろう。

昨夜、勇者と呼ばれた青年とその仲間達が、長年この世界に陰を齎していた魔王を討った。この町へは王都に向かう道中で寄ったらしいが、それでも大変に光栄な事だと大人達は興奮して言っていた。


僕は魔王を知らない。生まれた時から世界は大体変わらない。魔王がいなくなれば貧困がマシになるらしいけど、それってどれくらいなんだろう。経験がない分、期待も薄い。

昨夜にあった大きな振動が魔王の最後のあがきだと知る前は、お父さんもお母さんも随分と怯えた様だった。

僕は大して怖いとは思っていなかった。というより、これもまた実感が薄い。

揺れること自体は怖い。棚が倒れたり柱が折れたりするかもしれない。幸いそんな被害はなかったけど、それでも体に伝わる振動は気持ち悪かった。

ただ、だからなんなのかと思う。死ぬ時は死ぬんだ。今を生きる以上の事を考える余裕なんて僕等にはない。ただでさえ一週間後には餓死しているかもしれない環境だ。僕の友達もここ数年で何人か神に育てられることになった。

子どものうちに飢えて死ぬと神に連れて行かれるらしい。正直信用していない。そんなことを言うと石を投げられそうだから言わないが、ただの気休めとしか思えない。

今も僕は、周りの大人達の喜びを、何処か冷めた目で見ている。時々そんな態度が気持ち悪いと言われるが、僕からしたらそっちのが気持ち悪い。今だって、食べ物が手に入ったわけでもないし、これから増える保証もないのによく喜べるなと思う。勇者に振る舞っている食料があれば、僕等子供はまだ生きられるのに。


「イー君、また考え事?」


「いや、ただ、夕食どうしようかなって」


僕をイー君と呼んだのは友人の一人であるエリスだ。2年くらい前に路地裏で倒れていたところを僕とタルシスが見つけて、それから仲間になった。

僕達はチームを作っている。飢えないための共同体だ。10歳前後の子供が集まってできたチームで、タルシスが最年長の12歳、僕は11でエリスは9歳。他にも3人いて、協力して生きている。

この町は貧富の差が激しく、南北で分けて考えられる。このルタットでは、北側のみをルタットと呼ぶこともある程に、南側であるこちらは貧窮している。つまり、見捨てられて掃き溜めとして扱われている場所だ。


「また盗むの?」


「まぁ、ヤード達が稼いで来れなければそうなるだろうな」


ヤード、ニール、クレスタは仕事を探して働くチームを作っている。仕事と言っても荷物を運んだり旅人の道案内をしたりで、ちょっとした手間賃をせびる物だ。

そして、僕とエリスとタルシスは、盗みなどのまぁモラルなんて奴に喧嘩を売るチームだ。

ヤード達が稼げればいい。ただ、そんな日はそうはない。稼げてもヤード達の分をまかなうので限界なんてこともある。

そんな日は僕達が、店や旅人から盗む。場合によっては殺しもする。

エリスはまだ直接殺したことはないし、その場面を見たこともないだろう。ただ、僕やタルシスの様子がおかしいと感づくことはあるらしい。別にエリスは殺すなとは言わないが、せめて10歳になってからかなと思う。タルシスも今の所は教える気がないようだ。


「ヤード君頑張ってるかなー、昨日は雨が降ったし、ゆうしゃさまが来てるから旅人が狙い目だーって言ってたよね」


「そうだな、ガイアス通りにでも行ってみるか?どうせその辺りだろ」


「うん!」


わざわざ人通りの多いところに行きたくはないんだが……特に今は。しかし、エリスがゆうしゃさまとやらを気にしてるからこれもまた言うわけにはいかない。

まったく、行くのはいいが変な騒ぎに巻き込まれたくないな。エリスがいるからそうもいかないだろうな……

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