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完全幸福主義社会

作者: おーしゃん

 ジリリリリリリリリ!!


 響き渡るサイレン。そう、俺の腕につけた原子力アラームからだ。俺は颯爽と原子力ベッドから起き上がり、原子力水道で顔を洗い、原子力歯磨き粉で歯を洗う。そして綺麗な赤色の染まった原子力ジャンプスーツを身にまとう。今日も赤い色と共に清々しくも神々しい青い光が俺を包み込む。時折外から様々な爆発音が聞こえるがいつもの事だ。きっと反逆者の仕業だろう。反逆者には容赦無い処刑が待っている、反逆者に原子力ビームガンの軌跡が走る、ビビビビビ!


 「よし来たか!!」

 青いジャンプスーツに身を包んだ、イケメン男性。青いスーツは上級市民の証。決して逆らってはならないのだ。黒いジャンプスーツで司令室に集まった者達の中に赤いジャンプスーツの俺は颯爽と入り、胸に手を当て敬礼をする。と、男が一人飛び込んでくる。

 「す、すみません!」黒いジャンプスーツの男は地面に這いつくばる。

 「貴様ああ!23秒も遅刻するとは、この反逆者め!!」

 「ち、違います!歩いていると反逆者がいて、それを原子力ビームガンで倒していたのです!反逆者を見かけたら即処刑は市民の義務ですから!」

 「なるほど、貴様が遅刻したのは反逆者がいたからだな!」

 「そ、そうです!すべて反逆者の仕業です!」

 「だが完璧な市民であるからには反逆者を処刑しつつ時間に間に合うのが当然である。よって貴様は反逆者だ!!」

 「ま、待ってくだs…」ビビビビ!青い上官は腰だめに原子力ビームガンを構え男に向かって乱射する。


 そのうちの一発が反逆者に当たり、一瞬で体は崩れ灰の山と化す。壁に跳ね返ったビームがついでに俺の隣にいた男を蒸発させる。まったく、反逆者はこれだから困る。隣で灰になった男も今のを避けられなかったとは反逆者の証拠だ。完璧な市民なら当たらなかった。だが避けたとしても上級市民のビームを避けるとういう冒涜は間違いなく反逆者で即処刑だ。まったく完璧じゃない市民はこれだから困る。


 「貴様らに集まってもらったのは他でもない!今より大統領閣下よりお言葉を賜る!」

 上級市民の向こう側にある原子力ディスプレイに細い線が波のように走る。大統領閣下が話せばその声に反応して線が波を立ててくれるのだ。なんという画期的な発明か!?我が国家の科学力は偉大である。


 『反逆者来たぜベイベー!第9地区だぜベイベー。今日もロックに倒せ市民は完璧ヘイヘイホー。』

 

 「ちょっと大統領閣下の調子が悪いようです。今修理しますね。」座っていた黄色いジャンプスーツの女がディスプレイの下の鉄板を外し配線をいじる。

 「貴様ああああ!大統領閣下のメンテンナンスを怠るとは反逆者め!」青い上級市民の原子力ビームガンが唸る…唸っただけでビームはでず、原子力ビームガンは盛大に爆発し青い上級市民は消し炭になった。

 

 『おう、そこそこ…いいぞ!おおう…気持ちいい!』


 配線を弄くられた大統領閣下は完璧な余韻をもたらす。俺には理解できないが凄く完璧に違いない。

 と、天井から青い上級市民がいた所に新しい青い上級市民が降り立つ。顔もジャンプスーツも完璧に綺麗な仕上がりで我が国家の科学力が凄いことがわかる。

 

 「クローン007!前任者は支給された原子力ビームガンを破壊してしまった反逆者でしたが、私は完璧であります!」

 青い7番目クローンの青い上級市民はそう宣言した。前任者は支給品を壊してしまうという世にも恐ろしい反逆者だったが、間違いないこの人は完璧だ!

 

 『ああ調子がよくなった。皆に集まって貰ったのは他でもない。憎き共産主義者共が第9地区に現れた。諸君は完璧に反逆者共を排除したまえ、以上。』


 ディスプレイの電源は切れ、そこには静寂が戻った。

 「聞いたな、奴らは《平等》等と意味不明な言論を用いながら出没するそうだ。これを全員排除するように!」青い上級市民が叫ぶ。

 「わかりました。完璧な市民一同、反逆者を見事排除して参ります!」俺たち5人は叫んだ。


 俺達は司令室を出て、原子力階段を駆け下りる。健康は市民の義務だ、任務の最中にも健康を怠らない俺達は市民の鑑である。外に出た俺達は、原子力カーに乗り込みさっそうと現地に向かう。だが渋滞にハマってしまう。まずい、このままだと期限内に任務を遂行できない!間違いない、これは任務を妨害しようと企む反逆者の仕業だ!

 俺達は原子力カーを降り、渋滞の先頭へと駈ける!そこには倒れて呻いている緑のジャンプスーツの老婆がいた…上級市民だ!

 「おい貴様!渋滞を引き起こし、我が国家の流通を妨害するとは…反逆者め!」俺達の一人がそう叫ぶ。

 俺はすかさず原子力ビームガンを今言葉を発した男に発射する、ビビビビビ…男は灰になった。やれやれ、上級市民に今のような暴言を発するなどなんと不埒な輩だ。これだから反逆者は困る。

 「大丈夫ですか上級市民殿?ささ、お立ちください。」俺は完璧スマイルで手を差し伸べる。

 「あー、足が痛くてねー。ああどこかにクレジットを落としてしまったようだよう。100クレジットもあれば元気が出て、立てるんだけどねえ…ああどこかに私のクレジット落ちてないかねえ。」とニヤニヤし始める。

 「あ、でしたら僕が100クレジット持っております。」そう言って仲間の一人が老婆にクレジットを渡そうとする。俺は颯爽とソイツに原子力ビームガンを発射する、ビビビビビ…蒸発。クレジットの受け渡しは重大な反逆だ。まったく、今日は反逆者が多すぎる。反逆者はどこにでも潜んでいる、用心しないと。


 蒸発した男からヒラヒラと100クレジットが地面に落ちる。

 「…おやあ!こんな所に100クレジットが!?これはきっと上級市民殿のに間違いありませんね!」俺は高々とそう叫ぶ。

 「…あらまあ!たしかにこれは私のクレジットで間違いないわ。では私はもう行くわね。」緑の上級市民の老婆はクレジットを拾い、つかつかと歩いて遠ざかっていった。いやあ今日もいいことをした。上級市民を助けるのは市民の義務だからな。しかし、マズイ。このまま原子力カーに戻っても期限内の任務完遂は不可能である。…そうだ。この近くには原子力ワープ装置があるはずだ。原子力ワープ装置は我が国家が発明した完璧なマシンで、指定した先に瞬時に移動できる優れものだ。使用者からの事故報告が1件もない事からもこの装置の完璧さがわかるだろう。尚、この装置が設置されてから我が国家の行方不明者数が100倍になったそうだがこの件とは無関係だろう。


 俺たち3人はすぐに原子力ワープ装置に向かう。カプセルに一人ずつ入って使用するタイプだ。まず仲間が一人入る。

 「ボタンが青と赤2つあるんだがどこを押せばいいかな?」

 「完璧な市民がそんな事もわからないのか?」俺が一喝する。男は怯えながら赤を押す。


 『緊急脱出装置が作動しました。完璧安全に脱出します。』

 自動音声とともに男が乗っていた原子力ワープ装置は天高く打ち上げられ、上昇し小さくなっていき…なぜか空の途中で壁に当たったかのようにめり込む。それとともに空にはキノコ雲が上がる。なぜかさっきまで広がっていた青空は真っ暗になりまるで夜のようになってしまった。どういうことだ?しかし、アイツも反逆者だったのか。あとボタンは青が正解なんだな、なるほど。

 俺は残りの一人を別の原子力ワープ装置に押し込み。青いボタンを押させる。カプセル内の男の姿は瞬時に消えた。成功である。安全を確認した俺はカプセルに乗り込み、行きたい場所を思い浮かべながら青いボタンを押した。

 

 周りを見渡せば第9地区の文字。この分だと余裕を持って間に合いそうだ。ふと、仲間を探す。地面を見ると、だらんと垂れ下がる男の右手が地面から生えていた。まったく完全完璧なマシンで行き先を失敗するとはなんという反逆者だろう。しかしいつの間にか俺一人になってしまったようだ。

 「市民に平等をー!!大統領は狂っているー!!」

 ふと多くの人の叫ぶ声。俺がそこに向かうと赤いジャンプスーツを着た集団がなにやら文字の書かれた板を掲げて叫んで回っていた。間違いない、憎き共産主義者達である!

 

 「止まれ!反逆者共!!」俺は原子力ビームガンを掲げてそいつらの前に立つ。

 

 「待ちなさい市民、マルクスという偉大な男を知っているかね!?」

 「そうです、ここは地球ではなく地下なのです。卑しい政府は増えすぎた人口を地下深くに押し込めたのです。」

 「今こそ我々にも太陽を拝む権利があるはずだ!立てよ国民!」

 「あの偽物の空を映した天蓋を開いてさわやかな日差しを私達の元に!」

 

 何を言っているのだろうこいつらは?だが話を聞いてみると感心している自分の姿もあった。たしかに、上級市民にヘーコラするのも真っ平御免だという今まで溜め込んでいた不満が一気に押し寄せてくる。俺は原子力ビームガンを取り落とし、膝をつく。

 「たしかにあんたちの言うとおりだ。平等は最高だ!大統領は狂っている!」俺はそう叫んだ。

 「おお、同士よわかっていただけましたか!?」

 「さあ、司令室に乗り込んで制圧しましょう!」

 「自由をすべての市民に!平等をすべての市民に!」


 俺達は徒党となって司令室になだれ込んだ。おののく上級市民たちに共産主義者たちのビームが雨あられと降り注ぐ、ビビビビビビビビビビビビビビビビ…蒸発四散!

 俺達は原子力ディスプレイの電源を入れ大統領を呼び出す。

 

 『やっほー市民諸君ベイベー!反逆者は根絶やしかいベイベー?』大統領が聞いてくる。


 「大統領、今のやり方は間違ってます!すぐに天蓋を開いてください!俺達に自由を!」

 「マルクスは言いました、階級のない協同社会は素晴らしいと!」

 「体制なんて糞食らえです!今こそ自由を!」

 「地球の日差しを、さわやかな風を!」

 共産主義者たちの怒涛の説得作業。


 『うーんベイベー。よくわからないけど素晴らしそうだベイベー。共産主義サイコー、超ロックだね!』

 大統領の言質をとった。今こそあの天蓋が開き、地球を謳歌するのだ。地下世界糞食らえ!地球最高!

 

 そして轟音とともに空の天蓋が開き始めた…。









 『確認しました所、前方を先行する長距離恒星横断艦《チェレンコフ号》のシェルターが開き始めました。建物や人間が宇宙空間に吸いだされていくのを確認いたしました。』

 

 時は宇宙世紀1192年。地球から旅立たった、長距離恒星横断艦の艦隊はは今日も新天地を目指し宇宙を進む。だがそれを知る人はそうはいない。殆どの人は、自分達は地球に住んでいると思い込んでいる。これは住人がパニックに陥ると困るため、政府が設けた策だ。階級の高い人達にしかその情報はもたらされない。下級住民はただ天蓋に映された空の映像をほんとうの空だと思っているし、鳥とか猫とか犬とかがかつて存在していたなどと知る由もない。

 

 エジソン電気通信からの報告を聞いた、長距離恒星横断艦《エジソン号》145代艦長は冷静にエジソン電気ライターでエジソン電気タバコに火を点ける。ふと、窓から下を見ると。エジソン電気照明に照らされた町がこうこうと光っている。

 「まったく、人間の業とは…度し難いものだな。」

 彼はエジソン電気ビームガンを片手で構え、射的に興じる作業に戻っていた。

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