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14 護衛騎士の覚悟

 ネイドは厩に神馬を連れていき、馬丁たちに、鞍の用意と、旅食の調達、それから、神官長と国王を呼んでくるように言いつけた。

 彼自身は、急ぎ宿舎にある自室に向かった。途中で見つけた同僚に手伝ってもらって、平時用の簡易鎧をとき、女神の盾となるための重装備に変える。その他、マント、盾、使い慣れた武器類、有り金全部と、最低限の荷物を手早くまとめた。 

 厩舎に戻ると、馬の用意ができており、ついでに国王と神官長も待っていた。

「いったい何が起きた。説明せよ!」

 説明を求めようとした神官長を押しのけて、国王がでしゃばって怒鳴りつけてきた。

 女神と巫女姫にのみ仕える護衛騎士に対して、ひどく礼を失した態度である。彼だけでなく、女神や巫女姫すら貶める行為と言える。ネイドはうんざりした。 

 しかし、彼もまたイステアの国民であり、父親はこの国王に仕えている。それに、国王の隣で、なんとか道理を説いて諌めようとしている老齢の神官長を見ていたら、幼い頃に感じた、言うだけ無駄、という冷めた気持ちを思い出した。ネイドはこの小物(こもの)な国王に仕えるのが嫌で、王宮勤めを蹴り、神殿騎士になったのだ。

 幼い自分の判断は正しかったとの思いを強くして、彼は必要事項のみを義務的に説明することにした。

「女神は、我が箱庭を侵そうとする痴れ者がいる、と仰いました。そこの神馬を賜り、ドレクサスとの国境にあるアルス山に、女神をお連れするように命じられました。護衛は私のみでよいとのこと。女神の用意が整い次第、出立します」

「おお、そうか! 女神御自ら御成敗くださるか!」

 国王は喜色満面で声を張り上げた。

「ありがたいことだ! 女神フェスティアは偉大なり!」

 『神の箱庭を侵す』、すなわち国境の侵犯は、大きく分けて、四つに分類される。

 一つ。国同士の軋轢による、人間主導による戦。この場合、人間が神に加護を願い出る。たいてい神々は加護を断らない。戦となれば当然敵軍にも加護が付いており、他神に己の縄張りを侵されることを、何よりも嫌うからだ。

 二つ。神々の諍いが地上に持ち込まれた場合。これもたいがいが加護を受けている人間同士の争いになる。なぜなら、神々自身はその強大さ故に、地上にそのまま降りて来られず、(ふる)える力も巫女の器が耐えられる程度のものに限定されてしまうからだ。人間は代理戦争をさせられるのである。守護神の歓心を買うために、滅多なことでもないかぎり、人は神の意に従う。

 三つ。未だ地上に縄張りを持たない神の参入。暴徒の扇動、動物の暴走、昆虫の大挙などが起こされ、人による事態の収拾が必要なこともあるが、神同士の一騎打ち的な戦いが主となるために、大規模な軍の投入はない。

 四つ。神界の生き物が地上にまぎれこんだ場合。天災と同じであり、人間にはほとんど撃退不可能なために、神によって追い払われることになる。

 おそらく今回の事態は、女神の言いようから、四つ目に当てはまるのだと思われた。だから国王が喜ぶのも無理からぬことだった。

 軍を出せば、戦費がかかる。しかも、死人が出れば家族に保証もしなければならない。できたら、神々の争い故の、なんのうまみもない戦は避けたいのだ。

 しかし、その喜びようとは裏腹に、だからこそよけいに、ネイドは巫女姫が心配だった。

 軍同士のぶつかりあいとなれば、戦いの趨勢は人間のそれに大きく左右される。なにより、神殿騎士団が女神の盾となり、国王騎士団が剣となる。女神が最前線で戦うことはないのだ。

 だが今回は、女神自身が戦うという。女神が負ければ、巫女姫もただではすまない。最悪、死ぬことすらありえる。なにしろ、地上での神の器を使用不能にする、そういう戦いになるのだから。

 フェスティアは愛の神と呼ばれるが、その本性は温和とは無縁で、むしろ荒ぶる好戦的な神だ。建国以来、他神、他国の侵入を許さず、ことごとく退けてきた力ある神である。

 それでも、絶対ということはない。

 なにがあっても、巫女姫を一人で死なせることだけはするまい。

 ネイドは、そう心に決めていた。

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