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綾子編最終話〜一人じゃない〜

これで綾子編は終わりです。お疲れ様でしたm(__)m

 ありがとう慶ちゃん。



 ありがとうさっちゃん。



 そしてありがとう敏雄さん。



 私はもう一人じゃない。



 私はとっても幸せ。



…。


……。


………。



 敏雄さんは学校を辞めさせられなかった。学校側も敏雄さんを手放したくはなかったのだろう。

 しかし、PTAが生徒に子供を身篭らせた教師がいる事を、黙って見ている筈も無い。

 敏雄さんは教師を辞任した。そして生徒を身篭らせた教師のレッテルを貼られた為、もう教師としての生活を続ける事は金輪際できなくなってしまった。


 それでも敏雄さんは私に何も言わず、私を愛してくれた。

 私は幸せだったが、その反面、罪悪感を感じた。


 だから私は、この子を幸せにしてみせる。そう誓った。



「名前は里美。伊勢里美だ」


「さと…み…?」


「そう。里は、生まれた土地という意味さ。里美にはこの米沢の町のように美しい女の子に育って欲しかったんだ」


 七月二十八日。私が中学三年生の時に無事、さっちゃんを出産し、何事も無く退院をした。


 そして私は敏雄さんの家で暮らすようになった。それと同時に、なっちゃんと剛さんが隣の家に住むようになった。

 その条件として高校卒業までは利勝さんと一緒だとの事。それは慶ちゃんの面倒を見る人間が必要だからだ。

 それに対し剛さんは、長野家に帰りたい。と、愚痴をこぼしていた。



 そして敏雄さんが私達の子に名前を付けた。

 私はこの時、頭の中でもう一つの名前を思い浮かべる。


 上杉信。


 子孫は絶対にこのような名前を付けなければいけない。そうお父さんに言われたからだ。


「伊勢里美…。いい名前ね〜」


 私はさっちゃんを抱きながら言った。


 さっちゃんはとても活発な子で、お腹に居る時も私の事を何度も何度も蹴ってきた。

 でもそれは、嬉しい悲鳴。私は幸せだった。


「まさかこんなに早く孫ができるなんてなぁ…。あいつがもう少し、あと数年生きてたら、可愛い孫を拝めたんだけどな」


 私の父が言った。

 もちろん私も母親にこの子を見てほしかった。その事が残念で仕方ない。


 それからの生活は大変だった。

 私が中学を卒業するまでは、学校を辞めた敏雄さんが、さっちゃんの面倒を見ていた。

 学校から帰ると、さっちゃんはいつも泣いていた。

 その度に私達は子供の育て方の本を読んで、一緒に勉強をしていった。


 さっちゃんはやはり活発で、とにかく何でもかんでも手当たり次第に口へ物を運んでいた。

 私達は掃除を念入りに行うようにした上で、さっちゃんから目を離さないようにした。


 さっちゃんが立ち上がった。

 私達は泣きながら写真を撮り、この上なく喜んだ。


 さっちゃんが初めて言葉を喋った。けいじ、と。

 私の名前じゃなく、慶ちゃんの名前。複雑な嬉しさだった。敏雄さんも同じ心境だった。



 とても大変だった。



 とても幸せだった。



 私が中学を卒業し、家事、子育てに専念できるようになると、敏雄さんは行き先も告げずに出掛けるようになった。


 敏雄さんには幾つか、私でも分からない事があった。


 その中でも一番謎だったのが、敏雄さんの親の事だ。

 私達はいわゆる、できちゃった未婚だ。と言っても、私の年齢に問題があった為順序が逆になっただけの事。

 しかし私は、結婚を予定している相手の親を一度も見ていないのだ。

 そしてお金を沢山持っていた事も不思議で仕方なかった。


 でも私は問い詰めなかった。他の事に手一杯で、それ所では無かったからだ。


 そしてさっちゃんはすくすく育ち、小学一年生になった。

 しかし、それと同時に敏雄さんが考え事をする時間が増えた。


「敏雄さん…。どうしたの?」


「ん…。うん…」


 私が聞いてもこの調子で、考え事の内容は一切話してくれなかった。

 それでも敏雄さんは、幼稚園での運動会など、行事にはちゃんと参加してくれていたから、私達を愛していない。という事ではなさそうだった。



 そんな事が続いたある日。敏雄さんが私に質問をしてきた。

 それは敏雄さんの心の叫びだったのかもしれない。



「綾子。一つ聞きたい事があるんだ」


「ちょっと待ってね〜。今お皿を洗ってるから〜」


 リビングのソファーに座っていた敏雄さんが、台所に居る私に言ってきた。


「いや、そのままで構わない」


「そう…。それで、質問って何かしら?」


 私は食器を拭きながら問い掛ける。

 敏雄さんはお茶をすすり、一度喉を潤してからこう言った。



「守りたい物があったら、自らを犠牲にしてでも守るかい?」


 私は未だにその質問の意味を解釈できずにいる。

 そして今思えば、それが敏雄さんの最初で最後のメッセージだった。


「もちろんよ」


「そうか、ありがとう綾子−−」




「−−大好きだよ」




 そして敏雄さんは居なくなった。



…。


……。


………。



「いっただきまーす」


「はぁ…。あんたは本当に食べるのが好きなのね…」


「あったりめぇだろ! 綾子さんが作ってくれた朝ごはんだぞ!」


「はいはい…。いただきます」


「どんどん食べてね〜」


 二人が私の作った朝ご飯を口に運ぶ。



「で、昨日はどうだったの?」


「お蔭様で、朝からお肌の乗りがいいわよ〜。ウフッ♪」


「アハハ…」


「何笑ってんのよ!!!」


ゴチーン!


「いってーな! 何すんだ馬鹿力女!」


「馬鹿は余計よ!」



ゴチーン!


 二人のやり取りを見ていた私はこの時、さっちゃんには敵わないな。と、そう思った。


「ウフフッ」


「何笑ってんのよ、お母さんっ。アハハッ」


「お前だって笑ってんじゃねーか! ハハハッ!」



 私達は笑い合った。


 嫌な事が全て吹き飛んだ。



「慶ちゃん、さっちゃん」


「何です?」


「何?」






「ありがとう」






 生まれてくれてありがとう。



 私の側にいてくれてありがとう。



 そして…。






 ありがとう敏雄さん。

綾子編。如何でしたでしょうか?

綾子という何でも持っていた天才少女は、何でも持っているが故、他人から妬まれ孤独に生きていた。と、そういうお話でした。

ちなみに自分は天才と呼ばれる部類の人間では無いので、綾子の心境描写は予想になってしまった事が少しアレです…。



綾子編は、コメディーなのに、とてもシリアスな展開になってしまった事。その事に、かなり後ろめたさを感じつつ、話しを進めてまいりました。(キーワードにシリアスを入れたいと思います)

そして、独りよがりな感じになってしまったような気がして、仕方ありません。五話なんかが特に。



それで、綾子編についての感想をいただけると、他のキャラ編の参考になります。

無理に点数を付ける必要はありません。とにかく感想をばっ! お願い致しますっm(._.)m

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