表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/83

第29話〜文化祭一日目〜

「よしみんな! 米沢賞は俺達が頂くぞ!」


「おー!」

「やってやるぜ!」

「頑張りましょう!」



兼次がクラスに喝を入れ、皆がそれに応える。

俺は教室の隅で、七美にメイクをしてもらった。

今の俺は、名も無き美少女メイドさんだ。



「慶二は本当に顔立ちがいいね♪」

「ん、そうか?」

「うん。女の私も惚れちゃいそう♪」

「やめろっ! 俺はGLが嫌いなんだ!」

「そんなのは冗談。私にそんな属性はないから安心して♪」

「そっか。よかったよ」



おはようございます、慶二です。

今日は雲一つないさわやかな秋晴れの土曜日、そして文化祭初日です。

現在の時刻は八時半、文化祭開始が十時半なので、どのクラスも最終準備に取り掛かっています。

そんな俺達のクラスがやるべきことは食材の仕入れと、コスプレのみです。

この店のシステムですが、教室にIHクッキングヒーターがあり、兼次達男子がその場で作る方式です。

喫茶店と言うより、レストランと言った方が正しいかもしれませんね。

メニューはとんかつ定食、ペペロンチーノなど和洋料理が盛り沢山。

これはクラス男子が、夏休み中に猛特訓をしたことによって可能になった、メニューの豊富さです。


その場で作るのに、席は足りているのかだって?

北条院グループがバックに付いているので心配御無用。約50席ありますから。


伝えるべきことはこれくらいだろうか…。



「そう言う七美だってその格好似合ってるぞ」

「ほんとほんと!?」

「ああ。七美の性格と、見事にマッチしてる」

「ん、それって私が小悪魔みたいって言いたいの?」

「あははは。冗談だよ冗談。でも本当に可愛いな」

「ありがとっ♪」



七美は黒いビキニに矢印の尻尾を付け、頭には二本のツノが付いた小悪魔コスプレだった。

何が可愛いって、ビキニが可愛いすぎる。他クラスの男子や一般の人に見せるのが勿体ないくらいだ。


そして、そんな感じで話していた俺達の所に兼次がやってきた。



「終わったか?」

「完璧。かなりの美少女になったよ♪」

「そうか、なら二人で宣伝回りに行ってきてくれ」



マジで?



「わかった。ほら、行こうよ慶二♪」

「どうしても行かなきゃいけないのか?」

「ああ。里美達も出動しているからな。ちなみにお前らの午前中の仕事もそれだからな」



そして−−。



「−−二年は組のコスプレ喫茶をよろしくね♪」

「おお、悪魔っ娘だ」

「あれは七美ちゃん!」

「お母さん、あの人なあに?」

「こら康太、見ちゃいけません!」



文化祭が始まった。

俺は看板を持ち、七美はメガホンで大声を出しながら宣伝回りをしている。

そして今は、ベンチや芝生などがある中庭でそれを行っている。

この中庭は昇降口前にあり、食販や物販。それだけではなくダンスやバンド演奏等の出し物もここで行われる。昨日の前夜祭もここで行われたのだ。


つまり俺達は、人が一番集まる場所で、呼び込みをしているってことかな。



「そっか、七美ちゃんのクラスがコスプレ喫茶だったのか」

「そうですよ。同じ委員会で三年生の水陸空先輩♪」



七美、分かりやすい説明、どうもありがとう。



「隣にいるのはもしかして…!!!」



空先輩は俺を見て驚く。

そして近くにいた友人達三人を呼び出した。



「おい、この子があのポスターに写ってた子じゃないか」

「うわっ! 本当だ!」

「可愛いすぎる!」

「名前は何て言うんだ?」

「L・ガゼイ・シロタ菌ですよ♪」



ノォォォー!!!



「エルちゃんか」

「ガゼちゃんだろ」

「シロちゃんだって」

「菌だよ菌」



そんなのどうでもいいよ!!!

ただ、最後のやつは止めてほしいよ!!!



「菌が一番いいな」

「菌だな菌」

「俺も菌に一票」

「よろしくね菌ちゃん」



ふざけんな!!!



「あ、もうすぐ昼だから戻ろうよ」



俺は、コクンと頷いた。



「行っちゃうのか」

「明日行くからね」

「その時は菌ちゃんが接客してね」

「いやぁ、最後の文化祭。いい思い出になりそうだな」



絶対接客しねぇからな!!!


俺はその四人を睨みつけた後、七美と一緒に教室へ向かって歩き出した。

その途中、俺は何度もナンパされたが、七美が軽くあしらってくれた。彼女はこういうのに慣れているのだろうか。


そしてお昼時のコスプレ喫茶店は大盛況だった。

コスプレをする女の子に対してだけじゃなく、料理や客回りの早さも好評。

これが兼次のこだわりにこだわりぬいたコスプレ喫茶、もといレストランなのだろう。問題の俺はというと…。



「菌ちゃん可愛いね」

「おい、抜け駆けは卑怯だぞ」

「僕と文化祭を一緒に満喫しませんか?」


「…」



店の前で、看板を持ちながら、数時間立っている。

宣伝係の職についている理由は、俺が店内にいると客がなかなか外に出ようとしないからだ。


モテる女も困りものだな…。



「ねぇ菌ちゃんたら」

「恥ずかしがることはないでござるよ」

「…」



声を出すことはできない。

声を出したら店の評判ががた落ちする。そう兼次に言われたからだ。

我ながら、クラスの為によく、耐えに耐え凌いでいると思う。


四分蔵は俺の正体を知って…マジで死ね。



「菌、三時になったからお前の仕事は終わりだ。お疲れ様」



兼次だ。

これで俺の仕事は終わり。思えば終始看板を持っていた気がする。

そして俺は看板を、クラスの名前も知らない女子に渡し、その後教室内に入る。


俺は文化祭開始から一回も教室に入っていなかったので、店内の状況が分からなかった。

どうなってるのかなー。なんて軽い気持ちで入ろうとしたのが間違いなのか、俺は教室に入るなり言葉を失った。うん、まあ元々言葉は失っているんだけどな。



「カルボナーラ!」


体操着にブルマを履いた、とっても不機嫌そうにカルボナーラを出す里美。



「水だ」


新撰組の制服を身に纏っている、無愛想に水を渡す涼子。




「千円ですわ。次からは気をつけて下さい」


まるで駐禁を取り締まるかのような、ミニスカポリス姿の明日香。



「いらっしゃ〜い」


可愛らしいパンダの着ぐるみの中からひょっこり顔を出し、接客をする忠海。



「ごちゅーもんを繰り返しまーす」


注文を繰り返すラムちゃん。もとい、澪。



「さっさとメニューを決めなさいよ」


胸元をちらつかせながら、メニューの催促をするOL。詩織里。



「大丈夫? 今拭いてあげるからね」


少年が洋服に零した水を拭き取ろうとする、上下ジャージ姿のマネージャー、沙織里。



「今お注射しますからね〜」


ナース姿の成美さんは、全く意味の分からないことを言っている。



「…そして小悪魔七美。どうだ、俺の考えたコスプレ喫茶は完璧だろう」



俺はお前に心底惚れたよ。

兼次、あんたはすごい!



「まあ、とにかくお前は休んでろ。明日はもっと働いてもらうからな」



俺は兼次に頷く。

そしてそんな時、涼子が俺の所に来た。



「仕事は終わったか」



俺は再び頷く。



「とりあえず部室に行きたそうな顔をしているな」



涼子は察しがよくて助かる。

メイクを落としたいし、着替えも部室にある。とりあえず俺は男に戻りたかった。

ちなみに部室近辺には人が近寄らない。だから、隠れて物事を行うには恰好の場所なのだ。



「そのようだな。では行くぞ」



そうして涼子と俺は部室に向かった。

その途中俺は数十回ナンパされたが、涼子が全て追い払ってくれた。



「ふぅ…。やっと喋れる」

「言葉の大切さが身にしみるだろう」

「ああ。それじゃあ俺はここで着替えるから、涼子はそこにある更衣室を使ってくれ」

「しかし教室内に更衣室があるとはな…」



涼子はそんな事を言いながら更衣室に入って行った。


俺はとりあえず着替えて、その後メイクを落とし、いつもの自分に戻った。



「アイルビーバック! フハハハハ!」



…今の涼子に聞かれちゃったかな?



「涼子、終わったか?」



俺はそれを確かめる為に涼子を呼んだ。しかし返事は無い。

恥ずかしいから返事をしな−−。


「−−キャー!!!」


不意の悲鳴と共に、涼子が勢いよく更衣室から出てきた。


って下着のまんまだしっ!!!



「おい涼子、服!!!」

「ゴキブリー!!!」

「うぉあ!」



下着姿の涼子は俺におもいっきりタックルをして、そしてそのまま俺の背中にしがみ付いてきた。


涼子は里美より胸がありそうだ。あいつは本当に無問題だからな。


…いかんいかん。



「で、どうしたんだ涼子」

「更衣室にっ! ゴ、ゴキブリがっ!!!」

「涼子ってゴキブリ嫌いなのか?」

「ゴキブリだけは駄目なのっ!!!」



口調が変わるくらい嫌いなのか。



「分かった。俺が今から退治してくるから待ってろ」



言って俺は涼子を部室に残し、自分自身は部室内にある更衣室へと向かった。



「いた」



相変わらず素早い動きをするなぁ。

とにかく、涼子をあのままにしておくわけにはいかないので、早急に退治することにした。

そうして俺は能力を使い、ゴキブリを捕まえる。

そのまま窓の外にポイッ。



「殺されたくなかったら、人前に出るなよー」



ゴキブリからの返事はない。

せっかく人生の…。ゴキ生のアドバイスをしてやったというのに、薄情なゴキブリだ。



「涼子ー! 退治したぞー!」



言って俺は更衣室を出たのだが…。



「うわぁぁぁ!!!」



涼子が下着姿だということを、すっかり忘れていた。


俺は涼子を見て数秒経ってからその事に気付き、両目を両手で覆った。

手遅れってやつだ。



「慶二…」

「すまん涼子!」



涼子の足音が聞こえる。そしてその音は一歩一歩俺に迫ってきている。


冷や汗…。



「とにかく服を着てく−−」


−−両手を掴まれた。


そしてそのまま、文字通り目の前にある俺の手を、目から遠ざけるように動かしてきた。

この時、目をつむればよかったのかもしれない。しかし、あまりの驚きのためだろうか。俺の脳は自身にその行為をさせなかった。

それに加え、涼子があまりにも綺麗だった為、目をつむるどころか涼子から視線を外せずにいる俺。

そして、真っ直ぐに俺を見る涼子。



「私の体は魅力的じゃないかもしれない…。でも…」

「涼子…」

「慶二…。お願い…」



今現在、俺の脳内では天使と悪魔が争っている。


悪魔慶二は涼子を抱けよ、と言う。

そして天使慶二は…。






涼子を優しく抱けよ、と言っている。


耐えるんだ俺! 俺は天使にも悪魔にも−−。

「−−あら、誰かいますの?」



ガラガラ



「あら、慶二さんでしたの」

「あ、あ、ああ、明日香も着替えに来たのか?」

「も? 誰か他にいますの?」

「りり、りょ、りり、涼子がい、いい、今、更衣室にいる」

「そうでしたの。なら私は着替えてきますわ」

「ま、まま、待ってるってばよ」



明日香はまさにポリスだった。





……




「それで、これからどうする?」

「私はとりあえず、腹に物を入れたい」

「ならコスプレ喫茶が一番じゃないですこと?」

「恥ずかしいけど、そこしかないな」



明日香に、涼子との事はバレていないようだった。

そうして俺達は再び同じ道を通り、二年は組へと向かう。




「いらっしゃいま…。ってあんた達だったの」

「私達は客だぞ。その接客はおかしい」

「そうだよブルマ。ちゃんと接客しろ」

「私はブルマなんて名前じゃないわよ!髪の色は水色じゃあありませんからね!」

「騒がしいツッコミですこと。とにかく席に案内してくださるかしら」

「わかったわ」



俺達は里美に案内され、四人掛けの席に向かい合って座った。正面には明日香がいる。



「はい、水よ」

「成美さんじゃないですか」



俺達に水を持ってきてくれたのは、ナース姿をした成美さんだった。



「三人共お疲れ様。特に慶二君はああいうのに慣れていない分、大変だったんじゃない?」

「はい、かなり大変でしたよ…。ああいう男性にはどういった対応をすればいいんですか?」

「私は無視するわよ」

「私もよく無視をする」

「私も無視ですわ」

「うーん。だったら俺も無視してたんだけどな…」

「それだけ慶二君が可愛かったのよ。それじゃあ注文が決まったらそのボタンを押して頂戴ね」



言って成美さんは別の客の方に行ってしまった。

ちなみにボタンというのは、ファミレスにあるような物と同様に考えて構わない。

これも北条院グループの力だ。


思うのだが、北条院グループの力添えはドーピングに近いものがある。決定的に違うのは、開催側から認められているか、否かだ。



「しかし、澪と七美の服は過激だな」

「涼子はああいうのがよかったのか?」

「御免だ。かといって新撰組も嫌だ。私は明日香くらいのがよかった」

「涼子はああいうのが着てみたいんですの」

「それは…。私だって一応女の子だし…」



一応どころか充分に女の子だろうが。

なんて言おうとしたのだが−−。

「−−お、慶二に涼子に明日香じゃないか」



お嬢がやってきた。相変わらず白衣を着ている。

そしてお嬢は俺の隣に座った。



「お前達の店、大繁盛してるんだってな」

「私達はプライドを売りましたから、当然と言えば当然ですわ」

「あはは! あんなに可愛い服が着れるのは若い内だ。充分に満喫しときな!」

「俺は嫌ですよ…」

「お、そう言うお前は、噂の菌ちゃんじゃないか」

「静かにしてください…!!!」



まだ客がちらほらいるんだから、話を聞かれたらどうするんだっての。

しかし、菌ちゃんで定着しちゃったのね…。



「で、里奈さんは今まで何をしていたんですの?」

「彼氏といたと−−」

−−ゴチーン!!!



痛い…。



「皮肉か!? アタシに対する精神攻撃か!?」

「え、里奈先生は彼氏いなかったんですか!?」

「ああそうですよーだ! どうせお前らもあと三、四年したらこうなるんだからなー!」

「でも、お嬢は今までいなかったわけじゃないでしょう?」

「ん、ああ。一応いたよ」



やっぱり。

まあ当然と言えば当然か。



「それで、その人とはどこまでいったんですの?」

「A? B? それともA?」

「おい涼子、最終的にBからAに戻ってるから」

「手も繋いでないよ。アタシは見た目に騙されたんだよ」

「見た目に騙された…。ですの?」

「うーん…。少女漫画では有り得ない展開だ…」

「涼子、少女漫画を鵜呑みにしてはいけないぞ」

「アタシのことはどうでもいいんだ。それに新しい人も見つけたしね」

「好きな人ですの?」

「それはどんな人なんです?」

「俺も気になるな」

「嫌だよ、言いたくない!」



なるほど…。

つまり俺達がよーく知っている人って訳か…。



「わかりましたよ。お嬢の好きな人が…」

「慶二さんはそれだけで分かりましたの?」

「誰なんだ?」

「うそっ!?」



とりあえず鎌をかけた。



「俺達もよーく知ってるあの人だよ」

「あの人…。ですの?」

「誰だ?」

「そうか、わかっちゃったか…。それで慶二の−−」

「あれ、慶二達は終わったんだ」




と、いい所で忠海がやってきた。

って、あれ? お嬢の顔が変わって…。



「キャー! なんて可愛いのかしらー!」

「ひゃあー! 離してよー!」



お嬢は着ぐるみごと忠海を抱きしめる。

忠海は必死にもがくが、どうやら無駄のようだ。



「忠海ちゃーん! 持って帰りたーい!」

「ボクは嫌だよー!」


結局お嬢の好きな人はうやむやになってしまった。

まあこれからいくらでも聞く機会はあるさ。





……




「じゃあ腹一杯になったし、これから何処に行く?」



俺達はコスプレ喫茶での食事を終え、中庭に来ていた。



「そうですわね、ここがいいですわ」



明日香がパンフレットの一部分を指差し言う。



「明日香、ここはかなり怪しいぞ」

「俺もそう思う」



明日香が指差した場所にはこう書いてあった。



「ミスターAと、ミスターNによるスピリチュアルカウンセリング…」

「最近流行っていますのよ」

「三和さんがやってるやつのことか。私もよく見る」

「しかし、このAとNって誰だ?」

「慶二の言った通り、問題はそこだな」

「言ってみれば分かりますわよ」



−−それもそうか。

涼子もそう思ったらしいので、とりあえず俺達はその会場に行くことにした。

会場は三階の視聴覚室にある。わざわざ中庭に出る必要なんてなかったわけだ。

そして−−。



「ここか…。スピリチュアルカウンセリング会場は…」

「なんか恐いですわね」

「油断はできないな…」

「スピリチュアルカウンセリングを受けるのに、油断とか。そういう次元の話なのか?」

「慶二さん、その慢心が身を滅ぼすのですわ」

「そうだ。油断はいけないぞ」

「いや、だから。どうして油断って単語が、出てくるんだっての」

「ですからその慢心が身を−−」

「わかったわかった」



面倒臭ーい。


そして俺達は入口前に立った。

まるでお化け屋敷のような、アトラクションの雰囲気。BGMも、ヒュードロドロ。といっている。

入口から中を見ようとしたが、室内は真っ暗で何も見えなかった。

しかしこのアトラクション、どうやら空いているらしく、待ち時間は無いとのことだ。



「それでは私が最初に行こう…」

「油断は禁物ですわよ…」

「過信と慢心を大事にしろよ」

「ですから慢心−−」

「はいはいはいはいはいはいはいはい」



涼子が暗闇の中に吸い込まれるようにして入っていく。



〜三分後〜



「…」

「涼子、どうしたんですの!?」



視聴覚室から出てきた涼子は、まるで生気を吸われたようにしょんぼりしていた。



「おのれスピリチュアルカウンスッ」



……。



「涼子と私の舌の恨み、絶対に許しませんわー!」



〜三分後〜



「…」

「明日香もか…」



視聴覚室から出てきた明日香は、まるで生気を吸われたようにしょんぼりしていた。



「まじかよ…。行きたくないけど、行かなきゃ文化祭初日が終わっちゃうし…」



文化祭初日をここで終わらせる訳にはいかない。

俺は意を決して、視聴覚室に入った。



「暗いな…」



わざわざ暗くする必要があるのだろうか…。

だって心の治療をするのが目的なんじゃないの? 涼子も明日香も確実にトラウマになってたよね?

しかもこのBGMとか必要無いでしょ。なんて考えていると、何かが見えて来た。



「テント?」



視聴覚室必要ねぇぇぇ!!!



「どうして室内にテントを建てるんだよ。だったらこの演出意味ねーじゃん。ていうかテント無くても演出の意味ねーじゃん」



ツッコミはこのくらいで勘弁してやるか…。


そして俺はテントの中に入った。

テントの中には黄色いかつらをつけた人と、薄い緑の着物を着た人がいた。

二人とも仮面を付けているから、誰かは分からない。



「ようこそ。私の名前はグツリアイカサです」

「そんな着物を着て、何やってるんです有次さん?」

「有次とは誰でやんすか?」

「貴方です。口調変えても意味無いですから。それなら声を変える努力をしてくださいよ」

「この人は有次じゃないわよ」

「そういうあなたは…」



間違いない。



「三和さんですか?」

「惜しいわね。私はサマオナイイよ」

「まさかこんな所で会えるなんて…。光栄です」



どうせあなたは直正さんでしょ。声が全然似てないから。

仕方ないから、騙された振りをしてやったまでだ。



「貴方の名前は何かしら、前田慶二さ−−」

−−ゴチーン!



有次さんが直正さんを殴った。



(バカ野郎…!!! 最後に名前を言ってどうする…!!!)

(そうか、すまん有次)

(お前は暫く黙っていろ)

(合点承知)


「あの、どうかしましたか?」

「なんでもないでござるよ。時に、そちの名前を教えてくれんかのう」

「はい、俺の名前は前田慶二です」

「生年月日は?」

「おい有次、忘れたのか? こいつの誕生日は−−」

−−ゴチーン!


また殴ってから、小声で話し始めた。



(そんなの知っているに決まってんだろうが!!!)

(ならどうして聞くんじゃい)

(いいか、俺達は初対面なんだ! 初対面の人間の誕生日を知っているのは…)

(四分蔵くらいなもんじゃのう)

(分かったら黙っていろ)

(合点承知)


「あの、どうしましたか?」

「いや、何でもないでおじゃる。そちの生年月日は?」

「七月二十八日です」

「ふむふむ。それで血液型は?」

「Aですね」

「なるほど、わかりました。それでは始めます」



わかったって言っても所詮は素人なんだろうが。


「オンドロドロソワカ〜オンドロドロソワカ〜」



え、始めるって何!? 除霊かなんかを始めるって事だったの!?



「はい、慶二君も一緒に。オンドロドロソワカ〜オンドロドロソワカ〜」

「さあさあオンドロドロソワカ〜オンドロドロソワカ〜」



直正さんまでやり始めたし…。

かなり胡散臭いんですけど。



「オンドロドロソワ…。慶二はカウンセリングを受ける気あるんですか!!!」

「私達は貴方の為にやってるんですよ!!!」

「すいません…」



くっそー! マジうぜえー!

しかも完全に呼び捨てだったよ。



「はい慶二君も一緒にっ! アンドロメダヲセイナンニ〜アンドロメダヲセイナンニ〜」

「さあさあ、アンドロメダヲセイナンニ〜アンドロメダヲセイナンニ〜」



変わったよー!!!

しかも何かの歌詞だよ!!!



「アンドロメダヲセイナンニ…。」

「元気が無い!!!」

「アンドロメダヲセイナンニ〜!!! アンドロメダヲセイナンニ〜!!!」

「はい、もう大丈夫です」



どうやら二回言えばよかったらしい。



「で、何か分かりましたか?」

「えっと…。慶二君は…」






「なかなかの声量の持ち主ですね」



ぶち殺すぞ!!!



「それじゃあ本番いきますよ」

「最初からそうして下さい…」



有次さんは見事に無視。

そうして一呼吸置いてからこう言った。



「はい、あなた最近、脇の臭いが気になっていますね」

「…はい」



分かっちゃったよ!!!



「まあ貴方の年代の人はたいてい気にしていますからね〜」

「…」



適当だったのか!!!



「でも気にする必要なんてないです。おい!」

「なんですか有次」

「お前の実力を見せてやれ」



直正さんの実力? もしかして直正さんは凄い心のカウンセラーなのだろうか。

ていうか今有次って…。



「それじゃあ私があなたの心に巣くう闇を取り除いてみせましょう」



直正さんがそう言う。

ここからは、色々といい言葉を並べていって、患者の心に巣くう闇を取り除いてくれる。

俺もこれを一度やってほしかったんだよな。

なんつーか心が洗浄されるって言うかさ、カウンセラーって、言わば心の洗濯機だよね。

目に見えない心の病気を取り除こう…。あれちょっと。どうして? 直正さん、ちょっと。脇がっ。直正さん、脇が近いっ!!!



「くっさー!!!!!」



何この脇ー!!!

卵を牛乳に浸してから数週間した後、チーズとくさやを交ぜて、それを雑巾に染み込ませた感じの臭いがっ!!!

人工では出せないような臭いを出してるっ!!!



「ゲフッ!!! オエー!!!」

「どうでしたか? あなたの脇なんて、たいしたことないでしょう?」

「これが、他人よりはマシだよ。カウンセリングです」

「ゴホッ!!! オエー!!!」






脇の臭いは気にならなくなりましたが、新しいトラウマができました。

小説を書き初めてから、34日経ちました。そして今回は50部。

いいペースですね。


それにしても、最初の方は恥ずかしくて見れないです(今も恥ずかしい文を書いていますが…)


とにかく、今後ともよろしくお願いしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ