第27話〜忠海、心の俳句〜
「ねぇ慶二、詩って何だよ」
「ん、それはだな…」
俺は忠海に詩の説明をした。
あ、こんにちは。慶二です。
今は放課後の部室です。
「うーん。つまり、自分が感じた事とかを、色々な言葉を使って表現する。それが詩なんだね?」
「ああ。ちなみに俳句と短歌は…」
続けて俳句、短歌の説明をした。
「うーん。つまり文字数が限られた詩。それが俳句、短歌なんだね」
「簡単に言えばそういうこと」
今日は忠海と俺の二人しかいないので、だらだら過ごしていた。
「今感じていることでしょ?」
「ああ。俳句は575、短歌は57577だ」
「慶二、ボク一つできたよ」
忠海は漫画に向けていた視線を、俺に移してから言った。
「ああ暇だ、何かやること、ないのかな」
「そうそう、そんな感じ。ただ、季語がないとさっき言ったように、川柳になっちゃうからな」
「そうだったね。だったら今のに季語を入れればいいんでしょ?」
「ああ。今は秋だから、サンマや栗とかを入れれば大丈夫だ」
「なるほど。わかったよ」
「よし、言ってみろ」
「ああ暇だ、なにかやること、栗サンマ」
「なんでもかんでも鵜呑みはいけないぞ。季語はその二つだけじゃないんだからな。どんぐりやぶどうだってあるんだからな」
「うん、ごめん」
「まぁ初めてだから仕方ないさ」
「あ、できたよ」
「よし、聞かせてみろ」
「ああ暇だ、どんぐりサンマ、栗ぶどう」
「季語多いよ。何回も使うと、季語の有り難みが無くなるから」
「言われてみれば、そうだね。ただ季語を入れただけじゃ意味が通じないよね」
「そう。さっきの俳句は、暇だからサンマ達を呼んでみただけの俳句になってるだろ?」
「うん、ごめん」
「それじゃあ小学生でも作れるし、作ろうともしない」
「ならこれは?」
「これサンマ、とってもサンマ、そうサンマ」
「とりあえず季語は一種類になったな」
「うん。それを意識してみた」
「でも忠海は、暇だということを言いたいんだろ?」
「うん」
「だったら今の俳句はおかしい」
「そうだね。あれじゃあ、サンマを見つけた人だね」
「そう。しかもしつこい。一回いえば大抵の人はサンマの存在に気付くから」
「それなら…」
「これサンマ、これはとっても、おいしいよ」
「サンマから離れろ」
「うん、ごめん」
「それに暇だからといって、他人にサンマを勧めてどうする」
「うん、ごめん」
「その人はサンマ嫌いかもしれないんだからな。ちゃんと相手の事も考えた方がいい」
「うん、ごめん」
「一つの事に集中すると周りが見えなくなる。忠海の悪い癖だ」
「うん、ごめん」
「とにかく、暇だということを表現してみろ」
「ああ暇だ、何かやること、ないのかな」
「季語がない」
「ああ暇だ、何かやること、サンマ栗」
「同じことの繰り返しだよ」
「あ、栗サンマだったよ」
「問題はそこじゃねぇから」
「え?」
「いいか、忠海は暇だと言いたいんだよな?」
「うん。だから、ああ暇…」
「待った待った、頼むから俺の話しを聞いてくれ」
「うん、ごめん」
「一つの事に集中すると周りが見えなくなる。お前の悪い癖だ」
「うん、ごめん」
「忠海は、季語を使って、暇だと言わなきゃいけない」
「ふむふむ」
「そして575でそれを表現する。ただそれだけのことだ」
「なんだよ〜。簡単じゃん」
「よし。言ってみろ」
「おおロミオ、貴方はどうして、ロミオなの」
「だから、それじゃあ川柳なんだってば」
「え、ロミオって季語じゃないの?」
「なら、ロミオはどの季節だと思うんだよ」
「春?」
「ほら、秋じゃないじゃん」
「うん、ごめん。…ならこれは?」
「ああロミオ、サンマはどうして、ロミオなの」
「さっき言い忘れたんだけど、季語は大した問題じゃないんだ。それに今のだと、ロミオがサンマになっちゃってるから。サンマは魚、ロミオは人間。突然変異はない」
「うん、ごめん」
「一つの事に集中すると、周りが見えなくなる。お前の悪い癖だ」
「うん、ごめん」
「とにかく、季語を使って表現してみろ」
「ちょうだいな、お腰に付けた、吉備団子」
「だからさ。お前は暇なんでしょ?」
「うん、ごめん」
「さっきからそればっかだけど、ちゃんと聞いてる?」
「うん、ごめん」
「忠海、付き合ってくれ」
「慶二ならいいよ」
「今のは冗談だから気にしないでくれ」
「うん、ごめん」
「要点をまとめるぞ」
「暇だということを、季語を使って、17文字で表現するんでしょ?」
「ああ、そうだ。要点をおさえたら、あとは考えて表現するだけだ」
「次回から、新番組が、始まるよ」
「要点を無視か?」
「要点って?」
「さっき忠海が言ってたやつだ」
「あ、そっか」
「そんな簡単に忘れるなよ」
「そういえば、昨日の先発、誰だっけ」
「そんなの知るかよ」
「うん、ごめん」
「でも今のは、暇だということがちゃんと表現出来ていた」
「うん」
「後は季語を入れるだけだ」
「そういえば、ツブヤキゴローは、どうしたの」
「時の人は季語にならない」
「うん、ごめん」
「いや、でも今のは近かったぞ」
「ありがとう」
「あと一歩だ」
「あれ慶二、おヘソにホクロが、付いてるよ」
「どうして急に俺の精神を攻めたの?」
「うん、ごめん」
「それ以前に、どうして知ってるの?」
「昔、一緒にお風呂入ったじゃん」
「入ってないから。どうしてそこで嘘つくの?」
「うん、ごめん」
「…」
「…」
「暇だな…」
「暇だね…」