第26話〜五十嵐姉妹〜
「さぁ二人共立ってくれ」
「うるさいわね」
「わかりました」
乾杯をする前に二人を立たせた。そしてその後、俺自身も腰を上げた。
「彼女達は五十嵐詩織里と沙織里。俺達のクラスメートです」
俺は二人の少女を紹介する。
「俺は酒井有次だ。よろしくな」
「わしは井伊直正じゃい!」
「僕は榊原高政です。よろしくお願いします」
「アタシは徳川外康よ。よろしくね♪」
「わたしは伊勢綾子よ〜」
こんにちは、前田慶二です。
今日は十月最初の土曜日。最近はとても過ごし易くなってきました。
そして正午。以前に約束をしていたパーティーを、外康さんの家で行っています。
俺達は欧米かっ!
…今の無かった事にしてくれます?
「よろしくお願いします」
「…」
詩織里は挨拶をするがしかし、沙織里は俯いたままだった。そんな彼女の様子を、外康さん達は不思議そうにしている。
俺は心の中で沙織里を応援した。頑張れ沙織里。
そして−−。
「よ、よろしくお願いします…」
沙織里は頑張って、その言葉を絞り出した。
そして沸き起こる拍手の嵐の中で二人は座る。
俺にはまだ、乾杯の音頭を取る仕事が残っていたので、立ったままでいる。
「それじゃあ俺と高政、兼次が作ってくれた料理を食べて下さい。」
そう、兼次も料理を作ってくれたのだ。
これがまた、兼次はとても上手だったので、俺達はかなり助かった。
「それじゃあかんぱーい!」
全員がコップをぶつけ合う。
コップが割れそうな勢いだ。
「ふう…」
「お疲れ様」
「ありがとうね前田君」
俺が座って一息つくと同時に、同じちゃぶ台にいる兼次と沙織里が労いの言葉をかけてくれた。
ちなみに今回は、ちゃぶ台を数個出して、いくつかのグループに別れて食べている。
俺は、左に詩織里、右に沙織里、正面に兼次。この三人と食べている。
「やっぱり詩織里も来たんじゃねーか」
「あれほど嫌々言っていたのにな」
「う、うるさいわね」
当初詩織里は来たくないと言っていた。
理由は、問題児と馴れ馴れしくしたくないから、だ。
俺と兼次はその矛盾を指摘する。
「沙織里が、どうしても行きたい。って言うから仕方なく付いて来たのよ!」
「沙織里、本当か?」
「はい。そうですよ」
「ほらご覧なさい」
しかし沙織里が、でも…。と話しを続けた。
「今日の朝御飯は食べて来なかったんですよ」
「沙織里っ…!!!」
「どうしてだ?」
「…」
兼次が聞いたのだが、沙織里は俯いてしまった。
仕方がなかったので、俺が同じ事を聞いた。
「お姉ちゃんは、ケイが昼ご飯を作ってくれるから、お腹をすかせ…」
「ワー!!!」
詩織里が沙織里の口を塞ぐ。
しかし遅かった。
「ほ〜。そんなに俺の料理が食べたかったんだ〜」
「羨ましいですな〜。慶二君は〜」
俺と兼次は嫌みったらしい顔をして、詩織里をおちょくる。
「お姉ちゃんはそんな人なんです」
「わかってるよ」
「小学生の時からそうだったからな」
小学生の時から?
「兼次、お前小学生の時からこの二人と知り合いだったのか?」
「はぁ? 何言ってんだお前。俺ら四人と三年間同じクラスだっただろうが」
「俺達四人って…。里美と幸菜か?」
「正確には幸菜と幸雄。五人かもしれないがな」
「そんな冗談はどうでもいいよ。それは本当?」
「本当よ。だから私はケイって呼んでるのよ」
「前田さん、すっかり忘れているんですもの…」
あ、思い出した。
「泣き虫詩織里じゃん」
「そうです。慶二さんがよくからかっていた、泣き虫お姉ちゃんです」
「そのあだ名はやめなさいよ!」
「あははは。そうだったそうだった! 泣き虫詩織里だ!」
「またしてもこの男は…」
そしてそこで色々と思い出した俺は、詩織里に耳打ちをした。
「沙織里はまだ…?」
「あら、完全に思い出したみたいね。そう、貴方の考えている通りよ」
「そっか。なら俺達は席を外すぞ」
「え、でも私達が二人になっちゃうじゃないの」
「いいじゃん、妹の為なんだから。それに積もる話もあるしな」
「貴方にあっても私には積もる話なんて…」
「無いのか…。なら俺はあっちの席に行くよ…。残念だなぁ〜」
言って俺は立ち上がろうとしたのだが、詩織里に、待ちなさい。と言われたので、座ることにした。
「可哀相だから聞いてあげるわよ。その積もる話ってやつを」
「お、俺がいない間に随分と偉そうになってんじゃんか」
「うるさいわね! とにかく行くわよ」
「ちょっと待った」
続けて俺は沙織里にも詩織里同様に耳こすりをした。
「お姉ちゃんと何を話していたんですか?」
「沙織里が兼次をゲットするには、ライバルが多いって話しをした」
「ええええぇー!?」
「驚き過ぎだ」
「前田さん、知ってたんですか?」
「小学一年生の時からな」
「前田さんって他人の事になると鋭いんですね…」
「いや、自分の事に関しても鋭いつもりだけど…」
「それは無いですよ」
はっきりきっぱりすっぱり言われた。
「とにかく俺達は席を外すから、後は一人で頑張れるか?」
「まったく、前田さんもお姉ちゃんも…。はい、頑張ります」
「そうか。じゃあ頑張れよ」
「あ、それと−−」
「−−お姉ちゃんに、ありがとう。って言っておいて下さい」
「わかった」
…
……
「それはケイが、バルタン星人の真似をするとか言って、桑田佳祐の真似をしたからじゃない!」
「見事なフェイントだっただろ?」
「ええ、まさかあそこで桑田さんがくるとは思わなかったわよ」
あの後俺達は二人で一時間程度話していた。
俺達が話している場所から兼次と沙織里が見えるのだが、二人はそれなりに仲良く話していた。
「沙織里、兼次と話せたみたいでよかったな」
「ケイのおかげよ」
「俺のおかげ?」
「ケイがいなくなってから、沙織里は兼次と話せなかったどころか、誰とも話せない状態が続いたの」
「ふーん。あんなにいい子なのにな」
「でも、ケイが戻って来てくれたおかげで、こうなったのよ」
「俺はきっかけに過ぎないよ。結局頑張ったのは本人だろ?」
「そう。つまりケイは人が変わるきっかけを作るのが上手いの」
ん、頭がこんがらがってきたぞ。
「ケイは知らない間に人を変えてるのよ」
「俺が?」
「そう。心当たりはない?」
うーん…。
「ある。綾子さんにそう言われた」
「そう。ケイには人を変える力があるのよ」
「成る程な〜」
「問題児だけど、それだけは認めてあげるわよ」
「なんだお前。凄いわね〜。とか、惚れちゃったわ〜。とかないの?」
「馬鹿言うんじゃないわよ。ケイには花嫁候補がいくらでもいるじゃないの」
「花嫁候補がいくらでも?」
「相変わらず自分のことになると本当に鈍いわね〜。呆れて物が言えないわ」
「それ、沙織里にも言われた」
「でしょうね」
きっぱりさっぱりすっぱり言われた。
「これ以上二人で話すと、周りの視線が痛いから終わりましょうか」
「ん、そういやお前泣かなくなったのか?」
「ええ。貴方のお陰かもね」
…
……
「あんた詩織里と何を話してたのよ」
「綾子さん、沙織里と詩織里が、信じられないくらい綺麗だって言ってましたよ」
「あら〜。嬉しいわ〜♪」
トレーニングも夕食も風呂も終わり、後は寝るだけとなった。
俺達三人はソファーに座って、お菓子を食べながらテレビを見ている。
俺はリビングでの、この時間が大好きだ。
「無視するんじゃないわよ」
「…色々と、だよ。何を話したかはあんまり覚えていない」
「積もる話があったんじゃないかしらね〜」
「それもそうね」
「しかしあの二人が、まさかあんなに綺麗になってるとは思わなかったよ」
「あ、それ私も思った。気付いたらあんなに綺麗になっているんだから」
沙織里は美人マネージャー、詩織里は美人秘書。
このキャラクターがぴったり当て嵌まるだろう。
「でも里美だってかなり綺麗になってて、俺はかなり驚いたぞ」
「え、それ本当!?」
「ああ。最初お前を見た時に、ドッキリじゃないの。って思った」
「ありがとう…」
「でも−−」
「−−綾子さんには程遠いな」
「慶ちゃんたらっ♪」
「そう…。私はお母さんの為の布石だったわけね…」
あ、しまった。
「必殺! 螺旋波動拳!!!」
ンギャー!!!
俺に願い事を三回言っても意味ないからね〜
一番人気のキャラクターは誰でしょうかね。
自分は澪に一票ですが…。