第24話〜慶二の大好物☆二日目後編〜
「それでそいつは言われたのよ、お前はカナヅチのマグロかー!ってな」
「マグロが泳げなかったら死んじゃうじゃない♪」
「それって、お前は死体だ。って言っているようなものじゃないですか」
「だがそいつは、やったーマグロだー。って喜んだんだよ。馬鹿みたいな話だろ?」
「その人はおつむを取り替えるべきかもね♪」
「成美さんは言い過ぎとして…。たしかに馬鹿な人ですね」
「まあ、その人はアタシな訳だが…」
うぉぉぉい!!!
今まで自虐してたのかよ!!!
「みんなお疲れだったな!今日は終わりだ!」
今は午後十一時。竜矢さんが店の閉店を告げた。
しかし、途中から成美さんが入ったとは言え、よく話していたと思う。
「うおっ、十二時間も話していたのか」
「そうみたいですね」
「私は途中からだったけど、よく二人とも話題が尽きなかったわね〜」
お嬢とは、まだ二回しか話したことがないのにね。
自分で言うのもなんだが、よっぽど気が合うのだろう。
「しっかし慶二君の家族も個性が強いわね〜」
「まぁ…。祖先が祖先ですからね…。そういう竜矢さんだってそうじゃないですか」
「ははっ!その通りだな!」
「おいオメエら、何か言ったか!」
「「「何もー」」」
竜矢さんは、里美達の前で今日の売り上げなどを言っていたが、俺達の話しが聞こえたのだろうか。
だとしたらかなりの地獄耳だ。
「成美はサボっても大丈夫だったのか?」
「ええ、追い出されちゃったの」
「どうしてです?」
「うーん。なんか料理に集中できなくてね。砂糖とプリンを間違えたり、包丁で指を切っちゃいそうにもなったし」
「砂糖とプリンを間違えただって!?」
それって集中できない、とかじゃなくて、重傷じゃないだろうか。
「アタシもよくあるさ」
「ないですないです!!!」
「どうして。砂糖もプリンも甘いだろ。間違えても仕方がないだろうが」
何から説明したらよいのやら…。
「おい!そこのハーレム野郎!」
「俺ですか…?」
「当たり前だ!お前以外に誰がいるってんだよ!」
二人にプリンと砂糖の違いを教えようとした矢先、竜矢さんに大声で呼ばれた。
「今からここでパーティーをやるから、お前らも強制参加だ」
「わかったわ」
「わっかりましたよー」
「ご馳走になります」
だそうだ。閉店まで待っててとは、このことだったらしい。
…
……
「それじゃあ慶二と里奈以外は、二日間お疲れだったな!」
たしかにその通りだけど…。
容赦がない人だ。
「お陰で俺様の店が大繁盛だった!これは感謝の気持ちだ!沢山食べてくれ!」
「かんぱい!」
全員が乾杯。と言って、コップ同士が当たる音を響かせる。
「しっかし高政は大丈夫だったのか?」
俺は六人掛け対面席の真ん中に座っている。
そして今のは、左隣りにいる高政への問い掛けだ。
「はい、大丈夫でしたよ。元々料理作りには慣れていますし」
「へぇ〜。俺も料理は得意だぞ」
「なら今度一緒に作りましょうよ!」
「いいよ。なら来週の昼飯、一緒に作って食うか」
「はいっ!」
だから、その目はやめてくれっての。
俺がショタに目覚めちゃうから…。
「いいな〜。私も慶二くんの料理食べたいな〜」
「澪、我が儘を言ってはいけませんよ…」
正面にいた澪は、右隣りにいる雪江さんに注意を受ける。
と、俺の右隣りにいたお嬢が手を挙げた。
「それならアタシも行きたいー」
「里奈まで…。慶二さんの迷惑ですよ…」
「ならアンタは行きたくないのかい?」
「それは…。行きたいですけど…」
雪江さんはちらちら俺を見ながら言う。
「高政、来週は俺達が料理を振る舞うパーティーみたいだな」
「前田さんと料理ができるなら、何でもいいですよ」
「だ、そうだぞ雪江」
「だってさ〜。雪り〜ん♪」
「いいんですか…。慶二さん…」
「外康さんか、もしくは綾子さんが了承してくれるのなら」
「ありがとうございます…」
まだ会場が決まってないから何とも言えないが、おそらくどっちかの家でやることになるだろう。
それで…。
「沙織里は、来る…?」
「…」
無反応だ。
俺は彼女が、極度の人見知りで赤面症だということを忘れていた。
「ちょっと来て」
俺は沙織里を呼んで、そして店内の誰もいない場所へと連れていった。
「どうする?」
「私が参加しても、今さっきのような状態になってしまいますから…」
「でも、そんなことばっかり言ってたらいつまで経っても変わらないぞ」
「…」
「いや、すまん。沙織里の病気について何も知らないくせに、知ったような口を聞いちゃって…」
そういう人間は駄目だ。人の気持ちも知らないで、ってやつだ。
「いえ、前田さんの言う通りです…」
そうなの?
「逃げてばかりじゃ何も変わらない。お姉ちゃんによく言われます」
「詩織里に…?」
「赤面恐怖症…。これは赤面することを恐れ、人前に出る事をためらう病的症状です…」
「ああ。それなら俺も知っている…。コンプレックスの一種なんだってな」
俺にもコンプレックスがあるから、実際人のことは言えないけどな。
ちなみに俺のコンプレックスは、へその中にほくろがあることだ。
くだらないとか言うな!
「はい、ですから自分次第でどうにでもなるんですよね…。それに人見知りだって…」
そうは言っても、コンプレックスの克服は難しい。
一人で克服しようとするなら尚更だ。
「あの、前田さん…」
「どうした?」
「私達も行っていいですか?」
俺は驚いた。
でもすぐに顔を笑みに切り替えた。
「…もちろん」
「よかった。ありがとうございます」
「その時は詩織里だけじゃなくて、俺も側にいてやるから」
「はいっ♪」
沙織里は満面の笑みを浮かべた。
「んじゃ戻るか」
「はい」
俺達は自分達の席に戻った。
「二人で何をしていたでござるか!遅いでござるよ!」
しかし俺達が戻ったら、席が変わっていた。
「四分蔵に、兼次に、里美に、綾子さんに…。お嬢は変わっていないんですね…」
「ああ。アタシと慶二がペアだったからな」
「拙者は兼次殿と、里美殿は親子ペアでござった」
どうやら二人単位で席を決めたらしい。
俺とお嬢の場所は変わらず、左隣りに綾子さん、正面右から四分蔵兼次里美と並んでいる。
「沙織里殿はあちらの席でござるよ」
四分蔵は言うと、別の場所にいる詩織里の隣を指差した。
「はい…。それではまた…」
沙織里が四分蔵に口を聞いた。
一歩前進といったところか。
「とにかく座れよ慶二」
通路側にいたお嬢が一回通路に出て、俺を招き入れてくれた。
「兼次、今回のバイトは時給よかったのか?」
「ああ、高校生にしてはなかなかの時給だった」
なかなかリアルな話しをしてしまった。
「今回の企画売り上げ高は開店以来の売り上げだそうよ」
「そうなんだ。まあ里美達が頑張ったからな」
「わたしも疲れたわ〜」
綾子さんは本当に疲れていそうな表情を見せた。
綾子さんも七美に誘われたのだろうか。
「それで、慶二殿と一日中話していた、お主はどなたでござるか?」
「アタシか?」
四分蔵はお嬢を指差し聞いた。
「そういうお前はどこの人間だ?豚小屋高校の生徒か?」
「違うでござる!拙者は服部四分蔵!米沢高校の生徒でござるよ!」
「服部四分蔵…。おい慶二…」
「何ですお嬢」
お嬢は、俺にしか聞こえないような声で話し掛けてきた。
「服部って、お前が残念とか言ってた子孫か?」
「そうですよ。あと、ここにいる全員が子孫ですから…」
「ならアタシも隠す必要は無いってか。まるで子孫のバーゲンセールだな」
そうしてお嬢はまた四分蔵の方を見た。
「私は土江洲里奈、本名は風魔小春。米沢高校の保険室にいる人間だ」
「お主、風魔でござるのか!?」
「お、やろうってのか?来いよ!」
間もなく四分蔵がお嬢に突撃した。
しかし…。
「オラオラァ!!!」
「ギャー!!!ギブギブッ!!!」
四分蔵は一瞬でマウントポジションを取られ、そのまま逆十字固めをきめられる。
「ふぅ…。今回は勘弁してやる、出直してこい」
お嬢は四分蔵を開放したが、四分蔵は起き上がることができないようだった。
「里奈先生は子孫だったんですか?」
「ああ。そういう里美は誰の子孫なんだ?」
「里美は上杉と織田の特殊継承です。兼次は直江の、綾子さんは上杉です」
俺が全員の祖先紹介をした。
「へぇ〜。なら里美は子供を二人生まなきゃな!」
「な、何を言っているんですか!?」
「いや、慶二と結婚したら四人か!」
「お嬢、絶対にそうしなきゃいけない訳じゃないですよ」
「ん、まぁそうだがな」
俺が暴走機関車を止める。
そして里美の様子を見たのだが、タコみたいに赤い顔をしている。
ああしてれば、かわいらしい女の子なんだが…。
「土江洲先生、いつも里美と慶ちゃんがお世話になってます」
「いやいや、とんでもないって」
綾子さんはこのタイミングで言った。
これはKYなのだろうか。それともわざと?
「さて、今日はパーティーなんだ。あれをやろう」
と、兼次が立ち上がって何かを言い出した。
「おい兼次、何をするんだよ」
「つまらなかったらぶっ飛ばすからな」
お嬢は厳しいですね。
「王様ゲームだよ。王様ゲーム」
ああ。兼次も在り来りな人間だな。
でも楽しそー!!!
「駄目だ!!!」
しかしお嬢が駄目だしをする。
何が不服なのだろうか、こんなに楽しそうなゲームなのに。
「女王様ゲームじゃないと気が済まない」
…
……
「よし、全員選んでくれ」
兼次が割り箸で作ったくじを持って、全員に呼び掛ける。
そうして俺はくじを引いた。
くじには、5と書いてあった。
「女王様だーあれ」
「女王様よ〜」
一回目は綾子さんだった。
綾子さんなら変な事を言ったりしないから安心だろう。
「5の慶ちゃんは…」
何故分かったんだぁぁぁ!!!
「化粧をする」
里美とお嬢がすかさずメイクを始めた。
これって王様ゲームでしょ?何かが違う気がする…。
普通は〇番と〇番がキスとか。そういうのじゃないの?
なのに、ピンポイントでメイクしろ、だもん。
あ、メイクが終わったみたいだ。
しかし皆して驚いた顔をしている。
「び、美少女でござる…」
「アタシよりよっぽど美人だ…」
「慶ちゃんかわいいわ〜♪」
「里美、かつらと女性の服はあるか?」
「はい、兼次」
どうして里美は、そんな物を常備しているんだ?
そんなことより、どうやら俺の顔は今、美少女らしい。
「鏡はあるか?」
「そんなことより慶二、早く着替えてこい!」
俺は兼次に女装セット一式を手渡された。
この空気の中で、女装を断ることなんてもちろんできなかった。
…
……
「うわっ!アイドルかっ!」
「天使が降臨したでござるよ」
「慶ちゃん〜♪」
「負けたわ…。完全に…」
「こりゃあたまげたな」
兼次もたまげるくらい美少女に見えるらしい。
俺も今さっき鏡を見たが、惚れそうになった。
自分にじゃなくて、女装に…。
危ない危ない…。
「なあ、とにかく次行こうよ」
「うわぁ!喋らないでほしいでござる!」
「四分蔵の言う通り、全てが台なしになる」
四分蔵と兼次の野郎…。
「お母さん、カメラはある?」
「ここに一眼レフがあるわよ〜」
どうして一眼レフなんかがあるんだっ!
…
……
「よしっ、くじを引いてくれ」
結局あの後、写真を何枚も撮られ、恥ずかしいポーズもさせられ…。
うう…。
「女王様だーあれ」
「あ、俺だ」
おっしゃあ!ついに俺が女王様になったぜ!
「見た目通り、女王でござるな」
「ああ、どこかのお姫様みたいだからな」
しかし、この空しさはいったい何だ…?
俺は女王になったんだぞ…。胸を張れっ!
「じゃあ2番と3番が抱き合うとか?」
「それだと生温くないか?」
「生温いでござるよ」
なるほど。お嬢と四分蔵は違ったわけか。
「キスくらいはしてくんねーとな」
「そうでござるな」
「あら、過激ね〜」
あれ、綾子さんも違ったのか?
だとしたら…。
「ききききキス!?」
「ききききキス!?」
里美と兼次が、同じようなリアクションをとっていた。
でもたしか、里美は兼次が好きなんだったかな。
俺、ナイスじゃん。
「ほらほら、早くキスをするでござるよ〜」
「早くやれー」
四分蔵とお嬢の二人がキスコールを始める。
それにしても、もう仲良くなったんだな。
「慶ちゃん、二人がキスしてもいいの?」
隣にいた綾子さんが、俺の肩を叩いてから聞いてきた。
「…ん、ちょっと違和感はありますけど…。どうしてまたそんな質問を?」
「違和感って、どんな違和感?」
「うーん…。里美がキスをすること、ですかね。あいつはキスとかしたことなさそうだし」
だとしたら、ファーストキスは好きな人とか。
里美も嬉し…。
「そうにしてない…?」
そうして兼次が俺を見た。
「なあ慶二、別のにしてくれないか。ゲームとは言え、許容範囲があるからな」
「ん、べつにいいけど…」
俺は兼次に返答をしながら、里美を見た。
「里美はいいのか?お前は…」
おっと、危うく言ってしまう所だった。
俺は口がよく滑るから、気をつけなきゃな。
「慶二は私がキスするのに賛成なの?」
「は?」
「…なるほど」
俺はびっくりするが、お嬢は何かに納得していた。
「里美、ちょっと来てくれ」
「え?え?」
言って、俺は里美を店の外に連れ出した。
もう数日前までの暑苦しさはなく、快適な夜だった。
「なぁ里美、いいのか?」
「何がよ…?」
「だってお前、兼次のことが…」
「慶二…」
里美は、言葉を失ったといった感じで、ただ驚いた顔で俺を見る。
「おい、里美?」
「あんた本気で言ってるの?私が兼次を好きだって、本気で思ってるの?」
「ん、違う…」
ん、違うのか?
と、言おうとしたのだが、里美の表情を見ると、そんな軽い口調ではとても言えなかった。
「俺はそう認識していたが、違うのか?」
「本気でそう認識していたの!?」
「ああ。だからさっきも、自分を讃えたくらいだか…」
「もう知らないっ!!!」
「おい里美!」
俺は、走ってどこかに行こうとした里美の左腕を掴んで、彼女を止めた。
里美は物凄い力で俺を振り払おうとしたが、俺の力の方が若干勝っていた。
「里美!違かったんなら謝るから落ち着け!」
「嫌よ!」
里美はさらに力を込めて、俺の腕を振り払おうとする。
さすがの俺も、これには本気で止めないと振り払われると思った。
「里美!」
「離してよ!」
「落ち着けと言ってるだろ!」
「嫌って言ってるでしょ!慶二なんか大嫌いよ!」
俺はその言葉に動揺し、里美を掴む腕の力を弱めてしまった。
しかし、そこから気を取り直して、里美を思いっきり引っ張った。
すると、力を入れ過ぎたらしく、里美が俺にのしかかるような形で転んでしまった。
俺の背中には地面、上に乗っているのが里美。
俺は、里美の顔が、自分の胸に当たるように抱き抱えている。
「ごめん…。私の悪い癖で…」
里美はその状態のまま、鼻がかかったような声で言った。
「いいんだよ。慣れてるしな」
「そうね…」
里美は立ち上がって、服に付いた土埃を払った。
俺も同様にする。
「慶二はキスしたい人いるの?」
「いや…」
「どっちなのよ」
「沢山いる。国外涼子ちゃんだったり、カニちゃんだったり…」
文句あんのか?あぁ〜?
「そう…。じゃあ戻ろっか」
「はいよっ」
「ありがとう慶二」
「いつもの事だろ」
中途半端な終わり方…