第22話〜慶二の大好物☆一日目〜
「それで…。里美はそれだけ買った上に何を買うんだよ」
「いろいろ買うわよ」
「なら俺もサッカーの靴とか買おうかな」
おはようございます、前田慶二です。
今日は土曜日、俺は里美とショッピングに行く約束をしていたので、今は駅前にある超巨大なショッピングモールに来ています。
この前、澪と雪江さんと来たので、ショッピングモールの大きさを把握していたつもりでした。が、どうやら甘かったようです。
里美が言うには、ここは羽田空港くらい大きいとか。
それってどんだけでかいんだよ…。
まあ…。大きさはいいとして、今俺達は休憩を求めて、ショッピングモール内にある喫茶店に向かう途中です。
「ん、どうしてサッカーなの?」
「もうすぐ球技大会があるだろ?」
「そっか。そういえば九月はサッカーだったわね」
「俺もサッカー経験者として、気合いを入れてかなきゃいけないからな」
「そうね…。って、あんたサッカーまでやってたの!?」
「ああ。じいちゃんに、スポーツはやっとけって言われたからな」
「…それで剣道もやってたんでしょ?」
「茶道も料理もやらされたしな。勘弁してほしかったよ」
「へ〜。あんた色々できるわね〜」
じいちゃんの口癖に、芸は身を助ける。というのがあったからな。
しかし茶道以外はどれも面白かったから、全く苦痛じゃなかったんだけど。
このことは内緒にしておく。
「それじゃあ球技大会は慶二に任せれば大丈夫ね♪」
と、不意に俺達の背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
俺達はほぼ同時に後ろを見た。
「七美か?」
「やっほー♪」
俺達の後ろには、通りすがる男性の目をくぎづけにしている七美が立っていた。
何故七美が視線をくぎづけにしているかって?
それはだな…。
「どうしてバイトの制服でここにいる」
そう、七美はバイトで着る制服のまま、このショッピングモールを歩いていたのだ。
ただでさえ視線を集めるほどの美貌なのだから、相乗効果と言うやつだろうか。
「七美、どうしてその格好でここにいるの?」
「よくぞ聞いてくれました!!!」
七美は大声で喜ぶ。
そして、懐から大きな看板を取り出した。
四次元空間か?
「これの宣伝に来たのよ♪」
七美が取り出した看板には、こう書いてあった。
「洋食レストラン広東四川の期間限定。二日間だけの特別企画…」
「特別企画?」
ちなみに七美が働いている洋食レストランの名前は広東四川という。
洋食か中華かはっきりしてほしい。
とにかく俺は、その先を読むことにした。
「期間限定企画。なんと、たったのプラス千円でバイトの女の子達が…」
「あ〜んをしてあ・げ・る・ハート?」
「そうよ♪」
なななな…。
「なんて素晴らしい企画なんだ!!!」
「慶二?」
「でしょでしょ♪」
まさか…。ここまで崇高な企画を考えるレストランがこの世に存在したなんて…。
「あんたこういうのが好きなの?」
「はっきり言ってそうだ!」
俺は今までテレビでしか、あ〜ん。を見たことがない。
しかしテレビとは言え、その威力は俺を虜にするのに充分過ぎるほどだった。
「里美!今から行こう!」
「え、どうしてよ!?」
「あ〜ん。を求めて。アイニードあ〜ん。アイウォントあ〜ん」
「何を言ってるのよ…」
何とでも言え!
「ちなみに女の子の指名ができるのよ♪」
ん?それだと七美がどうして…。
「なら七美はどうして休めるのよ?」
「たしかに。七美が休めるような企画じゃないよな」
「フフフ…。よくぞ聞いてくれました!」
七美はまた大声を出した。
「実は強力な助っ人がいるのよ♪」
「助っ人?いつものバイトさん以外に呼んだのか?」
「その助っ人ってまさかっ…!」
俺にはちんぷんかんぷんだったが、里美は何かを悟ったようだった。
「土曜日は暇か?って聞いたのはこの為だったの!?」
「そうよ♪」
ん…。だから俺にはちんぷんかんぷんだっての。
「とにかく俺は行きたいから、行こう里美」
「嫌よ!今日は買い物をしに来たんでしょ!」
「なら里美も今からやればいいじゃない♪」
「絶対に嫌よ!どうして見ず知らずの人に、あんなことやこんなことをしなきゃいけないのよ!」
「ちょっと来てよ。里美」
すると、七美は里美を引っ張って行き、二人はひそひそ話しをし始めた。
「やろうよ〜。皆がやってるんだからさ♪」
「嫌っ!絶対に嫌っ!」
「ねぇ里美〜」
「嫌って言ってるでしょ!」
「なら仕方ないわね…」
二人は話しをやめて、七美が俺を見てきた。
「慶二、里美にあ〜ん。されたい?」
「「え…?」」
七美の質問に、俺達二人は凍り付いた。
「ちょっと七美!何言ってるのよ!」
「ねぇ慶二、どうなの?」
……。
「馬鹿馬鹿しい!行くわよ慶二!」
「いい!!!里美なら大喜びだ!!!」
ふふふ…。いつもこき使われている恨みを返せるし、あ〜ん。をしてもらえるし。
一石二鳥、一挙両得、二兎追う者は一兎も得ずだ!
「だってさー♪どうする里美?」
七美が憎たらしい顔で里美を見ながら、頭をポンポン叩く。
「し、仕方ないわね。こ、今回だけよ!」
「あれ〜?頼み方が違うわよね慶二〜♪」
「ああ。世の中にはバイトに落ちる人だっているからな」
里美はとても悔しそうな顔をしている。
実にいい気味だ。
「嫌よ!どうして私が…」
「慶二が里美にあ〜ん。してほしいんだってさ♪」
「くっ…」
里美は七美に頭を下げた。
「お、お願いします…。バイトをやらせて下さい…。これでいいんでしょ!!!」
「よしっ、じゃあ行こうか♪」
「そうだな。行くぞ里美」
「し、仕方ないわね!」
里美は渋々ながらもついてきた。
そして彼女は歩きながら、どうして私があんなことやこんなこと…。キャー。
とか、ぶつぶつ言っていた。
…
……
「着いたわね。それじゃあ里美はこっちよ♪」
「わかったわ…」
「慶二はカウンター席にいてね♪」
「おっしゃあ!」
二人は裏口に行ってしまった。
そして先程七美が言っていたのだが、里美を呼んでくれたお礼に、今日はタダにしてくれるらしい。
「三兎を追う者は一兎も得ずだな」
(君は本当に高校生かい?)
「誰だ!?」
(神様だよ)
神様が俺に降臨した!?
「とにかく店に入ろう…」
そして俺は店の扉を開けたのだが…。
「うわっ!凄い人だ!」
店内は超満員。あちこちに人、人、人。しかも全員が男性というむささだ。
前に来た時は、落ち着いた雰囲気の店に感じたのだが、今回はただの満員電車にしか思えない。
「しっかし人が多いな〜」
「おや、あんたもこの店の噂を聞いて来たのかい?」
いきなり、席が空くのを待つ椅子に座っている男から話し掛けられた。見た目からして、おそらく大学生だろうか。
「何の噂ですか?」
「ありゃ、知らなかったのか」
知らなかったのか。とはいかに…?
「あ〜ん。だよ」
「ああ、それですか。それなら聞きましたよ」
「ほぉ〜。お前さんもそれ目当てだったか」
「はぁ…。言ってしまうとそうなんですが…」
「しかし、その様子だともう一つの噂は知らないみたいだな」
もう一つの噂?
ポルターガイスト現象が起こるとか?
「なんでも、この企画の為に美少女が集まったみたいなんだよ」
「美少女?里美と七美のことですか?」
その二人しか知らないし…。
しかし、噂になるほど美少女なのか。こりゃあ楽しみになってきた。
「七美ちゃんは合ってるが…。里美って誰だ?」
「里美は…。あっ、あれです」
俺は調度よく奥から出てきた里美を指差して言った。
「あの子が里美ちゃん!?」
「はい。伊勢里美です」
すると、大学生さんにいきなり胸倉を掴まれた。
「あんたあの子と知り合いなのか!?」
「はははははいっ!」
俺は胸倉を掴まれたまま振り回される。
「くっそー。紹介してくれー」
「わわわわかりましたから!離してください!」
「あっ、すまん」
大学生さんは、パッと離してくれた。
「で、あの子を紹介してくれ」
「それは本人の了承がいりますね。それに大学生さんが里美を指名すればいいじゃないですか」
多分里美に殺されるけど…。
「そっか、そうだよな」
「とりあえず重要事項だけ教えておきます…」
大学生さんはおそらく、普段の授業以上に俺の話しを興味津々に聞いているだろう。
まぁそもそも、この人が大学生かどうかも分からないわけだが…。
「あまり馴れ馴れしくしない。難しい要求はしない。下を向いて怒り始めたら帰る。とりあえずこの三つを守れば好印象です」
「わかった。わざわざありがとうな」
いえいえ、大学生さんを見殺しになんてできませんからね。
「よし、俺は里美ちゃんとの十分を人生最高の思い出にするぞ!」
「十分?」
まさか十分で千円とか?
「知らなかったのか?サービスは十分で千円なんだよ」
これはぼったくりだろ…。
これだけの人が見事に、ぼったくられたわけだが…。
「大学生さん…。それって…」
「一人ぼっちで待ってる大学生さん!」
ぼったくられてますよ。なんて言おうとしたら、大学生さんが店員に呼ばれた。
しかしこの声は…。
「お、あれは忠海ちゃんか」
忠海?
とりあえず俺は大学生を呼んだ人物を見た。
「あれ〜?慶二じゃん!」
制服を着た、人形みたいにかわいらしい忠海がそこにいた。
「お前…。その格好…」
「うん!ボクも働いているんだよ!」
「お前ー!忠海ちゃんとも知り合いだったのかー!」
大学生さんが再び俺を揺らしてきた。
「こらー!慶二をいじめるなー!」
しかし、忠海が手に持っていたお盆で、大学生の頭を殴った。
そのおかげで俺は大学生さんから解放される。
「いたっー!」
「大学生さんはとにかく席に座っててよ!」
忠海は俺に、有り得ない接客術を披露してくれた。
そんなんじゃ大学生さんも、怒って帰っちゃうだろ。
「はーい♪」
……。
そっか。そういう人達がここに来るんだよな。
そうして忠海は大学生さんを席に案内した。
俺は何も言われてないけど…。
「カウンター席に座っておけと言われたしな」
「カウンター席はあれか」
そして俺は居酒屋のように、店員と喋りながら食事が出来る席を見つけた。
しかし、店内を見渡してみると…。
「なんじゃこりゃー!」
「それ、拾って食べてくださるかしら」
「は、はい!明日香様!」
「涼子ちゃーん♪」
「触らないでくれるか?私はそういうのが嫌いだ」
「ありがとう雪江さん♪」
「いえ…。仕事ですから…」
「澪ちゃん…。そんなに入らないよ…」
「どんどんいくよ〜」
「はいどうぞ〜♪」
「あ、綾子さーん!」
「は、はい…。どうぞ…」
「ありがとうね沙織里ちゃん」
「詩織里ちゃーん、これって仕事なんじゃないのー?」
「くっ…!」
まさか、助っ人美少女って…
「そうよ、わたしが全員呼んだの♪」
「七美が…。か?」
「そっ♪」
しかし、よくみんなやる気になったな…。
特に綾子さん、何も言ってなかったし。
「しかし、どうやって誘ったんだ…?」
「秘密よ♪」
気になる…。
あの五十嵐姉妹まで呼んだなんて…。いったいどうやって呼んだんだろう…。
「とりあえず慶二にはタダで料理を出すから、サービスは待っててね♪」
「ああ、構わないよ」
「じゃあメニューは?」
「イカ天とタコ焼きのチョコバナナ風すき焼きで」
「りょーかーい♪」
そうして七美は厨房へと行った。
とりあえず俺は席につくことにする。
「ふぅ…」
俺は席につくなり、右頬をテーブルに押し付けて脱力した。
今まで歩き続けてきたから、もう足がガクガクだった。
「みんな頑張ってるな…」
里美の言った通り、俺なら見ず知らずの人間に、あーん。なんてことはできない。
しかし、みんな七美の頼み事だからと言って頑張っているんだろうな…。
本当にいいやつらだな…。
「しかし五十嵐姉妹まで…」
詩織里は構わないが、沙織里は可哀相で仕方がない。
「誰がこんな企画を考えたんだろ…」
「私の父よ」
「ん?」
俺の頭上から声が聞こえてきたので、俺は顔を上げた。
「成美先生?」
「こんにちは前田君♪」
そこにはシェフ姿の成美先生がいた。
しかしこの人は本当に美しいな…。それに胸が…。
「どこを見てるのかな?」
「っ…!ごめんなさいっ!」
ばれたっ!
「アハハ♪気にしてないからいいわよ」
「は、はい…」
男なら無理はないよな。
しかし、成美先生のお父さんが企画を考えたとしたら…。
それに、この店でシェフ姿をしている…。つまり…。
「先生のお父さんがこのレストランを経営しているんですか?」
「ええ、その通りよ」
「やっぱりそうだったんですか」
「よくできましたね♪」
「ありがとうございます!」
「フフッ♪」
成美先生は大人のフェロモンが凄いな…。
綾子さんとは違った、キャリアウーマンみたいな雰囲気だ。
もう一度言うが、美しい。
「ところでこの企画は…?」
「さっきも言った通り、私の父が独断で決めたのよ…。私は今朝それを知ってね」
「それは手遅れですね…」
「しかも全員が私のクラス…。はぁ…」
成美先生の溜息姿は始めて見た。
と、言うよりは、成美先生と初めてまともに喋った。
「それで成美先生はここに何をしに…?」
「あら、前田君とお話しをしに来たのに…。酷いことを言うのね」
「すいませんっ!」
「冗談よ冗談。なにも謝ることなんてないわよ♪」
「え、でもそうしたら厨房は…。先生が作っていたんじゃ…」
「今日は部活メンバーが手伝ってくれているのよ。だから気兼ねなく来たの」
成美先生はウィンクをしながら答えてくれた。
しかし、部活メンバーって言ったら兼次とかか…。
それって危険なんじゃ…。
「そうそう、そういえば里奈に会ったんだってね」
「え、ええ。水曜日に一回会いました」
「里奈は前田君に会いたがっていたわよ。気に入られたみたいね♪」
「そうですか…。体力使いそうですね…」
しかし、俺も楽しかったからまた会いたいな。
「成美先生はお嬢と仲が…」
「成美でいいわよ。先生なんて付けないで♪」
さすがに呼び捨てはできないな。
綾子さんや外康さん、有次さん、直正さん然り、年上の人を呼び捨てることはできない。俺はスポーツをやっていたからだろうか…。
「それじゃあ成美さんと呼ばせてもらいます」
「あら、成美って呼んではくれないのかしら?」
「はい…。すいません…」
「フフッ♪いいわよ。私も慶二君って呼ばせてもらうから。ねっ、け・い・じ・君♪」
お、大人の女性はここまで破壊力があるのかっ…!
ちょっとでも油断したらもっていかれるぞっ…!
「おまたせ慶二♪」
と、七美が成美さんの横に並んで、料理をテーブルに置いてくれた。
そして七美が成美さんを見た。
「先生、もしかして慶二に手を出すの?」
「あら、悪かったのかしら♪」
「そんなことしたら、先生だろうと許さないわよ〜」
「そうね。それに許してくれないのは、七美さんだけじゃないわよね♪」
二人が何か言い合っているが、俺は必死にご飯を食べているので、聞いていない。
「先生、わかりましたか?」
「どうしましょうかね〜。そんなことより、指名が入っているわよ♪」
「あっ、本当だ。じゃあいっぱい食べってね慶二♪」
「おがもが!」
口の中に物を入れて喋っちゃいけないんだったな。
今のをじいちゃんに見られていたら、半殺しだったよ。
「ねぇ慶二君」
「なんですか?」
今回は口の中の物を無くしてから、返事をした。
「慶二君は誰を指名するの?」
「あーん。をしてくれるなら誰でもいいですよ」
できれば美少女がいいとは思ったが、世の中には言っていい事といけない事がある。
故に俺は無難な返答をしたのだ。が…。
「はい、あーん♪」
「あーん。もぐもぐ」
「うちの料理は美味しいかしら?」
「はい!幸せです!」
ありがとう成美さん。
もう思い残すことはありません。
「ありがとうございました」
「何言ってるのよ。まだ一口しかあげてないじゃないの♪」
「え、そんな…。悪いですよ、お金も払わないのに…」
しかし成美さんは料理をスプーンに掬った。
「私がやりたいからやってるの。だから気にしないでいいのよ♪」
まるで心臓内でティンパニー演奏をしているのだろうか、と思ってしまうほど、心臓がドキドキしている。
「それじゃあいただきます…」
「フフッ、素直ね。本当にかわいいわ〜♪」
トーマス発車しまーす!
「慶二さん…」
後ろから、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
しかし、俺は目をつむる。今の俺には後ろの人なんて関係なかった。求めるのは成美さんの、あーん。のみ。
誰か知らないが、俺の邪魔をするな、フヒヒヒヒー。
「はい…。あーん…」
「あーん」
うまいっ!
やっぱりあーん。は最高だ。
「美味しかったですか…?」
「はい。とてつもなく美味しかったです」
「よかった…」
俺はまだ目を開けない。
しばらくこの余韻を味わっていたかったからだ。
「慶二さん。はい、あーん」
「あーん」
「私のあーん。は美味しかったですか?」
「とっても♪」
「よかったですわ」
ですわ…?
「慶二、口を開けてくれ」
「あーん」
「美味しかったか?」
「とっても♪」
「よかった。今度家の道場に来た時にもやってあげるからな」
道場…?
「はい、あーん」
「あーん」
「美味しいかな慶二くん?」
「とっても♪」
「雪りんとどっちが美味しかったかな?」
雪りん…?
「はい、あ〜ん」
「あーん」
「美味しいかしら〜?」
「とっても♪」
「よかったわ〜♪慶ちゃんなら毎朝毎晩つきっきりでやってあげるわよ〜」
慶ちゃん…?
「はい、あーん♪」
「あーん」
「どう、美味しかった?」
「とっても♪」
「先生には、やらせないわよ♪」
先生にはやらせない…?
「はい!口を開けてー!」
「あーん」
「美味しい?」
「とっても♪」
「やっぱりボクが一番美味しいんだよ」
ボク…?
「はい、口を開けてください」
「早く開けなさい」
「あーん」
「美味しかったですか?」
「美味しいに決まってるわね」
「とっても♪」
「よかった。これからも委員会頑張りましょうね」
「遅刻したら許さないわよ」
委員会…?
遅刻したら…?
「さっさと口を開けなさい」
「…嫌だよ」
「開けなさいって言ってるでしょ!」
「わかったよ…」
「はい!さっさと食べて!」
「あーん」
「…」
「…」
……。
「里美…?」
そして俺は目を開けた。
しかしそこには里美はいなかった。
外は暗くなっていて、テーブルには全て無くなった料理がある。
そして隣の席には…。
「成美さん…?」
「おはよう慶二君♪」
あれ、俺…。
「成美さん…。俺は…」
「寝てたのよ。トーマスが発車してから寝ちゃったわ」
「トーマス…。発車…?」
「慶二君て寝顔までかわいいのね♪」
「…ありがとうございます。それで、今何時ですか?」
辺りを見回したが、誰もいなく、店内には俺達二人しかいなかった。
しかし、誰もいないレストランも不気味なものだ。
「今は一時よ」
「へぇ〜。一時です…」
一時!?
「じゃあ俺は…」
「十二時間寝てたのよ♪」
どっひゃぁー!!!
よくそんなに寝れたな。
「お腹空いたでしょ?今なにか作ってくるわ」
「あ、はい。ありがとうございます」
成美さんは厨房へと向かって…。
って、ありがとうございます。じゃねえよな…。
こんな遅くまでお邪魔しといて、夕ご飯を作ってくる、はいお願いします。なんて厚かましいにもほどがあるよな。
そこまで頭が回ってなかったな。
「成美さーん!俺はもう帰りますから!」
俺は厨房に向かっておもいっきり叫んだ。
「いいのよー!元々私が、このままにしておいてって言ったから!」
ん、しかしここで引き下がるわけにはいかない。
俺は厨房に向かうことにした。
「成美さーん。俺はもう…」
「いいの。一人分を作るのも二人分を作るのも同じだからね♪」
「でも…」
「さっきも言ったでしょ?私の我が儘で慶二君を寝かせてたんだから。それに私は一人で夕食は食べたくないの」
「え、家族と食べ…。れば…」
そっか、それも俺のせいだったか。
しっかしよくそんな長時間寝れたもんだ。野比君も顔負けだろう。
「じゃあいただきます。そのかわり、俺に作らせてください」
「あら、慶二君は料理できたの?」
「はい。最低限は…」
すると成美先生が笑い出した。
俺は、おかしなことを言ったつもりは、全くなかったのだが…。
「慶二君は優しいのね」
「こんな優しさは社交辞令に近いですよ」
「フフッ♪自分で言ってどうするのよ」
「はは…」
「じゃあ、お言葉に甘えて、慶二君に手伝ってもらおうかしら」
「はいっ!」
そうして俺は成美さんの手伝いを始めた。
そして俺はこの後、成美さんと料理をしながら、色々な話に花を咲かせた。
おそらく、今のような状況時に使うのだろう。
芸は身を助ける、と。
次回に続きます