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第20話〜保険委員会と保険室〜

キーンコーン梶ー原

アーイムノッッットアチャーイニーズ



「終わったー!」

「それで、何時に家に来るんだ?」

「ああ、涼子の部活が終わるまで校内で待ってるよ。それで一緒に行けばいいんだろ?」



どうもこんにちわ。前田慶二です。

今日は涼子の道場へ行くことになりました。秀秋さんは退院をしたそうですが、まだ思うように動けない状態にあります。

なので今日は、涼子への能力講座をしに行くということです。



「わかった。それでどこにいるんだ?」

「ん…。分からないから、部活が終わったら電話してくれ」

「電話…」



涼子が俯いてしまった。

俺は原因を考えた、さらに考えた。分かった。



「電話番号と、メールアドレスは里美に聞いてくれよ」

「いや…。慶二から聞きたい…」



なんでそんな面倒臭いことをしなくちゃいけないんだ…。

と思いつつ、俺は直接教えた。

俺の携帯には赤外線がないので、紙に書くことになった。


この行為は非常に面倒だったが…。



「ありがとう…。それでは後で電話する」

「オッケー♪」



涼子の笑顔を見たら、そんな考えは吹き飛んだ。

そして俺は里美を見て…。



「昼飯の時にも言ったが、夕飯もご馳走してくれるそうだから、綾子さんにそう伝えといてくれ」

「わかったわよ!フンッ!」



えー、今後は貴女様を怒らせるような事を、極力避けていきたい次第ですので…。



「どうして怒っているのでしょうか…。里美様?」

「怒ってなんかいないわよっ!…ったく、鼻の下を伸ばしちゃって…。このエロ親父が…」



めんどくさー!

こいつシカトしよー!



「それじゃあ部活に行ってくる。また後でな、慶二」

「私も行くわ!!!さよならエロ庁長官!!!」

「お、おう!頑張れよ!」



涼子と怒りの里美は部活へ行ってしまった。



「慶二くーん!部活に行こうよー!」

「慶二は部長だからね!」



澪と忠海だ。しかし万部には、できることなら会いたくない大学生が二人いるんだよな…。



「まあ、高政に癒されたいしな…」

「なら行くでござるか?」



俺は、ああ。と言うはずだったのだが…。

言おうとした瞬間、後ろからワイシャツをクイクイと引っ張られた。



「ん?」



俺が後ろを見ると、見覚えのある女性が俺のワイシャツを掴んでいる。



「えーっと…。五十嵐さんだよね?」

「そうです」

「それで…。どうしたの?」

「今日は保険だよりを…」



あぁ、そうか!

すっかり忘れてた!



「すまんみんな!今日は部活に行けな…。誰もいない…」



既に誰もいなかった。空気の読める連中だ。

こういう時は助かるんだがな…。



「じゃあ何をすればいいんだ?」

「朝に先生が言ってたでしょう!新聞です!」



不意に、見覚えのある女性が怒鳴りながら話しに割り込んできた。

たしかあなたの名前も…。



「五十嵐さん…?」

「今はそれどころじゃないわよ!」

「お姉ちゃん…。そこまでキツい言い方しなくても…」



そうだそうだ!

それに、どうしてここにいるんだ!



「沙織里、話を聞いていない人を庇うなんておかしいわよ!」

「たしかにお前の言う通りだ…」

「あら、問題児にしては素直じゃないの」

「問題児にしては、とかは余計だ!」

「とにかく…。座ろうよ…」

「わかったわよ」

「すまないな五十嵐」



五十嵐さんのナイスな切り返しのおかげで、なんとかこの場は乗り切った。

そうして俺達は二つの机を横に並べてくっつけ、もう一つの机はその中間に、縦にくっつける。

俺が左、五十嵐さんが右、正面に五十嵐さんと向かい合う形になった。


さて、まず二人に聞いておかなきゃいけないことがあるな。



「あの、読者に分かりづらいから…。詩織里と沙織里って呼んでいい?」

「しかたないわね…」

「いいですよ」



正面にいる詩織里が、仕方ないといった感じで了承してくれる。

右隣りにいる沙織里は…。



「今、笑った?」

「何よ!沙織里が笑ったらいけないとでも言うのかしら!」

「いや…。決してそういう訳では…」

「お姉ちゃんっ」



沙織里が詩織里を抑えてくれる。

詩織里も、彼女の言うことは素直に聞くようだ。



「いや、失礼な事を言ったりした俺が悪かったよ。ごめんな」

「いえ、そういう風に思われるのは慣れていますから…」

「本当は私に負けず劣らずの性格よ」

「お姉ちゃんと一緒にしないでよっ!」



そうして二人は一緒に笑い出した。


なんかこういうのっていいよな…。

一人っ子の俺にとっては里美や兼次がそんな存在なのだろうか。



「それじゃあ、とっとと終わらせよっか」

「そうですね」

「じゃあ私はここで見てるわ」

「ん、そもそもどうして此処にいるんだ?詩織里は風紀だろ?」

「何言ってるのよ。沙織里と一緒に帰る為に決まってんでしょ」

「ああ、そっか。馬鹿な質問をして悪かった」

「いや、いいわよ」



詩織里はしょっちゅう誰かに突っ掛かるとか、そういう人間じゃなかったんだな。

そして詩織里もそうなんだが…。



「沙織里は第一印象と大分違うな」

「そうでしょうね。実はこの子、人見知りの赤面症なのよ」

「ふーん。だから人前であんなにしてたんだ」

「そう。基本的に、私にしかこういう風に話さないわ」

「じゃあ俺は?」

「さあ。例外じゃないのかしら。ねぇ沙織里」

「ん?何が?」



沙織里は新聞作りに集中していたらしく、話を全く聞いていなかった。



「どうして沙織里は俺となら普通に話せるんだ?」

「わからないです」

「私もこんなことは初めてよ。さっきだって自分からあなたを呼びに行ったし」



おっ、さすが例外の俺だ。



「終わったー!」



沙織里が、じゃーん。と言って、完成した新聞を見せてくれた。



「さすが沙織里ね」

「しかしいつの間に…」

「話している間に、です。それに、もう下書きは終わっていたので」

「そう。それじゃあ問題児さん」

「前田慶二だ」

「どっちでもいいわよ!とにかくこれを保健室に持っていってちょうだい!」

「お姉ちゃんっ!人にものを頼む態度じゃないよ」

「ん、構わないよ沙織里。それじゃあ行ってくる」



俺は言うと鞄を持って、席を立った。



「それじゃあまた明日な」

「お疲れ様でした」

「あなたは何もしてないけどね」



かわいくねー。



「はいはい。じゃあな〜」

「さようなら前田さん」

「じゃあね…。ケイ…」



俺は教室の扉を閉めた。

しかし詩織里が最後に、ケイと言ってたけど…。



「小学生以来だな。そんな風に呼ばれたのも」





……




「ここが保健室なのか…?」



俺は初めてこの学校の保健室に来た。

怪我とかがなかったから、今まで来なかったのだが…。



「この部屋の存在に、何故気付かなかったのだろうか…」



変なデコレーションや、臭いがするわけじゃないんだ。

ただ、保健室の扉にでっかく文字が書いてあるだけなんだ。



「土江洲組。と…」



俺の本能が、この部屋はやばいと告げる。

しかし男には、分かっていても行くしかない時がある。

俺は決意を固めてドアをノックした。



「なんだー」



若い女性の声が聞こえてきた。



「二年は組の前田慶二です。保険だよりが完成したので、持ってきました」

「そうか。入りな!」



土江洲組の意味がよくわかってきたよ…。

わかったからといって、逃げるわけにはいかない。



「失礼します」



そうして俺は、恐る恐る土江洲組の中に入った。

しかし椅子に座っている人を見ると、その緊張感が…



「無くなったとでも言うのか?」

「へ…?」

「甘いな。そんなんじゃあウチの保険委員会は務まらねぇな」

「は、はぁ…」



そこにいたのはとても美人で、スレンダーな女性だった。

しかしこの迫力は…。



「紹介が遅れたね。名前は土江洲里奈だ。好きに呼びな」

「はい…。それじゃあ度江洲先生って…」

「里奈って呼びやがれ!アタシは苗字が大っ嫌いなんだよ!わかったか!」

「はいっ!!!里奈先生!」

「やっぱりお嬢と呼べ!」



気難しい人だ。

それにしても怖すぎる。迫力が物凄い。



「とか思ってんだろ?そりゃそうさ。アタシはそっちの人間だからな」

「そっちの人間?」

「まぁ、それは追い追い分かってくるさ。ところで…」

「はい?」



さっきから胸の谷間や、フトモモが気になって、話どころじゃ…。



「もっと見たかったら、高校を卒業しな」

「はぁ…。そういうお嬢も高校生に見えますが…」

「高校生か…。大人の女性はな、大学生に見えるってのが一番嬉しいんだよ」

「そうなんですか?」

「いや、アタシがだけどな」

「え、それじゃあお嬢は大学生を越えて…」

「ねーよ。アタシは雪江と同い年。二十歳だ」

「二十歳だったん…。って雪江さんと知り合い!?」

「ああ。お前の話は雪江からよく聞くよ。まぁ雪江からだけじゃないがな」

「そうだったんですか!?」

「さっきアタシはそれを言おうとしたんだけどな。お前の煩悩に邪魔されたってわけだ」

「すいません…」

「はっはっは!べつに責めてるわけじゃねーよ!」

「…?」

「それにお前さんは、噂の美男子転校生だ」

「噂の?」



噂の転校生か…。

まあ、分かる人には分かるんだよな。俺の魅力ってやつにさ。

フフフフフフフフ…。



「しっかし雪江もいい男を選んだな…」

「フフフフ…」

「おい!いつまで浮かれてやがるんだ!!!」



ゴチン!



くぅ〜。

里美レベルのパンチをする女性がここにもいたか…。



「とにかく、お前の名前は学校中に知れ渡ってる」

「今日は九月の後半…。転校してからもうすぐ一ヶ月ですからね」

「女の嫉妬は怖い。とだけアドバイスをさせてもらうよ」



ん?



「ところで、今暇か?」

「やることは無いですよ」

「そうか。実はアタシ暇で暇で…。ちょっくら話し相手になってくれないか?」

「むしろ俺の方からお願いします」

「そうか、よかった!」



俺達はそれから、ぐだぐだと喋り始めた。





……




「それで、ドテカボチャを漢字で書くとさ、土手南瓜じゃん?」

「なんかシュールですね」

「だろ?だろ?それによって生じるα波が、これまた体にいいんだとよ」

「へぇ〜。それなら…」

「その漢字ばっかり書いていればいいと思うか?違うんだよ。さっきも言った通り、ワライダケヨーグルトの味噌炒めがさ、ビタミンを吸収するわけよ!」

「はぁ…」



話しに一貫性がなさすぎる。なんのことかさっぱりだよ。



「だから、社保庁は…」

「あ、電話だ…。ちょっと待って下さい」

「わかった。早くしろよ」



俺は部屋を出て、電話に出た。



「もしもし、涼子か?」

(今部活…。が終わったんだ…。が、何処にいるん、だ?)

「落ち着いて深呼吸しろよ」

(スーハースーハー)

「落ち着いたか?」

(ああ、すまない)

「今保健室にいるよ」

(保健室?そこに里奈さんもいるのか?)

「里奈…?」



ああ、お嬢のことか。



「いるよ。今まで二人で話してたからな」



話しは、お嬢から俺への一方通行だったのだがな…。



(そうか、なら私も今から行く)

「じゃあここで待ってるよ」



俺は携帯電話のボタンを押した。


そして再び土江洲組の中に入る。



「すいません、待たせてしまって」

「おせーよ!ったく、何分待たせりゃ気が済むんだ!」

「いや、一分くらいしか喋っていませんでしたよ?」

「そうか…。悪かったな…」



意外と素直に謝るんですね。

というより、怒る原因がおかしかったですからね。



「冗談は置いといて、涼子と電話をしてたのか?」

「え、よくわかりましたね!?」

「そりゃそうだ。お前の顔に、涼子と電話しましたって書いてあるからな」



どんな顔だ!?



「今日は、あいつん家の剣道場に行くんですよ」

「へ〜。アタシも行ってみたいな」

「ん、お嬢は剣をやっているんですか?」

「やってるよ、それに空手も。しかし、本業は短剣だけどな」

「本業は短剣?」

「お前だって本業は戟なんだろ?雪江から聞いているぞ」



えっ?



「お嬢…。もしかして…」

「ああ。アタシも子孫さ」



ドッヒェェェー!!!



「本当に…?」

「言っただろ。アタシはそっちの人だって」

「あぁ…。そういう意味だったんですか…」

「そうだよ。アタシは風魔小太郎の子孫。風魔小春」



ドッヒェェェー!!!



「忍だったんですか…」

「ああ。服部や百地と並ぶ忍さ」

「服部ですか…。服部は今、残念なことになっていますが…」

「ん…?」



へぇ〜。また一人見つけたよ。

またまた身近にいたんだな、これは。



「しかし能力を使う機会が少ないから、鈍っちゃうんだよ」

「そうですね。なかなか使う機会なんてないですからね」

「だから能力を使って思う存分戦ってみたいんだよな。一応たまに雪江と戦ったりするが、雪江だけだとさすがに飽きる」



なるほど…。たしかにその通りだ。

しかし俺には名案が浮かんでいた。



「お嬢、部活に入りませんか?」

「部活?もしかして雪江も入ってる、あの部活か?」

「はい。あそこには徳川軍団、明智、直江、大友。そして俺と雪江さん、前田と立花がいます」

「うぉっ!まるで子孫のバーゲンセールだな!」

「はい。ここなら思う存分能力を使えると思いますよ」

「なるほどな〜」

「ええ、でも雪江さんから聞いていなかったんですか?」

「雪江からは、あんたと川岸のことしか聞いちゃいないよ」

「そうだったんですか?」

「ああ。あいつは無駄な会話をしないやつだからな。小学生の頃から変わらねえよ」



へぇ〜。

雪江さんとは長い付き合いなのか。

俺が知らない雪江さんを、沢山知ってそうだな。



「とにかく、どうします?入ってくれませんか」

「うん、入るよ。アタシも暇があったらその部活に参加する。成美にはアタシから言っとくから」

「わかりました」



コンコン



「ん、涼子か?入りな!」



調度いいタイミングで涼子がやってきた。

お嬢の話し方からすると、この二人は仲が良さそうだ。

そして涼子が部屋に入ってきた。



「涼子、こいつとこれから遊びに行くんだってな」

「私が慶二とですか?」



何を言ってるのでしょうか?



「本当か慶二!?」

「え…。そんなことは…」

「あら、てっきりボーリングやカラオケとかに行くのかと思ったんだが…。違うのか?」

「いや、慶二は家の道場に来るだけって…」

「本当にそれだけだったのか?つまらない二人だ」



だから勝手に思い違いをするなっての!!!


でも…。

ボーリングやカラオケもいいな、なーんて思った俺がいた。



「お嬢の言った通りだ」

「え?」

「帰るだけじゃつまらないから、どこかで遊んでいかないか?」

「っ…!?」

「もちろん、門限や金を考えてだけど…。涼子は嫌だったか?」



涼子は首を、ぶるんぶるんいわせながら横に振った。



「むしろ私も行きたい…」

「そうか。よかった」

「おっ!それじゃあ二人とも行ってこーい!」

「それじゃあまた!」

「失礼しました…」

「また来いよー!」




バタン!






「しまった!涼子に用事があったのを忘れてたよ…」






「まいっか!一日一善だ!」

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