第17話〜一緒に夕ご飯〜
「おいしかった〜」
「ごちそうさまー」
「前田さん…、兼次さんの性格が、いつもと違いませんでしたか?」
「あいつは、タダ飯が絡むと、可哀相な奴になるんだ……」
ここは外康さんの家。
部長を決めた後、外康さんの提案で急遽、伊勢家と徳川家で夕飯を一緒することになった。
兼次は今月、ピンチらしかった。
まだ九月は始まったばかりなのにな…。
「しかし、この人数分の自家製ドリアなんて、よく作れましたね」
俺は外康さんに尋ねる。
部活の後にこれだけの料理を作ってくれるなんて、思ってもみなかったな。
嬉しい誤算だ。
「綾子さんに、忠海ちゃんも手伝ってくれたのよ♪」
「忠海も手伝ったんですか?」
「ボクは毎日手伝ってるんだよ〜」
「そうだったのか?」
俺は、えっへんと言わんばかりの忠海を、意外だという顔で見た。
「忠海は前の学校でも注目株でござった」
「へぇ〜。たしかに忠海ちゃん、かわいいからね」
里美が四分蔵、忠海と視点を変えながら言った。
「忠海ちゃんを、是非お持ち帰りしたいわね〜」
「綾子さん!忠海じゃなくこの俺をお持ち帰りして下さい」
「ずるいぞ有次!お持ち帰りなら是非わしを!」
まただよ、あのエロ親父どもは…。
「拙者も忠海をス…。木の影から見たりしていたでござる」
「それをストーカーか変態って言うんだよ」
「ストーカーね」
俺も兼次と里美に賛成だよ。
四分蔵自身も、ストーカーって言いかけてたしな。
「そうそう三人とも」
「三人って?」
俺は、唐突なにか言い出した里美に尋ねる。
「慶二と忠海ちゃんとストーカーよ」
「何だ?」
「はーい」
「拙者はストーカーではないでござる!」
里美は四分蔵を無視して話しを進める。
ちなみにエロ親父どもはまだ、綾子さんにはぁはぁ言いながら言い寄っている。
「委員会のこと」
「委員会?」
「先生が帰り際に言ってたやつだね?」
「そういえば七美殿は里美殿に、説明するよう言っていたでござるな」
帰り際か。
俺はその時、涼子と話していたから聞いてなかったわ。
「そう。残っているのが…。たしか…」
「風紀と体育と保険だ」
なかなか思い出せない里美に、兼次が助け舟を出した。
「そうそう。それぞれ一人づつよ」
「ボクは体育がいいな〜」
「まあ、その時までに決めとけよ。ただ…」
ただ?
「風紀はちょっと大変かもしれない」
「ああ…。たしかにそうね…」
「それは、活動内容がってことか?」
二人は、違う。と言う。
「その時になったら分かるわよ」
「俺達の口からは何も言えない」
俺達三人は唾を飲み込む。
いったいどんなことが待っているんだろう…。
「前田さん!」
「うおわっ!」
神妙な面持ちをしていた俺に、高政の不意打ちが直撃する。
「ちょっと来て下さい!」
俺は高政に引っ張られて、和室に連れてこられた。
「前田さん、座って下さい」
「…」
とりあえず俺は座った。
高政はいつになく真剣な表情だ。
そして高政が口を開く。
「外康さんに聞きました。信永を逃がしたって本当ですか?」
そのことか。
「ああ」
「どうしてです?また襲ってくるかもしれませんよ」
「いや、あの時は殺俺未遂で済んだじゃないか。それに奴にはもう能力がない」
殺俺未遂か。
多分、もう二度と使わない単語だな。
「でも、また誰かから能力を奪って…」
「それだと俺には勝てない。純粋な能力じゃないからな」
「前田さんに勝てない…?」
「俺に勝てないようじゃ世界は無理だろう」
「たしかに…。そうですね」
「あいつは頭がいい。もう世界を狙うことはないだろうよ」
「うつけ者は、天下を取れなかった…。ですか」
「そうだな。しかも奴の能力を奪ったのは七美…。明智だ」
そして高政は下を向いてしまった。
「すいません…。余計な事を言ってしまって」
「いや、そんなこと気にするなよ」
すると高政は目を輝かせて俺を見た。
「ありがとうございます!」
か、かわいい…。
どんな大人の女性も、こいつにかかればイチコロだ……。
「慶二ー!帰るわよー!」
俺が高政にときめいていると、里美の声が聞こえて来た。
そして俺は立ち上がる。
「それじゃあ、俺は帰るわ」
「はい、また来て下さいね」
「オッケー♪」
軽く手を上げて返事をする。
そして俺達は外に出た。
「こちそうさまでした〜」
「綾子さん、また来てくれよ!」
「お待ちしているからのう!」
「は〜い」
有次さんと直正さんは、綾子さんの虜だった。
そして外康さん達、兼次と別れ、家に入る。
「なあ里美」
俺はリビングの電気を点けてから、里美に呼びかけた。
里美は、なあにと首を傾ける。
「今日、兼次の様子がおかしかったんだが…。心当たりあるか?」
「兼次の様子が…?」
里美は顎を、親指と人差し指で挟み考えだした。
そして数秒してから、ハッと思いつく。
「もしかして…」
「もしかして…?」
里美は両手を、手のひらを見せながら横に動かす。
「なんでもないよ〜」
あるだろ…。
言いたくないことなんだろうか?
「ならいいや」
「そうそう、何でもないのよ〜」
なんだこの愛想笑いは……。
こいつは嘘をつけないタイプだな。
「それじゃあ、トレーニングに行ってくる」
「いってらっしゃ〜い」
「今日はついて来ないのか?」
「う、うん。慶二の邪魔しちゃうしね…」
「そうか…。一人っきりだとつまらないんだよな…」
今度、涼子でも誘ってみるかな。
「じゃあいってきまーす」
「い、いってらっしゃい」
「気をつけてね慶ちゃん♪」
そんなこんなで今日はおしまい。