信永編第12話〜悲劇と後悔〜
「夕飯の支度ができました…」
「うん…」
「澪…。今日はカレーライスです」
「いただきます…」
澪は手を機械的に動かすばかりで、何も喋ってくれない。
「今日は一味凝ってみました」
「そう…」
「わかりますか?」
「…」
「実はこのカレー。ルーをハヤシライスソースで作ったんです」
「そりゃあこれハヤシライスだし」
「…」
しばらく私たちは沈黙していた。
「澪…。もっと笑って下さい…」
「…」
「あの頃の澪はもっと…」
「そうだね…」
「澪…。私にも両親がいません…」
「うん…。雪りんが赤ん坊の頃に…」
「交通事故に遭った。と私は聞きました」
「そうだったね…」
「私は家族と別れた辛さは分かりません。しかし、家族がいない辛さなら分かります」
「何が…。言いたいの…?」
「澪。あなたは家族を取り戻すことができます…」
「…」
「それはこれからの自分次第です。もちろんこんないじけているような状態では、取り戻すことなんて不可能です」
「…」
「分かりますか?」
「理屈では…。でも…」
「なにも澪一人で取り戻せなんて言ってません」
「雪りん…?」
「私がいます。それに学校には友達もいます…」
「うん…」
「私はもちろんのこと、きっとあの方達なら澪の支えになってくれますよ…」
「…」
「ですから澪。後は自分を変えれるかどうか。です…」
「…ごちそうさま」
澪は半分以上残して部屋に入ってしまった。
「澪…。頑張って下さい…」
…
……
『あれから澪は昔のようにまた笑うようになった…』
「ハハッ!さっきから防戦一方だな」
「…」
「そりゃあこの水の剣は最強だからな!!!」
「そうですか…」
『そして澪は恋をした』
…
……
「ねぇ雪り〜ん♪慶二くんはどんな女の子が好きなのかな?」
澪は私に慶二さんの話ばっかりしてくるようになった。
「無口なメイド…」
「それじゃあ雪りんじゃない!」
「だったらいいな…」
だったらいいな…
「も〜。真面目に答えてよ〜!」
「分かりません…」
「結局分かりません。かよ〜」
「でも澪、何故そんなに慶二さんのことが気になるのですか…?」
「えっ!?」
「最近は何かあると慶二さん慶二さん…」
「分かりません…」
澪は私の真似をしてきた。昔の澪みたいだった。
「分からないんですか…。それに私の真似をしなくても…」
「うん。だけど…」
「だけど…?」
「慶二くんのことを考えるだけで胸がドキドキするんだよ…」
「そうですか…」
「うん…。これってやっぱり恋かな?」
「これは身近な所に邪魔者が現れましたね…」
澪は慶二さんに恋をしていた。しかし私も負けるわけにはいかない。
「ふぇ?邪魔者?」
「いえ、何でも…」
「ねえ、これが恋なのかな?」
「さあ…。どうでしょうか…」
「よし!それじゃあ洋服を買いに行こ〜よ〜」
「今からですか…?」
「雪りんは買いたくないの?毎日メイド服ばっかりだと慶二くんに飽きられるよ〜」
「そうでしょうか…」
「うん。化粧とか買ったり?普段は何もしてないでしょ?」
「それは澪もでしょう…?」
「してるよ〜!少しだけどね」
「してたんですか…」
「それでも雪りんには勝てないよ…」
「当然です…」
澪が私を褒めてくれる。
「でも慶二くんと出掛ける時にメイド服とかはねぇ…。慶二くんに引かれるかもよ〜。ククク…」
「台風が来ても服と化粧品を買いに行きましょう」
「えぇ〜?台風が来たら行かないよぉ〜」
「澪、早く準備をしてください」
「う、うん…。なんか違う人みたいだよ…」
「慶二さんに引かれる…。それだけはなんとしても…」
私は澪の友人に本当に感謝している。
澪を戻してくれた。私一人では無理だった…。
…
……
『そんな今の澪を死なせる訳にはいかない。そして…』
「はぁっ!!!」
「のぅわ!電撃がっ!!!」
雪江の体が電気を帯び始めた。
「…私も恋をした」
「恋だぁ?」
雪江は目をつむった。
「だから私も死ぬ訳にはいかない…」
「ハッ!しかし雷の剣じゃあ水の剣には勝てないぜ!」
雪江は何も言わないで、二豊を睨む。
「一瞬です…」
「何がいっし…」
二豊が言う前に、雪江が二豊の後ろに回り込んでいた。
「少し寝ていてください…」
雪江は剣を二豊に突き刺した。
「ガァァァ!!!」
二豊は剣から電撃を受けて、気絶してしまった。
雪江は二豊の懐からリモコンを探し出した。
「これか…」
ピッ
雪江がスイッチを押すと三人を覆っていたシェルターは消えた。
そして雪江は澪に近付く。
「恐くなかったですか…?」
「雪りん…。これはどういうこと?」
「とりあえず家に戻りましょう…」
「うん…」
二人はマンションへと帰って行った。
…
……
「兼次〜。慶二がいなくなったのは…」
「もちろん知っているに決まっている」
「そう…」
「ああ。おじいさんの家に行ったんだろ?」
「うん!でもいつか戻ってくるって!」
「そうか…」
「どうしたの兼次?」
「いや、何でもない」
「そう?とにかく慶二が戻ってくるまでに花嫁修行しとかなきゃ!」
「花嫁修行?」
「え…。いや、何でもない!」
「花嫁修行?」
「何でもないって言ってるでしょ!」
…
……
『この時の俺は、時間が経てば里美は慶二への恋心を無くすと思っていた…』
「光れ!!!」
「また来た!!!」
「くっ!!!」
「里美!今だ!」
「分かった!」
里美は先ほどのように大量の水を操り、二人めがけて放出した。
ドッパァン!
しかし交わされる。
「ギリギリだったなぁ」
「助かったぞどん兵衛」
「まだだよ!横を見ろ!」
「雷札っ!?」
「どん兵衛!爆発で回避だ」
「逃がすか!雷!」
兼次がそう言うと雷札は放電しながら二人に当たった。
「グァァァ!!!」
「ギャァァ!!!」
二人は痛さのあまり絶叫する。
「凄いじゃない兼次!」
「まあな〜」
『でも、里美の慶二に対する恋心はいつまで経っても消えなかった』
…
……
「あっ!綾子さん!」
「あら兼次ちゃん♪」
俺は道端で買い物帰りの綾子さんと会った。
「それにしても兼次ちゃん、慶ちゃんがいなくなってからなかなか家に来ないわね〜」
「そうですね」
「せっかくさっちゃんとクラスまで一緒になれたのにね〜」
「小中高全て同じクラスってのも珍しいですよね」
「里美も、兼次ちゃんとまた同じクラスだー!って言ってたわ」
「アハハ…」
「そうそう兼次ちゃん、里美が作ったお弁当はどうだったかしら〜?」
「あの弁当は…」
「ええ。花嫁修業だって」
どうして慶二に勝てないんだろう…。
その時の俺はその疑問で頭がいっぱいだった。
「そうですか…。とにかくあの弁当はもう勘弁ですね…」
「たしかにあれはちょっとね〜。わたしも勘弁してほしいわ〜」
「ええ…。それじゃあまた…」
「さよなら兼次ちゃ〜ん」
味も確かに問題だったが、本当の問題はそこじゃない。
…
……
「花嫁修行…」
『あの弁当は慶二に作る為の練習作だった』
「とは言えさすがにあの弁当は死にかけたがな…」
「兼次?」
『そんなに慶二といたけりゃ慶二の所に行ってくればいい。と、いつも思っていた』
「今のは危なかったぜ全兵衛…」
「死ぬかと思ったよどん兵衛」
「まだ動けるの!?」
兼次の雷札から発生した電撃を喰らったにも関わらず、二人はぴんぴんしていた。
そしてまた全兵衛が扇を構える。
「里美!また風が来るぞ!」
「うん!」
『…でも俺は里美にそんなことは言わなかった。俺は里美といたかったから。慶二が戻ってくるまで…、少しでも多くの時間を里美と一緒に過ごしたかったからだろう…』
「風が来たわよ!」
「避けるぞ!」
「あいつらよく避けるな…」
「ああ…」
そこで兼次は新しい札を手から出して、敵の方に投げた。
「巻き上がれ!」
「竜巻!?」
「これじゃあ俺の風が届かない!」
「全兵衛、どん兵衛。終わりだ!」
「凍れっ!!!」
二人がたじろいでいる隙をねらっって里美が水を放った。
そして里美の放った水が二人の足に当たり、二人は地面から足を離すことができなくなった。
「雷!」
「ギャァァ!!!」
「グァァァ!!!」
二人は気絶した。
そして気絶すると同時に里美は氷を消した。
「とりあえずリモコンは…。あった!」
ピッ
「これで大丈夫ね」
「それじゃあ行きますか」
「こいつらはどうするの?」
「リーダーを倒せば大丈夫だよ」
「そう…」
二人は歩きだした
「涼子とか明日香は大丈夫かなぁ」
「慶二に忠海も四分蔵もいるから大丈夫だろ」
「そっか…。でもとりあえず探しに行かなきゃね」
『でもいつまでもこのままじゃ駄目だ。意味がないし里美に迷惑だ。慶二が帰ってきてからますますそう思うようになってきた』
…
……
「ねぇ島くん?」
「どうしたアキ?」
例の里美と仲がいいアキちゃんが話しかけてきた。
「里美と付き合ってるの?」
「え?」
「里美に聞いても、付き合ってないって」
「ああ、本当だ。付き合ってはいない」
「そう…。ならどうしていっつも一緒にいるの?」
「どうして?と言われても…。幼なじみだからとしか言えない」
「そっかぁ♪もう一緒にいるのが普通なのか♪」
「は?」
「だからもう付き合う。とか形式的なことじゃなくて、すでに心同士が繋がっているってことでしょ?」
「いや、でも里美には…」
「里美には…?」
慶二という昔から好きな人がいる…。
「何でもない。とにかく付き合ってないし、心も繋がっていない」
「はいはい♪照れるなってば♪」
アキは俺に言いたいことを言って、どこかへ行ってしまった。
「そうか…。すまん里美…」
…
……
『あの時里美は俺のせいじゃないと言っていたが、間違いなく俺のせいだ。』
「もうこんなことはやめるか…」
「どうしたの兼次?」
兼次は立ち止まった。
そして里美も立ち止まる。
「なあ…。里美?」
「なあに兼次?」
「お前が好きだ…」
…
……
「おいお前!明日香に手を出すな!」
「お兄様!」
「チッ!おい、帰るぞ!」
「行ったか…。大丈夫か明日香?」
「お兄様…。ありがとうございますわ」
「かわいい妹の為だ。当然だろ?」
「お兄様…」
「おいおい泣くなって」
「泣いてっなんかっいないよ…。エーン!」
「うわっ!涙を俺の服で拭くなよ!」
「おりがとうお兄様ー!」
「おう!!!」
…
……
『私には兄が…。十歳違いの兄がいた。昔の私は、金持ちだからといつもいじめられていた。でもそんな時はいつも兄が助けてくれていた…』
「さっきとはスピードが違うだぎゃー」
「拙者は忍でござるからな」
二人が速すぎて何が起きているのか明日香には見えていない。
「もう少し速くできるでござるよ」
さらに四分蔵のスピードが上がる。
「おらもまだまだ速くできるだぎゃー」
それに合わせるように猿吉もスピードを上げた。
「お兄様…」
『私が慶二さんに惚れたのも、兄にどこか似ているからかもしれないですわね。私が金持ちでも、そんなこと関係なく私に接してくれる慶二さんに…』
「スピード勝負は止めだぎゃー」
「何故でござる?」
「スピード…」
『そんな私の大好きな兄は、もうこの世にいない。そう…。私のせいで…』
…
……
「おーい明日香!」
「何、お兄様?」
「小学四年生の進級祝いだ」
「これは何?」
「ネックレスだよ」
そして兄は慣れないながらも私に金色のネックレスを付けてくれた。
「これかわいい…」
「似合ってるぞ明日香!」
「本当?」
「そんな嘘言うかよ。明日香は将来かなりの美人になるな」
「…嬉しい。お兄様ありがとう!」
「おう!」
その日以来私は毎日ネックレスを付けて過ごしていた。
しかし、そのネックレスがいじめっ子の目に止まってしまった。
「おいおい!何だこのネックレスは?」
「…」
「金持ちのいやみか?おい、何か言えよ!」
いじめっ子とその仲間二人に私は公園に連れられた。
「進級お祝い…」
「聞いたかお前ら!進級祝いだってよ!」
周りにいた二人が、金持ちはうぜーとか、貧乏人に対するいやみかよ、などの罵声を浴びせてくる。
「こんなもの捨てちまえ!」
「ちょっ!何するの!」
そうして私はその子にネックレスを掴まれた
「ちょっと!やめて!」
「こんな物捨ててやる!見てて腹が立つんだよ!」
ブチッ
「痛っ!」
その子は勢いよくネックレスを引っ張り、引き千切った。
「おらよ!」
そしてそのいじめっ子はネックレスを木に投げて、ネックレスは木に引っ掛かってしまった
「何するの!!!」
「ハハハハ!じゃあもう帰ろうぜ!」
「ちょっと…」
「うっせえんだよ!!!」
「きゃあ!!」
私は思い切り突き飛ばされ、痛さと驚きで泣いてしまった。
「さあ帰ろうぜ!」
三人はそのまま行ってしまう。
「どうして…。どうしてこんなことになるの…?」
「でも泣いてなんかいられない。探さなきゃ」
そして私がしばらく探していると、公園にある人が入ってきたことに気付く。
「おーい明日香ー!」
「お兄様!?」
兄は三人がいなくなった20分後に現れた。
「こんな所で何を探し…」
私の兄は辺りを見渡す。
「ペンダントか?」
「うん…」
「またあいつか?」
「…」
この状況での無言は肯定だろう。
それが分かると兄は私の首を触りはじめた。
「首は大丈夫だったか?」
「すんなりと取れてくれたから」
「そうか…」
兄はもしかしたらこうなることを予想して、外れやすいネックレスを買ってくれたのかもしれない。
「探しているということは、どこにあるのか分からないのか…」
「うん…」
私はペンダントを投げられた時に下を見てたので、ペンダントの場所が分からなかった。
「投げられたのか?」
「うん…。多分」
「そっか。それじゃあ一緒に探そうぜ」
「えっ…?」
「ほらほら」
「ありがとうお兄様…」
…
……
「ふぅ…。全然見つからねーな…」
「お兄様…。もう諦めようよ…」
あれから三時間以上探していたが見つからなかった。もう辺りは暗くなってきている
「何言ってるんだよ!俺が折角あげたのに!」
「でも…」
「明日香が探さなくても俺が探す。例え今日中に見つからなくても明日探す。明日中に見つからなかったら明後日も。見つかるまでずっとだ」
「お兄様…」
「でも、今日の明日香はいろいろと大変だったろ?だから今日はもう帰っていいぞ」
「お兄様は…?」
「俺はもうちょっと探してから帰るよ」
「それなら私も、お兄様と一緒に探す」
「え、でも…。そうか」
「それにしてもこれだけ探して無いんだから、下には…」
「ないだろうな。となると木か公衆トイレの上…。でも公衆トイレはそこからじゃ届かないな」
「じゃあ…木?」
「そうだろうな」
私達は公園の中央に一つだけある、大きな木の下に行った。
「暗くてよくわからねえな…」
「そうですわね…」
と、不意に公園の明かりが点いた。
私たちはその明かりを見る。
「ん、もう七時か」
「でも調度いいね」
「ああ…。ん?あれじゃないのか?」
兄が指をさした方を見ると、明かりに反射してキラキラ光る金色のネックレスがあった。
「あっ!本当だ。でも届かないね」
「よしっ!ちょっくら登ってくるよ」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ大丈夫」
兄はそう言うと木を登り始める。
「よっと。よし取れた」
そして兄は軽々とネックレスを取ってくれた。
「それじゃあ降りる…。うわっ!」
「お兄様っ!!!」
ドシーン
「いってー!」
「大丈夫お兄様?」
兄は調子に乗っていたのか不注意だったのかどうか。木から落ちてしまった。
「大丈夫だ…。いててて…」
「フフッ♪」
「何がおかしいんだよ」
「なんでもない」
「そぉ?それじゃ、はい!」
兄はそう言いながら私にネックレスを付けてくれた。
「それじゃあ帰ろう」
「ちょ待てよ!」
兄はキムタクの真似をした。そして私は公園を出て横断歩道を渡ろうとする。私はこの時、嬉しさからだろうか。周りが見えていなかった。
「明日香!!!」
言われて気付いた時には、トラックが私に向かって来ていた。
「キャー!!!」
「明日香ぁぁ!!!!」
キィーー!
トラックは私を通り過ぎて止まった。私はどうやら無事だったみたいだ。
「お兄様?」
返事がない。そこで私はトラックが来る瞬間に押された感触があったのを思い出した。
「まさか…」
トラックの向こうを見ると、兄がいた。
「お兄様ー!!!」
…
……
『あの時は即死だったようですわね…。ペンダントを取ってくれた時のお礼も言ってませんでしたのに…。全ては私の責任…』
「そろそろ終わらせるだぎゃー!」
猿吉はさらにスピードを上げた。
「まだ上がるんでござるか!?」
「磁力を舐めると痛い目みるぎゃー」
四分蔵は止まった。
「ならばそろそろ終わらせるでござるか」
それを聞いて猿吉も止まる。
「四分蔵さん…?」
「明日香殿。まぁカッコイイ拙者を見ているでござる」
「ふんっ!そんなの嫌ですわ!」
「ガーンでござる」
「おみゃーの能力は、もうわしに通用しないだぎゃー」
「拙者の能力?まだ何も使ってないのにでござるか?」
「何っ!?おみゃーの能力は…」
四分蔵は自分の影にクナイを投げる。
するとクナイが影の中に入っていった。
「ギャー!」
いきなり猿吉の背中にクナイが刺さった。
「もう終わらせるでござる」
今度は四分蔵が影の中に足から、まるで底無し沼に落ちるかのように入っていった。
「なっ!?」
「拙者の能力は影」
「後ろに!?」
急に猿吉の後ろから、四分蔵の声が聞こえてきた。
「無駄でござる。お前が動けば影も動く。まだお前の影から出ていない拙者を振り切るのは不可能でござる」
猿吉は自分の影の方を向き…
「遅い!」
猿吉が向く前に四分蔵は猿吉の首に手刀を喰らわせた。
「くっ…。ペテン師だな君は…」
「ペテン師ではござらん。忍でござる」
猿吉は気絶した。
「やりましたわね。四分蔵さん!」
「明日香殿。これで拙者と…」
「嫌ですわ!」
「ガーンでござる!」
「それで四分蔵さん」
「聞きたいことが沢山あるのでござろう?」
「ええ…。子孫がどうのこうの言われますし、いきなり戦いを始めますし…。私には何がなんだか…」
「とにかく、話は後でござる。北条院明日香殿」
「北条院…」
『あれ以来私は北条院と名乗るのを嫌がりましたわね…。一人でも生きれるように強くなろうともしましたわ』
「この口調になったのも自分を強く見せるため…」
「でもそんなことしても意味はありませんわよね…。心が強くならなければ…」
『そうでしょ?お兄様…』
…
……
「はじめましてかな。前田慶二」
「誰だお前は!」
「前田利上だ」
俺は家に帰ろうとしていた途中の公園で前田利上に会った。
今でも時刻は覚えている。
八月三日、午後8時。俺が小学校三年生の時だった。
「前田利上?それが俺に何の用だ!」
「お前に恨みは無いが、お前のお父さんに恨みがあってな」
「お父さんに?」
「お前はそのとばっちり。死んでもらうぞ」
俺は訳も分からず襲われた。
父親のとばっちりなんてしょっちゅう受けてきたが、今回は冗談で済みそうに無かった。
「危ねっ!!!」
「今の槍をよく避けれたな」
「まあ俺も一応子孫だし」
「まだ子供なのになかなか落ち着いているな」
「そりゃどうも」
俺はまだ力の使い方に慣れていない。だから逃げるしかなかった。
しかし…
「逃げれそうにないか…」
「ハハハ!本当に小学生とは思えないな!」
「…」
「このまま放っておいたら厄介だ。やはり死んでもらうよ」
「ちょーっと待った!」
「どうした?」
「お前は俺の父にどんな恨みがあるんだ?」
とりあえず助けが来るかもしれないから、俺は時間を稼ぐことにした。
「そいつは言えないな」
「どうしてだよ!」
「大人の事情だ」
大人の事情が何かは未だにわからない。
「無駄話はここまでだ!」
「えっ!」
利上の体が光り、利上の頭上に光の槍が何本か出現した。
「何だよこれは!?」
「光の槍だ」
「光の槍?」
「ああ。一時間以内に三本当たるとこの世から消える」
「この世から消える?」
「これは浄化の槍という」
俺は正直カッコイイと思った。
しかし、そんな悠長に構えている暇はない。
「ちょっと待った!」
「待たん!」
「うわわわわ!」
俺は飛んできた全ての槍を、ぎりぎりの所で交わせた
「あっぶねーなこの野郎!」
「…そろそろ真面目にやらないと危ないぞ。次は当てる」
「えっ?今のはわざと外したのか?」
「本気でない相手を倒しても仕方がない」
「そこら辺は無駄に紳士的だな」
「前田利家の子孫を舐めるな!!!」
「なっ…」
「次は本気で行くぞ前田慶二!!!」
こいつの気迫は凄まじく、俺は何も言えなかった。
普通の人間なら足が竦み上がっていただろう。
「なら俺も本気だ」
「それでこそ殺しがいがある」
「俺は死なねーよ」
とは言ったものの実力差は明らかだ。策があるわけでもない。
俺はとりあえず武器を出す。
「戟か…。名前は何だ?」
「名前なんてない」
「そうか」
「敢えて言うなら慶二マキシマムターミナルだ」
もしかしたら当時の俺は病気だったのかもしれない。
しかし、一応時間稼ぎにはなった。
「慶二マキシマムターミナルか!カッコイイな!」
あいつも病気だろう。
「いくぞ慶二!」
利上はさらに槍を飛ばしてくる。
「危ねっ!当たる所だっ…」
「甘いんだよ!!!」
俺が槍を交わしている間に利上が目の前まで来ていた。
「死ねっ!」
「くっ!」
俺は左足を突かれた。
「あと二回だな」
「くそっ!」
あと二回当たると消えてしまう。おまけに左足が動かない。
「その様子だと二回なんてあっという間だな」
「どうかな…」
「ハハハ!やけに強気だが、ハッタリということがバレバレだな!」
利上の言った通り、ただのハッタリだった。
「もう終わりにしよう」
「終わりって…。え?」
今回利上が出した槍は今までのとは数が違っていた。
「何だよこの数は!」
「死ねっ!!!」
俺目掛けて数十本の槍が飛んでくる。
「くそっ!!!」
「ハハハ!左足がそんな状態なお前に避けれるはずがない!」
確かに利上の言う通り、全ては避けれそうになかった。
「痛っ!!!」
「右足に当たったか…」
今度は俺の右足に槍が当たった。
そして利上は俺に槍が当たったことを確認すると攻撃を止め、俺に一歩一歩近付いて来た。
「終わりだな前田慶二」
「そうだな…」
「死ぬ前に言いたいことはあるか?」
「…」
「無いのか?」
「上杉に…。会いたかった…」
「それは残念だったなぁ!」
「ああ…。ここで消えるならまた来世で会うさ」
「他に言いたいことは?」
「ない…」
「そうか…。ならば消えろ!」
利上は手に持っていた槍を構えた。
俺は目をつむっていたので、そこからは見ていない。
キィン!!!
しかし、俺の顔の前で金属音がした。
「大丈夫か坊主?」
「はい…?」
俺が目を開けると、そこには高校生くらいの剣を持った男の人が利上の槍を受け止めていた。
「お兄さんは…?」
「誰だお前は!?」
「御堂彰。島津義弘の子孫だ」
コメディーって何だっけ…