信永編第7話〜伊勢敏雄〜
長いです…
チュンチュン
「…ふぁ〜あ〜」
日曜日の朝。何故かとても眠い。とりあえず俺は時計を見ることにする
「七時半…」
そろそろかな…
「慶二ー朝よー!」
来たか…
「ほらほら起き…てる…」
「なんかしらないけど目が覚めたからな」
「そ、そう…。とりあえず朝ごはんだから」
「オッケー」
そして里美は一呼吸置いて
「ねぇ…今日暇?」
へ?
「え…?」
「今日は暇かって聞いたの」
「まぁ…暇だけど…」
やけに優しいな…なんかあるのか?
「なら買い物しに行かない?」
「買い物に?」
「嫌ならべつにいいのよ!それに…涼子が…」
「…そこでどうして涼子が?」
「どうしてって…。とにかく行くの行かないのどっちよ!」
やっぱり里美だ。意味の分からない所で怒りだす…
「まぁ、たまには一緒に出掛けるか」
「じゃあ来るの?」
「今、行くって言ったじゃん」
「本当!?」
「ああ。俺も出掛けたい気分だったし」
嫌な話をした後だから気分が萎えてたしな…
「なら約束よ!絶対だからね!」
「いちいち言わなくても絶対行くっつーの!」
「そう…ごめんなさい…」
この流れで里美が謝った!?
「なぁ…何かあったのか?」
「え?どうしてよ?」
「だっていつものお前なら、うっさいわね!とか言ってたはずだけど…」
「そうかしら…?」
「まあいいや。朝ごはん食べに行こう」
「うん!」
おかしいな…いつもの里美らしくない…
「おはようございます」
「おはよう慶ちゃん♪」
綾子さんが久しぶりに登場した。いや〜今日も美人です!!!
「それじゃあいただきます!」
「いただきます…」
「いただきます♪」
うん!いつもながら綾子さんの料理は美味しい!
「相変わらずうまいな〜」
「あら〜ありがとうね慶ちゃん♪」
それにしても里美の元気が無いような気がするな…
「おい里美…」
「ねえ慶ちゃん?」
里美を呼ぼうとしたが、里美を呼ぶ前に綾子さんに呼ばれた
「慶ちゃん、今日私と一緒にショッピングに行かない?」
「え…お母さん…?」
「ああ…それなら里美と行くつもりでしたから、皆で一緒に行きましょうか」
「あら?そうだったの?」
二人が同時にショッピングに行きたがるなんて、偶然もあるもんだな
「里美もよかったじゃん!」
しかし里美の顔は曇っていた
「おい里美、どうした…」
「そうよね…デートじゃなくてただのショッピングなのよね…」
「え…?何が…?」
いったいどうしたんだ…?
「二人でショッピングに行ってきなよ…」
「さっちゃん…」
「何言ってんだよ、三人で…」
「私今日は用事があったの!だから今日は行けない!」
「用事があるって…だってお前から…」
「行けないったら行けないの!ごちそうさま!」
バン!!!
そう言って箸をテーブルにたたき付け、里美は二階へ行ってしまった
「里美…?」
「ねぇ慶ちゃん…」
と、綾子さんに話し掛けられたので綾子さんの方を見たのだが、綾子さんはいつになく真剣な表情だった
「なんですか…?」
「慶ちゃんは三人で行きたかった?」
「え…?」
「それともさっちゃんと二人で行きたかった?」
「いや…」
「それとも雪江さんと?涼子ちゃんと?七美ちゃんと?明日香ちゃんと?澪ちゃんと?」
「綾子さん…?」
なんだろう…こんな真剣な綾子さんは初めてだ…
「それとも…」
「…」
「わたしと?」
「え…?」
綾子さんと…?
「慶ちゃん…」
「はい…」
「気付くことも大切なことよ…」
「気付くこと…?」
気付くこと…
「慶ちゃんのことを想ってくれている人のことに…」
「想ってくれる…人に…?」
「そう」
想ってくれる…人に…
「とにかく…今日はどうするの慶ちゃん?」
「どうしましょうかね…」
「それなら…」
「…?」
「わたしと行かない?慶ちゃん」
綾子さん…?
パリーン!!!
「お母さん…!」
何かが割れた音がした方向を見ると、里美が呆然と立っていた
「さっちゃん!?」
「里美…大丈夫か?怪我は?」
里美に返事がない…
「お母さん…!まさか…!?」
「まさかって…いったい何が?」
「さっちゃん…」
里美は厳しい顔をしてどうしたんだ…?
「ねえお母さん!本当なの?」
本当?何がだ…?
「ねえお母さん!何か言ってよ!」
「おい里美!いきなりどうしたんだよ!」
「慶二は黙ってて!!!」
里美…?
「ごめんなさい…」
「お母さん!?」
綾子さん…?
「わたしも…ごめんなさい…さっちゃん…」
「…」
「…?」
「でも…仕方ないの…わたしにもどうしたらいいか…」
綾子さん…?
「そう…わかったわ。なら私はこの家にはいらないわね…」
…!
「おい里美!何を言って…」
「うるさい!!!」
「里美…」
「元はと言えば全部アンタのせいなのよ!!!私のお父さんにおじいちゃんがいないのだって!!!それなのに今度は私のお母さんまで取る…」
「里美!!!」
パァン!!!
綾子さんが里美の頬を叩いた
「慶ちゃんに謝りなさい!!!」
「うるさい!お母さんも慶二も大嫌いよ!!!」
バタン!!!
里美は走って家を出て行ってしまった
「とりあえずガラスを片付けちゃいますね」
「…」
俺は箒とちり取りを持ってきて掃除を始めた
「綾子さん…どうして里美は…あのことを?」
「わたしのお父さんが教えてくれたの…」
「なんでおじさんが知っていたんですか…?このことを知っているのは俺とじいちゃん、敏雄さんと…」
「私のお父さん…」
そうか…
「まあ里美も言ってましたけど、確かにそうですよね。俺があの時里美と兼次の…」
「慶ちゃん!!!」
綾子さんに俺の発言は遮られた
「本当に…ごめんなさい…」
「何がですか?何も謝ることなんかないですよ。元は全部俺の責任らしいですし」
「ちがうの…ちがうの…」
「綾子さん…」
「全てはわたしの責任…」
「そんなこと無いですよ!」
「慶ちゃんがあんな目に遭ったのも…」
「綾子さん…」
「わたしがあの人と結婚なんかしたから…」
「でも慶ちゃんはわたしを恨むどころか…あの人の本当のことをわたしに隠そうとしてくれて」
「…」
「しかもそれは小学校二年生の子供…なのにわたしは…」
綾子さん…
「夫と父を失った悲しみで毎日飲んだくれて…」
「綾子さん…」
「でもわたしがお父さんの遺してくれた文書を見た時は…」
じゃあ謙心さんは…
「慶ちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいいなったわ…」
「慶ちゃん…ごめんなさい!!!」
「綾子さん…」
「謝って済むことじゃないのはわかっているわ…けど…」
「それに昔から言おう言おうとしてたのに…今まで言えなくて…」
「いや、そんなことは…」
「慶ちゃん…本当にごめんなさい!!!」
俺は笑顔で綾子さんを見て言った
「いいですよ、そのことを知らなかったのは綾子さんの責任じゃないですし」
「慶ちゃん…」
「それに俺だって昔から言おう言おうとしてたことがありますよ」
「昔から言いたかったこと…?」
「ええ、今まで一日たりとも忘れたことはありませんでした」
「…?」
そして俺は腹の底から大越を出してこう言った…
「ありがとうございました!!!」
そうか…
あなただったのか…
上杉景勝…
…
……
〜九年前〜
「里美〜兼次〜」
「なに〜慶二?」
「どうしたんだよ?」
ここは近所にある丘。小さい少年少女が遊んでいた
「面白い物を見つけたんだよ!」
「何を?」
「どうせ慶二の言う物はたいした物じゃないだろ」
「そんなことないよ!」
当時小学校二年生だった三人は仲がよく、毎日のように遊び回っていた。ある時は川へ、またある時は公園へ、そしてまたある時は小学校へ、と。三人はいつも一緒だった
「いいわよ!行きましょう!」
「え…里美が行くなら俺も行くよ…」
「よし決まりだ!」
そうして二人は慶二に連れられて奥に進んでいくことになった
「ここだ!」
「何よ!ただの大きな岩じゃないの!」
「しょせん慶二はそんなもんさ」
兼次はこのころからませていた
「チッチッ、甘い甘い」
「慶二〜チッチッなんていまどき流行らないよ〜」
「まったくだ」
「うるせえ!いいから見てろよ!」
そう言うと慶二はジャンプをして岩にタッチした
「なによ!何も起こらないじゃないの!」
里美はこのころから男勝りで無敵だった
「ったく…帰ろうぜ!」
「そうしようか〜」
と、二人が帰ろうとした瞬間
ゴゴゴゴゴゴ
「ほら!開いた!」
「嘘ー!?」
「なっ!」
なんと岩の一部分がズレて、下に繋がっている階段が現れたではないか
「なあなあ!入ってみようぜ!」
「なんか恐いわよ…」
「触らぬ神に祟りなしだ」
慶二はしょぼくれてしまった。おそらく慶二は興味津々な二人の姿を思い浮かべていたのだろう。しかし現実は理想と掛け離れてしまっていた
「ねえ〜入ろうよ〜」
「どうしても行くなら一人で行きなさいよ!」
「俺らは帰るからな!」
そういって二人は行ってしまう
「もういいよ!俺一人で行くからな!!!」
しかし慶二の声は二人に届かない
「くそー!後で吠面をかかせてやる!」
そうして慶二は階段を降りていく。しかし降りても降りてもまだ階段だ。大人にとってはどうってことはないだろうが、小学二年生にはきつい階段だった
「はぁ…はぁ…」
何分経っただろうか…一つの扉が見えてきた。普通の子供なら引き返すだろうが、慶二は…
「秘密基地だー!」
慶二は人と違う感性の持ち主だった。かの前田慶次も織田信長以上の変わり者だったことで知られている
「おじゃましまーす」
そしてその勢いで慶二は中に入ろうとしたが…
「誰だっ!?」
階段を降りてきた人に見つかってしまった
「やっべ!逃げろ!」
慶二は急いで中に入って走り出す
「待てー!」
「そんなに待ってほしかったら訴訟しろー!」慶二はどんどん逃げて行く。そして適当に逃げていた慶二だったが、ふと、とある部屋にたどり着いた
「ん?」
そこには慶二が見たことのある人物が椅子に座っている
「敏雄さん?」
「あれ慶二君?どうしてここに?」
敏雄さんと呼ばれた彼。名前は伊勢敏雄、綾子さんの夫だ
「ここは敏雄さんの秘密基地だったんですか…?」
「ハハッ秘密基地か」
「違うんですか?」
「まあ…そうかもしれないね」
慶二はこの敏雄という人物があまり好きではなかった
「それじゃあ俺は帰ります…」
慶二はそう言って帰ろうとしたのだが…
「ちょっと待ってくれないか?」
「はい?」
「少しお茶でも飲んでいかないか慶二君?」
慶二は暫く敏雄を見つめて
「あ、いえ…里美と兼次が待っていますから…」
「そうか…」
慶二は不思議そうに思っていた。滅多に話さない人がお茶に誘ってきたからだ
「それじゃあ俺は…」
「手荒な真似はしたくなかったんだが…」
「え…?」
その瞬間後ろから人が現れ、慶二の首に手刀を喰らわせた
「なっ!?」
「おやすみ慶二君」
慶二は気を失ってしまった
…
……
「ん?ここは…?」
「おはよう慶二君」
「敏雄さん…?」
しかし慶二は自分の状況を見ると驚いた
「鎖?」
「そう。鎖」
慶二は台の上に鎖で手足を張り付けられていた
「敏雄さん!これは!」
「やっぱり気になるかい?」
「そんなことはいいから離して下さい!」
「まあまあ、落ち着いて聞いてくれよ。せめてもの慈悲さ」
慶二は慈悲の意味が分からなかったが、一応耳は傾けた
「つい先日、私はある物を発明したんだ」
「…?」
「子孫を判別する機械をね」
「子孫?」
「その装置は最終的に持ち運びができるようにしたいんだけど、まだ無理そうだ」
慶二には意味が分からなかった
「そこでそれを君に使おうと思ってたんだが…わざわざ君の方から出向いて来たと」
「俺の方から…?」
「ラッキーだったよ。連れてくる手間が省けたんだからね。…まあそうして早速君に使ってみたわけ」
「…」
「そうしたら見事にビンゴだったわけさ」
「…ビンゴ?」
「君が元々前田慶次の子孫だったことは感づいていた」
「前田慶次…?誰…?」
「しかし君の中にはもう一人の武将がいたんだね」
「え…?」
「それは武田信玄。そう、君は特殊継承だったんだ」
「特殊継承…?」
慶二の質問は全て無視された
「そこで本題だ」
「…とにかく離して下さいよ敏雄さん!!!」
「離してほしかったら訴訟すればいいじゃないか?ハハハ!」
慶二は震えていた。彼が恐いからじゃなく、彼が怖いからだ
「そう。君は前田慶次と武田信玄の間に生まれたサラブレッドだったのさ」
「サラブレッド…?」
「さて、そこで本題だが…」
敏雄は眼鏡をクイッとして
「君の能力を貰う」
「能力を…俺の…?」
「うん」
「どうして?」
「力が必要だからだ」
「力が…?」
「そう」
「どうしてですか…?」
「世界を求めてだ」
慶二はいまいち理解できていなかった
「その為には力が必要だ。外国にはアキレスの子孫だって曹操の子孫だっている。そいつらを全員叩き潰す。これは戦争だよ」
「え…戦争…?」
慶二は言葉の意味こそ理解できていなかったものの、この人物が危険だということは理解できた
「さて、言い残すことはあるかな?」
「言い残すこと…」
「あぁそうか…説明がまだだったね。特殊継承の人はね、その強大な力のかわりに多大なリスクが存在するんだ」
「リスク…?」
「能力を二人分以上持たないと死ぬ。しかし、普通に継承された人は能力を無くしても寿命が減るだけで、死にはしない」
「死ぬ…俺がですか…?」
「おや、自分が死ぬというのに随分と冷静だね」
「本当なの…?」
「本当だ」
そう言うと敏雄は慶二の頭に手を置いた。すると敏雄の手が光り出す
「さあ、始めようか」
そう敏雄が言うと同時に慶二は頭に激しい痛みを感じた
「ガァァァ!!!」
「痛いのは少しの間だから我慢しな」
慶二はこの世の物とは思えない叫び声を上げた
「フフフ…」
敏雄の手の光は消えた
「とりあえず前田慶次の能力は貰った…」
「離して…」
「残念だがそれはできない。ごめんね慶二君」
もう慶二は能力を失ってしまったことにより瀕死の状態だった
「さて、次は武田の能力を…」
バーン!!!
大きな音と共に扉が吹っ飛んだ
「義父さん?どうしてここが?」
「慶二を離せ!」
「無駄です…慶二君はもうすぐ死ぬ」
「死ぬ…だと?」
「はい…前田慶次の能力はいただきましたから」
「そうか…ならばその力を使いこなせるようになる前に貴様を倒してやる!」
「私を倒すんですか?上杉謙心さん」
「上杉謙心…?」
慶二は瀕死ながらもその名前を聞き取る。そうして慶二は意識を手放した
「知っていたのか…」
「ええ。つまり私の娘もサラブレッドってことになりますね」
「まさかお前は…!」
謙心は驚愕の表情を浮かべていた
「そんなことよりいいんですか?慶二君、死んじゃいますよ?」
「くっ!」
そう言うと敏雄は壁に寄り掛かった
「武田の能力を頂けなかったのは残念ですが、最強の力…前田、本多の片方が手に入ったのでよしとしますか」
敏雄は壁に触った。すると壁が反転して敏雄は消えてしまった
「逃げられたか…」
そうして上杉謙心は慶二に近付いた
「私の義理の息子が仕出かしたことだ…私が責任を取る」
謙心は慶二の体に両手を当てた。すると急に謙心の体が光り出した
「宿命のライバルと言われた二人が…ついに一つになるか…」
謙心の体の光が消えた
「さてと…とりあえずここを出るか」
謙心は慶二を抱えて外まで運んでいった。その途中、謙心が撃破した人達が倒れている
「まだ小学校二、三年くらいの子供ばっかりだったな…」
謙心はそう呟いて外に出ると、辺りは真っ暗だった
「おーい!慶二ー!」
「おい馬鹿息子!!!」
「慶ちゃーん!」
すると向こうから里美、剛、綾子の声が聞こえてくる
「ったく、どこ行ったんだよあの馬鹿野郎は」
「心配ね〜」
「あの時私が止めてれば…エーン!」
三人が近付いてくると、謙心は慶二を地面に置いてこう言う
「さて慶二君、私はこの町を離れて敏雄のことを探るとする。それにいつ死ぬかも分からないしね。綾子に里美は任せたよ、慶二君…」
謙心は消えてしまった
「あら?あそこで寝ているのは慶ちゃんじゃないかしら?」
「本当だぞ!!!さっきはいなかったのにな…」
「ウワーン!慶二ー!」
…
……
「あの一年後だったんですか…」
「ええ、手紙がきて…元々心臓が弱かったから…」
「そうでしたね…」
「その文書でなっちゃんや剛さんのことを知ったの…まさかわたしと同じ子孫だったなんてね…」
「…それ以外に何か…書いてありましたか…?」
「すまない慶二君…って…」
そんな…
「とにかく慶ちゃんはさっちゃんのことを…」
「…わかりました!」
そうして俺は家を飛び出…
「雨が凄いな」
傘をさして、さらに一本持って家を飛び出した
バタン!
「さっちゃん…ごめんね」
「わたしってダメなお母さんよね…」
「でもね…」
「好きなのよ…誰よりも…」
…
……
「やっぱりここにいたか…」
「慶二…どうして…?」
「里美はなにかあるとすぐにこの丘のベンチに来るからな」
「そっか…」
「ハハハ!とりあえず隣いいか?」
「うん…」
屋根付きベンチだったから雨が当たる心配は無い
「さっきは…」
「ん…?」
「さっきは本当にごめんなさい」
「どうした急に?」
「慶二のせいでおじいちゃんがいなくなったなんて言って…あれはお父さんのせいなのに…」
「ん…あぁいや、確かに俺が生まれてなかったら、里美の家族は平穏に暮らしてたはずだからな」
「何を言ってるのよ…!!!」
「だってそうだろ。俺の力のせいで結果的にお前のじいちゃんまで…」
「やめて!!!!」
「里美…?」
「慶二は昔からそう…」
「何でもかんでも自分で背負い込んで…誰にも弱音を吐かないで…人一倍鈍感で…でも人一倍優しくて…」
「私が幼稚園で虐められてた時だって慶二は側にいてくれて…」
「でもそのせいで慶二も一緒になって虐められた…!なのに…慶二は…!何一つ変えずに私と接してくれて…」
里美は泣いていた
「それに今だってそう…!私がどんなに酷いことを言っても許してくれて…」
「ねぇ!どうしてそんなに強いの!どうしてそんなに弱音を吐かないでいられるの!どうしてっ…そんなにっ…優しいのよぉ!!!」
「里美…」
「ねぇ…弱音を吐いたっていいんだよ?自分の為に本気で泣いたって、自分の為に本気で怒ったっていいんだよ?」
「里美…」
「俺は…」
「うん…」
「こんな力はいらない…」
「慶二…?」
「俺はこの力のせいでお前の家庭を壊して…暴れて人を傷つけて…」
「どうしてこんな力があるんだよ…どうして俺は…」
「生まれたんだよ…」
「慶二…」
「俺は今まで上杉の恩に報いるため、それだけの為に生きてきた」
「だが俺には上杉の為に何ができる?この力で…何が…?」
「こんな力があったって何もできないんだ…」
「上杉に…里美と綾子さんの為に出来ることなんて何も…」
「ずっと側にいて…!!!」
「え…?」
「もう二度と遠くに行かないで!私はそれだけでいい!慶二が側にいてくれればそれでいい!!!」
「里美…」
「私はあなたがいないと駄目なの…」
「…」
「私は慶二が側にいてくれるだけでいいの…」
「自分が怪我した時は冷静なのに、私が怪我した時には人一倍取り乱して…」
「私の弱音は真剣に聞いてくれるのに、自分は絶対弱音を吐かなくて…」
「そして私がどんなに慶二に暴力を振るっても絶対に怒らないのに、私が男子に泣かされた時は本気で怒って…」
「里美…」
「もう私の側から…いなくならないで…」
「あなたが死にたいって言うのなら私も一緒に死ぬわ…」
「お前っ…!そんなこ…」
「だから!!!!!」
「生まれてこなければよかったなんて言わないでよ…」
「慶二がいなくなったら…私はもう…ウワーン!!!」
里美は泣きながら俺にしがみついた
「慶二がいないとだめなの!慶二がいないと悲しいの!慶二がいないと私…生きれない…」
「里美…」
「だから恩義とかじゃなくて…ただ私の側にいてくれれば…」
「わかったよ…」
「慶二!?」
「ありがとうな。俺も昔からお前には助けられっぱなしだな」
「ううん…そんなことない…」
「だから俺は決めたよ」
「え!?」
「俺はずっとお前の側にいる」
「えっ、慶二…それって…」
「ああ。その通りだ」
「慶二っ…!」
「俺は…」
「私も…あなたが…」
「俺はもう引っ越したりしない」
「すぎ…引っ越したりしない!?」
「ああ。里美がそう言うなら、俺はあの家にいれるだけいるよ」
「…」
「どうした里美?嬉しくないのか?」
「どうして…」
「何か不満でも…?」
「どうしてあんたは…」
「なあ里美…この殺気は…」
「どうしてあんたはそんなに鈍いのよ!!!!」
「バイバイキーン!!!」
俺はまたもやバイキンマンになった
…
……
「そんじゃあ元気になったし、家に帰ろうか慶二!」
「俺は重傷だがな…」
「あんたのせいでしょ!さっ行きましょ!お母さんに謝らないと」
「そうだな…」
「それとライバル宣言もね!」
「はぁ…?」
「とにかく帰りましょ♪」
そして帰ろうとしたのだが、里美は傘をさそうとする気配を見せない
「おい、傘はささないのか?」
「うん、慶二と一緒に入る」
「なんでわざわざそんなことを…」
「気にしない気にしない♪」
「はいはい…」
これからも俺はこいつに振り回されるんだろうな…
…
……
「フンフーン♪」
ここは夜の道路。そこにはコンビニ帰りの秀秋がいた
「さて、こそこそしないで出てきたらどうかな…?」
すると、茂みの方から人が現れてきた
「さすがだな島津」
「そういう君は誰だい?」
「柴田負家…」
「織田信永の配下だね?」
「そうだ」
「それでその織田信永の配下さんが何のご用で?」
すると負家の手が光り出し、薙刀が現れた
「死ね…」
ブォン!!!
負家は一瞬で間合いを詰め、薙刀を振り下ろした。が秀秋は間一髪で交わした
「危ない危ない…」
「今のを避けたか…さすがは島津だ」
「何故君は僕が島津だと?」
「貴様に教える義理は無い。さっさと死ね」
「僕はそう簡単に死ぬ気はな…」
ズシュッッ!!!
「ぐっ!!!」
秀秋は突き刺された感触のした後ろの方向を見ると、薙刀を自分に突き刺している負家の姿が見えた
「なっ何故後ろにも…」
「俺の能力だ…」
そう言うと前方にいた負家は消えて、負家は一つになった
「油断…したか…」
バタン!!!
「この程度か…つまらん」
そして薙刀を秀秋から抜く
「放っておいても死ぬだろう…」
負家は歩いて何処かに行ってしまった
コメディーじゃなくてホントすいませんっ!!!作者はお笑い好きなのではやくコメディーがしたいんですが、せっかくファンタジー要素と恋愛要素を取り入れたので…恋愛ファンタジーやっちゃってますっ!!!コメディーは信永編終了までしばらくおまち下さい!!!